思いつくままに書いています

間口は広くても、極めて浅い趣味の世界です。
御用とお急ぎでない方は、ごゆっくりどうぞ。

万葉文化館 『小西保文 人間愛~人びとへのまなざし~』 哀しみの向こうにあるもの

2014年07月23日 | 美術館を訪ねて
小西保文という洋画家をご存知でしょうか?
私は全く知りませんでした。前回万葉文化館を訪れた時、この作家の画展の開催予告を見ていましたが、すぐ忘れていました。
最近私の頭はほぼ揮発性メモリ化しているので、よほどのことが無い限りみんな瞬時に消去されていきます。(笑)

そして今回、その画展を観に行くことになりましたが、前回の展示がかなりトホホな館蔵展だったので、聞いたことのない作家だし、村おこしのため奈良県吉野郡川上村が設けた芸術村で活動していたとのことで、まあローカルな絵画活動をしていた人の展覧会だろうなと軽く考えて出かけました。

この日は連休の最後の7月21日でした。いつもより早く着いたのに、駐車場には結構な車の数。展覧会の初日だったので、関係者の車かなとか言いながら駐車して、開館時間まで庭園の花を見に行くことにしました。
花の少ない時期ですが、それでもハギやナデシコやユリ、ヤブカンゾウ、キキョウなどが咲いていて、シモツケも咲き始めていました。






時間になったので玄関先に戻ると、大勢の親子連れ。列を作って玄関前の受付に並んでいました。ガラスコップにサンドブラストで模様を描くイベントが行われるとのことで、その受付待ちの列でした。でもそれらの参加者が絵画展のほうに流れてくることはなかったですね。今回も初日のセレモニーにもかかわらず、展覧会の観客は少なかったです。

で、車椅子を押して奥の展覧会場に行き、入口の大きなポスターを見てびっくり。


予想とは全く違って、これまで観たことのない作風の本格的な洋画です。ヨメさんもびっくり。まだまだ無知な私たちです。

そして会場内に入って、まず展示作品をざっと見渡しただけで、その迫力に圧倒されました。大和の農山村を描いたローカルな画家だろう程度(殴)に思っていたのが恥ずかしかったですね。
会場では、すでに親族(ご子息)による関係者を対象としたツアーガイドみたいなものが行われていました。会場のボランティアのスタッフに勧められて、私たちも途中参加。まもなくそれが終わったので、再び入口に戻って最初から観なおしました。

描かれている人物の背後の世界は、よく観ると英語だったり日本語だったりで国籍不明ですが、どれも郷愁に満ちた懐かしい風景です。
7UPならぬ8UPの看板があったり、昭和の香りプンプンなホーロー看板があったり。でも基本はヨーロッパとかアメリカンな光景。
作家が訪れたヨーロッパやアメリカの下町の風景の雰囲気が色濃く現れていました。

全体に、作品に登場する人物はみんな寡黙で、その表情には深い哀愁や諦観が漂っています。老若男女みんなひょろりと痩せていて、疲れ果てた感じです。裸婦も描かれていますが、肋骨が浮かび上がっていて痛々しさが目につきます。
とくに前半の作品はどこまでも暗く、胸を打ちます。

↓これは最初期の作品『少年立像』です

初期の作品では『餐』がよかったです。

作品は人物画がほとんどで、初期には母親らしい女性もよく描かれていますが、そのどれも赤い服を着ているのは作者の原風景にある母親像なのでしょうか。


描かれた人物の顔つきは、最初期以外はどの作品にも共通する細面の憂い顔です。その視線は決して正面を見ず、左右にそらされています。顔つきはアフリカなどの木彫りの工芸品の面を連想しました。

どの作品も哀愁や孤独さ、寂しさ、悲哀に満ちていますが、一方では今回のテーマにうたわれているように、作者の温かなまなざしが感じ取れて救いもありました。悲しみや辛さに耐えていても、決して絶望はしていないのがわかります。

そんな作品も、画業の後半になると画風に明るさが出てきます。絵も大きくなっていました。会場を観てまわりながら、ふと同様に辛い境涯にあった藤沢周平の作品の変化に通じるものを感じました。

作者は自らの作品上の人物について、かつて雑誌に寄稿して次のように書いています。
描いて半年も経つと、自分の絵でも割と冷静に見ることができる。そこで自問自答が始まる。
画面上の人物は一体どういう人たちなのか、などと考える。(略)
別にわざわざ底辺の人たちを描いているわけでもないけれども、恨むこともなく、悲しむでもなく、力むこともなく、ひたむきに生きる姿みたいなものに惹かれるのかなあ、と思ったりする

