福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

ヤノフスキ「神々の黄昏」2日目

2017-04-07 10:06:52 | コンサート


少し遅くなったが、やはり書き残しておこう・・。

東京春祭ヤノフスキ&N響のリングがついに終わってしまった。

「ラインの黄金」こそ初日のみの観劇であったが、その後の6公演にはすべて足を運んだ。始まったときには、先は長いと思ったものだが、終わってみるとあっという間であった。

総合的に2日目はかなり復調。第1幕からオーケストラに集中力と余裕があった。

初日欠席のソプラノ: クリスティアーネ・リボールには、ブリュンヒルデの気品、貫禄が備わっており、舞台がグンと引き締まった。初日のレベッカ・ティームの直向きさも好感の持てるものであったが、ブリュンヒルデには特別な風格が必要なのだと改めて実感した次第。
終幕「ブリュンヒルデの自己犠牲」の最後の一声ではその、我が脳天から背中にビリビリと電気が走った。これぞ、オペラの醍醐味。この感覚を久しぶりに味わえたのは本当に幸せであった。

ハーゲン、グンター、グートルーネ、ヴァルトラウテ、アルベリヒらも初日以上に伸びやかな演技で申し分なし。

その一方、ジークフリートのベズイエンの大化けはなかった。初日より若干の声量アップはあったものの、相変わらず楽譜の棒読みはいただけない。例えば、一幕で薬酒を飲む前と後の表情や声の変化も全くないなど、終始芝居の外にいたのは否めないところだ。

オーケストラはよかった。初日こそ「キュッヒルとその他大勢」の様相をみせていた弦楽セクションも、随分落ち着いたパフォーマンスになっていた。これは、キュッヒルが自己を抑制したことで、先を行き過ぎることなく、美しい一体感をみせていたことに起因しよう。木管群の歌心やアンサンブル、金管群のバランスの良さなど、全体に素晴らしいパフォーマンスであった。

一方、第3幕、ラインの乙女の三重唱は初日よりマシだったが、まだまだ・・。

評判の芳しくない舞台後方の映像。「ラインの黄金」から一貫して全く存在感がなく、殆ど記憶に残らないものだが、裏を返せば妙な自己主張がなかったのは幸いとも言える。少なくとも音楽の邪魔とはならなかったことは吉としておきたい。



何と行っても最大の功労者はヤノフスキ。まったく外連のないステージマナーそのものに、その演奏にも過剰な表現は全くない。
クナやマタチッチのようは巨大な造型や腸に響く豪壮さはない代わりに、厳しく快適なテンポはこびと、引き締まったサウンドは、これはこれで立派なワーグナーである。

しかし、その中にあって、「神々の黄昏」2日目には、ところどころ、日頃は無縁なロマンの片鱗の如き熱いカンタービレを垣間見せたあたり、(あくまで、わたしの想像に過ぎないが)この巨匠の胸に、四年にわたるリング最終章への熱い感慨が生まれたのかも知れない。



さて、終演後のロビーにて記念に購入した軽井沢・丸山珈琲のワーグナー・セット。4種のブレンドには、リング4作のタイトルが名付けられている。それぞれ、どんな香りを楽しませてくれるのか?