前作の「極北を駆ける」(その記事を参照してください)で、一年間エスキモーの村に住み込んで、極地で生きる技術(犬ぞり、狩猟、生肉による食生活、言葉など)を習得した作者が、それを生かして、北極圏を、グリーンランドからカナダを経て、アラスカに至る一万二千キロに及ぶ犬ぞりによる単独行した記録です。
作者の単独行の目的は、将来の犬ぞりによる南極横断の訓練のためなのですが、この単独行自体も過酷を極め、何度も命を落としそうになります。
日本人の感覚では読むのにつらいシーン(そりを引けなくなった犬を見殺しにしたり、狩りをして獲物を得たりするなど)もあるのですが、作者自身はそりを引くハスキー犬との関係が一番辛かったようです。
そういった意味では、この点に関しては、最後までエスキモーにはなれきれなかったようで、日本人(犬はペットである)とエスキモー(犬は運搬手段であり、使えなくなったら食料でもある)の感覚の間で葛藤します。
いくら極地生活の技術的には、エスキモーを凌駕するようになっても、心情的には最後まで日本人のままだったようです。