明鏡   

鏡のごとく

『竹林はるか遠く』ヨーコ・カワシマ・ワトキンス著 都竹恵子訳 ハート出版

2015-05-07 17:26:48 | 日記
1945年、満州鉄道で働いていた父親を持つ朝鮮北部・羅南に住んでいた擁子(著者)家族の引揚げの物語。

著者は五人家族の末っ子。

まだ十二歳くらいの女の子であった。



自分も、父親の仕事の関係でイランに住んでいたが、イラン・イラク戦争中に爆撃などを受けた経験があった。

爆撃機が毎日のように来ていた。

目に見えない殺意を伴った悪意にさらされていただけであるが。


日本に帰国したのがちょうど、彼女と同じくらいの歳だったので、擁子のような過酷な引揚げを体験したわけではなかったが、どこかで何かが、繋がった気がした。



擁子は、掠奪の中、髪を男子のようにして、目の前で空爆で死んでいった軍人の血みどろの軍服を着て、生き残った。

女子であることがトイレにいく時にわかり、草薮に連れて行かれ陵辱されるのをたびたび見たので、しゃがんで用を足さず、たったまま男のように用を足した。


誰も助けられない。

誰も助けられない。

赤十字の印がある列車は空爆された。

2000人もの引揚げ者がつめ込まれた倉庫に火をつけられることを恐れて、誰も抗議できなかった。

誰も助けてはくれない状況の中、ただ生き残るために何でも食べ、帰るためにひたすら歩いた。






イランにいるとき、明かりがみえなかった。

夜は特に。

外には決して出なかった。

ただ、地下室に逃げ込むか、光がもれないように銀紙で覆った窓に囲まれた部屋に入って、空襲が終わるのをじっと待っていた日々であった。

そういう記憶が、擁子の記憶と、妙に重なり、一度、焼きついた遠くなってしまった竹林のような記憶は、ざわざわといつまでたっても切っても切っても生えてくる竹のように、消えないものだと思い至る。