思いつくままに書いています

間口は広くても、極めて浅い趣味の世界です。
御用とお急ぎでない方は、ごゆっくりどうぞ。

▢ 「森 フォレ」 三重苦の観劇でした😩 ▢

2021年08月10日 | 観劇メモ
日曜日、3年ぶりに兵庫芸文センターに出かけてきた。
楽しみにしていました。
 
先行予約で取れた席はまあまあでも、つれあいとよく通った劇場に、3年ぶりに行けるだけでワクワク。
 
もう戻りようのない日々ですが、せめてその余韻だけでもどこかに残っていたらと思って。
 
早めについて、チケットの発券手続きも済ませて中ホール前に行ったら、確かに懐かしかった。
↑ 花は一つだけでした。
 
でもね。
 
肝心の観劇が三重苦だった。
 
まず寒かった。
 
この劇場がどんなに寒いか、コロッと忘れていました。
 
なので、無謀にも半袖のポロシャツで出かけたのが運の尽き。
 
開演後すぐ、ヤバい!と思いました。どんどん両腕が冷えていくから。
 
でも最初の幕間で、公演予定のチラシが入ったポリ袋を2つ確保して、底に穴をあけて腕を通したらなんとかしのげた。
 
もっと致命的だったのは、肝心の話が、いくらセリフを聞いていても、見えてこない。
 
まあね。
 
少しは予感していた。
 
この劇場では、レバノン出身の劇作家ワジディ・ムワワドの“「約束の ⾎」4部作”シリーズのうち、『炎 アンサンディ』(2014年初演、17年再演)と『岸 リトラル』(17年戯曲リーディング公演、18年本公演)が上演され、私たちは『炎 アンサンディ』の初演と再演を観ていました。
 
今回はそのシリーズの第3弾、『森 フォレ』でした。
 
でもチケットを申し込むときチラシを見てすでに不吉な予感。
 
粗筋を見ても、どんな話かわからないというのはちょっとヤバそうと思って。
 
なのに何でチケットを買ったかというと、つれあいが長年ひいきにしていた麻実れいさんが『炎 ・・・』に引き続いて出ていたから。
 
感想を遺影に報告できたらいいなと思ったし。
 
でも甘かったね~。
 
まだ『炎 ・・・』ではなんとか話について行けたけど、今回の舞台は、開演後すぐに、もう登場人物のセリフが理解できない状態。
 
 
役者全員が良く響く声で、活舌もよく熱演しているのに、セリフの意味が全くわからないという舞台はつらいです。
 
しばらくしたら、あちこちでコックリとされている方が・・・・。
 
幸いというか不幸というか、私はとにかく寒くて寝てられなくて、二幕まで起きていました。(殴)
 
でもストーリーは全く理解できず。

一幕目は分からなくても、二幕から俄然よく話に入り込めるという舞台も、よくあるんですが。

今回はますます分からなくなって。
 
観ながら、役者が力演しているのには感心したけど。
 
ポリ袋のおかげで三幕目から寒くはなくなってきたけど、今度はお尻が痛い。
 
何度も態勢を変えなければ座っていられないほど。
 
いえ、痔ではなくて。(^^;) 
 
椅子がね~、どうにもよくない。
 
というわけで残念な観劇でしたが、それでも三幕目になってようやく意味の分かるセリフになってきて、進行になんとかついて行けました。
 
でもその段階ではもう全体像がつかめず、チラシにいう「6世代と2大陸にまたがる時空を超えた壮大な叙事詩の集大成」の意味は全く分かりませんでした。
 
まあこれまでも何度か、こんな舞台あったけどね。今回はその中でも最強クラスかな。(殴)
 
でも最後は客席全員がスタンディングオベーション。私の席の前後左右で舟をこいでいたみなさんも、もちろんスタンディングして力強く拍手されていました。
 
その気持ち、痛いほどわかるわ~。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新国立劇場公演「1984」を観て アフタートークが最高!! そしてFのこと

2018年05月29日 | 観劇メモ
Fといっしょに観る予定だった最後の手持ちチケットが、新国立劇場公演の「1984」でした。

彼女が倒れる4日前の、1月12日に先行販売で買いました。

その後、5月になればひょっとしてFは行けるようになっているかもと、淡い期待を込めて処分していなかったのですが、やはりまだ無理でした。

なので、3月の「シャンハイムーン」以来2か月ぶりに、また今回も、ボランティアとして元同僚のYさんに頼んで代わりに観てもらいました。
またまた平日に貴重な休暇をとってもらって、本当に申し訳なかったのですが。

この日も阪神高速は交通量が少なく、1時間余りで劇場地下駐車場に到着、とまではよかったのですが、バックで入れる際に後部バンパー左角を壁に擦ってしまって縦6cm幅7mmの傷がついてしまうミス! 
まあ自分で修理できる程度の損傷だったのがせめてもの慰め。(その後なんとか目立たないように修復しました)

そして打ち合わせ通りの時間に合流できました。

で、舞台の話ですが、今回の話は、ご存じジョージ・オーウェルの小説「1984」がもとになっています。

ジョージ・オーウェルの主観的な意図はどうであれ、この小説は、発表と同時に冷戦下の米英社会で「反共のバイブル」ともてはやされるようになりました。

それを今なぜ舞台化する?という違和感が否めず、現代の世界では映画「スノーデン」や、ウィキリークスなどが暴露している、米の諜報機関の大規模な盗聴・監視の実態を暴くほうが切実な課題じゃないかと思いながらの観劇でした。

ちょっと私のほうが、政治主義的に過敏なっているのかもしれませんが、学生時代に「カタロニア賛歌」を読んで以来、ジョージ・オーウェルと聞くと、反射的に否定的な思いのほうが強く出てきます。

それなら買わなかったら良かったじゃないかと言われそうですが(笑)、なにしろ井上芳雄ともさかりえですからね。
これは買わない手はないでしょとFに言われて、ポチっていたのです。席はB列下手側。

ということで観劇の超簡単な感想です。以下いつもの通り敬称略。

セットは凝っていたし、プロジェクターを多用した演出も面白く、なにより井上芳雄をはじめ出演者全員の力演で見ごたえがありました。

急逝した大杉漣の代役を務めた新農直隆も、負けず劣らずの演技で頑張っていました。

大杉漣を彷彿とさせる立ち姿やセリフで、以前この劇場で観た、同じ新国立劇場公演の「」の場面を重ねながら観ていました。

でもやはり劇の主題に違和感があって、ずっと空振り感に付きまとわれていました。
そのせいで、出演者の熱演にもかかわらず、誰にも感情移入できないのも残念でした。

井上芳雄とともに目当てにしていたともさかりえは、「たとえば野に咲く花のように」の好演で期待していましたが、今回はどうにもしどころのない役で、勿体なかったですね。残念でした。

ということで、たびたび睡魔が襲ってきましたが、誘った私が寝ていたのでは申し訳ないので、カクッとするたびに、必死になって観ている風を演技。(殴) Yさんは私と違って、しっかり観てくれていました。

終わって、やはり皆さんも同感だったのか、私が見まわした範囲ではスタンディングはなかったですね。
でもそのあとのアフタートークが面白かった! 
これだけで観た甲斐がありました。(殴)

劇場の担当スタッフが進行役でしたが、井上芳雄が、重苦しい舞台の余韻を吹き飛ばす軽妙洒脱なトークを披露して、すぐ客席も大ウケ。

とくに面白かったのは、進行役が話題を振ろうと、つい
こんな話ですが、演じられてどう感じましたか?」と口を滑らせたのに対して、
すかさず井上芳雄が、
こんな話!! 聞きましたかみなさん、こんな話っていっていますよ!こんな話って!
と突込みを入れたので客席は大爆笑。舞台上の出演者も笑い転げていました。

終わって、ロビーでYさんの感想を聞いて、お礼を言うのもそこそこにお別れして、病院に向かいました。

幸い道も空いていて、3時50分に病院に到着。

ベッドに行くとちょうど検温中で、37.6度と高め。

倒れてからFは、ずっと体温調節がうまくできず、微温が続いています。早速観劇の感想を話しましたが、この日は眠そうで、最初はあまり反応しませんでした。

でもいろいろ話しかけたあと、
「今回は行けなかったけど、8月の『大人のけんかが終わるまで』は必ず行こうね、チケット買ったからね、行けるようにリハビリ頑張ろうね」
と言うと、じっと私の顔を見てくれました。パンフレットも見てくれました。


実際のところ私には、現在の彼女の正確な意識の覚醒状況はわかりませんが、以前と違って、この日のように私の話に合わせて視線を動かしたり、表情を変えたりする日は確実に多くなっています。

そうした、良い反応をしてくれる日と、そうでない日を例えたら、濃く立ち込めている霧が時折晴れて、景色が垣間見える、といったような感じでしょうか。

PTのリハビリがない土・日はもちろん、月曜から金曜の間も、私がFの手足を持って動かすリハビリをやっています。

おかげで手足の関節の可動範囲が広がってきているのがわかります。リハビリの合間に聞かせるICレコーダーには、日替わりの私の声だけでなく、音楽もさらに種類を増やして入れていますが、これもよく聞いてくれています。

でもFが、自分で手足を動かしたり、言葉を発したり出来るようになるのは、まだ先のことでしょう。

今は焦る気持ちを何とか抑えて、それらのリハビリがきっかけとなって、意識の覚醒状態が劇的に好転してくれるように祈りながら、毎日病院に通っています。

でも、もうすぐ6月になります。

まもなく、今の病院の入院期限が終わります。

また別の施設を見つけないといけないのですが、候補となる施設は近くになく、さらに遠くになってしまいそうなのがつらいです。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「シャンハイムーン」の遅すぎる感想 無理してでも観てよかったです

2018年04月18日 | 観劇メモ
先月の話ですが、1枚売りに出した『シャンハイムーン』のチケットは、結局売れずじまいでした。

公演一週間前でも売れる気配はなく、「郵送」では間に合わないタイミングになり、「手渡し」に替えても売れず。

そうなる前から、購入価格を下回る価格設定にしていても売れず。

このドキドキ感、観劇に出かけて、予期しない交通渋滞に巻き込まれて、開演時間に遅れそうなときの絶望感とよく似ています。(笑)
もちろん私より高い価格を維持していた他の方々も「枕を並べて討ち死に」必至(殴)。

買い手が現れたら登録しているメールに通知が来るので、いちいちチェックしなくてもいいのに、つい仲介サイトを見てしまう日々。そして他の人も売れていないのを見てプチ安心したり。(殴)

いつもは入りの良いこまつ座公演でも、主人公が魯迅ということで地味な印象となり敬遠されたのでしょうか。

いよいよ切羽詰まってきて、でも無駄にするのも勿体ないしと、思い余ってイチかバチかで観劇ボランティアを急募。(笑)

2日前なのでまず無理だろうと思いながら、唯一の心当たりに電話したら、なんと快諾の返事!