これは46才の時の文章だそうです。

作者自身、小学生時代に両親を亡くし、父方の親戚の世話になりながら旧制中学校を卒業し、神戸に出て地方貯金局に働きながら定時制高校を卒業したものの、間もなく結核を病み、5年間の療養所生活を余儀なくされるなど、幼くして「不条理・混沌の中に身を置く」生活を強いられ続けてきました。描かれた人たちは、作者のそんな生活の中での思いと、同時代を生きた市井の人々への共感が対象化されていると思います。

小西保文の絵にはよく車が描かれています。シトロエンDSみたいな車とか、フェアレディとかスバル360のような車がよく登場しています。ただ、作家自身は免許を持たなかったとのことです。
また画面の隅には、必ず猫や犬、コーラの缶などの小物が描きこまれていて作者のユーモラスな一面がうかがえます。







小西保文は川上村から誘われて、最後の10年間ちかくは前記の故郷に創作の拠点を移して活動を続けました。前記の会場での親族の解説では、アトリエが格段に広くなったので、絵も大きくなったということでした。絵のサイズだけでなく、色調もハッキリわかるほど明るくなっています。

そして絶筆となった『窓辺の家族』がすばらしい作品。彼のモチーフのすべてが描きこまれていて、本当に集大成と言える作品でした。
画面下の方で膝に寄りかかっている小さい人物が主人公とのこと。


2008年7月に肝臓がんの宣告を受けながらも、画集の編纂を続ける一方で絶筆となった作品を完成させ、9月22日に二紀展にそれを搬入、生前に「お別れ会」も済ませて10日後に亡くなったそうです。壮絶な創作への執念だったと思います。77歳の生涯でした。

ミュージアムショップで購入した画集です。作家のすべてがよくわかるいい画集です。
表紙です↓

裏表紙です↓


今回の万葉文化館の絵画展は、久々に(笑)見応えあるいい企画展でした。初日なのに観客の少ないのが気になりましたが、一つのテーマを追求し続けた異色の画家の素晴らしい画業がよくわかる展示になっていました。


みなさんも明日香方面に行かれる機会があれば、ぜひご覧ください。おすすめです。

いつか記念館にも行ってみたいです。


さて、星組公演観劇が目前に迫ってきました。良い舞台だといいのですが。



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宝塚雪組公演 『一夢庵風流記 前田慶次』&『My Dream TAKARAZUKA』 いい舞台でした !!

2014年07月09日 | 宝塚
7月3日(木)に宝塚大劇場で、雪組公演『一夢庵風流記 前田慶次』&『My Dream TAKARAZUKA』を観てきました。

大劇場は5月3日以来ちょうど2カ月ぶり。5月も同じくらいの間隔での観劇だったので、今年は100周年なのに観劇の回数が少ないです。

しかし、2か月もブランクがあると、大劇場も新鮮な感じで、ちょっと懐かしささえ感じたほど。(笑)
ヨメさんも同感だったようで、あいにくの雨にもかかわらず、大劇場の前で記念写真を撮ろうと言い出したり。(笑)

とくに先月から兵庫芸文センターやドラマシティでの観劇が続いていたので、久しぶりに劇場の売店でフィナンシェを買ったり、公演関連のパンフレットやスカステの番組紹介誌をもらったりしながら、どことなく暖かなこの宝塚の雰囲気もいいもんだなと思いました。

そして、とくに贔屓の組でもないので、余り期待せずに観たこの舞台でしたが、これが望外の出来でした!
チケットさえあればまた観たいと思った宝塚は本当に久しぶり。
さらに、芝居はよくてもショーになるとよく寝てしまったりする私ですが(殴)、今回はなんと一睡もせずに観てしまいました。それどころか、禁断の歌の連続で、不覚にも涙腺が緩みそうになることもたびたび。(笑)

舞台でも宝塚の良さを再認識の観劇となりました。

ネタバレありの感想です。相も変わらず長いだけで中身の無い感想ですが(笑)、御用とお急ぎが無ければどうぞご覧ください。(笑)
いつものとおり敬称略です。座席は残念ながら19列。でもドセンターなので舞台全体がよく見えました。

