産経新聞の2009年3月7日webページにつぎのような記事が掲載されていました。
大学3年生向け就職合同セミナー。数百社のブースで埋め尽くされた広大なフロアに紺色のリクルートスーツ姿の学生がすし詰め状態となる異様な熱気に、東京国際大学経済学部3年の嶋さんは、ただただ圧倒されていた。「ショックでした。すごく気軽な気持ちで、携帯だけ持っていればいいやとノートもペンも持たず、埼玉から手ぶらで1時間半かけて来た。どのブースでも同い年の学生が熱心にメモを取って質問していた。完全に出遅れましたね」
車が好きで、学生生活の一番の思い出は洗車のアルバイト。授業には出たものの、「経済のケの字も分からない」という。セミナーでも有名企業を一通り回ったが、全く興味が持てなかった。帰り際に自動車部品メーカーのブースが目に入り、何となくひかれた。「周りの友達に比べると自分は目標が定まっているほうだと思う。2030年ですか? 僕は41歳…。家庭を持って小さな家に住んで、年収は500万円くらいもあれば十分かな。車は今はデミオだけど、クーペに乗っていたいですね」
「あなたの2030年を想像してみてください」。ビッグサイトで出会った21歳たちに尋ねたが、楽観的な嶋さんを除けば明確な答えは返ってこなかった。代わって東大の森教授は、いわゆる一流大生たちの今後について「社会や職場の危機に直面したとき、パニックになりはしないか」と懸念し、こう指摘する。「受験の点数と社会人としての適応力は全く別もの。社会が不安定になればなるほどその傾向は強まる。かつて大学生はそこに気づいていたからこそ、自分で問題を見つけて取り組む知的好奇心を持っていたが、今そうした若者は少ない。必然的に東大の地位も下がっていくと思う」とはいえ、将来への不安は、嶋さんのような難易度が低い大学の学生のほうが、より強いのではないか。
千葉市にある敬愛大学の「キャリアセンター」でセンター長を務める高田茂さん(57)の答えは意外だった。「残念ながらほとんどありません。うちのような大学は大半が推薦入学で、これまでの人生も無風、無競争できてしまった。学力だけでなく、社会に対する意識からして学生は二極化している」高田さんは、大手商社社員からキャンパスの「就活請負人」に転身、すでに敬愛大が2校目だ。「彼らはゆとり教育の一期生でもあるが、ゆとりで生まれた時間に何をしたかといえばバイトにゲーム、携帯いじりくらい。そうした生活が、就活でもボディーブローのように効いている」と指摘し“教え子たち”に向けてこんなエールを送った。
「キャリアセンターと就職課の違いはキャリア教育を施す点。つまり『生きていくためにはどうするか』を教えるということです。うちの学生が有名大生に勉強で勝てることは絶対にない。ただ、社会に出て、同じ営業という仕事でなら勝負できる可能性はある。こんな時代だからこそ、学生には20年後の逆転を目指してもらいたいのです」
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この記事には考えさせられます。難関大学の学生の方が,自分の能力を過信して,楽観的になると思われがちですが,実際には難易度の低い大学の学生の方が楽観的であるというのは,現場教師には良く理解できます。難関大学の学生は入試でもまれてきています。高校生の間(あるいは浪人時代)何度も悔しい思いをして,やっと入学した学生がほとんどです。しかし,低難易度大学の大半の学生は,入試を経ていません。高校時代に受験勉強を経験していない学生が大部分なのです(というか勉強自体きちんとしてきていない)。
競争こそが自らの能力の限界や可能性を知らせてくれるのですが,入試という競争に立ち向かっていない大部分の低難易度大学の学生は,自らの能力の限界を知る機会が十分なかったといえるでしょう。したがって,妙に楽観的になりがちです。残念ながら,うちの大学も記事にあるような無風状態で卒業近くまで過ごしてきた学生が多いのです。大学が本当に「親心」を持つのなら,卒業までに高いハードルを設け,厳しい教育を行うべきなのですが,われわれ教員も易い方向に流れてきました。もうすぐ年度初めになります。この先,学生たちは逆風に向って進んでいかなければならない訳ですが,ここらでそこに立ち向かえるように厳しい教育に転換する必要があるようです。