言ってみるもんですねぇ。散々迷いましたが。

そして当日、貴重な有給休暇を使って、劇場に来てくれました。やさしさが身に沁みました。

で、舞台のほうですが、無理して観て良かったです。

やはり井上ひさし流の味のある脚本、それを十二分に活かす手練れの栗山民也の演出、それにこたえる野村萬斎と共演者の好演で、久々の観劇でしたが、終わってみれば迷わずにスタンディング。(迷う時も多々ありますからね(笑))

ここしばらく病院と自宅の往復に明け暮れていた生活がリフレッシュできました。

私も魯迅が主人公とは、一体どんな展開になるのかと思いながら劇場に向かったのですが、プログラムで魯迅役の野村萬斎が書いているように、「衛星のように登場人物達が魯迅の周囲を回」りながら、極めて人間臭い魯迅とその周辺の人々を紹介する話になっていました。
冒頭の魯迅の手紙を6人の出演者が次々に読む場面は井上ひさしならでは。なぜか『イーハトーボの劇列車』を思い出しました。舞台装置もよく作りこまれていてリアル。
以下、いつもの薄味の感想です。敬称略です。
(画像は当日購入したプログラムから)

野村萬斎は、以前観た『藪原検校』の、酷薄非情な主人公・杉の市とは全く対極になる魯迅を漂々と演じていて新鮮でした。


医学生だったのに大の医者嫌いで、しかも頭痛もちで痔持ちでもあり、右足は神経痛で常に痛んでいたという魯迅を、抑えぬいた演技で人間味豊かに演じていました。

魯迅の相手役・許 広平役の広末涼子ですが、映画でその演技力は知っていたものの、舞台はまた違う演技が求められるので、興味津々でした。

でもベテランぞろいの共演者に伍して、セリフもしっかりしていて、感心しました。女性運動家で知的な広平が、時折魯迅の最初の妻・朱安に抱いている複雑な心情を見せたりする場面は丁寧な演技で、見ごたえがありました。
ただ、けっこうコロコロした舞台姿(殴)で、私はてっきり細身の体型だとずっと思い込んでいたので、意外でした。

内山書店の店主内山完造の妻・みき役は鷲尾真知子

こまつ座の作品は彼女に合いそうな役が多いと思うのですが、初めての出演ということでこれもちょっと意外。

プログラムで彼女自身が書いているように、下町の、下宿の世話好きなおばさん的な役で、辻萬長演じる内山完造との息もぴったり合っていて、人情味あふれる夫婦でした。客の顔を見るとまめまめしくお茶を入れる姿が印象に残りました。(ただ少しセリフが滑ったところもありましたが)
でも、この人の夫が故・中嶋しゅうだったとは知りませんでしたね。まだまだ知らないことが多いです。

土屋佑壱は歯医者の奥田愛三役です。

この人、2015年に観た『國語元年』では「土屋佑一」でしたが、その時はあまり印象がなく(殴)、今回プログラムを読んで出ていたことがわかったのですが、今回はバッチリ。

洋行帰りでけっこうアグレッシブでキザな歯医者だが、複雑な過去も抱えているという、おいしい役です。

この歯医者と好対照なのが、山崎一が演じる須藤五百三

苦労人の町医者で、内山夫婦とともに献身的に魯迅を支えています。役にぴったりのキャラクタで、のびのびと演じていて、味わい深い人物になっていました。『太鼓たたいて笛吹いて』の加賀四郎や『組曲虐殺』の特高刑事でも独特の存在感があって印象に残りました。後半でこの人が、
日本人にもいろいろいる。中国人にもいろいろいる。日本人は、とか、中国人は、とか、ものごとをすべて一般化して見る見方には賛成できんぞ」というセリフがこの作品のすべてを象徴していました。今の世相に最もふさわしい言葉です。

そして内山完造を演じた辻萬長

初演では須藤役で、井上ひさしが当て書きしたとのことですが、今回の内山完造もぴったりで、魯迅の人となりと作品にぞっこん惚れ込んでいる愛すべき人物を自然体で演じていました。書店の店主として魯迅に対してもいろいろ思うところがあるけれど、それは内に秘めて、とにかくひたすら尽くすという好人物で、登場するだけで場が和らぎました。
この人はこまつ座の多くの作品でお目にかかりましたが、私的には前出『イーハトーボの劇列車』の賢治の父親役と思想警察の刑事の二役のほうがすごいインパクトでした。

ということで、久しぶりの観劇でしたが、病院通いの毎日とは全く違う世界が見られてよかったです。

次の観劇は新国立劇場の兵庫芸文センター公演「1984」です。これはFが観劇するのはまず無理ですが、なんとか私だけでも観ようとチケットを処分せず。
そしてタカラヅカは、残念ながらチケットの先行販売の方法が変わって取れなくなって、観劇の予定はありません。(泣)
『ポーの一族』でタカラヅカ観劇はいったん終了となってしまいました。本当に残念です。

でも、Fが観たがっていた、兵庫芸文センターでの「大人のけんかが終わるまで」は、チケット先行販売のメールが来たので、まだ時間があるのでなんとかFが車椅子で観劇できればと、リハの目標設定のつもりで先日購入しました。


うまく最前列の席が取れたので、車椅子に乗れるようになっていたら、なんとか観劇できるでしょう。

チケットをゲットしてから、Fにそれを伝え、パンフレットも見せたら、じっと見てくれました。
それ以降、絶えずFに頑張ろうねと話しかけています。

もしその時点でFがまだ行ける状態になっていなかったとしても、私だけでも観て来て感想を報告してやろうと思います。今度は良席だし、お気楽な内容なので、F分のチケットは多分売れるでしょう。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

兵庫芸文センターで『ダディ・ロング・レッグズ 足ながおじさんより』を観て思ったこと

2017年12月06日 | 観劇メモ
兵庫芸文センターで「あしながおじさん」を観て来ました。
ヨメさんは依然歩行困難で、初めてのフル車椅子観劇 (泣) 。
前回、「1か月前に予約が必要」という奇々怪々な車椅子昇降機のナゾについて書きましたが、今回の観劇でナゾは解けたかな?

当日は快晴でした。

レンタルした二種類の可搬式スロープを駆使して自宅内外の階段を次々にクリアしながら(笑)、電動アシスト車椅子で(帰宅時はスロープ急登になるので)、兵庫芸文センターに向け出発。幸い車が少なく、順調に阪急中ホールにたどり着きました。

手持ちのチケットを「U列」のチケットと交換してから、指定された席に行くと、そこはなんとホームページ上では「車椅子スペース」のはずの場所。
そのスペースにズラリとパイプ椅子を並べ、「U列」席として販売するという、なりふり構わぬ商魂に脱帽です。(笑) 
私の席は横を通る人に触れるほどの壁間際で、座っていても全く落ち着けない場所でした。

席に着いてから、念のため一か月前に予約が必要という車椅子昇降機の現状を確かめに行ったら、昇降機は階段最下部に折りたたんだ状態で置かれていました。


カナダのギャラベンタ社の車椅子階段昇降機アルティラという製品で、取扱業者のサイトでは「点灯したボタンを押していただくだけで初めての方でも迷わないでやさしく操作できます。」「障害物検知装置、緊急時手動停止装置や落下防止装置で、挟み込みや車いすの転落を防ぎ、リフト使用者と歩行者の安全を守ります。」と書かれています。世界各国で25,000台も使われている信頼性・安全性に定評のある商品とのことです。
↓兵庫芸文センターのサイトより


これを動かすのに、どうして「1か月前の予約が必要」だったり、「新たに人手が必要」だったり、「点検が必要」(いずれもセンター担当者談)だったりするのでしょうか。

ただこの劇場は、もともと車椅子トイレの配置とか、その内部が狭小で転回もできないなどいろんな点でバリア・アリーで、アクセシビリティへの配慮とは無縁の建築です。

急勾配な座席の配置のため、通路が変則的な階段になっていたり、平らな最前列付近の席も通路幅が狭く、車椅子の通行は不可能です。
なので、大部分の車椅子利用者にとっては、昇降機を使ってまで階段を下りる意味があまりないのですね。

結局、このホールで昇降機を使うのは、階段歩行は無理だが、平坦な前方席での杖歩行が可能な人限定になってしまいます。
(今回私は、彼女の脇を抱えて、階段下入口から席まで移動するつもりでした。)

こうしたことで、結果的に昇降機の利用者は限られ、芸文センターとしては「宝の持ち腐れ」状態のお荷物と考えるようになったのでしょうね。

なので、世間の手前ホームページにいろいろ書いていても、実際は「1か月前までの予約制」で稼働を制限して定期点検費用をカットし(恐らく都度点検契約に変えたのでしょう)、「車椅子スペース」にもパイプ椅子を並べて一般客に販売し、「売れ残っていたら車椅子の方でもOKね」みたいな、今時レアな対応をするようになったのでしょう。多分これがナゾの答えかと。でも本当は、いつでも障がい者が使えるように備えておくのが真のアクセシビリティだと思うのですが。

という愚痴話(感想より長いです^^;)はこれぐらいにして、『ダディ・ロング・レッグズ 足ながおじさんより』の簡単で薄~い感想です。いつものとおり敬称略。画像は当日購入したパンフレットから。ネタバレはなし。(笑)

今回はご存知のように二人芝居です。でも普段から観劇の選択権は私にないので、劇場で初めて知った次第でした。(殴)


芝居が始まってもしばらくは、最後列になった身の不運を嘆く気分(まだ言うか)が支配していましたが、始まったらまあ朗読劇みたいなものなので、この席でもいいかと納得しながら双眼鏡多用で観劇開始。(笑)

舞台装置は、18歳の少女ジルーシャ(坂本真綾)が暮らす孤児院の一室と、ジャーヴィス・ペンドルトン(井上芳雄)の書斎が隣り合わせになった凝ったものです。このセットがよく出来ていて、つい書架に並ぶ本の背表紙や、酒瓶のラベルなどのディテールを観察してしまったり。音楽は三人の演奏家の生演奏。

冒頭からしばらくは孤児院に暮らす坂本真綾のジルーシャの一人舞台です。

ここで院長の口真似をするところで、口調がガラッと変わったのには感心しました。長年のキャリアが生きていますね。

その後ジャーヴィス・ペンドルトンの井上芳雄が登場。


舞台で観るのは『パッション』以来で久しぶりですが、やはり歌も演技は大したもので存在感十分。何より歌がすごい。ド迫力の朗々たる歌で、坂本真綾の歌が、特に高音部がかな~り心もとない感じだったので、彼が歌い始めたらホッとしました。
私としては、新妻聖子がこのジルーシャをやってくれたら、ジャーヴィスと完璧にバランスがとれるのではと妄想しながら観ていました。

しかし単調になりがちな話なのに、よく出来た舞台だったので脚本は誰かと幕間にパンフレットを見たら、ジョン・ケアード。特に手紙を読むところで書き手と読み手をうまくミックスさせて飽きさせない演出が手練れでした。

ジルーシャの手紙の内容が、赤毛のアンのように、饒舌だが機知に富んでいるのも、睡魔を払うのに(殴)効果的でした。

まあ手紙のやり取りだけの展開なので、集中し続けないと睡魔は避けられず、私はなんとか最後まで持ちこたえましたが、前方席ではあちこちで舟を漕ぐお姿が見受けられました。(笑)

で最後のハッピーエンドの場面。
これまたうまく観客の気分を盛り上げていって、既知の結末でも全く陳腐にならなかったのには感心しました。
そして最後は全員がスタンディングとなって、熱演をねぎらいました。
ヨメさんも「いろいろあったけど観てよかった!」と喜んでいました。とくに井上芳雄の歌唱力には大絶賛モード。私も全く同感でした。


さて次は大劇場での雪組観劇ですが、こちらは完全バリアーフリー対応なので安心です。

でも感想はいつになりますやら。(殴)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

こまつ座第119回公演『円生と志ん生』の観劇メモ

2017年11月30日 | 観劇メモ
兵庫芸文センターで、久しぶりにこまつ座第119回公演『円生と志ん生』を観て来ました。今回はその感想です。とはいってももう一か月以上も前のお話です。

順番からすれば、「神々~」のその2のはずでしたが、何を書こうか考えているうちに大劇場公演も東京公演も終わり、その間に今回の『円生と志ん生』が入って、その後星組を観て、さらにまたまた兵庫芸文センターで「オーランドー」を観て、10月26日にはドラマシティで「パジャマゲーム」と、観劇だけでも在庫の山。(殴)

その間に、2回万博公園に行き、ついでに民博の「よみがえれ! シーボルト‥」展と「カナダ先住民‥」展も観て、馬見丘陵公園にも3回足を運び、美術展も万葉文化館の美人画展で眼の保養のあと、兵庫県立美術館で「大エルミタージュ展」、11月5日には和泉市立久保惣記念美術館で「ピカソと日本美術 - 線描の魅力 -」、同じく12日は松柏美術館で「松園・松篁・淳之三代展」を観るなど、まったく貧乏暇なしです。(笑)

さらにその合間を縫って、増殖した(殴)ドローンを飛ばしに行くなど、もう体力の限界をはるかに超えて疲労困憊。おまけに、昔の職場の事業記念誌への寄稿依頼も安請け合いして、気ばかり焦る日々が続いていました。

ということで、いったんすべてリセットすることにして(ヲイ!)^^;、とりあえずこまつ座の『円生と志ん生』の感想から、在庫整理開始です。よろしければお付き合いください。

当日は、幸い阪神高速の渋滞もなく快走。一時間で地下駐車場に到着しました。
まず近くの「グラッチェ○○○○」で腹ごしらえ。ここは値段が手ごろで他に店もないのでよく利用しますが、店舗が車椅子に全く優しくないのが難点。店内に入るには車椅子を片手で押しつつ、重い二枚のドアを次々に開けて店内に入るという、近頃珍しい多重バリアー(笑)の店です。しかも最近メニューが大幅に整理され、気に入っていたものが無くなったのも残念。

トイレも済ませてロビーに戻ると、劇場入り口横に一つ花がだけありました。大空ゆうひさん(いつのまに祐飛から変わったのかな)への花でした。

まあ今回は彼女の姿を拝むというのも観劇の動機だったり。

この公演は12年前に初演、その2年後に再演されてから10年ぶりの再々演ということになります。

演出はこまつ座の常連となった鵜山仁。最近この人の演出作品とは縁があって、こまつ座では「芭蕉通夜舟」「イーハトーボの劇列車」、こまつ座以外では「トロイラスとクレシダ」や「幽霊」などを観ていますが、「トロイラス‥」と「幽霊」はよくわからない話だったので、やはり井上ひさしの脚本のほうが私などにもわかりやすくて好みです。

