昨年の六月から琉球新報で毎月一回、第一土曜日に「風流無談」というエッセーを連載しているが、先月分は不掲載となった。どうして載らなかったのか、という読者からの問いがあったので、理由を説明しておきたい。
昨年から今年にかけて、週刊誌や月刊誌で名護市発注工事や北部振興策関連工事の談合問題がくり返し取り上げられている。そのことを紹介しながら沖縄のメディアの追及の弱さを指摘したのだが、文中に企業名や個人名を書いてあるということで問題となり、何度かメールをやりとりしたあげく、印刷直前まで来て不掲載が決まった。琉球新報編集部としては、週刊誌などの報道は裏が取れておらず、具体的に名前を出すと読者に誤解が生じるので載せられないということであった。
以下にその不掲載となった文章を「風流無談」の番外篇として載せておく。「週刊誌の記事は玉石混淆」という編集部の見解があったが、それならぜひとも琉球新報で徹底した調査報道をやって、玉のような記事を載せてほしいものだ。基地問題で米軍や日本政府には厳しい批判の矢を向けるのに、「基地利権」に群がっている県内企業の問題には消極的。沖縄のマスコミに対するそのような評価がどれだけ広がっているか、業界内部にいる者は気づいていないかもしれない。しかし、沖縄で市民運動をやっている者の中では、それはもはや常識に類することであり、基地問題と沖縄戦の二つで革新的に見えているが、それ以外は保守的な新聞という評価を耳にすることも少なくない。
文字の拡大と十二段への変更による紙面構成も、「見やすくなった」という手前味噌の評価だけが紙面に載っている。だが、単純に考えても二割は情報量が減少したことに不満を持つ読者の声には、耳を傾けようとしているのだろうか。「詳しくはウエブで」というのがCMだけでなく、そのうち新聞にも当てはまるようになるとき、新聞からの読者離れは余計に進むように思うのだが。いろいろ書き出すと長くなるので、ここらでやめておく。
で、「風流無談」番外篇2です。
雑誌『週刊金曜日』二月一日号に「追及第1弾 米軍利権2000億円にむらがる沖縄の基地マフィア」と打ち出した記事が載っている。この十年間で国から沖縄に流し込まれた基地関連の金にむらがり、利益を得てきた建設業者や政治家、地域ボスの実態に切り込もうという連載で、二月一五日号には第2弾が載った。その中では例えば次のようなことが記されている。
〈地元関係者が整理した資料によれば一九九六年から二〇〇五年までの一〇年間、基地負担見返りなどで沖縄に落ちた国税は二〇四〇億円。その三分の一を超える八四〇億円ものカネが名護市に落ちている。
中でも北部振興事業は、北部十二市町村に毎年一〇〇億円が九割補助でうちこまれてきている。補助金の下り先が、一部の業者だとの批判も強く、談合の温床との疑いが強い〉(『週刊金曜日』〇八年二月一日号)。
談合疑惑の具体例としてあげられているのが、昨年九月一日にオープンした産業支援センターや〇三年操業の食肉処理センターである。産業支援センターに関しては昨年、談合の実態を詳細に記した「怪文書」が出回り、さらに『週刊朝日』(〇七年一〇月二六日号)が「沖縄基地利権リポート 小池百合子元防衛相VS.守屋武昌前事務次官 浮かび上がった談合と密約疑惑」と題した記事を載せ、話題になっていた。
『週刊金曜日』の記事では、「この食肉処理センターや名桜大学、国際種保存センターなどの北部振興策はもちろん、国立沖縄工業高等専門学校など名護市発注の工事の多くを受注している」東開発グループ会長・仲泊弘次氏が持つ大きな影響力。また、名護市の末松文信副市長と関係の深いAMS設計(旧末松設計)が、北部生涯学習支援センターや産業支援センター、ネオパーク国際種保存研究センターなど、北部振興対策事業や島田懇談会事業の大型ハコモノの設計を受注している点など、米軍基地の「県内移設」を進めるために日本政府がばらまいた「振興策」にからむ問題点が追及されている。(同二月一日号と一五日号)。