大学3年生向け就職合同セミナー。数百社のブースで埋め尽くされた広大なフロアに紺色のリクルートスーツ姿の学生がすし詰め状態となる異様な熱気に、東京国際大学経済学部3年の嶋さんは、ただただ圧倒されていた。「ショックでした。すごく気軽な気持ちで、携帯だけ持っていればいいやとノートもペンも持たず、埼玉から手ぶらで1時間半かけて来た。どのブースでも同い年の学生が熱心にメモを取って質問していた。完全に出遅れましたね」
車が好きで、学生生活の一番の思い出は洗車のアルバイト。授業には出たものの、「経済のケの字も分からない」という。セミナーでも有名企業を一通り回ったが、全く興味が持てなかった。帰り際に自動車部品メーカーのブースが目に入り、何となくひかれた。「周りの友達に比べると自分は目標が定まっているほうだと思う。2030年ですか? 僕は41歳…。家庭を持って小さな家に住んで、年収は500万円くらいもあれば十分かな。車は今はデミオだけど、クーペに乗っていたいですね」
「あなたの2030年を想像してみてください」。ビッグサイトで出会った21歳たちに尋ねたが、楽観的な嶋さんを除けば明確な答えは返ってこなかった。代わって東大の森教授は、いわゆる一流大生たちの今後について「社会や職場の危機に直面したとき、パニックになりはしないか」と懸念し、こう指摘する。「受験の点数と社会人としての適応力は全く別もの。社会が不安定になればなるほどその傾向は強まる。かつて大学生はそこに気づいていたからこそ、自分で問題を見つけて取り組む知的好奇心を持っていたが、今そうした若者は少ない。必然的に東大の地位も下がっていくと思う」とはいえ、将来への不安は、嶋さんのような難易度が低い大学の学生のほうが、より強いのではないか。
千葉市にある敬愛大学の「キャリアセンター」でセンター長を務める高田茂さん(57)の答えは意外だった。「残念ながらほとんどありません。うちのような大学は大半が推薦入学で、これまでの人生も無風、無競争できてしまった。学力だけでなく、社会に対する意識からして学生は二極化している」高田さんは、大手商社社員からキャンパスの「就活請負人」に転身、すでに敬愛大が2校目だ。「彼らはゆとり教育の一期生でもあるが、ゆとりで生まれた時間に何をしたかといえばバイトにゲーム、携帯いじりくらい。そうした生活が、就活でもボディーブローのように効いている」と指摘し“教え子たち”に向けてこんなエールを送った。
「キャリアセンターと就職課の違いはキャリア教育を施す点。つまり『生きていくためにはどうするか』を教えるということです。うちの学生が有名大生に勉強で勝てることは絶対にない。ただ、社会に出て、同じ営業という仕事でなら勝負できる可能性はある。こんな時代だからこそ、学生には20年後の逆転を目指してもらいたいのです」
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この記事には考えさせられます。難関大学の学生の方が,自分の能力を過信して,楽観的になると思われがちですが,実際には難易度の低い大学の学生の方が楽観的であるというのは,現場教師には良く理解できます。難関大学の学生は入試でもまれてきています。高校生の間(あるいは浪人時代)何度も悔しい思いをして,やっと入学した学生がほとんどです。しかし,低難易度大学の大半の学生は,入試を経ていません。高校時代に受験勉強を経験していない学生が大部分なのです(というか勉強自体きちんとしてきていない)。
競争こそが自らの能力の限界や可能性を知らせてくれるのですが,入試という競争に立ち向かっていない大部分の低難易度大学の学生は,自らの能力の限界を知る機会が十分なかったといえるでしょう。したがって,妙に楽観的になりがちです。残念ながら,うちの大学も記事にあるような無風状態で卒業近くまで過ごしてきた学生が多いのです。大学が本当に「親心」を持つのなら,卒業までに高いハードルを設け,厳しい教育を行うべきなのですが,われわれ教員も易い方向に流れてきました。もうすぐ年度初めになります。この先,学生たちは逆風に向って進んでいかなければならない訳ですが,ここらでそこに立ち向かえるように厳しい教育に転換する必要があるようです。