お山に登るどころか上高地にも行くことができない、夏。
ほぼほぼ蟄居状態だったので、さぞかし家の用事が片付くかと思ったが、連日40度に迫る酷暑では何をする気力もわかず、お盆休みに記録するつもりだった「モモ」(ミヒャエル・エンデ)についても、書けないでいた。
それが、忙しい日常が戻ってきたにもかかわらず本書について記しておかねばと思ったのは、このところずっと頭を悩ましていたユトリとサトリから手痛いしっぺ返しを受け、嫌になっているからかもしれない。
自分の怒りが不当だとは思わないが、それを説明し指導する丁寧さは、少し欠けていたかもしれない。
そんなこと常識だろう、感性の違いはどうしようもない、そう呆れて諦め、説明するくらいなら自分でしてしまった方が良いと思っていた。
そして、そこからくる忙しさにイラつき、いい顔ができない日々が、もう半年以上は続いていた。
その しっぺ返しをしているつもりだろうが、それなら、君に任せなくとも回るのだということを知ってもらうまでだ、と今は思い、当分の間 歯を食いしばって頑張る所存だ。
そんな今だからこそ、「モモ」の中から、先が見えない仕事に立ち向かう気構えと、時間に追われて心を無くさないよう教えてくれる箇所を記しておきたい。
時間を節約して効率よく生きることを啓蒙する ''灰色の男たち(時間泥棒)''
時間泥棒の教えに従い、寸暇を惜しんで働き、浮いた時間を更に惜しんで効率よく動こうとしているうちに疲弊しイラつき心を失っていく人々に、届けられるメッセージ。
そんな言葉が、今の私には必要だ。(『 』「モモ」より引用)
それは、道路掃除夫ベッポがモモに訥々と語る言葉だった。
『とっても長い道路を受け持つことがあるんだ。おっそろしく長くて、これじゃとてもやりきれない、こう思ってしまう。』
『そこでせかせかと働きだす。どんどんスピードをあげてゆく。ときどき目をあげてみるんだが、いつ見ても残りの道路はちっとも減っていない。だからもっとすごいいきおいで働きまくる。心配でたまらないんだ。そしてしまいには息がきれて、動けなくなってしまう。道路はまだ残っているのにな。こういうやり方は、いかんのだ。』
『つぎの一歩のことだけ、
つぎの一呼吸のことだけ、つぎのひと掃きのことだけを考えるんだ。』
『すると楽しくなってくる。
楽しければ、仕事がうまくはかどる。」
『ひょっと気づいたときには、一歩一歩すすんできた道路がぜんぶ終わっとる。
どうやってやりとげたかは、自分でもわからんし、息もきれていない。』
頼らず任せず抱え込めば、いつ見ても残りはちっとも減っていない、と嘆かなければならない状況に陥るだろうと思っていたが、ベッボの言葉に励まされ『次の一歩のことだけ』考え頑張ろうと(少しばかり悲壮な)覚悟を決めていた、そんな矢先、一陣の風が吹いた。
デュランタ 花言葉
独りよがり あなたを見守る
所要のついでに立ち寄ってくれた右腕くんは、元同僚やユトリやサトリの領域権限を侵さないようにしながら、実にテキパキと私の懸案事項にあたってくれた。
付箋や私の視線から意図を汲み取り、私が希望する形へと整えていく右腕くん。
暗い気持ちで始まり暗澹たる気分に陥った週半ばだったが、週末帰宅する頃には、足取りも軽くなっていた。
『時間をはかるにはカレンダーや時計がありますが、はかってみたところであまり意味はありません。というのは、だれでも知っているとおり、その時間にどんなことがあったかによって、わずか一時間でも永遠の長さに感じられることもあれば、ほんの一瞬と思えることもあるからです。
なぜなら時間とは、生きるということ、そのものだからです。
そして人のいのちは心を住みかとしているからです。』
しなければならない量で時間を計り、押しつぶされそうになっていたが、「次の一歩だけ」考え一歩一歩進もうと思った矢先に実感した、心で感じ取るということ。
一瞬にして変わった週末の午後の仕事場の空気と、その時間。
ことごとく私をイラつかせていた事柄を、テキパキ処理していく右腕くんのスピードと仕事の質を目の当たりにしたサトリの気まずそうな顔を見て、それ見た事か!!!と思ったわけではない、少しは、ある。
ある種の場において、時間というものは一人で作るものではない。
おそらく私の心が作り出しているものが、その場の時間を良いものにできないでいた、という側面もあるだろう。
そんな反省もさせてくれた「モモ」と桃。
「モモ」を思い返す切っ掛けとなった桃を贈って下さった人生の大先輩は、ワンコと私にとって思い入れあるイチゴをワンコの命日の前に贈ってくださる。
令和2年 2020 1・14
イチゴに花言葉はあるのかと検索すると、「尊重と愛情」と、ある。
人生の先輩とワンコが贈ってくれた「尊重と愛情」、
その言葉を胸に事に当たれば、少しは良い時間を共有できるだろうか?
またも図に乗らせるだけだろうか?
とにかく、次の一歩をより良いものに、それだけを考え当面頑張ってみようと思っている。