で、まず芝居のほうの感想です。
いい舞台でした! かなり込み入った話で役も多いのに破綻せず(笑)、テンポがよくグイグイ進んでいきます。
人物像も簡潔で分かりやすい。強いて難を言えば、かなり詰め込んでいるので、個々の話のディテールが若干はしょられている感じもしないではないですが、一本物ではないので仕方がないか。逆に一本物ではないのに、よくここまで話が展開できるものだと感心しながら観劇していました。密度の濃い脚本です。
劇中の歌『散らば花のごとく』と『薄墨の花片』もよかった。特に前者は耳によくなじむ旋律で、聞きながら、あれ、ひょっとして寺田メロディ?と思ったり。
あとでプログラムを見たら両曲とも作曲/高橋 城とありました。この人の曲、最近あまり聞いた覚えがなかったのですが(私が知らないだけかな)、さすがにいい曲でした。もっとこの歌の場面があればよかったのですが。

加えて舞台装置も凝っていて、とっかえひっかえの衣装も豪華。信長の衣装など、たったワンシーンだけなのがもったいなかったです。(笑)
劇の背景に描かれた洛中洛外図屏風みたいな絵も丁寧に描かれていて見ごたえありでした。またオープニングのプロジェクタの使い方と開演の挨拶の組み合わせなども洒落ていて、劇へのワクワク感を高めていました。

そして今回の目玉の一つの異例の特別客演松風も目立っていましたね。愛馬ぶりが素晴らしく、登場するたびに客席の注目を集めていました。

↓当日買ったプログラムから




私たちは原作を読んでいないままの観劇でしたが、問題なかったです。後日、本屋でチラッと立ち読みしましたが、舞台化にあたって大幅に役や筋書きが変えられて原作とはかけ離れたものになっているので、事前に読んでも余り意味がなさそうです。大体原作を読まないと理解できない脚本ではダメだし。

まあとにかく、緩急自在の話の展開と、宝塚ならではの大所帯を生かした演出・大野拓史得意の多彩な配役が今回は効果的で、最後のドンデン返しまで飽きさせないのはたいしたものでした。
楽市楽座に代表されるあの時代特有の、活気のある世相や庶民の自由な暮らしぶりが、たびたび挿入された群舞でよく表現されていました。
観終わって、何とも言えない爽快な余韻に浸れました。100周年にふさわしい、いい芝居でした。


さて主な出演者についての感想です。

まず前田慶次壮一帆





まさに宛書といっていいほどのハマリ役。
飄々として人生を達観していて自由闊達・豪放磊落・奔放不羈(←四文字熟語連発(笑))、しかも鎧の上から袈裟掛けで相手を切って捨てる剣の達人(原作より)。そんな前田慶次を壮一帆は極めて自然に演じていました。


利家を水風呂に入れる策略などでも場内を湧かせていました。利家役の奏乃はると、うまかったですね。初めは専科の誰かかと思ったほど。


乗馬も様になっていました。馬の松風もさすがにプロの仕事で、思わず見とれてしまいました。

いい役に巡り合えたものですね。退団にふさわしい良作ですが、出来たらトップ就任公演でやってもらいたかったですね。

以前ときどき感じられた「ドヤ歌」(殴)風な力みもなく、余裕の歌唱力で耳に心地よかったです。
彼女の芝居はあまり観ていなくて、記憶にあるのは10年前に観た『送られなかった手紙』での好演ぐらいですが、今回の芝居はその印象を塗り替えるいい舞台でした。

壮一帆は、歌も演技も定評のある実力を持ちながら、トップ就任が遅れて、その間思うところも多々あったでしょうが、めげずに続けてきた姿には、こちらもいろいろ感じとることが多かったですね。そしてトップ就任を自分のことのように喜んでいた蘭寿とむの姿も印象的でした。

長い宝塚生活を締めくくるいい作品に巡り合えて、本当によかったと思います。

(ただこの人、演技とは無関係ですが、スカステのインタビューやNow on Stageなどで話すとき、中小企業の社長さんが従業員や部下に訓示しているような演説口調になるのがいつも気になります。(笑))



次は利家の正妻・まつ愛加あゆ




原作では正妻の立場など全く意に介さず、自由奔放に生きる女性とか書いていましたが、この人の顔を見ているとどうしても良妻賢母とか、健康・健全・健気の3Kイメージ(またか!(殴))がつきまとって、ちょっと役の設定との違和感アリでした。でも歌も演技も全く危なげなく、娘トップの貫禄さえ感じさせる存在になっていました。
最後のほうの場面で慶次と助右衛門があっていると聞いて駆けつけるところが見せ場で、そのただならぬ様子がその後の展開を盛り上げていました。
しかし、10数年前のNHKの大河ドラマ利家とまつ』のイメージがあったので、原作に描かれていた貞操観念ゼロ(笑)という「まつ」像はびっくりでした。