それはさておき、話は日本の敗色濃厚な1945年の満州が舞台です。
日本本土では空襲が続き、落語では食えなくなった円生と志ん生が、満州で関東軍の慰問をやれば白いご飯は食べ放題、酒も飲み放題という美味い話に飛びつき、1945年に渡ったものの、すぐに敗戦で避難民となり、あちこち流浪の末、ロシア国境近くの大連で足止めを食らって、600日間苦難の生活を送るというお話です。

筋としてはかなり地味な話で、しかも前半はテンポが遅く、時折睡魔が襲ってきましたが、休憩をはさんで後半は俄然面白くなりました。
ということで主な役ごとに感想です。いつものとおり敬称略です。


まずラサール石井の志ん生です。初めて舞台でお目にかかりましたが、飄々とした演技でかつ台詞は明瞭、風貌が志ん生そのもの。(笑) 
かなり自堕落というか、行き当たりばったりの「宵越しの金は持たない」的な志ん生を等身大に演じていました。大したものです。

一方、大森博史演じる円生のほうは、志ん生とは違って何事にもしっかり計算が行き届いた実務家的な人物です。ところが意外にも落語は、心に沁みる人情噺が得意という面白い人物です。この対照的な二人の掛け合いが見せ場になっていました。

その二人の周りに登場する20人の女たちは、みなそれぞれに不幸を背負っています。当時の満州に生きて死んでいったそうした女性たちを、大空ゆうひ前田亜季太田緑ロランス池谷のぶえが一人五役を演じていました。

私たちの今回の観劇の目的は『Familia -4月25日誕生の日-』以来久しぶりにお目にかかる大空ゆうひ
期待通りのしっかりした演技でしたが、少し残念だったのは、演じるのが教頭先生や修道院のテレジア院長など、かなり年長の女性なので、ちょっと勿体ない感あり。

オルテンシアほか4役の前田亜季の舞台は初めてですが、来年観劇予定の「TERROR テロ」にも出演するということで、楽しみにしていました。終わってみれば期待通りで、個性の全く違う5人の女性を好演していました。この人、8年前にきらめく星座に出ていたとのことですが、私たちが観た深谷美歩(良かったです!!)版の小笠原みさをとはまた違ったみさをを観てみたかったですね。

そして、マルガリタほか4役の太田緑ロランス
海の夫人のボレッテ役では、社会に出て自己実現したいと願いながら叶わず、半ば人生に諦観して生きる女性役をしっとりと演じていましたが、今回は全く違う役でした。(笑)
とにかく眼の力がすごい。(笑) 女優陣の中で一番目立っていました。頑張っているのが嫌味にならず、役の演じ分けが鮮やかで演技の幅が広いです。

たとえば野に咲く花のようにでも生活感に溢れた女性をリアルに演じていた池谷のぶえも同様にベルナデッタほか4役をこなし、それぞれ年齢も設定も全く違う人物を演じていて、その変わりようを観るのが楽しかったですね。途中で、これも池谷のぶえ?と驚いたことが何度もありました。いい仕事をしています。

音楽はこまつ座の芝居に欠かせない朴勝哲のピアノ演奏。焼肉ドラゴンのアコーディオン弾きも良かったですが、今回もリチャード・ロジャースの三曲をはじめ劇中歌の伴奏や転換音楽などで大活躍でした。

今回の舞台は、敗戦後の落語家二人の外地での足止め生活を描いた地味な感じのテーマなので、観終えて高揚感に包まれて帰途に就く、みたいにはなりませんでしたが、対照的な芸風の二人の噺家の、ほとんど紹介されてこなかった大連での生活を、井上ひさしが丁寧に舞台化したことには感心しました。

もっとこまつ座の舞台を観たいのですが、最近関西に来ないことが多くて残念です。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

兵庫芸文センターで『フェードル』を観て 大感動の舞台でした

2017年06月15日 | 観劇メモ
兵庫芸文センター中ホールで、『フェードル』を観てきました。
といっても、ひと月前の話ですが。(殴!)

『フェードル』はご存知17世紀フランスの劇作家ラシーヌの傑作戯曲。そのベースは古代ギリシャの詩人エウリピデスの悲劇『ヒッポリュトス』です。

演じるのは大竹しのぶ、平 岳大、門脇 麦、谷田 歩、斉藤まりえ、藤井咲有里、キムラ緑子、今井清隆と豪華メンバーなので、これは見ない手はないねと、2016年12月に先行予約でチケットを確保しました。

観劇当日は、2017年4月の東京公演から始まった全国ツアーの大千穐楽とあって、満員の盛況でした。ホールには花も飾られ、開場前から活気がありました。

で感想ですが、まあ何とも凄いものを観た、の一言。

とにかく大竹しのぶが圧巻の演技。かねがね只者ではないと思っていましたが(笑)、もうバケモノです。

私たちの席はB列のセンターブロック、そして舞台には三角形の、手を伸ばせば届きそうなところに張り出した箇所があり、その上で彼女をはじめ主要な役者が熱演する姿は超ド迫力でした。

大竹しのぶの演劇は、これまでにも2009年に観た『グレイ・ガーデンズ』(若い時期の大竹しのぶの役を彩乃かなみが演じていたのも良かったです)や、最近のこまつ座『太鼓たたいて‥』でその演技力はわかっていたつもりでしたが、今回の「フェードル」はもう別格の出来。
舞台に登場した姿は貫禄十分で、一目見てジュディ・デンチを連想してしまいました。(笑)
姿だけでなく台詞も終始低い声で、これまで見たことのない大竹しのぶでした。

大竹しのぶの役は、クレタ島の王ミノスの娘で、ギリシャの英雄テゼの妃フェードルです。しかしフェードルは、やがて国王となる継子イッポリットへの道ならぬ恋に悩んで病に陥り、それが発端となってすべての歯車が狂い始めるという話ですが、そのフェードルの懊悩ぶりが超リアル。本当になりきり芝居でした。

ヨメさんは、「台詞をいうときに唾が見えるほどの至近距離に私たちがいるのに、ようまああんな演技ができるもんやね」と観終えて感心しきり。(笑)

イッポリット役の平 岳大もよかったです。

シンプルな舞台セットなので台詞命の舞台ですが、フェードルの不義への悩み、父テゼへの尊敬の念、そしてアリシーへの愛という三つ巴の感情に苦悩する姿がよく表されていました。
濡れ衣を着せられたまま死地に赴く彼の姿が悲愴でした。

しかし彼は、最近ますますお父さんに似てきましたね。(笑)

アテネ王テゼ役は今井清隆

初めてお目にかかった役者さんですが、これまで「レ・ミゼラブル」や「オペラ座の怪人」、「美女と野獣」など多くのミュージカルで主演されている有名な方です。^^;

その経歴通り、アテネ王としての堂々とした威厳と存在感、そして讒言を信じて息子イッポリットを死地に追いやる人間臭い弱さも持った役どころを見事に演じていました。まだまだ知らない役者さんが多いです。

乳母のエノーヌ役はキムラ緑子です。

フェードルの罪をイッポリットに着せて、テゼの怒りの矛先をそらそうとする悪い女。

でもそれもフェードルを何とか守ろうとする気持ちから出た行動ですが、この芝居では一番黒い役です。

テレビドラマで観るのと違った緊張感がみなぎるシリアスな演技で、見直しました。

今回の舞台では、相手とのキャッチボールではない一方的な長台詞も多かったのですが、あまり滑らず(少しはあったけど^^;)語り続けていたのは大したものでした。

イッポリットの恋人でアテネ王族の娘アリシーは門脇 麦

この人も初めて見ました。役としてはアイーダみたいな境遇の不幸な娘です。
でも境遇に負けずに誇りと信念をもってイッポリットに接している姿が印象的でした。この人も出番は少ないですが、存在感がありました。

あとの谷田 歩斉藤まりえ藤井咲有里といった俳優さんも、ベテランの面々に伍してしっかりした演技と台詞でわきを固めていて見ごたえがありました。

ストーリーとしては単純なので、脚本的には登場人物それぞれの内面を如何に役者が表現するかが問われる舞台でしたが、全員の好演で、ラシーヌの傑作戯曲にふさわしい重厚で奥行きのある作品になっていました。


終わって感動のカーテンコールとなりましたが、これがまた面白かった。

というのは、カーインコールにこたえて舞台に出てくるたびに、大竹しのぶがフェードルが抜けて、素の彼女に戻っていく様子が見られたこと。(笑)

客席は大熱演に全員スタンディングで万雷の拍手でしたが、最初出てきたときは大竹しのぶも硬い表情のままでした。
二回目も同じように顔はこわばっていて、笑いもなくただ頭を下げて拍手にこたえるだけ。

でも三回目になって顔に笑みが戻ってきて、ぴょんぴょん跳ねたりして、明るく拍手に応えてくれるようになってきました。

そして四回目にはもう満面の笑みで拍手にこたえ、大千穐楽の挨拶もして、最後は出演者全員手をつないでジャンプ!!で終わりました。

この過程を見ていたら、役に入って瞬間的に涙を流せるといわれる彼女でも、逆に憑依状態(笑)から現実に戻るには、それなりの時間がかかるのかなと思ってしまいました。面白かったです。

とにかくこの舞台を観られてよかったです。これは今年一番の収穫かもと二人で話しながら、帰途につきました。

さて次は花組公演の感想です。意外にも(殴!)、藤井大介さんがGood Job!!なのがうれしい番狂わせ。早くアップしたいのですが、いつになりますことやら‥。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

再び兵庫芸文センターで「炎 アンサンディ」を観て さらに磨きのかかった舞台でした

2017年04月24日 | 観劇メモ
「ザ・空気」の観劇一週間後の3月25日に、再び兵庫芸文センターへ。
2014年の初演から2度目の「炎 アンサンディ」観劇です。先週同様、道路は渋滞もなく、一時間強で劇場につきました。劇場ホールは男性客も多く、麻実れいファンらしい年恰好の女性グループがあちこちにおられました。
前回と違って花はなし。

初演と同じ俳優とスタッフなので、基本的に前回のとおりですが、今回の公演では最後にナワルの場面が付け加わったのをはじめ、演出も細かく手が加えられていて、より分かりやすい舞台になっていました。それと二回目の観劇なので、ようやく過去と現在が交錯する複雑な場面構成のストーリーが理解できたので、観た甲斐がありました。(以下敬称略。画像は当日購入のプログラムから)
以下、簡単に感想です。

幕が開くと舞台はカナダ・モントリオール。突然の母の死を前にして、双子の姉弟がそれぞれに託された母の遺言の中に込められた願いをかなえるため、母の祖国レバノンを訪れるという展開です。

前回にも書きましたが、母の残した謎の言葉に従って、姉弟それぞれが母の過去をたどるうちに、次第に衝撃的な事実が明らかになっていきます。サスペンス風の話ですが、またギリシャ悲劇な要素も色濃く、最初のほうの若い二人の現代風な会話から受ける印象が、途中からガラっと変わって、内戦のレバノンの深刻な民族抗争をベースに展開される重い悲劇が胸を打ちます。

母親ナワル役の麻実れいはますます演技が深くなっていました。

まさに座長芝居。彼女の渾身の演技がこの舞台の柱になっています。宝塚時代から、長年麻実れいの舞台を観続けてきたヨメさんは、「もう間違いなく代表作!前回よりさらに良くなっている!」と激賞していました。

実際麻実れいは、本場フランス版では3人の女優が演じ分けたという主人公ナワルを、セリフのトーンを変えたり、身のこなしを演じ分けて見事に体現していました。大したものです。

舞台で岡本健一を観るのは蜷川の『タイタス・アンドロニカス』以来3度目ですが、

前回感じた通りしっかり芯のある演技で、ニハッド以外にも医師ガイド墓地管理人老人、ナワルの最初の恋人役など何役も兼ねる大奮闘でした。

双子の姉弟のジャンヌは栗田桃子

シモンを小柳 友

この二人も複数の役を演じていて、栗田桃子はなんとナワルの祖母ナジーラ役!。
小柳 友も民兵で頑張っていました。最初は母に対する不信と反発が強かった二人が、次第に母と自分たちの出自を知って、次第に変わっていく様子をよく表現していました。

役を兼ねるといえば中村彰男も大奮闘。

元看護士のアントワーヌ、シモンのボクシングコーチ・ラルフ、ナワルの故郷の村の長老学校の門番抵抗勢力のリーダー産婆!、戦争写真家と八面六臂の大活躍。全く同じ役者と思わせない巧みな演じ分けで、またしても騙されました。(笑)
演技に説得力があって大したものです。

今回の観劇は再演ということで、私はヨメさんの付き添い程度の気分で出かけたのですが、やはり麻実れいの全力投球の演技と、それに応える他の役者さんの好演、脚本・演出のブラッシュアップとの相乗効果で、私も大満足の観劇となりました。

