連夜のコンセルトヘボウ通い。
今宵の演目は、ベルリオーズ「ファウストの劫罰」、マルク・スーストロ指揮 マルメ・フィルによる演奏だ。
呼び物は、何と言っても、メフィストフェレスを歌う名歌手サー・ブリン・ターフェルで、地元のポスターには、彼の顔写真と名前のみ、オーケストラや合唱団はおろか、共演歌手や指揮者の名前まで記載されていないという徹底の仕方である。
ターフェルはメフィストフェレスの役が身体に入りきっていて、もはや歌唱という枠を超えた名演、ファウストを歌うポール・グローヴスもそのターフェルと全く互角に渡り合っていたのだから見事というほかない。
一方、メゾ・ソプラノのソフィー・コッホは、声、容姿ともに薄幸のマルグリートに相応しいものなのに、ピッチ感が男声陣と合わなかった(常に低め)ことが悔やまれる。
マルメ・フィルは、例えばスウェーデン放送合唱団と同種の透明感を持ったオーケストラで技術的にも上手い。余りにも美しい響きが連続するので、時折、雑味も欲しくなる、といえば贅沢だろうか?
ライプツィヒ放送(MDR)合唱団を起用したというのは、ライプツィヒの酒場の場面があるからだろうか? こちらも、オーケストラに引けをとらない透明なハーモニーで、特に賛美歌系のナンバーが印象に残った。
問題は、指揮のマルク・スーストロだ。棒がブルブル震えるばかりで拍が分からないため、少し込み入った場面になると、アンサンブルがガタついてしまう。縦の線が合わなくても気にならないという魅惑があればよいのだが、それもない。
もっとも罪深いのは、オーケストラをガンガン鳴らしすぎて、フォルテ以上になるとコーラスが全く聴こえなくなることだ。耳を塞ぎなくなるほど無意味な大音量であったし、声とのバランスに無頓着にもほどがある。プロフィールにロザンタールに師事したとあったので期待していたのだが、私には残念な結果となった。
さて、にもかかわらず、終演後の聴衆の熱狂は凄まじいものだった。否、確かに全体的には水準以上の素敵なパフォーマンスだった。何しろファウストとメフィストフェレスが抜群に良かったのだから。それしても、少々騒ぎすぎだ。アムステルダムの聴衆は簡単にスタンディングオベーションをし過ぎることを改めて感じた次第。褒めて伸ばす方針なのか?
宿に戻るためコンセルトヘボウの裏手に回るとトラックが! マルメ・フィルのツアー・トラックだ。こんなに長~い荷台、日本のオケには採用できそうにないな。