↓いいコンビになっていました。


つぎは奥村助右衛門役の早霧せいなです。
この人、ひとり寂しく横笛を吹いている場面が多く(笑)、影のような存在かと思ったら、実は「腹に一物・背中に二物」な複雑な人物でしたね。「親友」であることとと「忠臣」たることが背反する苦悩を笛で紛らわせていたのか。そんな影のある演技がよかったですが、最初の慶次との会話の場面、壮一帆と違ってちょっと台詞が聞き取りにくかったです。ヨメさんも幕間で同じ感想でした。この人、もう少し濃く演技するほうがいいのではといつも思いますね。









さすがの演技と歌だったのが、謎の人物・二郎三郎役の一樹千尋
狂言回しでもあるこの二郎三郎という人物、でも存在感たっぷりなので、タダモノではないことがすぐわかります。
一樹千尋が出てくるだけで安心してしまう私たちですが、今回も貫禄充分な演技でした。


そして同じく専科から秀吉役で出演の夏美ようもよかった。


このふたり↓でどれだけ舞台に厚みが出たことか。でも夏美よう、少し枯れすぎみたいな。(笑)


あと、深草重太夫役の夢乃聖夏がいつもの得意の笑いで高得点。





ただ、もうそろそろ黒い役とか敵役での彼女の演技が見てみたいです。眼の力も強くて演技もパワーがあるので、シリアスな役で舞台に上がってほしいと思います。

黒い役といえば、雪丸役の未涼亜希と、慶次を狙う捨丸咲妃みゆです。

未涼亜希もこの公演で退団ですが、もったいないですね。他の組でも同じような中堅クラスがどんどん退団していっていますが、本当に惜しいです。
で、雪丸ですが、不気味な存在でさすがの迫力。見るからに手ごわそうです。でもちょっとかわいそうな面も。


直江兼続役の鳳翔大と。この人、余り出番がなく惜しいです。まあ最後で出られたが。


加奈(助右衛門の妹でまつの侍女・加奈大湖せしるとの絡みも見どころでした。
大湖せしるはショーでも目立つスタイルやダンスの力量が魅力的でした。出番になるとついオペラで追ってしまいます。(笑)


そして刺客の捨丸役の咲妃みゆ。これも美味しい役です。でも見ているとかわいらしさが先に立って、おおよくやっているなとつい保護者みたいな感じで見てしまいました。(笑)
Now on Stageなどでは、彼女、慣れないせいかたどたどしく話していますが↓、舞台ではそんな印象とはかけ離れたいい演技で頑張っていました。


身のこなしにもキレがあり、表情も引き締まっていて十分役になりきっていました。期待の星です。




さすがに慶次には軽くあしらわれていましたが。(笑)


しかし、まあとにかく役が多くて、とても紹介できません。だいたい一回観ただけでは到底無理。
なので、東京で観劇予定の方、ぜひリピートされることをお勧めします。

次はショーの方です。


最初に書きましたが、このショー、まるまるサヨナラショーです。(笑)
挿入された『My Dream TAKARAZUKA』と『伝説誕生』(阿木耀子作詞)の歌詞などまんま壮一帆への送辞です。
「たとえライバルだって最高の友達」なんて歌われたら、贔屓でもない私でもついホロリとしてしまったり。^^;
加えて退団者の踊る場面も多く、これでは東京公演の千秋楽が思いやられますね。(笑)

ショーも大人数での群舞の連続で(ヨメさんは多過ぎ!と不満気味(笑))、迫力がありました。
今回とくに感じたのは衣装の色が素晴らしいこと。大人っぽい粋な色彩が冴えていました。
それと、先の2曲以外でも、たとえば黒燕尾の場面で『風のささやき』が流れたり、



別の場面でもおなじみの『ケ・サラ』が歌われたりで、年寄りを泣かせるサヨナラショー全開です。ヅカ観劇が初めてらしい団体客が多いこの日の客席でしたが、これをどう感じたのか感想が気になったりしました。