もちろん最後は全員総立ちの拍手。心地よい余韻に浸りながら、帰途につきました。

今月観た星組の『スカピン』の感想も書けていないのに、今週また雪組公演『幕末太陽傳』&『Dramatic “S”!』の観劇です。(^^; 
ほかにも、万葉文化館でいい絵を見てきた感想とか、馬見丘陵公園できれいな花たちを見てきた報告とか、お金はたまらないのに、ネタはたまる一方。(殴)
そしてそんなプレッシャーを感じながらも、晴れたらPhantom2とInspire1を連れ出して空撮三昧という自堕落ぶり(笑)。まったくつける薬がありません。

ともあれ、トップ退団公演、どんな出来になっているのでしょうか。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

兵庫芸文センター・二兎社公演「ザ・空気」の観劇メモ いい舞台でした 

2017年04月19日 | 観劇メモ



先月3月18日に、久しぶりの兵庫芸文セーターで「ザ・空気」を観てきました。
作・演出は永井愛さん。観劇は「鴎外の怪談」「書く女」に次いで3度目となりますが、描かれた作品の深さとシャープな問題意識に毎観劇感心しまくっています。作品のテーマは井上ひさしにも共通するものがありますが、取り上げ方ははるかに生真面目です。(笑)

出演は田中哲司若村麻由美江口のりこ大窪人衛木場勝己と芸達者ぞろい。

テーマは、「報道の自由度ランキング世界第72位!と惨憺たる日本のマスコミの現状を、正面からリアルに描いています。
あるテレビ局が、法務大臣の「電波停止」発言を契機に、ドイツと日本の報道の現状を特集番組で取り上げることになり、その作成過程での、番組内容を巡り、現場のスタッフと、経営陣との息詰まるリアルな駆け引きが描かれていました。

放送開始まであと数時間という限られた時間設定のもとで、内容の変更を迫られる現場スタッフ。そのリアルなやりとりがドキュメンタリーを見ているような緊迫感で、観ていてこちらも息苦しくなるほどで、終始客席で固まっていました。(笑)
見終えても重い余韻が胸にたまって金縛り状態、脚本・演出そして出演者の演技どれをとっても良くできたいい舞台でしたが、とてもスタンディングできずにいました。誰もが同じ思いだったようで、拍手で熱演にこたえていたものの、誰も立てず。(笑)

でも観劇して本当に良かったです。
政府自らが憲法違反の悪法を次々と出してきて、それを一部のマスコミがなりふり構わず翼賛報道する、現在の日本に流れるきな臭い「時代の空気」と、名ばかりの「報道の自由」。その現実について改めて考えさせられました。
日本の演劇界のもっとも鋭敏ですぐれた感性が作り上げた作品でした。

「鴎外の怪談」も森鴎外について、これまで取り上げられてこなかった視点からその人物像を描いていて新鮮でした。また「書く女」では、井上ひさしとは違った角度から一葉とその作品を取り上げていて、「頭痛肩こり‥」との対比が面白かったです。

ということで簡単に役者さんごとに感想です。例によって敬称略です。

舞台にはテレビ局内のエレベーターホールと各室への通路を切り取ったようなシンプルなセット。両開きのエレベーターの乗降ドアの開閉がリアルで、よくできていました。

主役は田中哲司演じる編集長・今森俊一

はじめてお目にかかる役者さんでした。最初はお手並み拝見みたいに距離を置いてみていましたが、すぐ感情移入できるようになった説得力のある演技でした。若村麻由美の演じる人気キャスター・来宮楠子とのせりふの応酬も絶妙。

若村麻由美も役と自身のキャラクターがうまく重なって、こちらも違和感のない人物でした。

「鉈きり丸」の北条雅子や「頭痛肩こり‥」の幽霊とはまた違った、実在感のある演技でした。役的には、最後に会社の「空気」にちゃっかり寄り添って、世渡り上手なキャスターになって現れたのでガッカリしかけたら、最後の最後にまた意味深な行動を見せて、二人のその後についていろいろ含みのあるエンディングでした。観ていてこちらも救われました。(笑)

ただ、彼女、最近かなり体を絞ったのか、お顔が前二作よりシャープになったというかやつれたというか(殴)、ちょっとアレ?なとんがった感じでした。まあバリバリ売り出し中のキャスターらしいといえますが、私的には前のフックラなほうが良かったな。

報道番組のアンカー・大雲要人(まんまな名前(笑)で、かなとと読むそうです)役はおなじみの木場勝己

この人もピッタリのキャストです。古狸で、海千山千というか百戦錬磨というか、経営者への目配り重視、「空気」をよむ達人という役。円熟した演技で、出てきただけで舞台に重厚さが加わる、宝塚で言えば一樹千尋みたいな存在です。

あとはディレクター・丹下百代役が江口のりこ

舞台では初めてお目にかかりましたが、映画やテレビで活躍中のベテラン女優さんですね。当然ですが、さすがにこの人もうまい。ディレクターになりきっていて、自然な演技で感心しました。最後は会社に見切りをつけて、バイク便のライダーに転職!していて、その姿がまたリアルでカッコ良かったです。

あと一人、編集マン・花田路也役が大窪人衛

「焼肉ドラゴン」の一人息子・金時生役で初めて知りましたが、今回もユニークな雰囲気の演技でした。ちょっと性別不明な容姿で、ヨメさんも「はじめは男か女かようわからんかった」と言っていました。この人も演出家の要求に誠実に応えるいい演技でした。前作の金時生はあっけなく死んでしまったのであまり印象に残らなかったのですが、今回はじっくり見ることができました。

というわけで、重くシリアスな主題で、劇中でもいろいろ考えさせられましたが、前二作に劣らず完成度の高いいい舞台で、大満足でした。二兎社の今後の作品に注目です。

国会では、各方面から懸念や反対の声があがっているにもかかわらず、日本社会の「空気」をいっそう悪くする、治安維持法の再来・「共謀罪」の審議が始まりました。「テロ防止」は名ばかりで、実際は日本を監視社会にするこの法案の危険な正体を、もっと多くの人に知ってもらうにはどうしたらいいか、悩ましい日々です。

さて次は、一週間後に観た「炎 アンサンディ」。これも現代社会を抉り出すいい舞台で、内容も前回からさらに良くなっていて、見ごたえたっぷり。3月の兵庫芸文センターは実りの多い月でした。

頑張って書かないと、「スカピン」もあるし、たまる一方です。(^^;


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シアタードラマシティで「レティスとラベッジ」を観て  傑作コメディに拍手!

2016年11月19日 | 観劇メモ
まだ「幽霊」のショックが残ったまま(笑)、10月23日にドラマシティで「レティスとラベッジ」を観てきま
した。

ちなみに10月は怒涛の観劇月間で、10月27日は宝塚大劇場で「ケイレブハント」、2日後にはまた兵庫芸文センターで「雪まろげ」、そして11月5日も同センターで「マーダーバラッド」観劇で、本当に疲れました。
家計への負荷も高いです。^^;

それはさておき、前回と打って変わって「レティスとラベッジ」は満員の盛況でした。
おまけに大千穐楽とあって、アドリブの応酬も楽しめ、大いに盛り上がりました。
でも、これは観終えての話で、もともと私にとって全く気の進まない観劇でした。

ヨメさんは麻実れいさん目当てで早くから観る気満々。いつもなら私も、彼女の舞台はアリですが、なにせ今回は黒柳徹子さんが主演と聞いたので、気持ちが萎えていました。
というのは、3年前の「<ahref="http: blog.goo.ne.jp="" air_cool2510="" e="" b171394123d67128a685bf35b539ff4f"="">兵庫県立美術館 奇跡のクラークコレクション

やはりこれまで何度も上演されているだけに、面白さ満載で、よくできた脚本でした。それに加えて、大千穐楽で黒柳徹子もリラックスしたのか、団時朗に太鼓をたたいて歩かせる特訓場面でアドリブ炸裂。(笑) 

団時朗に「タン、タタタ、タン」と太鼓をたたかせる仕草をしながら歩く練習を何度もやらせてから、「あなた、京都出身でしょ、京都弁しゃべりなさいよ」とか、自分も関西弁で漫才よろしく突っ込みを入れたりで、さすがの団時朗もいじられっぱなしでタジタジ。

団時朗が長身をかがめながら黒柳徹子のアドリブに応える姿と、黒柳徹子のコメディエンヌぶり全開で客席はもう大爆笑。
そして、そんな二人のやり取りを、舞台後方に腰かけて、ほほ笑みながらやさしく見守る麻実れいの姿も、普段の舞台では見られない光景でした。

そして最後のカーテンコールとなって、客席は全員総立ちの拍手。私ももう滑舌はきれいさっぱり忘れて、それに加わっていました。

本当に黒柳徹子の演劇センスは大したものでした。初演と前回の舞台が観たかったです。

私が彼女の名前を初めて知ったのは、NHKのラジオ番組「一丁目一番地」の「さえこ」さんから。
毎回さわやかなセリフを聞いて、子供心に淡い憧れのような感情を抱き続けていたのですが、後年テレビで初めてお顔を拝見して、そんな思いは一瞬で消え去りました。(笑)

でも今回の初めての観劇で、私が知らなかった、役者としての豊かな才能を目の当たりに出来て、本当によかった
です。

というわけで、次は「ケイレブハント」。まだまだ忙しいです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

兵庫芸文センターで「幽霊」を観て感じたことなど

2016年11月15日 | 観劇メモ
10月某日、兵庫芸文センター・中ホールで、幽霊を見てきました。
いえ、中ホールに幽霊が住み着いていて、それを見てきたとか、そこが心霊スポットだとかという
類の話ではありません。(殴)
シーエイティプロデュース企画・製作、
朝海ひかる主演の「幽霊」です。

演出:鵜山仁

出演:朝海ひかる 安西慎太郎 吉原光夫 横田美紀 小山力也


以下、超短い感想(というか感想モドキ)です。いつものとおり敬称略です。

原作がイプセンということで、これは睡魔との闘いかも、と覚悟していきましたが、やはり定評ど
おり(でも
海の夫人』は良かったですが)、観劇しながら重い瞼を持ち上げ続けるのに必死でし
た。(殴)

しかし、問題はそれではなかった。^^;

今回も席は最前列だったので、幸せな観劇タイムのはずが、そうではなかったのです。

まあとにかく、入りが悪かった。

これまで数えきれないほど通ったこの劇場で、ほぼ半分が空席というのは空前絶後、初めての体験でした。

大体開場前のロビーがすでに虚ろで、開場時間となっても客が少ない。

客席に行っても、観客はまばら。

開演時間が迫って、ヨメさんが「ちょっと後ろの座席を見てくれない」というので振り返ると、一階
席上半分がほぼ空席という恐怖の現実。もちろん2階は‥。^^;

舞台の出し物が怖いというより、空席が怖い。(殴) 
見なければよかったです。とくに客席後半下手側はゴッソリ空席で、そこに三脚を付けたカメラが入っ
ていて、ずっと撮影していました。

でも舞台が始まって、朝海ひかるが登場したときは、さすがに舞台映えするなーと感心したりして、
しばし舞台に見入っていました。

朝海ひかるの
ヘレーネ夫人は晩年のエリザベートを思わせる衣装に身を包み、
存在感のある演技でよかったです。



国語元年」では控えめな役でしたが、今回は堂々の主役で、さすがに大劇場を背負っていただけに
見栄えがするなあとか感心しながら観ていたのですが、それも束の間(殴)、やがて、意味がありそう
で頭に入らない台詞の応酬と、起伏の少ない展開で、また空席のことが頭に浮かんできました。(笑)

私たちは後ろを振り返らない限り見なくて済みますが、舞台からは丸見えのはず。「こんな状態で、
よくめげずに芝居できるな」(殴)とか、あらぬことを考えてしまいました。なので、けっこうこちら
も辛い観劇となってしまいました。

でも2幕から3幕に進むにつれ、話の芯が見えてきてようやく面白くなってきました。

最後は満足して、カーテンコールではこちらも懸命に拍手して、逆境の出演者をねぎらったのですが(笑)、
やはり朝海ひかるは2回とも硬い表情のままで応えていました。無理もないですが。

ということで、まことに居心地の悪い観劇でした。こんなこともあるものですね。

ちなみに「海の夫人」も今回の「幽霊」も、主演が宝塚雪組トップというのが面白いです。

ともあれ、朝海ひかるの今後に期待したいです。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

兵庫芸文センター阪急中ホール『DISGRACED/ディスグレイスト−恥辱』の観劇メモ  感動の舞台でした。

2016年11月11日 | 観劇メモ
10月1日に兵庫芸文センターで『DISGRACED/ディスグレイスト−恥辱』を観てきました。
最近はとくに兵庫芸文センターには良く通っていて、9月は「頭痛肩こり樋口一葉」、このあと10月13日に
朝海ひかるの「幽霊」を観て、10月29日は「雪まろげ」、11月5日は「マーダーバラッド」と我ながら感心
するぐらいの精勤ぶり。

