いよいよ、東京春祭の「リング」も大団円。前回「ジークフリート」の感動の記憶から期待して臨んだが、残念ながら、手放しで絶賛できる出来映えとはならなかった。
以下は、移動時間を利用しての走り書き。
まずは、ブリュンヒルデ役のクリスツィアーネ・リボールとジークフリート役のロバート・ディーン・スミスの主役2人が、公演直前に音声障害からリタイアという前代未聞のアクシデント。
WBC開幕直前に筒香と中田がインフルエンザから戦線離脱するに匹敵する、否、それ以上のピンチに、関係者の焦りはいかばかりであったか?
代役のレベッカ・ティーム(ソプラノ)、アーノルド・ベズイエン(テノール)の来日が公演3日前の3月29日だったというから、歌手2人にとっても過酷である。
結論として、ブリュンヒルデ役のティームは大健闘。殊に第3幕の「自己犠牲」には、その直向きさに胸を打つものがあった。一方、ベズイエンは声も表情もなく、終始自信なさげで、もう第1幕で背中に槍を刺されても仕方のない大根ぶり。ウォーミングアップ不十分のリリーフ投手が、連続8四死球をやらかしたような惨状とでも言おうか。急な仕事ゆえ、若干の同情の余地はあるけれど・・。
ヤノフスキとN響も低調なジークフリートに呼応するかのように、第1幕こそ集中力を欠いたが、第2幕以降持ち直したのは良かった。
それにしても、コンサートマスター:ライナー・キュッヒルの存在感は半端ない。そこに鳴る音だけでなく、反応のスピード、身体の使い方が他のメンバーと違い過ぎる。ウィーン・フィルでは見られない現象であり、近年好調のN響にもまだまだ目指すべき上があるということだろう。
第2幕以降の舞台をグッと引き締めたのはアイン・アンガーによるハーゲン。声、表現、存在感ともにピカイチ。グンター役のマルクス・アイヒェ、グートルーネ役のレジーネ・ハングラーも役の性格を描いていて素敵だった。
また、エリーザベト・クールマンによるヴァルトラウテも秀逸。短い出番ながら鮮烈な印象を残した。
一方、第3幕冒頭のラインの乙女たちの三重唱の音程の悪さは耳を覆いたくなるほど。単純な長三和音さえハモらないのは深刻だ。
コーラスは、如何にも東京オペラシンガーズという声。
4月4日(火)の2日目には、是非とも、第1幕からの好調を期待したい。
さて、ベズイエンの大化けはあるのだろうか?
追記
写真のサイン入りポスターは、9枚限定のうち残り2枚、という状況で出会ったため、悩む間もなくゲット。サインが付くだけで1,000円アップというのも、どうかと思うが・・。