以下、個人別にショーのご紹介です。

まず壮一帆から。













そして愛加あゆ。











早霧せいな。1枚だけですみません。m(__)m



未涼亜希です。渋いです。惜しいです。




エトワールも


最後はオマケで(殴)咲妃みゆ。


これもオマケで、この公演のNow on Stage収録後に退団する3人に花束贈呈の様子です。
なにかホノボノとしていて、いい光景でした。







というわけで、雪組公演、本当にいい舞台でした。

今回も忍耐強くご覧頂いて(笑)、どうもありがとうございました。




次の宝塚は今月下旬の星組ですが、理事さんのご降臨な公演なので果たしてどうなることやら。^^;


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シアター・ドラマシティで『昔の日々』を観て

2014年07月05日 | 観劇メモ
6月はタカラヅカはパスで、兵庫芸文センターでの『ビッグフェラー』『日本の面影』とドラマシティでの『昔の日々』の10日間に3本観るという怒濤の観劇ラッシュでした。

その3本中でヨメさんが一番期待していたのはもちろん最後の『昔の日々』。演出がデヴィッド・ルヴォーで、主演女優が麻実れい若村麻由美となればヨメさんだけでなく私も観たくなりました。(笑)

この女優二人の舞台を観るのは去年の『鉈切り丸』以来で、そのときはどちらもGood Job!!な出来でしたから、私も同様に楽しみにしていました。

そして『日本の面影』の感動も覚めやらぬ(笑)6月22日に、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティでの観劇となりました。

で、結果を先に言いますが、なんとも評価のしようのない、いや正確にいえばよくわからない作品でした。しいて言えば不条理劇かな(←何の説明にもなっていませんが、何かわかったようで安心してしまう言葉ですね(笑))。

というところで、まずはいつものマクラから↓。読みたくない方はどうぞ飛ばしてください。

昼食の時間を考えて、早めに地下駐車場に到着。エレベーターで劇場のあるフロアにあがり、誰もいない劇場入り口のホールから食堂街に向かおうとしたとき、黒っぽい服装の長身の女性と、そのお付きの人?らしい女性との二人連れが右方向からやってきました。

顔を見ると見覚えがあるような‥。
車椅子のヨメさんも同時に気づいて、すぐ名前を呼びかけていました。こういうときの彼女の反応はいつもほぼ延髄反射といっていいほど。(笑)
呼びかけられた件の女性、エスカレーターに乗りながら一瞬怪訝そうにあたりを見渡していました。こんなところで誰だろうという感じでした。ヨメさんがもう一度、今度は手を振りながら、「ワタルさ~ん!、応援しています!」と(ミーハー全開で)呼びかけたら、ようやくただの無害なファン(笑)と理解したのか、その女性はそれまでの怪訝そうな顔から、なじみのある笑顔に変わって、軽く会釈を返してくれました。
そうです、湖月わたるさんでした。私もヨメさんにつられて手を振ってしまっていたり。(笑)

思わぬところで、あの最多リピートした『王家に捧ぐ歌』以来、贔屓@我が家な一人になっていた彼女に出会えて、ちょっと得した気分になりました。春風弥里さんといい、偶然とはいえよく出会えたものです。
たぶん↓の関係で打ち合わせでもあったのでしょうか。




食事を終えて、また劇場前に戻りました。あのブラームスの例があったので、きっと今回の観劇もいい結果になるだろうと根拠もなく期待して(笑)開場を待ちました。

時間になって、劇場スタッフに案内されて客席へ。
席番は7列上手側と前回ほどではないですが、舞台配置の関係で上手・下手側は前から5列まで塞がれていたので、実質前から2列目の良席。横から見るとはいえ、まずオペラ不要でした。

舞台配置はこんな感じでした。↓<以下の画像はプログラムとパンフレットの画像をスキャンしています>


赤いじゅうたんの敷かれた正方形の能舞台のような形です。舞台奥には金属製のようなクモの巣の張ったグランドピアノや火のついた暖炉、椅子などが置かれています。ただし劇とは関係がなく、ただ置いているだけ。

さて、いつにも増して中身のない感想になります。(殴) いつものとおり敬称略です。
登場人物はこの3人。堀部圭亮若村麻由美麻実れいです。男優だけは知りませんでした。


原作はハロルド・ピンターノーベル文学賞受賞の劇作家だそうですが、近年亡くなられたとか。
そして演出はご存じデヴィッド・ルヴォー

でも、事前に上掲のパンフレットで、「美しくて不穏な世界をただ感じてほしい」とか「必要なのは直観的な感性だけ」とか書かれているのを読んで、一抹の不吉な予感もありました。
そして開演前に買ったプログラムには、わざわざ別刷りの劇の要約↓みたいなものが挟んであったりしたのも、なにやら難解さの予防線みたいだし。(笑)