で、感想ですが、非常にいい舞台でした。見ごたえたっぷりで、超満足でした。

現在アメリカのみならず、全世界で進行している、宗教・人種・政治が絡んだ深刻な社会対立という重い
テーマを、リアルな会話で見事に演劇化していました。
初めは退屈な話かなと危惧しながら観ていましたが、途中からグイグイと引き込まれて行って、終わってみ
れば感動のスタンディングオベーション。

原作は2013年のピュリツァー賞(戯曲部門)を受賞した、パキスタン出身の脚本家アヤド・アフタル。

それをおなじみ栗山民也さんが演出し、演じるのはベテラン小日向文世・秋山菜津子をはじめ安田顕・小島
聖・平埜生成の5人の役者さんです。
ということで、中身も知らないまま、この顔ぶれだけで先行販売で早々にチケットをゲットしていました。

以下ネタバレありです。いつもの通り敬称略。

ニューヨークの高級アパートに暮らすパキスタン系アメリカ人弁護士アミール(小日向文世)と、その妻で
白人の画家エミリー(秋山菜津子)、アミールの同僚の黒人弁護士ジョリー(小島聖)、エミリーの知人で
ユダヤ人の美術館キュレーター・アイザック(安田顕)がホームパーティで繰り広げる会話劇がメインです。

それにアミールの甥エイブ(平埜生成)が絡んで展開します。
舞台に据えられたセットは高級アパートメントの一室で、セレブな主人公の暮らしぶりがよくわかるリアル
なものでした。

主人公アミールは、企業専門の弁護士事務所に所属する優秀な弁護士。
パキスタン移民としてのハンディを負いながらも、優秀な仕事ぶりで頭角を現したいわば勝ち組。

ある日、甥のエイブが訪ねてきて、逮捕されたイスラム教の指導者の審問に出て助けてほしいとアミールに
頼みます。
最初は拒否したアミールですが、妻のエミリーも助けるべきと口添えしたこともあって、結局、アミールは
審問に立ち合うことに。
しかしそこから彼の人生の歯車が大きく狂い始める‥というストーリーが、前記の4人によるホーム・パーティ
の場面を軸に進行していきます。
はじめはパーティの準備などの夫婦の会話から始まるので、舞台もまったりした雰囲気でしたが、やがてパー
ティとなって会話が進むにつれ、スリリングな展開となっていきます。

まあとにかく、台本がいい。

2013年ピュリッツァー賞受賞・2015年トニー賞ノミネート・ニューヨーク、ロンドン上演の話題作、というのも
納得の脚本でした。

アメリカをはじめ現代世界に蔓延する宗教的・民族的社会排外主義の病巣が、リアルにまた自然なストーリー展開で
私たちの前に示されます。
でもこういう話は、脚本家の体験がベースになっているので書けるのだろうと思います。まず絶対に日本人には書けない
リアリティのある舞台でした。

ちなみに“disgraced”は、辱める、地位や名誉などを失わせる”という意味です。

ということで役者さんごとの感想です。

まずアミール役の小日向文世


先に書いたようにアミールはパキスタン出身の優秀な弁護士です。

故郷と宗教をすてて、財産と地位を得るために渡米し、血の滲むような努力の末やっと手に入れた敏腕弁護士の地位
と生活。そんな得意満面の成功者が、捨てたはずの宗教が絡むトラブルから破滅していく役を、見事に演じ切ってい
ました。

この人の舞台を見るのは今回が初めてですが、「真田丸」での秀吉の怪演(笑)に驚かされた後なので、今回の観劇を
期待していました。
そしてやはり期待通りで、才色兼備の白人の妻と高級アパートに住む、セレブなパキスタン出身という弁護士ぶりが
まずリアル。でも、その彼が、最後は何もかも失って尾羽打ち枯らして部屋を出ていくという姿が印象的でした。
セリフも膨大なのに、それを苦も無く(本当は大変でしょうが)見事にこなしていて、大した役者さんでした。

画家エミリー役秋山菜津子も、いまさら言うまでもないですが、予想通りの演技。
良かったです。


しかしこの人の演技の幅は本当にすごいですね。

私が見ただけでも、『キネマの天地』・『藪原検校』・『鉈切り丸』・『きらめく星座』・『8月の家族たち』と役柄
が実に多種多様多彩。
もちろん今回の『DISGRACED』も、この人のエミリー以外考えられないと思うほどのはまり役。小日向アミールと
がっぷり組んでのセリフの応酬が見ものでした。

エミリーの知人で、ユダヤ人の美術館キュレーター・アイザック役の安田顕は初めて観た役者さ
んです。


でも小日向アミール・秋山エミリー夫婦の会話バトルに臆せず割り込んで(笑)、いい演技を見せてくれました。台詞も
明瞭、後半エミリーとの微妙な関係もわかりますが、そのあたりもうまく演じていました。

黒人弁護士・ジョリー役の小島聖も今回初めて観た人ですが、長身で黒塗りメークで目立ってい
ました。舞台に出てきたときは初めて観る顔なのでビックリ。

でも、アミールが審問に出てから弁護士事務所での立場が危うくなり、その座をジョリーが奪うという展開でしたが、
そんな訳アリな役どころをうまく演じていました。

初めて観るといえば、アミールの甥のエイブを演じたの平埜生成も同じでした。


イスラム教への純粋な信仰心から、指導者の救済のために奔走する姿をよく演じていました。でも今回はそれほど出番
が多くなかったので、演技についてはまだわからないところもありますが、来年のこまつ座第116回公演
『私はだれでしょう』にも出演決定とのことですから、関西で上演されたらぜひ観たいですね。

というわけで、事前によく調べないまま出かけたのですが、完成度の高い台本と、それを生かす巧みな演出、そして俳優
陣の熱演で思わぬ収穫となった舞台でした。

もし再演されたら、こんな感想など忘れて(殴)、ぜひご覧ください。おすすめです。



さて次は朝海ひかるさんの「幽霊」の感想ですが、別の意味でかなり怖い(殴)観劇でした。

10月から11月はそのほかにも空前の観劇ラッシュだったので、早くアップしないと賞味期限切れ続出となりそうです。(殴)
頑張らないと。^^;




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

兵庫芸文センターで、再び「頭痛肩こり樋口一葉」を観てきました。よかったです。

2016年09月23日 | 観劇メモ
3年ぶりに、またこまつ座「頭痛肩こり樋口一葉」を観てきました。今回は、前回唯一残念だった樋口一葉がバッチリで申し分なし。
他の配役は前回と同じ豪華メンバーなので非の打ちどころがなく、名実ともにこまつ座の看板芝居といえる見応えたっぷりの舞台でした。

今回も、最前列センターブロックでの観劇でしたが、オープニングでの子供たち!?の提灯踊りなど、こちらが
恥ずかしくなるほどの至近距離でした(笑)。
セットも前回同様、四本の柱と仏壇だけの極めてシンプルなもの。担当は宝塚の舞台もよく手掛けている松井るみさんで、この人の舞台
装置では『愛と革命の詩-アンドレア・シェニエ-』が記憶に残っています。でも今回はチラシで初めて知りました。(笑)

しかし、我ながらあきれるほど見事に話を忘れていました。
前回の観劇はほんの3年前、なのに筋書きはきれいさっぱり忘れていました(笑)。まあその分、新鮮な観劇となりましたが。(殴)
そして改めて感じたのが、同じ樋口一葉を題材にしていても、2月の二兎社「書く女」とは大違いということ。
「書く女」は、主人公・一葉と、彼女を取り巻く人々との関りが史実に即して丁寧に描かれていて、彼女とその作品の時代背景もよく理解
できました。登場人物も、半井桃水に斉藤緑雨、馬場孤蝶、平田禿木、川上眉山などの文学青年たちや、ライバルの田辺龍子など一葉と深
いかかわりのあった人物が登場して、明治の文壇の一端がよく理解できました。

でも「頭痛肩こり~」は全然違う話。
まず配役はすべて女だけ。
そしてテーマも、一葉が話の中心ではなく、一葉の生きた明治という時代を、一葉を含む6人の女性の生きざまを通して描くといった感じ
でした。
でも私は(ヨメさんも)先に書いたように、話をすっかり忘れていて、ただ若村麻由美の幽霊が本当にキレイとか(殴)、苦界に身を沈めた
熊谷真実がド迫力だったとか、妹の邦子が実に健気だったとか、断片しか覚えていませんでした。

それで今回、全く先が予測できない展開に、よくまあこんな芝居の脚本が書けるものだと改めて感心しながら観ていました。
それと、この「頭痛肩こり~」がユニークなのは、一葉だけに幽霊・花蛍が見えること。
このわけは、脚本家自身が、今回購入したプログラム(中身が濃くて値打ちがあります)中の、架空のインタビュー記事「樋口一葉に聞く」
(初出は「季刊the座」1984年5月創刊号)で解説してくれています。
井上ひさし一流の、非常に面白くかつ深い一葉論が展開されていますので、ぜひプログラム↓をお買いになってご覧ください。

この一葉と花蛍の関係、「エリザベート」に通じるものがありますが、それをずっと以前の1984年に舞台で上演していたのですから、
本当に大したものです。

ということで、出演者ごとに感想です。例によって敬称略です。

まず今回一番気になっていた一葉役の永作博美から。


よかったですね~。滑舌もよく、表情も身のこなしも、メリハリがあって強い。3年前の一葉とは大違いでした。
強くてもヤリ過ぎ感は全くなく、たたずまいもバランスよく周囲に馴染んでいました。でも本当に若見えで、実年齢との乖離がすごい!!(殴)
そのおかげで、24歳で没したまさに夭折作家の典型・樋口一葉に、ぴったりハマっていました。
プログラムで、稽古中は苦労したと語っていますが、周りにはそう見えなかったようで、対談記事では「涼しい顔して稽古していた」
と冷やかされていました。

稽古風景です↓



でも本当に大した演技力でした。つくづく知らないことが多いです。
前回の舞台では、一葉の台詞の場面になると、滑舌とか声量とか果ては演技全般が気になって、舞台にまったく感情移入できなくなって
いました。
でも今回はそんな懸念材料がすべて解消、話に自然に入り込めました。脚本家の言いたかったこと、考えていたことがストレートに
伝わってきた感じです。

他の五人の女たちの配役は前回と同じで、それぞれの役と役者さんの持ち味がうまくマッチしていて申し分なし。

母親・樋口多喜役は三田和代

3年前が初出演とのことですが、もう円熟の多喜になっていましたね。維新前夜の混乱の中で、故郷を夫則義とともに出奔し、江戸で艱難
辛苦の末に最下級の武士となったのも束の間、明治という生き難い時代に翻弄されながら生活を送る姿がコミカル&リアルでした。
故郷の村人を見返すかのように、貧困の中でも絶えず武士のプライドを強調する多喜ですが、一方では、気前よく他人に物を与えたりする
憎めない人物です。前回と同じく、三田和代は文字通りのハマリ役でした。

家族の役では、一葉の妹・邦子深谷美歩もよかったですね~。

前回も最後の場面が印象的でしたが(この場面だけははっきり覚えていました(殴))、今回もやられてしまいました。うまいエンディング
でついホロリとな。この場面に作者がすべての思いが凝縮しているようないい場面でした。

邦子が、プライドだけ高く、経済観念は希薄で能天気な母と、いろんな小商いに失敗した後、背水の陣で小説書きに没頭する一葉の間に
立って、生活を切り盛りする健気な姿が瞼に残ります。
演出家は、邦子は「とにかく働き続けている役」だといっているそうですが、その通り、舞台では甲斐甲斐しく働きづめ。(笑)
この人、同じこまつ座の「きらめく星座」で長女「みさを」役を演じていましたが、そこでも同じような、感情を押さえ
た中にも、よく人となりが伝わってくる演技でした。台詞もすっきりさわやか。本当にいい役者さんです。
「きらめく星座」のみさをです↓


樋口家に出入りする女性の一人、中野八重役は熊谷真実


もともと私たちは、初めてのこまつ座観劇となった「黙阿弥オペラ」での二役をこなす熱演に驚かされましたが、
2013年のこの演目の公演でも、渾身の演技で圧倒されました。
でも今回は、さらに力の入った演技で、とくに後半、苦界に身を落としたあとの場面では、前回以上のド迫力の、
凄みさえ感じる演技でした。
本当にこの人の役への入り込み方は大したものです。