辺野古の新基地建設に関しては、埋め立て工事に大量の海砂が使われることが問題となっているが、海砂採取の利権をめぐる屋部土建や沖縄県砂利採取事業協同組合の動きについても同誌は触れている。今後の連載でどれだけ問題が掘り下げられるか注目したい。
その一方で、これら米軍基地の利権にからむ問題が、沖縄県内のメディアで、どうしてもっと大きく取り上げられないのか不思議でならない。先に挙げた『週刊朝日』の記事をはじめ、〈尾身財務相と沖縄500億公共事業〉(『週刊朝日』〇七年二月九日号)、〈また「後援会業者」が落札した尾身財務相「沖縄利権」〉(『週刊新潮』〇七年二月二二日号)、〈″原爆辞任″前防衛大臣久間章生に米軍嘉手納基地工事で「3億円リベート」疑惑〉(『週刊現代』〇七年七月二一日号)、など、政治家の「沖縄利権」をめぐる問題は週刊誌で何度も取り上げられてきた。防衛省の守屋前事務次官が国会で証人喚問を受けたあとも、〈守屋&宮崎 米軍再編「グアム3兆円利権」分捕り計画書スクープ入手!〉(『週刊ポスト』〇七年一一月三〇日号)、〈「守屋武昌容疑者は店の奥で札束を数えていた」〉(『週刊現代』〇七年一二月二二・二九合併号)など、山田洋行の問題とともに「米軍再編利権」「沖縄利権」の問題が焦点となっていた。
いつの間にかそれらの問題追及は尻すぼみになっている感があるが、本来なら沖縄のメディアは、率先してこれらの問題に本格的な調査報道を行い、沖縄に流れ込む基地関連の金をめぐり政・財・官の癒着構造ができていることを暴くべきではないのか。『沖縄世論』(〇七年冬季号)で、名護市における談合問題についての市議会と県内メディアの追及の弱さが指摘されているが、同感である。
辺野古への新基地建設をめぐって、何十メートルか沖合に出すとか出さないとか、それで日本政府と仲井真県知事、島袋名護市長が対立しているかのように描く報道を見ると、問題の本質から市民の目をそらすためにそういう報道をやっているのかと不信の念さえ抱く。
辺野古への新基地建設や米軍再編を進めるという立場では、双方に何の対立もない。建設位置の沖合への移動を仲井真知事と島袋市長が求めているのは、浅瀬の埋め立て面積を拡大することによって、海砂採取業者や埋め立て工事に参入する県内業者に利益を与えようという思惑から、「基地利権」の県内の取り分を多くしたいというだけのことではないか。
一九九五年の海兵隊員三名による性暴力事件のあと、基地撤去の運動が「整理・縮小」運動に矮小化され、さらに「県内移設」と「振興策」の問題にすり替えられてきた。事件が起こるたびに米軍や日本政府に抗議するだけでなく、「基地利権」という沖縄の内に溜まった膿を出さなければ、犠牲は繰り返される。
昨年から今年にかけて、週刊誌や月刊誌で名護市発注工事や北部振興策関連工事の談合問題がくり返し取り上げられている。そのことを紹介しながら沖縄のメディアの追及の弱さを指摘したのだが、文中に企業名や個人名を書いてあるということで問題となり、何度かメールをやりとりしたあげく、印刷直前まで来て不掲載が決まった。琉球新報編集部としては、週刊誌などの報道は裏が取れておらず、具体的に名前を出すと読者に誤解が生じるので載せられないということであった。
以下にその不掲載となった文章を「風流無談」の番外篇として載せておく。「週刊誌の記事は玉石混淆」という編集部の見解があったが、それならぜひとも琉球新報で徹底した調査報道をやって、玉のような記事を載せてほしいものだ。基地問題で米軍や日本政府には厳しい批判の矢を向けるのに、「基地利権」に群がっている県内企業の問題には消極的。沖縄のマスコミに対するそのような評価がどれだけ広がっているか、業界内部にいる者は気づいていないかもしれない。しかし、沖縄で市民運動をやっている者の中では、それはもはや常識に類することであり、基地問題と沖縄戦の二つで革新的に見えているが、それ以外は保守的な新聞という評価を耳にすることも少なくない。
