昨日は愛知学院大学の2018年仕事納めの日でした。大学は今日から1月6日まで休業します。
いつも長期休みの前になると学生に諭すことですが,休み中は,読書と旅行を行って欲しいと思います。なぜならば,社会人になると,落ち着いてそれらを行う時間的精神的余裕が無くなることが多いからです。
ここでは,読書の参考になるように,私が最近読んで面白いと思った本を紹介します。基本的にマーケティング論や経営学に関連したものです。
まず,内田宗治『外国人が見た日本』(中公新書)を紹介します。江戸時代末から現在までの,日本における外国人観光客誘致の歴史を扱っています。近年,インバウンド振興と称して,政府・民間企業ともに,外国人観光客誘致に血道をあげ,現在では年間3千万人を超える観光客が日本に押し寄せる状況にいたっています。しかし,この本を読むと,このインバウンド振興は平成時代後半に特有のものとはいえず,100年も前に,既に政府・民間企業は外国人観光客誘致のために同様の施策を打っていたことが分かります。誘致のための調査あっせん組織ジャパン・ツーリスト・ビューロー(現在のJTB,日本交通公社)の設立,日本各地のホテルの整備,政府部局国際観光局の設置など,今に通じる努力が次々なされてきました。おもてなしを重んじる政策なども既に80年も前に唱えられていたことは興味深い。また,第二次世界大戦直前まで,敵国アメリカ人観光客の誘致に政府が動いていたことに驚きを禁じえません。本書でこれら歴史を知ることは,今のインバウンド振興のあり方を考えるうえで重要な手掛かりになると思います。なお,サブタイトルに,誤解と再発見の観光150年史とあるように,日本側が見せたいものと,外国人が見たいものが異なる点が言及されています。このギャップは我々が海外に旅行した時にも感じることです。このギャップを埋めるための施策を考えることが,インバウンド振興の決め手になるのかもしれません。
もう一つは,武田徹『井深大』 (ミネルヴァ書房) です。ソニー創業者である井深さんの評伝です。経済史に名を遺した井深さんの評伝は既に何冊も存在しています。さらに,自伝も出版されています。もはや今では井深さんを扱った書物に新規性はないだろうと思ってこの本を読みましたが,新しい発見がありました。読み応えのある本です。井深さんの誕生,学生時代に既に頭角を現していた天才発明家の姿,第二次世界大戦前の軍事技術へのかかわり,戦後のソニーの創業,トランジスタ・ラジオ開発の指揮,テレビからビデオデッキ開発へのかかわりなどが書かれています。その後,社長を引退してから,晩年,超自然現象に傾注した様子が描かれています。井深さんが超自然現象を追究し,脈診やOリングなどの紹介にこだわったことについて,世間的にはあまり評判がよくありません。「オカルト化した」「ボケた」として,社内でも冷笑されていたようです。過去の評伝でも積極的に取り上げない傾向にありました。しかし,この本では積極的にそれを取り上げています。そして,超自然現象への傾注は,ボケたわけではなく,井深さんの本質そのものであったことを検討しています。科学者というより天才発明家であった井深さんは,原理にこだわることなく,閃きによって解決策ならば何でも利用して発明を実現しました。本書によれば、科学と非科学はきちんと境界があるわけではなく、井深さんは科学的思考に基づき、その時点の科学によって埋められない余白を埋めようとしたというのです。最後までボケてはいなかった。井深さんの再評価であるとともに、発明起業家とは何かを問い直す内容になっています。
いつも長期休みの前になると学生に諭すことですが,休み中は,読書と旅行を行って欲しいと思います。なぜならば,社会人になると,落ち着いてそれらを行う時間的精神的余裕が無くなることが多いからです。
ここでは,読書の参考になるように,私が最近読んで面白いと思った本を紹介します。基本的にマーケティング論や経営学に関連したものです。
まず,内田宗治『外国人が見た日本』(中公新書)を紹介します。江戸時代末から現在までの,日本における外国人観光客誘致の歴史を扱っています。近年,インバウンド振興と称して,政府・民間企業ともに,外国人観光客誘致に血道をあげ,現在では年間3千万人を超える観光客が日本に押し寄せる状況にいたっています。しかし,この本を読むと,このインバウンド振興は平成時代後半に特有のものとはいえず,100年も前に,既に政府・民間企業は外国人観光客誘致のために同様の施策を打っていたことが分かります。誘致のための調査あっせん組織ジャパン・ツーリスト・ビューロー(現在のJTB,日本交通公社)の設立,日本各地のホテルの整備,政府部局国際観光局の設置など,今に通じる努力が次々なされてきました。おもてなしを重んじる政策なども既に80年も前に唱えられていたことは興味深い。また,第二次世界大戦直前まで,敵国アメリカ人観光客の誘致に政府が動いていたことに驚きを禁じえません。本書でこれら歴史を知ることは,今のインバウンド振興のあり方を考えるうえで重要な手掛かりになると思います。なお,サブタイトルに,誤解と再発見の観光150年史とあるように,日本側が見せたいものと,外国人が見たいものが異なる点が言及されています。このギャップは我々が海外に旅行した時にも感じることです。このギャップを埋めるための施策を考えることが,インバウンド振興の決め手になるのかもしれません。
もう一つは,武田徹『井深大』 (ミネルヴァ書房) です。ソニー創業者である井深さんの評伝です。経済史に名を遺した井深さんの評伝は既に何冊も存在しています。さらに,自伝も出版されています。もはや今では井深さんを扱った書物に新規性はないだろうと思ってこの本を読みましたが,新しい発見がありました。読み応えのある本です。井深さんの誕生,学生時代に既に頭角を現していた天才発明家の姿,第二次世界大戦前の軍事技術へのかかわり,戦後のソニーの創業,トランジスタ・ラジオ開発の指揮,テレビからビデオデッキ開発へのかかわりなどが書かれています。その後,社長を引退してから,晩年,超自然現象に傾注した様子が描かれています。井深さんが超自然現象を追究し,脈診やOリングなどの紹介にこだわったことについて,世間的にはあまり評判がよくありません。「オカルト化した」「ボケた」として,社内でも冷笑されていたようです。過去の評伝でも積極的に取り上げない傾向にありました。しかし,この本では積極的にそれを取り上げています。そして,超自然現象への傾注は,ボケたわけではなく,井深さんの本質そのものであったことを検討しています。科学者というより天才発明家であった井深さんは,原理にこだわることなく,閃きによって解決策ならば何でも利用して発明を実現しました。本書によれば、科学と非科学はきちんと境界があるわけではなく、井深さんは科学的思考に基づき、その時点の科学によって埋められない余白を埋めようとしたというのです。最後までボケてはいなかった。井深さんの再評価であるとともに、発明起業家とは何かを問い直す内容になっています。