咲とその夫

 思いもよらず認知症になった「咲」の介護、その合間にグラウンド・ゴルフを。
 週末にはちょこっと競馬も。
 

まんぞく まんぞく・・・池波小説

2011-06-29 22:42:22 | レビュー
 「まあ、いやな。うれしそうに笑ったりして・・・・真琴さまは、それで満足なのですか?」

 すると真琴は、真剣になって、

 「うむ。まんぞく」
 
 と、いい、さらに口の中で、もう一度「まんぞく」といってから、

 「これ、千代・・・・」


 と、このようにこの小説のタイトルが、最終章“引鶴”の後段に書かれており、なるほどこの小説で著者が言いたかったこと、それが主人公の口から何とはなしに迸(ほとばし)って出た言葉・・・・そして、これこそがタイトルとして用いられており、著者の意図するところと思われた。

 当方も読み終えて、当方なりに「うむ。まんぞく」「まんぞく」なのだ。
 
 このタイトルの付け方の手法は、先般読み終えた「(剣客商売番外編)ないしょ ないしょ」にもある・・・どちらも女性が主人公の時代小説。


 ところで、この小説は、この間孫の誕生会に出向き最終日の26日、搭乗前の時間潰しにと羽田空港内の書店で求めた大好きな池波正太郎小説の一遍である。

 「(剣客商売番外編)ないしょ ないしょ」の書評の中にも紹介されていたこの「まんぞく まんぞく」、何かの折に買い求めようと思っていたもので・・・・。



 空港内で早めの夕食も済ませ、搭乗までの1時間半余りの間に1頁をめくって読み始めると、いつものようにすんなりと小説の世界に誘(いざな)われてしまった。

 今回の孫の誕生会と言う小旅行も兼ねた旅で、いささかの疲れもあったが、大好きな池波小説の頁をめくりめくと・・・ついつい、時間の経つのも忘れ疲れもとれてしまうから不思議である。

 そして、これがブログのネタへと変身するから、一石二鳥どころか、三鳥、四鳥である。(笑)


 この小説の主人公は、女剣士である・・・・堀真琴の16歳から27歳までの話。

 「横顔は、女として見るならば、化粧もない顔だし、格別美しいわけでもない。けれども、男として見るときは、いかにも若々しく、美しいのだ。美しいから尚更に、凛々しく感じられる」


 そして、自分の頑(かたく)なな物の見方や考え方が一気に解きほぐされて、心も素直になったことから、思わず口をついて出た言葉がタイトルとなっている。

 いつもながら、著者の巧妙なタイトルの付け方に感服するばかりである。

 池波小説に登場する女剣士(女武芸者)には、剣客商売に登場する「佐々木三冬」がいる・・・この人は凛として、美しい女(ひと)として描かれている。

 「ないしょ、ないしょ」では、根岸流・手裏剣の名手「お福」が主人公であり、剣客商売に根岸流・手裏剣の名手が登場する・・・お秀。

 
 さて、この物語の筋立ては、敵討ちである。それも若い女が家来の敵(あだ)を討とうと剣を学び、苦悩しながらも剣に生き、女武芸者として生きようかとする気持ちもあったが、七千石の大身旗本・堀内蔵助直照の養女であり・・・家名を継がなければならない身でもある。

 真琴は、堀内蔵助直照の妹の娘であったが、その父親・佐々木兵馬の顔も母の顔も知らないで育っており、亡き父母と自らの出生について誰も話してくれない。

 しかし、本編を読み終える間際に出生の秘密が、思いもよらない人物の回想により分かるが、主人公にも誰にも語らず・・・読者にだけ。

 その秘密を墓場まで持っていくのである・・・・昔の人の忠義心がさらりと描かれている。

 ところが、今の政治家をはじめ多くの日本人が忘れ去った生き様が、ここには描かれている・・・さらりと。

 日本人の日本人たる生き様、まさにそれこそが池波小説の神髄であり、当方が賛美して止まないで読みふけっている証でもある。そして、池波小説に常に描かれている「人は死ぬために生きる」が、キチンとここでも描かれている。

 生き生きと描かれている登場人物とその時代背景、その小説というわずかの間に“人の一生”と“その生き死に”を垣間見ることができる・・・だから、面白い。

 そして、自らの身に置き換えてこれからの生きる糧の一滴(しずく)にでもなればと思いつつ読み終え、さらにもう一度、さらにもう一度と読み返したくなる・・・魔力があるから不思議。

 搭乗前、搭乗中に半分以上読み終えたが、自宅に帰り翌朝には、一気に読み終えてしまった。


 何度読んでも面白い。そして、為になる小説群である。

 先般から三度(みたび)読み始めている「忍者丹波大介」も、中途になっており、今夜から読み始めるかな・・・。(夫)


[追 記]
 深夜、覆面をして、酒に酔った侍に喧嘩をしかけては、髷を切ったり川に投げ込んだりして楽しんでいる男装の女剣士。それは、十六歳の時、浪人者に犯されそうになり、家来を殺された堀真琴の、九年後の姿であった。

 真琴は、敵討ちを心に誓って剣術の稽古に励んだ結果、剣を使うことが面白くて仕方なくなったのだが・・・・。
 女剣士の成長の様を、絶妙の筋立てで描く長編時代小説。
 (出典:池波正太郎「まんぞく まんぞく」新潮文庫刊)


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