本Blogの今年の6月1日の記事でも紹介したとおり、里見香奈女流四冠がプロ棋士編入試験の受験資格を得ておりましたが、6月28日(火)に、ご本人から「棋士編入試験」に挑戦する意向を、日本将棋連盟を通じて明らかにしました。
このあたり、もう1回、基礎からお話いたします。まず、『女流棋士』は『プロ棋士』とは異なります。現在まで、女性の『プロ棋士』は誕生しておりません。
もともと、プロ棋士の世界とは、男女の区別なく、奨励会に入った上で各ステージのリーグ戦を勝ち抜いて、奨励会 最上位の三段リーグの上位2名しか、毎半年にプロ棋士には成れない仕組み。そして、26歳に到達すると三段リーグから去らなければならず、年齢制限により、プロ棋士になるのは諦めなければなりません。
ただし例外措置として、26歳超となっても、アマチュア棋士、あるいは女流棋士として、公式戦でプロ棋士と対局する機会を得て、「最近の公式戦で10勝以上、かつ勝率6割5分以上」の条件が満たされれば、プロ棋士編入試験の受験資格が得られるのです。
里見香奈女流四冠は、直近公式戦において男性のプロ棋士相手に10勝4敗の成績を残し、この基準を今年5月にクリアしていたのです。
ただし、あの時にも申し上げましたが、私は「受験はしない」という見方をしておりました。すでに女流トップ棋士として、タイトルも収入も、相当に得られる立場にあるため、その立場を捨ててまで、敢えて男女の区別のないプロ棋士を目指すモチベーションが湧きづらいと思ったからです。
それでも、彼女は敢然として、棋士編入試験に挑戦することを選択いたしました。ジェンダーの旗手として、女性として初めて、「『プロ棋士』という男社会の壁」を壊すことに、命を賭ける覚悟を決めたのでしょう。しかし、この棋士編入試験は一筋縄ではいかないハードルであります。
この棋士編入試験は、5人の試験官=プロ棋士(四段・五段棋士の中から選ばれる)との対局で決まる試験。先に3勝すれば合格。3敗してしまうと不合格となります。今まで、男性の中には、この編入試験を経て、プロ棋士になった事例がいくつかあります。直近では、30歳でプロ編入試験に合格してプロ棋士となった折田翔吾四段の例があります。
この時、試験官として選ばれる四段・五段の棋士たちは、正直に言って、やりづらい立場です。相当年上の、しかも三段リーグの先輩が、ようやくラストチャンスを掴んで、プロ棋士になろうという試験ですから、やりづらい。もちろん、本気で勝負に臨む訳ではありますが、殆どの将棋ファンは挑戦者を応援しますので、試験官側が悪役になりきれずに負けるケースが散見されます。
ただし、今回は異なります。相手は、すでに女流棋士としてトップに立っているスター。しかも、プロ棋士のタイトル戦予選を勝ち抜いて、本戦トーナメントに出てくるほどの実力の持ち主。もし、試験に失敗したとしても、今の女流棋士の立場に戻れば良いだけで、失うものがない立場。こうなると、若手の四段・五段の棋士たちも、試験官として絶対負けられないという決意をもって、勝負に臨んでくるものと思います。
このあたり、里見香奈女流四段としても、よくよく判っているだけに、「全力を尽くしますので、静かに見守っていただけると幸いです」とのコメントを出しています。
私個人としては、里見香奈女流四段の挑戦を、全面的に応援したいと思います。女流棋士の想いを一身に背負って、また、全てのジェンダーの想いを背負って、この強固な「男社会の壁」をぶち壊そうという勇気に、心から拍手を贈りたいと思います。
五番勝負は、8月頃からスタート。原則として月1局のペースで行われる予定。
頑張れ! 里見香奈‼