愛知学院大学青木ゼミのブログ

愛知学院大学商学部青木ゼミの活動を報告するためのブログです。

休み中の読書

2018年12月26日 | Weblog
昨日は愛知学院大学の2018年仕事納めの日でした。大学は今日から1月6日まで休業します。

いつも長期休みの前になると学生に諭すことですが,休み中は,読書と旅行を行って欲しいと思います。なぜならば,社会人になると,落ち着いてそれらを行う時間的精神的余裕が無くなることが多いからです。

ここでは,読書の参考になるように,私が最近読んで面白いと思った本を紹介します。基本的にマーケティング論や経営学に関連したものです。

まず,内田宗治『外国人が見た日本』(中公新書)を紹介します。江戸時代末から現在までの,日本における外国人観光客誘致の歴史を扱っています。近年,インバウンド振興と称して,政府・民間企業ともに,外国人観光客誘致に血道をあげ,現在では年間3千万人を超える観光客が日本に押し寄せる状況にいたっています。しかし,この本を読むと,このインバウンド振興は平成時代後半に特有のものとはいえず,100年も前に,既に政府・民間企業は外国人観光客誘致のために同様の施策を打っていたことが分かります。誘致のための調査あっせん組織ジャパン・ツーリスト・ビューロー(現在のJTB,日本交通公社)の設立,日本各地のホテルの整備,政府部局国際観光局の設置など,今に通じる努力が次々なされてきました。おもてなしを重んじる政策なども既に80年も前に唱えられていたことは興味深い。また,第二次世界大戦直前まで,敵国アメリカ人観光客の誘致に政府が動いていたことに驚きを禁じえません。本書でこれら歴史を知ることは,今のインバウンド振興のあり方を考えるうえで重要な手掛かりになると思います。なお,サブタイトルに,誤解と再発見の観光150年史とあるように,日本側が見せたいものと,外国人が見たいものが異なる点が言及されています。このギャップは我々が海外に旅行した時にも感じることです。このギャップを埋めるための施策を考えることが,インバウンド振興の決め手になるのかもしれません。

もう一つは,武田徹『井深大』 (ミネルヴァ書房) です。ソニー創業者である井深さんの評伝です。経済史に名を遺した井深さんの評伝は既に何冊も存在しています。さらに,自伝も出版されています。もはや今では井深さんを扱った書物に新規性はないだろうと思ってこの本を読みましたが,新しい発見がありました。読み応えのある本です。井深さんの誕生,学生時代に既に頭角を現していた天才発明家の姿,第二次世界大戦前の軍事技術へのかかわり,戦後のソニーの創業,トランジスタ・ラジオ開発の指揮,テレビからビデオデッキ開発へのかかわりなどが書かれています。その後,社長を引退してから,晩年,超自然現象に傾注した様子が描かれています。井深さんが超自然現象を追究し,脈診やOリングなどの紹介にこだわったことについて,世間的にはあまり評判がよくありません。「オカルト化した」「ボケた」として,社内でも冷笑されていたようです。過去の評伝でも積極的に取り上げない傾向にありました。しかし,この本では積極的にそれを取り上げています。そして,超自然現象への傾注は,ボケたわけではなく,井深さんの本質そのものであったことを検討しています。科学者というより天才発明家であった井深さんは,原理にこだわることなく,閃きによって解決策ならば何でも利用して発明を実現しました。本書によれば、科学と非科学はきちんと境界があるわけではなく、井深さんは科学的思考に基づき、その時点の科学によって埋められない余白を埋めようとしたというのです。最後までボケてはいなかった。井深さんの再評価であるとともに、発明起業家とは何かを問い直す内容になっています。


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年末

2018年12月21日 | 運営
今日は愛知学院大学において2018年最後の授業日です。師走に入りゼミでは大きなイベントが2つありました。

1つは,ゼミ3年生の名古屋マーケティング・インカレ本大会への参加です。12月1日に開催されました。うちから3チーム参加しましたが,どれも満足のいく発表はできませんでした。ただ,結果的に,自分たちの能力や努力において足りない部分を皆認識してくれたようです。また,研究発表の面白みを感じてくれたようで,本大会後も継続的に,自分たちが設定したテーマを追究する姿勢を見せてくれています。彼らの成長を見ることができて,参加による教育的意義はあったと考えています。