そしてもう一人、樋口家に出入りしていた稲葉鑛役は愛華みれ

宝塚時代から個人的に好感度極大なトップさんでしたが、前回同じ役で出演し、その元気な姿を観ることができてうれしかったです。
そして今回、体調はさらに良くなっているようで、舞台での表情もスッキリきれい。役の人物像がさらに深まっていて、歌の場面も多く、
よかったです。
稲葉鑛も没落士族の子女で、暮らしの内情は火の車。知り合いを回って、返す当てのない借金を頼みに回りながらも、育ちの良さは
なくしていないお嬢様です。でも彼女も最後はやはり不幸な結末となります。
愛華みれのキャラクタと演技が役柄によくマッチしていて、見ごたえがありました。3年ぶりの歌もさらに磨きがかかっていて、
胸に染み渡りました。
プログラムによれば、彼女は2009年の「きらめく星座」に出演していたとのことですが、それもぜひ再演してほしいですね。

そして花蛍若村麻由美

相変わらずというか、ますますきれいな幽霊で、やっぱり一度は憑りつかれてみたい。(殴)
でもこの花蛍は一番運動量の多い役で、大変ですね。舞台狭しと駆け回りながらの長台詞が多くて、それでも息も切らさず
頑張っています。
小松座のサイトに、この公演の制作発表時の画像がありましたが(笑)、生前の花蛍(笑)が美人で売れっ妓だったのがよくわかります。↓

彼女を通して、明治という、とくに女性にとって極めて過酷な時代がくっきりと浮かび上がってきます。
でも花蛍は優しい幽霊です。というか、かなりお人好し(笑)。自分の非運は嘆くけど、決して他を責め続けることができず、
次々に自分を絶望に追い込んだ原因を探っていくうちに、結局女たちの不幸の根源が明治という時代そのものにあるという
ことを私たちにわからせてくれます。

しかし幽霊が出てくると一遍に舞台が華やぐというのもなんともシュールです。(笑)

とまあ、豪華な女優さんと極上の脚本、それを十二分に生かす手練れの演出家の仕事ぶりがあいまって、至福の観劇タイムと
なりました。
小松座の看板公演といわれる理由がよくわかりました。
感動のうちに幕が下りて、さあスタンディング!とタイミングを見計らっているうちに二回でカーテンコールが終わってしまった
のが唯一心残りでしたが(笑)、いい舞台に満足しながら帰途につきました。

今度は筋を忘れないようにしましょう。(殴)

次は星組退団公演の観劇感想です。がんばって書かないと。(^^;

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

観劇感想・蔵出しシリーズVol.2は「パーマ屋スミレ」と宝塚「NOBUNAGA/Forever LOVE!!」です

2016年07月20日 | 観劇メモ
思いつくまま観劇感想・蔵出しシリーズVol.2です。遅くなっています。m(__)m

今回は、
①6月18日に観た、新国立劇場2015/2016シーズン 鄭義信三部作のVol.3「パーマ屋スミレ」と、
②6月23日の宝塚月組公演『NOBUNAGA<信長> -下天の夢-』&『Forever LOVE!!』のうっす~い感想です。
でもネタバレありで、宝塚は絶賛モードとはほど遠い感想(殴)なので、御贔屓な方はスルーしてください。

ではまず『パーマ屋スミレ』から。こちらは絶賛しています。(殴)


劇場は毎度おなじみ西宮芸文センター・阪急中ホール。通し券なので今回もおなじB列のセンターブロック。
まず結論ですが、やはり見ごたえたっぷり。本当によかった。印象としては、こまつ座の舞台と共通した、これまで知らなかった世界が垣間見られるといった、脚本と演出の面白さが心に残りました。

今回の舞台セットは、三池闘争以後、さらに炭鉱経営の合理化政策が激しくなった炭鉱住宅に付属する理髪所。
例によって、店内外は超リアルな作りで、店内には前田美波里のレトロなポスターが貼られていたり、店の前には前二作の水道栓の代わりに、懐かしい手押しポンプが据えられていて、ハンドルを上下すればちゃんと水も出ます。(笑) 

店の前に置かれた水の張られた金盥には、スイカと瓶ビールが冷やされています。店の前は祭りの提灯が連なっていて、祭りがあることを示しています。そしてなぜか店内の座敷には、老人が布団をかぶって寝ています。(初めはいきなりご臨終かと思ったり(笑))

話は、1963年に発生した、死者458人、一酸化炭素中毒患者839人と戦後最悪の犠牲者を出した三井三池炭鉱の炭塵爆発事故を背景に、理髪所で働くヒロイン高 須美(南果歩)と、その夫で炭鉱夫の張 成勲(千葉哲也)と、須美の父・高 浩吉(青山達三)や、須美の姉・高 初美(根岸季衣)とその息子・大吉(少年時代は森田甘路・長じては酒向芳)、三女の高 春美(星野園美)という一家を巡る話です。










今回は、三部作中一番重い話でした。
でもそこは鄭義信の脚本。やはり今回も至る所に笑いと悲しみ、怒りと涙の場面が仕込まれていて、役者は大変ですが、観客にとったら笑いが気持ちを快く切り替えさせるので、メリハリのきいた展開になっていたのは前2作と同じ。

ということで主な出演者ごとの感想です。例によって敬称略です。


まず主演の南果歩

理髪所を切り盛りしているヒロイン高須美です。

実は、私は南果歩の舞台を観たのは今回が初めてでした。でも大した演技力で、新鮮でした。完全に役になり切っていて、全身で感情表現していて、さすがの演技。
ほぼ出ずっぱりで舞台を駆け回るハードな役ですが、観ていて華奢な体のどこにこんなエネルギーがあるのかと心配になるほど熱の入った演技でした。

劇中で「いつかは自分のパーマ屋を持ちたい。名前は私の名前からスミレにするの」と夢を語る姿がいじらしい。でも現実は夢とは程遠く、炭塵事故でCO中毒になって仕事に就けず、いつも家族に八つ当たりする夫の張 成勲(千葉哲也)との諍いが絶えない毎日。

細い腕で一家を支えて頑張る姿がリアルです。

で、ここからいきなり余談ですが、観劇した日は大千穐楽でした。

12時半の開場時間となってホールに入ったら、まだ客席扉はしまっていて、15分ぐらいホールで待たされました。そのときヨメさんの車椅子の前を長身の男性が横切り、一目で彼の姿を見たヨメさんが、「健さん!」と言いながら手を振りました。相手の男性も軽く会釈してくれましたが、この時点では私は誰か気付かず。

係員の指示した場所に車椅子を停めて開場を待っていると、件の男性が戻ってきて、私たちのすぐ前に立ち止まりました。ほんの2mぐらいの距離なので、ようやく私も誰かわかりました。
渡辺謙さんでした。(ここだけ敬称プラスです(笑))

大千穐楽ということで来られたのでしょうが、客席ドアが開くまでの間、彼ほどのVIPが、私たちと同様に立ったまま、客席ドアの開くのを待つ姿が印象的でした。人柄が垣間見えた気がして、気持ちが和みました。でもあまりに近くに立っているので、こちらが落ち着かずドギマギ。(笑)

それはさておき、夫の張成勲役の千葉哲也もよかったです。

本当に確かに実在してそうな人物で、今回が初演とは到底思えないカンパニーに溶け込んだ演技。
特に後半、事故でそれまでのように働けなくなって、雑用に従事して不本意ながら「髪結いの亭主」になり、会社や第二組合へのへの怒りも加わって自暴自棄となる姿が身につまされました。
彼は初演の「焼肉ドラゴン」でも哲男役を演じて好評を得たそうですが、さもありなんですね。さらに「鉈切り丸」では弁慶役で出ていましたが、今回の方がはるかに存在感がありました。

よかったといえば、須美の姉・高初美役の根岸季衣もピッタリの役でした。

世渡り上手で計算高く、けっこう男好きで(笑)、でも家族思いの姉。「焼肉~」や「たとえば野に咲く~」には出てこないキャラクターが新鮮でした。舞台では初めてお目にかかりましたが、4年前にも同役で出ているということで、余裕の演技も納得でした。
あと、須美の父・高浩吉の青山達三や、初美の息子・大吉(少年時代は森田甘路・長じては酒向芳)、三女の高春美役の星野園美も4年前の公演から再演とのことで、安定した好演ふりでした。

↓大大吉と須美


星野園美の三女春美は、前半の森下能幸演じる夫・大杉昌平とのラブラブな暮らしぶりが事故後一変するところを好演していました。



そういえば今回も「焼肉~」と同じく三姉妹。

姉妹ではないですが「たとえば野に咲く~」でも3人の女性が中心と、鄭義信作品はこういう設定がお好きなようです。

初美の内縁の夫・大村茂之役はもうおなじみの久保酎吉
いろいろこの人の舞台を観てきましたが、今回の役が一番よかった。再演ですが、楽しんで演じているのがよく伝わってきて、こちらも楽しかったです。劇中で客席降りで、組合のビラを撒くシーンがありましたが、もらえなくて残念。(笑)

森田甘路演じる大人の大吉は全く狂言回しで、最初の導入部分で客席に向かって時代背景などを解説するのと、最後に出てくる以外は当然ながら筋に絡みません。
↓「焼肉~」と同じく大吉と大大吉も屋根に上っています(笑)


酒向芳の子供時代の大吉(初美の息子です)はちょっとオネエが入っていて、将来は服飾デザイナーになりたいとか言っています。鄭義信流のコミカルな演出をうまく演じて笑わせてくれました。
余談ですが最近、WOWOWの放送を録画してあった「イニシエーション・ラブ」を見ていたらこの人の名があってびっくり。同じ人とは思えない演技でした。

結局、炭塵爆発でCO中毒になった張成勲たち炭鉱夫は、やっとCO法が成立してもほとんど補償がもらえず、やがて炭鉱は閉山となり、炭住も閉鎖。理容所も閉めることになって、一家はそれぞれの目指すところに旅立ちます。足に負傷した張成勲の弟・張英勲(村上淳)は社会主義建設に貢献するといって北朝鮮に向かいます。

旅立ちは例によってリヤカーで、と言いたいところですが、今回は軽三輪が使われていました

この軽三輪、ポスターではダイハツ・ミゼットMP5になっていますが、舞台に登場したのはもっとマイナーな、三菱レオ・ベースの電動三輪車でした。この三輪車、実によくできていて、狭い舞台上をクルクル走り回って大活躍。
子供の時、たまに見かけていた私は面白かった&懐かしかった。(笑)
そのレオの目的地は、なんと大阪万博前の伊丹空港滑走路拡張工事現場。そうです、この話は、「焼肉~」の前段だったんですね。よく出来ています。

最後は「焼肉~」と違って桜ではなく紙吹雪の降りしきるところで終わりました。
今回もドラマチックな展開であっという間の舞台でした。

そして感動のスタンディングとなりましたが、カーテンコールでは主役の南果歩も涙・涙で応えてくれました。それどころか、さっとスマホを取り出して、拍手を続ける私たちを撮影したり、客席も入れて自撮りするなど大喜び。その後、何度も全員そろって拍手に手を振って応えてくれて、こちらも満足でした。

本当に良かったです。未見の方は、再演の折にはぜひご覧ください。おすすめです。

次は、宝塚月組公演『NOBUNAGA<信長> -下天の夢-』&『Forever LOVE!!』の感想です。


といっても、信長の方はほとんど書くことがない。(殴)
観る前は、良く知った話だし、どんな風に宝塚化しているのかお手並み拝見、というスタンスで観始めました。「前田慶次」の再来になるかという期待もあったし。
最初のうちは、ロックミュージカルとのことで、フレンチミュージカル張りのド迫力な音楽で、ディテールなどお構いなしに話をグイグイ進めていくのかと思っていたら、そうでもなくてどっちつかず。
それどころか、どんどんトンデモな話になっていって、秀吉たちが公然と反旗を翻して信長に刃を突き付けたり、そもそも信長がどんな人物かの描写も少ないし、挙句は義経伝説みたいな本能寺のオチで、よく言えば破天荒、悪く言えばハチャメチャ、突っ込みどころ満載の脚本でした。^^;
まあ、フロイスの日本史のように、ロルテスを使って外からの視点で信長伝を書いてもよかっただろうし、いっそのこと史実にとらわれず、登場人物の名前だけ同じの、全く別のストーリーに仕立てても面白かったと思いますが、そこまでの割り切りがなかった。

話の構成も、いくら「天下統一を目指した英傑」といわれても、肝心の信長の人物像とか、人間としての魅力、歴史的な役割とかは描かれず、足利義昭とのドロドロした関係とか、比叡山焼き討ちとか、重臣たちの反抗とかが無駄に長いのも疑問でした。
かなり無理筋な結末なら、いっそもっと爽快な人物設定にすべきとも思いましたね。あのままだと、とても異国でうまく行くとは思えないので。(殴)

