現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

最上一平 作、伊藤秀男 絵「黄金の夏休み」

2017-07-04 15:50:25 | 作品論
 2013年11月に出版された大型絵本です。
 作者は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)で闘病中の叔母さんを励ますために、この本を書いたそうです。
 残念ながら出版には間に合わずに叔母さんは亡くなられたそうですが、この絵本の登場人物として新しい命を得ました。
 叔母さんをはじめとした作者にとっては懐かしい人々が、現地まで赴いて描いたという画家の迫力のある風景の中に蘇ります。
 この絵本は一種のユートピア物語なのですが、子どもたちよりも、こういった原風景を共有できる叔母さんぐらいの年配の方々の方が楽しめるかもしれません。
 私はこういった作品を老年児童文学と呼んでいますが、出版社が売り方や流通の方法を工夫すれば児童文学の新しいジャンルになると思っています。
 
黄金の夏休み
クリエーター情報なし
文溪堂
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島田雅彦「傾国子女」

2017-07-04 15:38:19 | 参考文献
 広辞苑によると、「傾国」とは、「一顧傾人城、再顧傾人国(美人が色香で城や国を傾け滅ぼす)」という漢書から来た言葉で、「美人、特に遊女」のことで、より一般的な傾城(けいせい)と同じ意味です。
 「子女」は女の子のことですから、やや重複している感じもしますが、「傾城の美女」という言い方もあるので、要は「色香で国を滅ぼす美女」という意味で題名を付けたのでしょう。
 この作品は、絶世の美女の主人公の男性遍歴を通俗小説の手法(偶然の多用、リアリティにこだわらない、大胆な筋立て、典型的な人物造形、善玉悪玉の役どころがはっきりしている、官能的なサービスシーンの頻出など)で書いたものです。
 ただし、ところどころにゴシック文字で強調している作者の意見の生っぽい文章や、背景になっているバブル時代の崩壊へのやや斜に構えた作者の視線からすると、「擬通俗小説」なのでしょう。
 一読して、作者のねらいは分かりますが失敗作かなという気がします。
 「傾国」と銘打ちながら、せいぜい自民党の総理大臣候補の悪行をあばいて失脚させただけで、スケールが小さすぎます。
 また、通俗小説としては、書き方が上品すぎて、エンターテインメントとして物足りないです。
 特に主人公の十代から四十代までさまざまな官能シーンが出てくるのですが、書き方がうまくなくて少しも読者を楽しませてくれません。
 これは単なる想像ですが、島田自身があまりこの方面の経験がなく、調べたことを書いているだけにすぎないのではないでしょうか。
 私は現在の官能小説には全く無知なのですが、かつてのこの業界の大御所、川上宗薫先生や宇能鴻一郎先生の作品には身銭をきって体験したことのバックボーンがあって、読者を十分に楽しませてくれるものでした。
 ちなみに、宇能は島田が六回も候補になりながらとうとう受賞できなかった芥川賞を「鯨神」で受賞していますし、川上も五回候補になっていますから、純文学の腕前もなかなかのものです。
 朝井リョウの「何者」の記事でも書きましたが、やはり自身で体験したことには、他の人には書けない魅力を持たせることができるようです。
 児童文学の世界では、もちろん官能シーンはないのですが、魅力のある女の子や男の子を描くことの重要さは変わらないでしょう。

傾国子女
クリエーター情報なし
文藝春秋
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ブックスタンド

2017-07-04 14:24:25 | 参考情報
 児童文学の研究においては、膨大な文献を読まなければなりません。
 読書効率の向上のために、電子書籍リーダーのキンドルペーパーホワイトを導入しました(その記事を参照してください)。
 しかし、キンドルは日本語のカバー率が悪いので、洋書やワードで書かれたドキュメントを読むのにはすごく便利なのですが、児童文学の本や研究書を読むのには使えません。
 雑誌などの論文は、マジックスキャンというハンディスキャナ(その記事を参照してください)でJPEGに変換してパソコンで読んだり、ワードに変換してキンドルへ送って読んでいますが、すべての本をスキャンするのは現実的ではありません。
 そこで、非常にアナログ的ですが、エレコムのブックスタンドEDH-004を購入しました。
 これは、傾斜角度も18段階に調整できますし、シリコンストップホルダーで厚さ62ミリまで挟み込むことができて便利です。
 特に、本をホールドしたままでページめくりができるので、読むのにわずらわしくありません。
 また、幸か不幸か老眼気味なので、本を少し離して読むことができるので好都合です。
 読みかけの本はホールドしたままにしておけるので、続きをすぐに読むことができます。
 ただし、ストップホルダーの間隔がやや広いため、文庫本はホールドしにくいです。
 どちらかというと、厚い本(児童文学関連には多い)を長時間読むときに適しているようです。
 紙の本はブックスタンドで、電子書籍とワードで書かれたプライベートドキュメントや論文はキンドルペーパーホワイトで、それぞれ使い分けて読書の効率を最大化にしようと思っています。

ELECOM EDH-004 ブックスタンド
クリエーター情報なし
エレコム


 

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小野正嗣「お見舞い」九年前の祈り所収

2017-07-04 14:19:51 | 参考文献
 「ウミガメの夜」とほぼ同じ時間設定で、地元民の視点で描いています。
 ここでも、現在と過去、生と死(あるいは病気)、都会と過疎地などの二重性が描かれています。
 時間や視点などの揺らぎは他の作品よりも小さく、通俗性もある程度取り入れているので、かなり読みやすくなっています。
 その分、平凡な地方の話になってしまっているきらいはあります。
 文学性(芸術性)とわかりやすさを両立させるのは、練達の作者をもってしてもやはり難しいようです。

九年前の祈り
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講談社
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忍びの国

2017-07-04 13:36:01 | 映画
 ジャニーズ事務所のアイドルを、主役と敵の総大将役に配した時代劇です。
 いわゆるアイドル映画とは違って、アクションなどにはかなりの工夫が見られますが、基本的にはアイドルたちをいかに魅力的に見せるかが一番大事です。
 その点ではかなりうまくいっているので、彼らのファンのリピートがおおいに期待できます。
 しかし、やはり予算が限られているので、CGや特撮は、ハリウッドの派手な映画を見慣れた目には中途半端に映ります。
 また、拝金主義の「忍びの国」が日本中に広がっているとして、忍者たちが一瞬現代の若者たちに変身する映像をラストに見せる演出には違和感を覚えました。

 
忍びの国 オリジナル脚本
クリエーター情報なし
新潮社
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