多和田葉子の名前は二十年前から知っており、芥川賞で話題になった頃小説を読もうとしたことはあるが、最初の二ページで投げ出していた。どうも波長が合わないのに、存在が気になる不思議な人であったのだが、「溶ける街透ける路」を読んだら気持ちよくそうかそうなんだなるほどと読め、見直した。この二十年で作風が変わったのか人間がお互いに熟成されたのか小説でないせいかよくわからない。
旅が好きで行ってみたい場所が山ほどあるが、指折り数えて行ける外国の街は多くてもあと十カ所くらいだろう。国内の小旅行は川本三郎を読んで、国外の街は多和田葉子を読んで行った気分に浸ることにしたい。池内紀にもドイツの都市巡り本があるが、どうも多和田葉子の方が近しく感じられ自分が訪れた様な感覚に浸れる。一つ一つの街について書かれた文章は短く簡潔で、街の解説や説明は少ないのに感触がよくわかる。小説家にプロもアマもないと思うが、この人は文を書くプロだと感じ入る。相変わらず不思議な人なのだが、違和感が消えている。自分も不思議な人になってきたのだろうか。