朗読を通して人間的に成長していく主人公:ハナ。両親を幼いうちに亡くし、内向的で一人ぽっちのハナを変えたのは朗読でした。学芸会で発表した朗読が、たくさんの人の心を打ったのです。感動を伝えたいという気持ちが強くあれば人に伝えることができる。朗読への道を開いてくれた先生の言葉が、それからのハナの生きる支えとなったのです。
10巻で、ハナは、年末に母親代わりに自分を育ててくれた叔母のもとに 親しい朗読仲間の満里子を連れて里帰りします。そこで、偶然な出来事から 叔母さんたちの前で朗読する機会を持つことになります。読むのは<赤い鳥>創刊号に発表された鈴木三重吉の『ぽっぽのお手帳』でした。三重吉が我が娘に語りかけるように描いた作品です。その中に登場する<きみ>とは、一体誰のことか文脈からは想像できないため、ハナたちは困ってしまいます。そんな時に、ハナは満里子を連れ出し、村を案内し、小さかったころのさまざまな出来事や思い出を語ります。そうすることでハナは、小さかった頃の自分と向き合い、<きみ>とは誰を指すのかに気づくことができます。
朗読作品の解釈が、話の展開と一体となっているところが、この物語の魅力の一つでもあります。作品世界をイメージし、その中に入り込んで朗読し、聴き手の想像力を広げながら 読み手と聴き手が想像世界を共有する。その過程が、巧みに漫画を通して表現されているのです。朗読の技術的な側面や作品の解釈など、学ぶべきこともたくさん盛り込まれています。ハナという内向的で繊細な女の子はもちろんですが、その周りに登場する人物たちもそれぞれが個性的で魅力的な存在です。
作者の片山ユキヲ氏によれば、あと3巻(全13巻)で完結の予定とのこと。主人公のハナが、大好きな朗読を通してどんな成長の足跡を刻んでいくのか、楽しみです。
※『ぽっぽのお手帳』を 私なりにどう読み、どう解釈したのかについては、後日ブログに書いてみたいと思っています。