休憩なしの2時間余りの楽しいひとときでした。思わず涙ぐんでしまう場面もありました。主演の奈良岡朋子さんは、83歳とは思えないほどの軽快で重厚な演技を見せてくれました。
舞台は、青森県津軽市のカミサマの家。奈良岡さんの津軽弁が心地よく響きました。もともと本籍は青森県弘前市で東京育ち。女学校時代に 2年間弘前に疎開した経験があり、その時に津軽弁は身につけたとのこと。
奈良岡さん演じる遠藤道子は、さまざまな悩み事を抱えた人たちの相談相手となり、神様の言葉を伝えながら、相談者の心をときほぐす仕事をしています。
6年間も閉じこもりの生活を続けていた青年に、抱いていた夢を思い出させ、それに向かって生きる道を開いてあげたり、対立する嫁と姑との関係を良好な関係に導いてあげたり、嫁さがしで悩む母と息子に良縁を結んであげたり、東京から家出してきた主婦とその後を追ってきた夫との関係を良い方向へと導いたりします。
そんな道子のもとに、5・6年も連絡のなかった息子の銀治郎が訪れ、東京で働くその娘のしのぶも訪れます。この二人の登場によって道子の過去と、父娘の関係が明らかになります。
道子には、かって 結婚を約束した最愛の人がいて、不慮の事故で亡くなったということ。そんなときに、カミサマの家に赤ちゃんが預けられ、恋人の生まれ代わりと考えた道子が その子の名前を最愛の人と同じ 銀治郎と名づけ 母親となって育てるようになったこと。
銀治郎は、自分の母が実の母親でないことを知って、屈折した心を抱くようになります。やがて結婚し、娘のしのぶが生まれるのですが、最愛の妻に先立たれると、娘を置いて家を出て、独り身のすさんだ人生を送るようになります。そして、腎不全の病気を抱え、生きる希望を失って久しぶりに母のもとを訪れたのでした。妻のもとに行きたいと考えた銀治郎は、母の道子に頼んで仏下がり(死者の声を聞く)をしてもらい、亡き妻の声を耳にします。
道子は、息子が病気にかかり生きる希望さえ失っていることに気づき、家出してきた主婦に亡き妻の身代りとなって銀治郎の世話をしてもらうことを頼みます。そうして銀次郎は、その主婦を妻の生まれ代わりと信じ込み、病院での治療に専念するようになります。やがて、病気が全快しもどってきた時に、銀治郎は娘のしのぶと再会します。銀治郎は、これまで父親として何もしてやれなかったことを詫びます。しかし、しのぶの深く傷ついた心にその思いは届かず、人間の屑だと父を責めたてます。道子は、その責める言葉を強く否定し、家を出た後に娘のことを気遣う父親が、毎月生活費を送り続けてきたことを語ります。道子のもとにしのぶの母親が仏下がりをして語った言葉も、父・娘の間にあった深い心の溝を埋めます。
かんじんな場面で、 道子を通して語るカミサマの言葉や 亡くなった者が仏下がりをして語りかける言葉が、悩んでいる人々の心を癒し、新たな一歩を踏み出す力を生み出していくような印象がありました。それは、また カミサマの声というより 道子という人物がこれまで歩んできた人生の中で身につけてきた 「けっぱれ!」 という 心の声だったのかもしれません。
最後の方で、銀治郎に 道子の最愛の人であった銀治郎が仏下がりをし 道子に向って語りかける場面がありました。 「これからも けっぱって 生きてほしい!」 という 愛する人からのメッセージを受けとった道子の なんとも晴れやかで明るい表情が 心に残りました。
「けっぱれ!」 なんとも力強い 人生の応援歌のような 一言だと思いました。