なんとなく囲碁夜話

私は囲碁が好きだ。初めはなんとなく、ニアミスを繰り返し、深みに嵌ってしまった。

思い出の職人の技

2008-10-22 17:43:33 | Weblog
 今月号のNHK囲碁講座の「桂馬の両アタリ」・先崎学さんの話は囲碁のプロ棋士の石を並べるとき・石を片付けるときの熟練の“技”の話。
 マア、単に片付けるだけならアマでも練習すれば何とかなるかも知れないのですが・・・プロ並みのスピードで石を片付けることで周りを驚かせるためにその技を練習するというのもいかにも空しい感じがするけれど、何気なくやってみたい気も少しはある。
 (尤も今の私ではやりたくても不可能。)
 やはり、先崎氏が言っていたように、毎日棋譜を並べては崩し、並べては崩す修練の必然的結果でなければおかしいですね。
 終局の際の地を作るスピード、終わってから石を片付けるスピード・・・それらは単に早いのではなくて、無駄の無い動きの結果でもあるので、速いだけでなく美しくもあると思っています。

 ”早いことを見せつけるための石を片付ける練習”をしようと思わないでは無いではないと言いましたが、、、実は「この人はもしかしたら、手際よく石を片付けることに美的意識を持っているのではないだろうか?」と思ったことはあります。
 昔の碁会所の常連の仲間で、Yさんは私が思うに「手の動きにこだわりがあるように思える」のです。
  茶道でのお手前というか、華道での花の茎を切る時の手とか鋏の動きというか、そこまで言うと流石にオーバーかも知れませんが。
 まづ、打ち上げた石の取り方に特徴がある。
 「気取っている」と言ったら表現が悪いし、適当でも無い感じですが、言葉では言い難いのですが彼にとっての一種の儀式なんだろうと見ている。
 いつの頃からだろうかそれに気が付いて以来、彼が私の石を取り上げるときの手つきが、手が「気持ちがいい」と言っているように思えて意識過剰になったことがあります。
 無言での対局なのに、彼の手が「どうだ!」と言わんばかりに感じる。
 冷静に盤面を見れば、形勢は互角に近いはずなんですが変に意識をしてしまうのです・・・そういう盤外作戦であったならば作戦大成功ですね。
  まあ、彼はそこまでは考えてはいなかったはずですが、石を片付ける時の手つきから、いかに早く片付けるかに拘っているように感じたのです。
 ともかくザル仲間では抜群に早いから、一緒に打った時などは局後に煽られるような気がします。
 プロ棋士のような必然の結果ではないのでしょうが、彼はいかに手つきとその技で形ではプロに近づくことに意識が行っていたのかもしれませんね。

 私も彼より棋歴は長いかも知れませんが、手の技ではウサギとカメくらい差がある。
 そして10年前くらいに軽い脳梗塞を経験して、右利きから左利きにスイッチしたくらいなので、手のスピードにも自信がない。
 手の技と言えば最近は禁煙以来ご無沙汰していますが、昔はマージャン牌を扱うのに多少の自信がありました。
 当時は機械などないので「手積み」の時代です。
  早くきれいに積む・・・麻雀の場合は賭け事ですから、+勝率の良い積み方となるわけで、手の技も勝敗に関係してくる。
 そういう意味では、囲碁では早くても遅くても好いし、しかも結果が出てからの作業なので安心です。
 石を片付ける作業は勝敗とは無縁ですが、それでもその形・スピードにこだわるというのがあるとすれば、それも一種の”遊び方”なんでしょうね。

 囲碁とは関係ないけれど「手の技」ということでは私には忘れられない思い出があります。
 職人芸ということですから、職人にとっては当たり前というか、飯のタネでしょうから自慢でもなんでもないのでしょうが・・・
 私の母方の叔父がベーカリー兼・ケーキなどの店をやっていまして、季節によっては(暮は)お餅をついたり、冠婚葬祭の引き出物のお菓子などを作っていました。
 長兄である伯父が社長で、弟がNO2であり職人でした。
 その職人の方の叔父には特技があって・・・ケーキ職人なら当たり前かもしれませんが、クリームでバラの花を作るのが上手かった。
 きれいな形で崩れない・・・子供心にすごいなと思ったものですが、その叔父にはもっとすごい技があることに気がつきました。
 それに気がついたのも自分で言うのもおかしいですが、私が多少成長したからでしょうか・・・
 まづ、お饅頭のような生地を両手で丸めるスピードと出来上がりの形がすごい
 私など1個づつでも出来上がりがいびつで自信がないのですが、叔父は普通に両手で、ふっくら丸くいかにもおしそうにできる。
  そういえば生卵を何十個も割るとき片手に2個づつ持って両方の手を使って割っていくから私の4倍以上のスピード
 でも、この程度ならもしかしたら毎日やっていればなんとかできるかも知れません。
 正月になると必ず思い出すのが、この叔父の技です。
 搗きたてのお餅で鏡餅を作る・・・これは注文主からわざわざ指名が来るのですから本物なんでしょう。
 打ち粉をした台の上で、短い木の板と手の丸みで鏡餅を仕上げていきます。
 作り方は皆の見ている前でやるのですから秘密でもなんでもありませんが、誰にも真似できない正に職人芸です。

 プロ棋士の手を見ていると、不思議と伯父の鏡餅を作っている姿が思い出されます。
 きれいなものを作る手の動きは、無駄がなくきれいなようです。
  逆もまた真なのかどうかが問題でもありますね。