ということでほとんど話に入れないまま観ていましたが(ここまで悪口言う?^^;)、やはり龍真咲は最後までユニークでした。
私は以前から彼女の台詞まわしや息継ぎが苦手でしたが、今回は役に感情移入できないのでよけい気になりました。信長役は彼女のたっての希望だったそうですが、脚本のせいで信長像がよく見えないのが残念でした。
『舞音』とか『1789~』が非常に良かったので、よけいに惜しかったですね。
それと、大道具さんのガンバリがわかる装甲車のような象も、なんとも唐突で勿体なったです。でもよく作ったものですな。

愛希れいかの帰蝶はさすがに存在感があって印象的でしたが、信長との絡みの場面が少ないどころか、最後は斬られてしまうのだから、なんともはや。でも抜群の身体能力で薙刀を振りかざす殺陣は見ごたえあり。ただ如何せん、しどころのない役で気の毒でした。
ロルテス役の珠城りょうは存在感があって異人の衣装もよく似合っていて、私はルッキーニみたいな狂言回しで話をリードするのかと期待しながら観ていましたが、これまた中途半端な存在でした。
あとは家臣団の、凪七瑠海の光秀とか、美弥るりかのどう見てもサルには見えない美形の秀吉とか、
輝月ゆうまの前田利家など、それぞれよく頑張っていたものの、大勢に影響せず徒労。
そんななかで目立っていたのは、足利義昭を演じた沙央くらま
まあこんな海千山千というか、権謀術数にたけた落魄した将軍をよく演じていましたねぇ。感心しました。でもショーでも出番が多く目立っていて、最後はエトワールも務めるなど、彼女も退団?と思うほどの頻繁な登用がナゾでした。

ということで、芝居のほうは退団公演なのにあまり惜別感がなく、ガッカリでした。
余談ですが、そのせいか今回はチケットの販売が思わしくなかったようで、歌劇団からチケットの販促メールが何度も繰り返し来て、それも退団公演では前代未聞の割引販売のお知らせで、ビックリしました。でも東宝では売り切れとのことでよかったです。

でも芝居の方の不出来と違って、ショー「Forever LOVE‼」は良かったです。(まあショーも不出来だったら暴動必至。(殴) )
幕が開くと、赤とピンクの衣装のラブジェントルマンがずらりと並んでいて客席もどよめき、ラブレディ―ズも加わったダンスのあと、豪華なガウンの龍真咲が登場してサヨナラショーの雰囲気たっぷりになりました。全体の構成も衣装の色もいい感じで、とてもこれが『HOT EYES!!』と同じ作者とは思えない。
ラテンの場面では龍と愛希のデュエットのあと、凪七美弥沙央の連続女装ダンスとなって面白かったです。ロケットの衣装も最近では一番きれいでした。ショー全体に選曲が好みのものばかりで、メリハリの効いた構成が気が利いていて、久しぶりに楽しめました。

ということで、このズボラな蔵出しシリーズはお終いです。次回からの観劇感想はあまりタイムラグのないように頑張りますので(やや自信なさげ(殴))、またよければお越しいただければ幸いです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の観劇感想・蔵出しシリーズVol.1です

2016年07月04日 | 観劇メモ
5月から観劇が続いていました。
まず5月5日に森ノ宮ピロティホールで「アルカディア」を観て、続く7日は梅芸で「グランドホテル」。そして26日には宝塚大劇場で花組の「ミーマイ」。月が変わって6月4日は再びピロティホールで「8月の家族たち」。老体にはけっこう応えました。(笑)
で、感想ですが、一つずつ書くのは手に余るので、ここはまとめ書きでご勘弁を。(殴)

ということで、超簡単な感想をまず「アルカディア」から。

英国演劇界を代表する劇作家トム・ストッパードの最高傑作」だそうで、その演出は栗山民也、そして主なキャストが堤真一寺島しのぶ井上芳雄浦井健治神野美鈴と豪華メンバー。これで面白くないわけはなかろうと、大いに期待しつつ出かけました。

でも。
よく分からない舞台でした。^_^;

もう私などの貧しい想像力では何が言いたいのかサッパリ理解不能。(殴)

話の時間軸は2つあって、時代設定の異なる二つの物語が交互に展開されていました。
共通するキーはバイロン。イギリス・浪漫主義時代の代表的な詩人で、超勝手気ままに生きた詩人です。私も若いときはけっこう好きでした。

でもそのバイロンを巡る謎というのがわからない。

「わからないから謎だろう」という突っ込みは置いといて(殴)、膨大な台詞を聞いていても、なにが問題なのかよくわからない。そんな舞台を観続けるのはかなりしんどかったです。

それで、何かヒントが得られるかもと、休憩中に読んだプログラムで寺島しのぶが、
何回読んでも分からない本って久しぶりでしたね(笑)」と書いていたのでホッと一安心。(殴)

ただ、話の芯は分からなくても(笑)、寺島しのぶの演技は自然で、人物の実在感は際立っていました。


もう一人、神野美鈴も舞台に現れただけでわかるたたずまいのリアルさ。この二人がよかったです。


でも、期待の堤真一はちょっとがっかりでした。

こもったような台詞で聞き取りにくく、せっかくの力演も空振り感があって、ヨメさんも「こんなはずでは」としきりに残念がっていました。

もうひとり期待していた井上芳雄も、今回はいつもと違って彼らしくない精彩を欠く演技。

浦井健治も「トロイラス~」では好演していたのに、今回はあまり印象に残らず役不足な感じでした。

結局寺島しのぶの言う通り、脚本の問題ですね。役者も観客もどうにも乗り切れない脚本で、俳優たちの奮闘が報われず気の毒でした。


次は「グランドホテル」。

こちらは定評のある脚本+豪華キャストなので、観応えたっぷり。

ナチスが台頭する前夜の1928年のドイツ・ベルリン。
その不安な時代背景のもとで、超一流ホテル「グランドホテル」で複雑に交錯する人々の姿を描いた、濃厚な舞台でした。音楽も、斬新で重厚な舞台装置も素晴らしく、やはり名作いわれるだけありました。


私たちが観たのはグリーンチームで、エリザベータは安寿ミラです。
久しぶりに見た彼女ですが、よかったです。人気下降中の大女優の悲哀(役の話です、念のため(殴))がよく表現されていました。


ラファエラは春野寿美礼の代打で樹里咲穂でしたが、当然とはいえこれまたいい演技。久し振りに彼女の舞台を観ることができてよかったです。土居裕子版も観たかったですが。

元会計士オットー・クリンゲラインは「CHESS THE MUSICAL」以来の中川晃教でしたが、余命いくばくもないユダヤ人の元会計士を好演していました。「CHESS~」よりもこちらの方が私たちにとっては印象的な演技でよかったです。

成河バージョンだと少しキャラクタなども変わっているそうでどうなるか、これも観てみたかったです。

湖月わたるはエリザの死みたいな役のダンサーでした。寡黙なダンサーですが、複雑で凝った振付のダンスを完ぺきにこなしていました。


脚本は話の組み立て方が本当によくできていますね。
それぞれの人物像と人生が巧みに絡み合いながら描かれていて、場面転換も小気味よく、とくに話の締めくくり方が絶妙。

私はこれまで観たことがなく、初めての話でしたが、こういう展開だと最後はこうなるだろうなと、タカをくくって予測していたら、全く違う結末でビックリ&感心しました。

その結末ですが、2チームで全く異なるものになっているそうで、私たちが観たグリーンチーム版では、最後にホテルの従業員が客の身ぐるみ剥いで荷物を奪い、ヒットラーの演説が流れてそれに心酔する従業員たち‥というものでした。

この結末、現代世界を覆う狭隘なナショナリズムの台頭とか、日本で漂い始めた憲法改悪などの暗い影にも警鐘を鳴らしているようで、
演出家トム・サザーランドの危機感の表れが反映した味わい深いものでした。

余談ですがこの日、月組の主要なメンバーも観劇していて、たまたま私たちの席の近くでも一人の月組メンバーが観劇していました。開演前、その席に美弥るりかが月組生とともに通りかかりましたが、まあ彼女の細いこと。よくあれで長い公演の舞台が務められるなあと感心しました。

次は5月26日のミーマイの感想です。極めて簡単です。m(__)m


初演以来何度も観てきたのでかなり食傷気味で、どうせ陳腐なストーリーだし(殴)と、あまり期待せずに出かけましたが、実際に観たら、やはりよ~くできた話といい歌でしたね。話の展開も面白いし、大体、覚えていたはずの話が結構忘れていて意外に新鮮でした。(殴)

明日海りおのビルは、誰かの二番煎じみたいな印象はなくオリジナリティがあって、歌もいいし、ハマリ役でした。ただ最近とみに痩せてきているのが気になります。
街灯の下で歌う場面が、結構後の方だったのも意外。本当に覚えているつもりが忘れてしまっていたということを痛感。歳です。(笑)
花乃まりあも下町の娘らしい容貌で頑張っていました。キャラクタがよく合っていますね。スカステの練習風景でも涙を流して力演していたのには感心しました。
ただ、歌の場面なると少々物足りない感じも。
いつもの、ついホロリとなるはずの場面の歌がそうならず、「結構歌の場面が多いな」とか冷めて観てしまいました。いえ、あくまで私の個人的な感想です、ハイ。

私たちが観たのはBパターン。なのでマリア夫人は仙名彩世でした。ちょっと若い感じのマリア夫人ですが、頑張っていました。この役の出来不出来が劇全体の仕上がりにも影響したりしますが、今回はよく頑張っていて、ヨメさんは「よくやってる」と褒めていました。

逆にジョン卿は瀬戸かずやで老けた印象で落ち着いた人物なのでちょっとマリア夫人とは釣り合いにくいかな。パーチェスターは柚香光。彼女も頑張って笑わせていましたが、ここは歌も含めて鳳真由のほうが適役だったかも。

話が変わりますが、この公演で鳳真由が退団するのは本当に残念ですね。「ファントム」の新人公演の衝撃が忘れられないです。俗世間に出てからの活躍に期待したいです。

そして6月4日は本名の『8月の家族たち』。

いい舞台でした! あまりの感動で、最後は迷わずスタンディング!(なぜか私たちだけでしたが(笑))
鄭義信三部作もよかったですか、この作品もそれに負けず劣らずの傑作。

以下、感想です。
最初のうちはちょっとテンポが遅いかなと思って観ていましたが、麻実れいの母・バイオレットが登場したぐらいから俄然引き込まれていきました。
この芝居、まずなんといってもキャストが豪華です。私はこれだけで観劇決定しました。(殴)
主な顔ぶれだけでも麻実れい音月桂秋山菜津子常盤貴子生瀬勝久村井國夫木場勝己橋本さとしと錚々たるメンバー。


セットは「1789-バスティーユ~」の松井るみ。これまでの彼女の作品とはガラッと違った、アメリカの田舎の大きな家がカットモデルのようになった手の込んだセットでした。

ベースになったのは同名の映画で、こちらは母役にメリル・ストリープ、長女役にジュリア・ロバーツ、次女役にジュリアン・ニコルソン、三女役にジュリエット・ルイス、そしてユアン・マクレガー、ベネディクト・カンバーバッチなどこちらも芸達者ぞろいのキャスト。

今回の舞台の原作はトレイシー・レッツ。上演台本と演出はケラリーノサンドロヴィッチ(KERA)です。この人の脚本になる舞台作品を最初に観たのは『祈りと怪物~』でした。三姉妹ものがお好きです。

粗筋です。
物語の舞台は8月の酷暑のオクラホマ州オーセージの片田舎の古い大きな家。
詩人でアルコール中毒の父ベバリー(村井國夫)が突如失踪。その知らせを聞いて、実家に長女バーバラ(秋山菜津子)とその夫ビル(生瀬勝久)と娘のジーン(小野花梨)、次女アイビー(常盤貴子)が帰ってくる。

やがて三女のカレン(音月桂)が婚約者スティーブ(橋本さとし)を連れてやってくる。そして5年ぶりに母方の叔母マティ・フェイ(犬山イヌコ)と夫のチャーリー(木場勝己)も戻り、遅れて彼らの息子リトル・チャールズ(中村靖日)も到着。

そして久しぶりに集まった家族が目の当たりにしたのは、夫の失踪と薬物の過剰摂取で半錯乱状態となった母バイオレット(麻実れい)の姿。

最初は書斎?でのベバリーと家政婦ジョナ(羽鳥名美子)との場面から始まります。落ち着いた会話から始まるので、その後の衝撃的な展開は全く予想できず。(映画は見ていなかったので)
もともとこの作品は、2007年にシカゴの小さな地下劇場でスタートし、すぐに注目を浴びて、その年にはブロードウェイに進出。2013年に映画化されたトレイシー・レッツの幼少期の実体験を元にした、三姉妹とその家族たちの物語です。