文字の拡大と十二段への変更による紙面構成も、「見やすくなった」という手前味噌の評価だけが紙面に載っている。だが、単純に考えても二割は情報量が減少したことに不満を持つ読者の声には、耳を傾けようとしているのだろうか。「詳しくはウエブで」というのがCMだけでなく、そのうち新聞にも当てはまるようになるとき、新聞からの読者離れは余計に進むように思うのだが。いろいろ書き出すと長くなるので、ここらでやめておく。
で、「風流無談」番外篇2です。
雑誌『週刊金曜日』二月一日号に「追及第1弾 米軍利権2000億円にむらがる沖縄の基地マフィア」と打ち出した記事が載っている。この十年間で国から沖縄に流し込まれた基地関連の金にむらがり、利益を得てきた建設業者や政治家、地域ボスの実態に切り込もうという連載で、二月一五日号には第2弾が載った。その中では例えば次のようなことが記されている。
〈地元関係者が整理した資料によれば一九九六年から二〇〇五年までの一〇年間、基地負担見返りなどで沖縄に落ちた国税は二〇四〇億円。その三分の一を超える八四〇億円ものカネが名護市に落ちている。
中でも北部振興事業は、北部十二市町村に毎年一〇〇億円が九割補助でうちこまれてきている。補助金の下り先が、一部の業者だとの批判も強く、談合の温床との疑いが強い〉(『週刊金曜日』〇八年二月一日号)。
談合疑惑の具体例としてあげられているのが、昨年九月一日にオープンした産業支援センターや〇三年操業の食肉処理センターである。産業支援センターに関しては昨年、談合の実態を詳細に記した「怪文書」が出回り、さらに『週刊朝日』(〇七年一〇月二六日号)が「沖縄基地利権リポート 小池百合子元防衛相VS.守屋武昌前事務次官 浮かび上がった談合と密約疑惑」と題した記事を載せ、話題になっていた。
『週刊金曜日』の記事では、「この食肉処理センターや名桜大学、国際種保存センターなどの北部振興策はもちろん、国立沖縄工業高等専門学校など名護市発注の工事の多くを受注している」東開発グループ会長・仲泊弘次氏が持つ大きな影響力。また、名護市の末松文信副市長と関係の深いAMS設計(旧末松設計)が、北部生涯学習支援センターや産業支援センター、ネオパーク国際種保存研究センターなど、北部振興対策事業や島田懇談会事業の大型ハコモノの設計を受注している点など、米軍基地の「県内移設」を進めるために日本政府がばらまいた「振興策」にからむ問題点が追及されている。(同二月一日号と一五日号)。
辺野古の新基地建設に関しては、埋め立て工事に大量の海砂が使われることが問題となっているが、海砂採取の利権をめぐる屋部土建や沖縄県砂利採取事業協同組合の動きについても同誌は触れている。今後の連載でどれだけ問題が掘り下げられるか注目したい。
その一方で、これら米軍基地の利権にからむ問題が、沖縄県内のメディアで、どうしてもっと大きく取り上げられないのか不思議でならない。先に挙げた『週刊朝日』の記事をはじめ、〈尾身財務相と沖縄500億公共事業〉(『週刊朝日』〇七年二月九日号)、〈また「後援会業者」が落札した尾身財務相「沖縄利権」〉(『週刊新潮』〇七年二月二二日号)、〈″原爆辞任″前防衛大臣久間章生に米軍嘉手納基地工事で「3億円リベート」疑惑〉(『週刊現代』〇七年七月二一日号)、など、政治家の「沖縄利権」をめぐる問題は週刊誌で何度も取り上げられてきた。防衛省の守屋前事務次官が国会で証人喚問を受けたあとも、〈守屋&宮崎 米軍再編「グアム3兆円利権」分捕り計画書スクープ入手!〉(『週刊ポスト』〇七年一一月三〇日号)、〈「守屋武昌容疑者は店の奥で札束を数えていた」〉(『週刊現代』〇七年一二月二二・二九合併号)など、山田洋行の問題とともに「米軍再編利権」「沖縄利権」の問題が焦点となっていた。
