半世紀臨床医として生きてきた。六十半ばまでは無我夢中で働き、六十過ぎに油彩画とブログを始めたくらいで、何か他の仕事というか自分の可能性に挑戦することはなかった。殆どの人は私と同じように作品として残るような仕事はしない人生を歩まれただろう。
臨床医はよくある数十種類の病気の管理と数十種類の個性ある病人の対応に追われて年を取る、時には希な病気や変わった人物に遭遇することもあるが、患者を診るという内容にさほど違いがあるわけではなく、記憶に鮮明に残っている位のものである。
別に今までに不満があるわけではないが、何か作品に残る仕事人生はどうだったんだろうと思うこともある。研究者としての才能はあるように言われたことはあるが、粘り強さと厳しさが足りないとその道は選ばなかった。
臨床医は街角中華で毎日チャーハン酢豚レバニラを作る人生と大きな差はないような気がする。サラリーマンのデスクワークというのは馴染みがなく、どういった生活なのか上手く想像できないが、人間関係が複雑そうで向いていない気がした。
年を取って振り返ると選択が人生を左右するのが分かる。慎重に選べば間違いないとは言えず、ちょっとした気軽な選択が実り多い人生に結びついていたりするからこうすると良いとは言えないが、岐路に立った時は下手な考えでもよく考えて後悔のなさそうな方を選んだ方がよいと申し上げたい。