著者は、児童文学における二種類の暴力について書いています。
ひとつは、児童文学の世界において描かれたいろいろな暴力(肉体的なものも精神的なものも含みます)です。
その例として取り上げられた作品は、梨木香歩「西の魔女は死んだ」、S.E.ヒントン「アウトサイダーズ」(かつてのヤングアダルト物の代表作の一つです)、上橋菜穂子「獣の奏者」などです。
もうひとつは、それを読むことによって、体調を崩してしまうほど暴力的なインパクトを持った児童文学作品です。
その例としては、ルイス・キャロル「鏡の国のアリス」とエドガー・アラン・ポー「アッシャー家の崩壊」などをあげています。
以上のように、取り上げられたのはすべて評価の定まった作品(キャロルやポーは古典です)ばかりで、しかも特に新味のある論考はありませんでした。
特に、後者に関しては、「鏡の国のアリス」は新井素子の、「アッシャー家の崩壊」は著者自身の、子ども時代の読書体験を紹介したにすぎません。
極めて早熟で感受性も鋭かったであろう二人の経験を例に挙げても、コモンリーダーと呼ばれる一般の読者にはまるでピンとこないでしょう。
また、なぜ「暴力」を2015年時点での児童文学(日本におけると限定してもいいでしょう)の補完計画として挙げたか、またそれらをどのように児童文学作品に反映するかについては、まったくと言っていいほど書かれていないので唖然とさせられました。
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日本児童文学 2017年 04 月号 [雑誌] |
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