でもここはエイヤッと、そんな雑念を振り払って、女優二人の魅力に期待して観劇を開始しました。(笑)
85分ノンストップの劇です。

3人の衣装はこんな感じでした。↓ アンナ役の麻実れいだけが赤い衣装。


話は堀部圭亮の扮するディーリィと、若村麻由美のケイトが住むマンション?に麻実れいのアンナが訪ねてくるところから始まります。
この3人の台詞は、いずれも饒舌でかなりテンションも高いです。初めのうちは、私もその膨大でとりとめのない台詞を追いかけて、なんとか話の流れをつかもうとしたり、本当にコーヒー飲んでるなとか感心したり(殴)していましたが、肝心の話の流れがいつまでたっても掴めないのです。
いろいろ3人が台詞のキャッチボールをしているけれど、どこか噛み合っていない。話の内容・脈絡・因果関係が分からない。その上、30年間というタイムスパンで現在から過去に突然行き来するので、だんだん疲れてきました。

先に紹介した、事前配布のあらすじの要約に書かれた3人の関係も、いつまでたっても見えてくる気配なし。大体会話だけ聞いていると、どちらがアンナでどちらがケイトかもわからなくなるほど。まあこの二人、本当は同一人物という設定なので、それでいいのかも知れませんが。

で私も途中で悟りました。というか諦めた。これは世にいう不条理劇。ハッキリした起承転結など関係なし。なので俗っぽい私の頭脳では理解不能なんだと。(笑)
それで、こちらもハラを括りました。台詞一つ一つの意味や繋がりを負うのは無駄、いわば即興で吐き出された散文詩みたいなもの。だから3人の役者の振る舞いや表情、姿態を見ながら、その詩を聞き流すことにしました。(そうはいってもどうしても意味を追いたくなりますが)

さて、3人の役者について。
まず若村麻由美ケイトです。
久しぶりに見る彼女は、私の脳内記憶イメージと違い、かなりポッチャリしてきているように見えました。でもヨメさんはそんなことはないと否定していましたが。ただ私はポッチャリ体型なほうが好きなので(だからタカラヅカの生徒がトップ就任後ガリガリになったりするとガッカリしますね)、好感度アップ!!(殴)。




だけど、話が見えないので、感情移入できないまま終わってしまったのが致命的に残念。

その分身であるアンナの麻実れい。




よく演技力のなさを批判する時に、「どの役でも役者が透けて見える」とか、「何をやっても同じキャラ」とかいいますが、麻実れいには当てはまりませんね。別格。
何もせず、ただ舞台に立っているだけで演技が成立している感じです。どんな役でも(さすがにトラックの運転手は無理な感じでしたが)自分のものにしてしまう。初めから宛て書きされていたような自然さで、いろんな役を演じ切っているのが彼女です。演出家は、麻実れいが地のままで演技してくれるからこそ起用するのだと思うのです。そしてそれが彼女のすごいところだと思います。とくにシェイクスピアものなど、余人をもって代えがたい存在ですね。

今回も極めて自然に舞台に登場して、この難解な劇をこなしていました。こんな筋書きがあってないような芝居で、膨大な台詞をよくまあ憶えられるものだと改めて感心しました。

そして両手に花(持て余しそうな花ですが)の堀部圭亮。初めて見ましたが、両女優に伍して、頑張っていましたね。ちょっと唐沢寿明みたいな感じで、台詞バトルに臆せず加わっていました。ただ、話はあくまでケイトとアンナのからみがメインなので、ちょっとしどころ無さ感がありました。



別の舞台で観られたら彼の持ち味もよく分かっただろうと思いますが。

で最後まで盛り上がりのないまま、フランス映画によくあるまことにあっけない終わり方でした。客席はとてもスタンディングとはいかず、「でも3人さん、よく頑張ったね~」的な拍手。入りも悪かった今回の公演でしたが、私たちもしばし無言のまま駐車場に向かいました。

という無駄に長いだけの申し訳ない感想になりましたが、ここまでご覧いただいた方には感謝の気持ちでいっぱいです。m(__)m


さて、次は雪組の感想です。久しぶり~に観た宝塚、かなり新鮮で、しかも芝居もショーも出来がよく、面白かったです!!


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