まあなんといってもすごかったのは、薬物中毒の毒舌の母親バイオレット役を怪演した麻実れい。芸のダイナミックレンジの広さを改めて感じさせる演技に脱帽です。
劇中で、三姉妹とその家族の偽善をズケズケと暴く麻実れいの演技はド迫力でした。

母とは絶えず言い争う長女バーバラ役の秋山菜津子もいい演技。
私たちも以前のこまつ座の『キネマの天地』や『藪原検校』でお馴染みの役者さんですが、最近の『きらめく星座』での気丈な後妻ふじ役が印象に残っています。今回もいろいろ悩みの多い複雑な役を気丈に、かつ適度な生活感を見せながら(殴)演じていました。
いつみてもいい役者さんです。
常盤貴子の次女アイビーはバーバラと違って物静かで両親想い。長女や三女とは対照的な役柄です。初めて見る舞台でしたが、しっとりとした演技で好感度大。

音月桂の三女カレンは姉たちと違って絵に描いたようなアメリカンギャル。スラリとした肢体で弾けまくっていました。(笑) そんな彼女を見ていると、つくづく、宝塚の男役というのは在団中ずっと男を演じていたんだなと思いましたね。(笑)

母と三姉妹以外でも、叔母マティ・フェイの犬山イヌコ、家政婦ジョナ役の羽鳥名美子、バーバラの娘ジーン役の小野花梨がそれぞれの役に徹したいい演技でした。男優陣も生瀬勝久橋本さとし中村靖日村井國夫木場勝己などいずれも実力派揃いで、贅沢な舞台でした。
一見よくあるホームドラマのような始まり方でしたが、話が進むにつれて家族というものの本質というか、深層心理を抉り出すようなリアルな展開になっていき、そして最後は衝撃の事実が‥。

本当に見ごたえのある舞台でした。再演の機会があればぜひ皆さんもご覧ください。おすすめです。

ということで、次は鄭義信三部作の最後「パーマ屋スミレ」と月組の「信長」の感想ですが、まだ書けてない。^_^;
早く書かなくては‥。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

兵庫芸文センターで『たとえば野に咲く花のように』を観て

2016年06月10日 | 観劇メモ
4月9日の「焼肉ドラゴン」に続いて、同29日に「たとえば野に咲く花のように」を観てきた感想です。
やはり前作に負けず劣らずいい舞台で、芝居の面白さがたっぷりの観劇でした。本当に観られてよかったです。でも来週末には次の「パーマ屋スミレ」が控えているのに、遅すぎ(^^;) 

今回も話の展開は全く予測できず。セリフはリアルで、次はこう言うだろう、みたいな陳腐なものは一切なし。しかも、それを演じる俳優もみんなうまい!ときているので、あっという間の観劇タイムでした。


観た日は連休初日なので途中の渋滞が心配でしたが、なんと阪神高速はガラ空き!
これまでで最短時間を更新して劇場地下駐車場にたどり着きました。
チケットは三作通しの一括予約なので今回も同じ客席でしたが、観客は「焼肉‥」とは違って、いつものように女性客が大半でした。
ホールには花が飾られていました。

今回の「たとえば野に咲く花のように」、初演は2007年とのこと。

戯曲が生まれたいきさつは、公演プログラム掲載の鈴木裕美さん↓(初演に続き今回も演出担当)と


鄭義信さん↓との対談の中で紹介されています。


鈴木 「『たとえば~』は当時の芸術監督である鵜山仁さんから『ギリシヤ悲劇三部作』のひとつを演出してほしいというお話をいただいたところからスタートしました。
『アンドロマケ』というお題も、その時点で決まっていました。
もともと私はラシーヌ版の『アンドロマック』を読んでいて「なんだ、この面白い人たちは!」と思っていたんです。
神々なのに、好きだ!、嫌いだ!って夢中になっている人たち。
悲劇を、おもしろく書いて下さるのは鄭さんしかいない!と、戯曲の執筆をお願いしました。」


  「アンドロマケは敵国の囚われ人であるわけですが、連れてこられた女という存在は、在日コリアンを彷彿させるし、トロイアとギリシヤの関係は今の日本と韓国に置き換えられる。
それで『たとえば~』を書き上げました。それまで、自分の少年時代を抽象的に書いたことはあったけれど、在日について具体的に触れたのはこれが初めてでした。」


あらすじです↓(公演プログラムより)
「1951年夏、九州F県のとある港町の寂れた「エンパイアダンスホール」。戦争で失った婚約者を想いながら働く満喜。そこへ、先ごろオープンしたライバル店「白い花」を経営する康雄と、その弟分の直也が訪れる。戦地から還った経験から「生きる」ことへのわだかまりを抱える康雄は、「同じ目」をした満喜に夢中になるが、満喜は頑として受け付けない。一方、康雄の婚約者・あかねは、心変わりした康雄を憎みながらも、恋心を断ち切れずにいる。そんなあかねをひたすら愛する直也。
一方通行の四角関係は出口を見つけられないまま、もつれていくばかりだった・・・。」


出演は以下の通りです














今回も「焼肉~」同様に超リアルな舞台セットでした。

バーカウンターやその奥の酒瓶の並ぶ棚も厚みのある木製のしっかりとした作りで、家具や二階への階段、店界隈のセットもよく作られていて見ごたえがありました。タイムスリップに格好のお膳立てです。

今回もなぜか店の前には前回同様水道栓が一本立っていました。(笑)
その横の木製電柱には、傘のついた裸電球の街路灯と作業用足掛けがあり、架線も張られていて、根元には犬の小便除けの小さな鳥居さえ立てられている徹底ぶり。
開演前の時間に、凝りに凝ったセットをじっくり観ているだけでもワクワクします。
↓これは稽古用のセットですが雰囲気はお分かりいただけるかと


最初の時代設定は1951年(昭和26年 朝鮮戦争勃発の翌年)盛夏。
「エンパイヤダンスホール」で働く3人の女たち。(以下画像はすべてプログラムの舞台稽古の写真から)

そのうちの一人、戦争で失った婚約者への想いを断ち切れず働く在日朝鮮人の満喜が主人公です。
「満喜」という名は、脚本の元になった「アンドロマケ」が「アンドロマキ」とも称されているので(「トロイラスとクレシダ」ではアンドロマキですね)、アンドロマキ=満喜なのでしょうね。
演じるのはともさかりえ

最近では「花子とアン」に出ていましたが、舞台でお目にかかるのは初めてでした。
馴染がない役者さんなので、ほとんど期待もせず観劇したのですが、演技は文字通りなり切り芝居。台詞も立ち居振る舞いもいうことなし!で、見惚れました(美人だし(殴))。
かなりスレンダーで前回の「焼肉~」の馬渕英里何と似た雰囲気で、感情を押し殺して生きている姿も共通しています。

満喜は戦争で婚約者を失ってから、ただ惰性で生きているような日々を送っています。
「エンパイヤダンスホール」、実はダンスホールとは名ばかりで、実際は売春宿のようないかがわしい場所。そこで、何の当てもなく生きている満喜ですが、気怠さがよく漂っています。
でも体は売っても心は売らない。心は固く閉ざしていて、誰にも本心は明かさない。

そんな彼女でも、営業時間になって、衣装を替えて登場したらアッと驚くゴージャス美女。スタイルがいいので舞台映え200%!(笑)
康雄でなくても通ってしまいそうです。(殴)
仕事前のグダグダのだらしない服を着た姿とは全く別人で、このあたり女性演出家ならではの腕の冴え。

ダンスホールの経営者・伊東諭吉(博文+諭吉?)を演じるのは大石継太
かなりおネエが入った人物で、商売に似合わない優しい男です。このやさしさで女たちを繋ぎ止めているのでしょうか。

この俳優さんは「海の婦人」で初めてお目にかかりましたが、今回も独特の雰囲気の演技で、いい役者さんです。
そういえば「焼肉~」の「長谷川豊」も似たような優男でしたね。

そこに、商売敵のダンスホールの経営者・安部康雄が子分・竹内直也とともにやってきます。この二人、登場しただけで、それまでのユル~い雰囲気がかき消され、ヤバい殺気が舞台に充満。(笑)

安部康雄役は山口馬木也

十二夜」で初めて観た俳優さんですが、「グレイト・ギャツビー」の出演など今絶好調ですね。

康雄は兵隊上がりで、ガダルカナルなどの地獄の戦場を生き抜く中で身についた殺気と虚無的な表情がド迫力。経営する織物工場が朝鮮特需でガチャマン景気のボロ儲けでも、虚ろな気持ちは満たされず、自分もダンスホールを始めるが癒されない。
そんな康雄が店に来たのは、戦争に加担して儲ける康雄に反感を持った、満喜の弟が起こした行動への報復のためですが、そこで康雄は満喜と出会い、会った瞬間に一目ぼれ。それは満喜の眼に、自分と共通するものを見出したからですが、それ以降、康雄は彼女のもとに通い詰めるようになります。

康雄の子分・竹内直也を演じるのは石田卓也

といってもそれまで全く知らなかった役者さんですが、すぐキレそうな危なさと、安部康雄の許嫁・四宮あかね(村川絵梨)に一途に恋する純情さをうまく演じていました。

舞台経験はまだ少ないようですが、そんな感じはなかったですね。

その許嫁・四宮あかねを演じる村川絵梨も初めて観る舞台でした。
↓ 花が飾られていました。

こちらは安部康雄に対する執着心がすごい。

満喜と康雄の間に強引に割り込んできて、ハンドバッグを振り回しながらの大立ち回りがすごいです。でも全く顧みられず、やがて恋しさは憎しみに変って、直也に「私が好きならあの人を殺して」と康雄を殺すよう唆すところなどは、ゾッとする怖さがあります。
女は怖いです(殴)。でも魅力的な俳優さんなので、いろいろ話題になっていますね。

この二人は康雄や満喜と違って全く影がなく、直情径行型の人間です。その一途さが怖いです。

一方康雄と満喜は、それぞれが戦争で負った心の傷で、葛藤が絶えない。この二組の関係の対比が面白いです。


満喜の同僚の二人、珠代と鈴子を演じていたのは池谷のぶえ小飯塚貴世江。二人とも生活感にあふれた演技でした。こういう芸達者な脇役は貴重ですね。

彼女たちと、海上保安庁の職員で米軍の命令で機雷掃海に駆り出される菅原太一(猪野学)や、


当時の日本共産党に共鳴して、民族運動に参加している若者・安田(安)淳雨(黄川田将也)や李英鉄(吉井一肇)が繰り広げる様々な話が、1951年という時代を見事に浮き彫りにしていました。


今回も(というか、こちらが先か)、「焼肉~」同様、ひっきりなしに朝鮮半島に出撃する米軍機の爆音が頭上に轟きました。最後にリヤカーが出てきたのも面白かった。

爆音とともに効果的だったのは、蜩の声と「虹の彼方に」。プログラムによれば蜩の声は満喜の死んだ婚約者の声を象徴しているとか。一方「虹の彼方に」は、登場人物全員の、なんとか今の境遇を脱したいという願いを象徴しています。

話は、あかねに迫られた挙句、とうとう直也が康雄を殺し、また一方、間違った戦争で機雷掃海任務中に駆り出された菅原太一が殉職(というより戦死)との報が届く‥という流れでクライマックスとなります。
まさにギリシヤ悲劇そのもの、これが結末かと、かなり緊張&ガッカリしましたが、なんと最後はどんでん返しで、希望の持てる結末となってよかったです。(笑)

しかしこの作品で再認識したのは、太平洋戦争が終わってわずか5年で再び日本近辺で戦争がはじまったこと。そして日本が、兵站・補給・出撃拠点=前線基地となり、機雷掃海では米軍の指揮下に日本人が作戦に直接従事していた事実。
そしてそれから60年以上たった今、憲法無視の戦争法の制定で、再び米軍に従って、世界中で戦争する国になってしまったこと。

私には、蜩の声は、「お前たちにとってあの戦争は何だったのか、もう忘れたのか」という死者たちの嘆きの声のようにも聞こえました。

しかしこうした重い感想とともに、今回も、登場人物の日常の暮らしの隅々にある笑いが、雑草のようにたくましく生きた、当時の人々の強い生命力を表していて、ある種の希望が見えました。

前回の「焼肉~」とは違って、今回は二組の男女の愛についての物語です。しかし、共通しているのはそれぞれの時代背景を克明に描くことで、記憶にとどめようする脚本家・鄭義信の強い意志です。題材こそ違え、どちらも時代のディテールまで書き込んだ脚本の面白さと、その時代を生きた人間を舞台に再現した俳優たちの演技力が楽しめた舞台でした。

鄭義信と井上ひさしはどちらも素材の選び方に共通した視点が感じられますが、調理法は全く違っていて面白いです。

来週6月18日の「パーマ屋スミレ」、ますます楽しみです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする