愛知学院大学青木ゼミのブログ

愛知学院大学商学部青木ゼミの活動を報告するためのブログです。

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2012年02月06日 | Weblog
今大学では春休みに入っています。時間的余裕がある時期なので,学生の皆さんには是非読書に取り組んで欲しいと思います。

ここでお薦めの本を紹介します。今NHK大河ドラマでは平清盛が取り上げられています。そこで,平清盛に関する本を紹介します。実は歴史上の人物で私が最も尊敬するのが平清盛です。興味を持ったきっかけは,高校生の頃,日本史を習ったときに,清盛が極悪人のように扱われていることでした。へそ曲がりだったのか,極悪人だからこそ実はすごい人物なのではないかと興味を引かれたのです。その後あれこれ書物を読み進むうちに,極悪人扱いは平家物語(フィクションを織り交ぜたあくまで物語)の記述に幻惑されたものの見方であって,史実とは違うことが解りました。そして,近年の歴史研究では清盛政権の革新性が評価されていることも知りました。その結果,尊敬の念を抱くようになりました。源頼朝などよりもよほど大きな器の人物だと理解したのです。

私が薦めるのは,山田真哉『経営者・平清盛の失敗―会計士が書いた歴史と経済の教科書―』講談社です。清盛政権の経済政策について論じています。清盛政権の革新性の一つとして,平安時代末期にあって,商業を重んじ,貨幣経済を推進したことが指摘されていますが,山田さんの本では,その過程,政策的成功と失敗について,歴史研究に加えて,現在の経済政策に照らし合わせながら考察しています。多くの歴史書は権力闘争の過程を詳細に描き出していますが,その裏にある経済政策について不明瞭なままになりがちです。山田さんの本は重要です。

清盛は日宋貿易で大量の宋銭を輸入して,貨幣経済を推進しました。山田さんの仮説では,宋銭輸入はそもそも貨幣としての輸入ではなく,仏具原材料輸入としてはじまったとされています。そして,日本に大量に輸入された宋銭が,当時の朝廷(政府)非公認にもかかわらず,清盛によって通貨として使用される政策が推し進められました。なぜ宋銭を通貨としたかについては,偽造貨幣が多かった中世を鑑み,山田さんは偽造対策を込めていたといいます。外国の貨幣ならば国内で生産された貨幣よりも偽造が難しいのではないかというのです。

貨幣経済化が進むにつれ,商業活動は活発になったものの,経済はデフレ(物価安)に向かいました。外国貨幣ゆえにタイムリーな通貨供給を行うことができず,通貨の価値が上がってしまったためです。清盛政権は荘園を多く抱える貴族や寺社から反発されました。しかし,清盛政権末期,未曾有の飢饉が発生します。すると,もの不足が深刻化しますので,逆にハイパーインフレが起こってしまいました。この時も外国貨幣ゆえに,政権はその供給をコントロールすることができませんでした。インフレ(通貨の価値下落)は通貨の供給主体であった清盛政権の財力を奪います。その結果,戦乱が起きましたが,それに対処する能力を清盛政権(その後継)は失い,滅びました。以上が山田さんの清盛政権没落の仮説の一端です。

外国貨幣を用いることで一気に貨幣経済導入を実現し,政治刷新を成し遂げようとしたものの,外国貨幣を用いたがゆえに自らの没落を招いてしまったというパラドックスが描かれているのです。なかなかに示唆に富んだ面白い分析です。ユーロ危機に翻弄されるヨーロッパ諸国の現状を思い浮かべながら読み進むと,面白さは倍増します。

なお,うちのゼミ生はじめ商学を学ぶ学生に認識して欲しいのが,日本史上,商業を重んじる政策を実現しようとした政治家はたいてい悪人とされていることです。平清盛,足利義満,織田信長,田沼意次などです。商業を重んじる政策は,貿易を推進することになるので開国へと結びつきます。また取引に関する制度を整備するために政治権力の集中を生むことになります。素朴なナショナリズムによって開国が危険視され,独裁を嫌う日本人のメンタリティーによって強い政治権力も危険視され,悪評が起きてしまったのかもしれません。

開国でいうと,現在TPPが国論を二分しています。反対する声のほうが大きい印象を持っています。商業を重んじた政治家たちの悪評を思い出すと,現在の反対論はナショナリズムに基づいた感情論に支配されていないか,冷静になってみる必要があると思います。日米構造協議,GATTウルグアイラウンド,WTOなど,過去貿易自由化に関する国際政治交渉のたびに同じ言説が繰り返されてきたことを振り返るとなおさらです。

ともかく,『経営者・平清盛の失敗』は現在の経済を考察する際にもヒントを与えてくれる良書です。
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