「日本の草屋根」相模書房 小林梅次著 より
万葉集一六三八の歌
あをにいよし奈良の山なる黒木用ち造れる室は坐れど飽かぬかも
これは聖武天皇の歌であるが、黒木の語が見える。黒木の意味は、皮付きの木という意味と常緑樹の意とある。それはともかくとして、室の語が使われているけれども、穴の段階から脱した建築を思わせるものがある。ただ、黒木が建物のどの部分に使われていたものか、この限りではわからない。
万葉集千六三七の歌
はだ薄尾花逆葺き黒木用ひ造れる室は万代までに
この歌は「尾花逆葺き」の語によって、その様子は一段と明らかで、屋根が尾花、つまり茅で葺かれていたことを示している。
播磨国風土記中川の里の項に
時に大中子、苫もて屋(いへ)を作りしかば
とあるのも、苫で屋根または壁を作ったのであろう。
徒然草にも
家の造りやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなるところにもすまる。熱き頃、わろき住居はたえがたき事なり。