秋祭りに、どんぐりクッキーを買いに来た女の人がいた。
色が透けるように白く、程よく乾いた団栗のような愛くるしい目をした人であった。
彼女は、クッキーモンスターの描かれたシャツを着て、昔見たことの有るできるかなといいたげに工作をするテレビ番組でなにもしゃべらない男の人がかぶっていたようなカラフルな帽子をかぶり、たたくとビスケットが出てくるという歌に出てくるポケットがほしかったのか、穴がいくつも空いているジーンズを履いていた。
どんぐりクッキーを食べるには、これ以上ない出立ちに見えた。
どんぐりクッキーありますか。
ありますとも。
どんぐりを拾って、重曹といっしょに煮て、皮を剥いて、砕いてクッキー生地に混ぜて、こねて、焼き上げたクッキーであります。
クッキーはいつまで持ちますか。
食べられるまで持ちますとも。
なるべく早めにおたべください。
それじゃあ、少し周りを見てきます。
彼女は、秋祭りの他の場所に行ってしまった。
クッキーモンスターは確かに二次元のシャツの中で明後日の方向に目をひんむいて(結構、あの正直な貪欲さは好きなのであったが)向こうに行ってしまった。
なぜかしら、クッキーモンスターの中で蠢いている誰かの見えざる手を探すような心持ちで彼女の後ろ姿を見送っていた。
祭りの後。
彼女は、片付けている場所にきた。
もう、クッキーはないのですか。
はい、残念ながら、売り切れてしまったのです。
彼女は、目に涙を浮かべながら、亡くなってしまったどんぐりクッキーを頬張っているように、ぼそぼそと話しだした。
実は、どうしても遠くに住む姉にクッキーを食べさせたくて。
幾つか頼まれて別にしておいたものを思い出し、彼女とお姉さんの分を作業場に取りに帰った。
彼女もついてきたので焦げかけて売り物にしなかったクッキーをつまみ、お茶をいただきながら、お話をした。
彼女が話しだした。
姉が持っていた昔見た子供用日本の歴史の本に、古代人が団栗を食べていたという話が出てきて。
団栗はどんな味なのか、食べてみたかったので。
団栗ってえぐいんですよね。
其の歴史の話に、えぐいって書いてあって。
どんな味なのかなって、子供ながらにすごく興味があって。
もちろん、古代にどんぐりクッキーはなかったであろうが、古代の人はここいらに有るのと同じような団栗を食べていたということは米などといっしょに遺跡から出てきたからには確かであろうが。
団栗にもブナ属のおいしくたべられる「くり」や、コナラ属の「くぬぎ」みたいなえぐいものと、えぐみの少ないマテバシイ属の「まてばしい」のようなものがあって、そのえぐみのすくない「まてばしい」を使っているのでおそらく?大丈夫。
そういえば、自分もその彼女の見たという歴史の本を誰もいない図書館のようなところで読んだことがあったのを思い出した。
ぐえーといいながら、吐いているようなイメージも不意に浮かんできた。
えぐい団栗の話は、彼女に言われるまで、ちっとも覚えていなかったが、あの歴史の本は妙に端折っているところが小気味良く何度も読み返した覚えはあった。
いわゆるマンガ的歴史の本の話ではなく、実際、食べている今があり、そのまま、そこにいる古代人の踏みしめた泥をかぶり、泥にぬかるみ、米を植え、刈り、団栗をひろい喰らうのは、何も特別なことではない。
妙な時の繰り返しの中の少しづつの変りようの果てが今であり、これからも、端折って語られつつ、少しづつ変わっていくだけである。
たとえ戦争があろうがなかろうが。たとえ原発が爆発しようが。
そこに暮らす限り、どれだけ端折られようが、踏みつけられようが、続いていくものなのであろうが。
いつのまにか、借りて読んでいた本と団栗を守る場所にいることには気づいた。
それから、とめどない話をしばらくして彼女は帰っていった。
どんぐりはえぐいか。
