現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

庄野潤三「静かな町」庄野潤三全集第四巻所収

2018-05-29 08:57:59 | 参考文献
 南部旅行の途中で立ち寄った、ミシシッピ川沿いの小さな町ナチェッツでの一日を描いています。
 町の名前は、先住民のネイティブ・アメリカンにちなんでいますが、その後、フランス、イギリス、スペイン、最後にアメリカと支配者が変わったので、様々な文化の名残りが残っているようですが、作者の関心はここでもそういったところにはなく、酒場で知り合った副保安官を中心に市井の人々との触れ合いが描かれています。
 かつては綿花の集荷地及び船積み港として栄えたこの町の今ではすっかりさびれた雰囲気と、親切だがややアルコール中毒気味で身を持ち崩しかけている副保安官の印象が奇妙にマッチしていて、懐かしいようなさびしいような不思議な読後感を残します。

庄野潤三全集〈第4巻〉 (1973年)
クリエーター情報なし
講談社
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小川洋子「愛犬ベネディクト」いつも彼らはどこかに所収

2018-05-29 08:23:23 | 参考文献
 僕と妹とおじいちゃんだけの静かな生活が描かれています。
 学校へ行かなくなった妹は、溺愛するブロンズでできた小犬のベネディクトと手作りのドールハウスだけの小さな世界でひっそりと暮らしています。
 しかし、そんな妹が盲腸の手術で入院すると、そこに大きな空隙ができたことに僕は気づかされます。
 現実と空想が交錯する不思議な世界を、小川の静謐な文章がくっきりと捉えます。
 こういったファンタジーとリアリズムの狭間の世界は、本来児童文学の得意とするところです。
 このような作品が、現代の児童文学でも生みだされることを希望します。

いつも彼らはどこかに
クリエーター情報なし
新潮社
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