今回最優秀賞に選ばれたのは,愛知大学為廣ゼミさんぶんのごによる「家庭における食料備蓄を増やすには」という発表でした。南海トラフ地震発生が迫っていると報じられているなか,その時の避難者の大半を占めるといわれている自宅避難者が生き残るためには家庭での食料品備蓄が必要である。しかし,それが進んでいないので,いかにしてその備蓄をすすめるのか方策を案出するというのがこの発表の目的です。彼らが注目したのが定期セット販売です。現在非常食の定期セット販売が実用化されています。しかし,普及はしていない。そこでその問題点を探ったところ,備蓄品の消費や処分を嫌う消費者が多いため,定期セット販売が進まないことが分かりました。そこで,消費期限が切れる前の備蓄品をフードバンクに寄付するという社会貢献活動を組み込んだ定期セット販売を提案することで,その普及を目論むというのです。消費者白書によれば社会貢献につながる商品を意識的に選択すると答えた消費者が過半数を超えるというのが,その実現可能性の根拠になっています。

この発表がなぜ最優秀になったのか,私のなりの分析は,主張が明快で,大きな論理破綻がなく,「突っ込みどころ」が最も少なかったからというものです。また,アイディアに強い独創性はありませんが,実現可能性が考えられていることもあげられます。コーズ・リレーテッド・マーケティングなどの理論に触れていたことも評価をあげました。ただし,私なりに発表の欠点・課題を指摘すると,消費者白書において社会貢献につながる商品を意識的に選択すると答えた消費者が過半数を超えるというデータがあったとしても,実際に消費者がフードバンク寄付付き定期セットを購入するかどうかは別問題であるので,もう一段その点に関する具体的な根拠データが必要であるということです。

優秀賞に選ばれた5つのなかには,個人的に首をかしげるものがありました。「何でこんなんが選ばれたの?他にましなのはなかったの?」とゼミ生や他大学の先生と会話しました。学生相互評価の限界を示しているのかもしれません。他の発表内容のレベルが低いために相対的に浮かび上がったのか,内容に優劣つかなかったためにプレゼンの上手さで浮かび上がったのか,単に学生に見る目がなかったのか。理由は複合的であると思います。しかし,優秀賞の中から選ばれた最優秀賞については納得しています。例年,最優秀賞は,上手なプレゼンによる,そつのない,突っ込みどころの少ない発表が選ばれます。最優秀賞受賞者は,明快で論理的なプレゼンで聴衆を納得させるという能力を発揮し,それが他の学生のモデルになるという点で,教育的に好ましい評価になっていると思います。

もう1つは,ゼミ4年生の卒論提出です。12月14日が締め切りでした。早速,私はそれらを読みました。そして昨日のゼミで,4年生たちにそれらを返却しながら言い渡したのは「書き直し」の一言です。ゼミ生ごとに,書き直し個所を大まかに指摘しましたが,全てに共通しているのは,「結論はどうしたの?」ということです。あれこれ文献を読み込んだり,ヒヤリング調査をしたりしたことは理解できましたが,自分たちが主張したいことが不明確です。そもそも主張がないものもありました。主張のない卒論はあり得ないので,4年生は後1か月間,悩みに悩んで,書き直しをして欲しいと思います。

1月22日の補講日に卒論発表会を開催します。そこで,4年生に卒論内容を発表してもらい,下級生にそれを評価してもらいます。下級生たちに,「先輩たち,いつも偉そうなこと言っていて,こんな卒論でお茶濁しするのか」などと陰口たたかれないように,改善に努めて欲しいと思います。卒業直前まで卒論改善に努力する姿は,下級生に範を垂れることになります。なにより社会人になってから良い思い出になります。

2月7日には学内の研究発表会ビジカンで,ゼミの2,3,4年生は発表することになっています。3年生は名古屋マーケティング・インカレの発表内容,4年生は卒論を,きちんとブラッシュアップして,発表に臨んでください。
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