いつの間にかそれらの問題追及は尻すぼみになっている感があるが、本来なら沖縄のメディアは、率先してこれらの問題に本格的な調査報道を行い、沖縄に流れ込む基地関連の金をめぐり政・財・官の癒着構造ができていることを暴くべきではないのか。『沖縄世論』(〇七年冬季号)で、名護市における談合問題についての市議会と県内メディアの追及の弱さが指摘されているが、同感である。
辺野古への新基地建設をめぐって、何十メートルか沖合に出すとか出さないとか、それで日本政府と仲井真県知事、島袋名護市長が対立しているかのように描く報道を見ると、問題の本質から市民の目をそらすためにそういう報道をやっているのかと不信の念さえ抱く。
辺野古への新基地建設や米軍再編を進めるという立場では、双方に何の対立もない。建設位置の沖合への移動を仲井真知事と島袋市長が求めているのは、浅瀬の埋め立て面積を拡大することによって、海砂採取業者や埋め立て工事に参入する県内業者に利益を与えようという思惑から、「基地利権」の県内の取り分を多くしたいというだけのことではないか。
一九九五年の海兵隊員三名による性暴力事件のあと、基地撤去の運動が「整理・縮小」運動に矮小化され、さらに「県内移設」と「振興策」の問題にすり替えられてきた。事件が起こるたびに米軍や日本政府に抗議するだけでなく、「基地利権」という沖縄の内に溜まった膿を出さなければ、犠牲は繰り返される。
早速 読んで ムヌカンゲ~してます。
北部に限らず沖縄の土木工事業社「なぁなぁ主義」はあるのであろう。
そうでなければ沖縄のA級事業を受けている業社が成り立たなくなるらしい。
当時の沖縄県立中部農林土木事務所の職員も特A業社も危ない(倒産)なぁとこぼしていた。
そういう私は写真業を営むがお金に困ると土木工事の下請け業社でアルバイトをさせてもらっていた。
みんな億単位の工事を一生懸命やりながらも自分の給料を想い愚痴をこぼす人もいた。
沖縄の公共事業は日本列島の末端でなく先端であるといえる。
沖縄をたたくマスコミは読者の関心度を気にするが公共工事の根っこを見るだけでなく資本と技術の価格競争の成り立ちにくい公共性(民間企業だけで成り立たないもの)を改めて考える必要があるだろう。
私は中部農林土木事務所に2002年8月から2003年8月まで非常勤務をしていた。
当時土木工事業者の営業マンの話を思い出す。
入札に来ていた彼が「談合」は普通に行われているよと言う。
どこかの業社間で順番があるらしい。
実際特Aクラス(技術のランク)の沖縄の業社は、その談合がないと成り立たないらしい。
当時の中部農林土木事務所の職員も特Aでも危ない(倒産の可能性)というくらい公共工事待ちの業社がほとんどなのだろう。
沖縄の公共工事は、基地があるゆえに莫大な補助金が下りる沖縄だからこそ、日本列島の末端ではなく、先端に当たる。
つまり公共工事の根っこは、樹木の本土や枝葉の地方土木工事にも共通するのではないか。
マスコミは読者の関心度の高めるために沖縄北部の土木業社をマフィア扱いする。
実際この「談合問題」は、沖縄の公共工事の先端の責任を徹底して追及されなければならない。
という私も写真業を営んでいるもののお金がなければ、土木の下請け業社でアルバイトをさせてもらっていた(写真家の最初の頃は写真業のみで食うのは難しかったので)。
億単位の土木工事の仕事をするみんなは、一生懸命働いていたが時々自分の給料を顧みて愚痴をこぼした。
沖縄だけに限らず公共工事の資本と技術の競争原理において、公共性(民間企業と比べて)を問われなければならない時期に来ていることは間違いない