子豚は焼豚になったように真っ暗な闇にまぎれて見えない。
男Hの妄想でしかなかったのであろうか。
また、日が昇れば、見えてくるものなのだろうか。
男Hは、子豚がいようがいまいが、どうでもいいというように、走り続けた。
もしかして、正気を取り戻しつつあるのかもしれない。
と男Hは思いつつ、あの時、子豚に見えたものは、知人Kが翻訳していた物語の続きにも思えてきた。
確か、豚とバイクが出てくる話だった。
男Hは、バイクではなく、自転車に乗っているのだが、あの子豚は、もしかして知人Kの魂であったのかもしれない。
しかし今、見えなくなったのだから、男Hが栄養失調で急に鳥目になったのでないかぎり、知人Kの魂は死んだ。
確実に死んだのだ。と思った。
すでに、焼き場で焼かれたのかもしれない。
男Hは、そう思えて仕方がなかったのだ。
物語が実存する時。
しっそうするのは、人の魂のようなもの。
えらく、物語の翻訳に肩入れしていた知人Kは、もしかして、「何か」に触れたのではないかと思った。
むこうとこちらの間にある知らない橋渡しをさせられていたのではないか。
と、男Kは正気づいてきた頭で、その「何か」を考え続けていた。