彼女にききそびれたままであった。
色が透けるように白く、程よく乾いた団栗のような愛くるしい目をした人であった。
彼女は、クッキーモンスターの描かれたシャツを着て、昔見たことの有るできるかなといいたげに工作をするテレビ番組でなにもしゃべらない男の人がかぶっていたようなカラフルな帽子をかぶり、たたくとビスケットが出てくるという歌に出てくるポケットがほしかったのか、穴がいくつも空いているジーンズを履いていた。
どんぐりクッキーを食べるには、これ以上ない出立ちに見えた。
どんぐりクッキーありますか。
ありますとも。
どんぐりを拾って、重曹といっしょに煮て、皮を剥いて、砕いてクッキー生地に混ぜて、こねて、焼き上げたクッキーであります。
クッキーはいつまで持ちますか。
食べられるまで持ちますとも。
なるべく早めにおたべください。
それじゃあ、少し周りを見てきます。
彼女は、秋祭りの他の場所に行ってしまった。
クッキーモンスターは確かに二次元のシャツの中で明後日の方向に目をひんむいて(結構、あの正直な貪欲さは好きなのであったが)向こうに行ってしまった。
なぜかしら、クッキーモンスターの中で蠢いている誰かの見えざる手を探すような心持ちで彼女の後ろ姿を見送っていた。
祭りの後。
彼女は、片付けている場所にきた。
もう、クッキーはないのですか。
はい、残念ながら、売り切れてしまったのです。
彼女は、目に涙を浮かべながら、亡くなってしまったどんぐりクッキーを頬張っているように、ぼそぼそと話しだした。
実は、どうしても遠くに住む姉にクッキーを食べさせたくて。
幾つか頼まれて別にしておいたものを思い出し、彼女とお姉さんの分を作業場に取りに帰った。
彼女もついてきたので焦げかけて売り物にしなかったクッキーをつまみ、お茶をいただきながら、お話をした。
彼女が話しだした。
姉が持っていた昔見た子供用日本の歴史の本に、古代人が団栗を食べていたという話が出てきて。
団栗はどんな味なのか、食べてみたかったので。
団栗ってえぐいんですよね。
其の歴史の話に、えぐいって書いてあって。
どんな味なのかなって、子供ながらにすごく興味があって。
もちろん、古代にどんぐりクッキーはなかったであろうが、古代の人はここいらに有るのと同じような団栗を食べていたということは米などといっしょに遺跡から出てきたからには確かであろうが。
団栗にもブナ属のおいしくたべられる「くり」や、コナラ属の「くぬぎ」みたいなえぐいものと、えぐみの少ないマテバシイ属の「まてばしい」のようなものがあって、そのえぐみのすくない「まてばしい」を使っているのでおそらく?大丈夫。
そういえば、自分もその彼女の見たという歴史の本を誰もいない図書館のようなところで読んだことがあったのを思い出した。
ぐえーといいながら、吐いているようなイメージも不意に浮かんできた。
えぐい団栗の話は、彼女に言われるまで、ちっとも覚えていなかったが、あの歴史の本は妙に端折っているところが小気味良く何度も読み返した覚えはあった。
いわゆるマンガ的歴史の本の話ではなく、実際、食べている今があり、そのまま、そこにいる古代人の踏みしめた泥をかぶり、泥にぬかるみ、米を植え、刈り、団栗をひろい喰らうのは、何も特別なことではない。
妙な時の繰り返しの中の少しづつの変りようの果てが今であり、これからも、端折って語られつつ、少しづつ変わっていくだけである。
たとえ戦争があろうがなかろうが。たとえ原発が爆発しようが。
そこに暮らす限り、どれだけ端折られようが、踏みつけられようが、続いていくものなのであろうが。
いつのまにか、借りて読んでいた本と団栗を守る場所にいることには気づいた。
それから、とめどない話をしばらくして彼女は帰っていった。
どんぐりはえぐいか。
彼女にききそびれたままであった。