猫と桜

 大学に勤めるSさんがお花見に誘ってくれた。大学構内に桜の咲く場所があって、そこならほかの花見客もいないので、ゆっくりお花見ができるという。
 当日ベビーカーを押して行ってみると、建物の裏庭に、大きな桜の木がひっそりと、枝いっぱいの花を咲かせていた。聞こえてくるのは、少し離れたところにあるテニスコートで学生が球を打つ音くらいである。
 あいにくの曇り空ではあったけれど、物は言いよう、花曇と言えば、またそれもひとつの趣のように思えてくる。しかし、「花曇」を辞書で引いてみると、「桜の咲く季節に、空一面が薄ぼんやりと曇り、景色などが煙ってのどかに見えること」とあって、少し雨の心配なような暗い曇り空では、そうは言わないのかもしれない。
 桜に負けじと、草の覆った地面の上は、青いオオイヌノフグリや名前の知らない小さな白い花が、春のじゅうたんのようである。息子はその花々の上で走ったりしゃがんだりして遊んでいるので、私はSさんの作ってくれたサンドイッチをいただきながら、ひさしぶりに彼女とゆっくり話をすることができた。
 Sさんの話では、私は姿を見なかったけれど、そのあたりに雌の茶トラが住みついているそうである。近くのレストランで食べ物をもらっていて、猫の好きな大学関係者に可愛がられているのだけれど、その猫が、建物の中にまで入ってくるようになってしまった。建物の出入り口は自動ドアになっていて、その開閉の仕方を覚えたのである。利口な猫だと思ったけれど、そのあとがいけなかった。夜の寒さをしのいで建物の中に入り込んだものの、閉じ込められてしまったのか、屋内で用を足してしまったのである。それはまずいと思ったら、案の定、猫嫌いな人たちが、猫を駆除しろと騒ぎ出した。
 建物の中でうんちをしたのは猫が悪いけれど、しかし「駆除」とは無茶苦茶である。人間だって粗相することはある。粗相をしたら即死刑だなんて、そんな道理が通っていいだろうか?
 幸い、猫派の人々が可哀想だと反対して、今回は沙汰無しで済んだけど、次もやったらどうなるかわからない、とSさんは心配している。
猫好き、猫嫌いの両方の人たちと、そして何よりも猫自身が納得するような解決方法を、ぜひ見つけてもらいたいと思う。
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