2017年9月30日に行われた、日本児童文学学会東京例会における講演会です。
80歳になられた戦争児童文学研究の第一人者の長谷川先生が、今までの研究活動を振り返られる形で、以下のような項目で初学者にもわかるような形で講演されました。
1.「アジア太平洋戦争」の歴史的位置づけ
「戦争」といっても、「十五年戦争」、「太平洋戦争」、「第二次世界大戦」など、使う用語によって戦争が行われた時期や地域が変わってきます。
現在では、「アジア太平洋戦争」と言う用語が定着されていますが、戦争児童文学の作品の中ではさまざまな用語がそのまま使われているので、注意が必要です。
2.児童文学全般の中での「戦争児童文学」の位置
児童文学作品の一部を示す下位概念の一つですが、ファンタジーのような様式による下位概念ではなく、「戦争にかかわる何らかの素材を対象としたり、観念としての戦争を扱ったりしたもの」で、こうした概念は日本以外の国には存在しません(もちろん、戦争を扱った児童文学作品自体はたくさんあります)。
3.「戦争児童文学」という概念の生成と展開
「戦争児童文学」という概念は、1960年代に反戦平和教育の一環として、教育界の方で生み出されたもので、それに呼応する形でその後も多くの児童文学作品が創作されました。
長谷川先生は、この「反戦平和児童文学」とでも呼ぶべき「戦争児童文学」を、アジア太平洋戦争以外の戦争を取り扱った作品や、戦前戦時中の好戦的な作品も含めて適用範囲を拡大すべきと主張されています(関連する記事を参照してください)。
4.戦後における「戦争児童文学」の展開過程の諸問題
GHQの検閲の問題、執筆者や読者の特性による伝達性の問題、「かわいそうなぞう」問題(その記事を参照してください)などについてのお話がありました。
講演の詳しい内容については、関連する記事と重複しますので、そちらを参照してください。
以上の内容について、1時間20分にわたって講演され、貴重な資料(戦時中の雑誌など)も回覧してくださいました。
耳がご不自由とのことで、直接の質疑応答ができなかったのは残念だったのですが、質問票を通して参加者の質問に30分も答えてくださいました(いつもの例会と違って、むしろたくさんの質問が出ていました)。
内容は初学者向け中心でしたので、私にとっては新しい情報はあまりなかったのですが、以下のような研究者としてあるべき姿を提示していただき、深い感銘を受けました。
まず、講演の中で紹介された谷瑛子「占領下の児童出版物とGHQの検閲」(2016年)において、先生ご自身の認識ミスが二つ明らかになったことを包み隠さず話され、こうした後発の研究で新しい発見があれば、研究者は今までの自説に固執しないで修正すべきであることを教えてくださいました(心情的にはなかなか難しいことなのですが)。
さらに、この講演を五月ぐらいに依頼されてからの四か月間は、他の仕事はしないでこの準備にあてて、ご自分でも編集に参加された「「戦争と平和」子ども文学館(全二十巻、別巻1)」を全部読み直されたそうです。
いつもイージーな文章を書き飛ばしているわが身としては、襟を正す思いがしました。
戦争児童文学は真実をつたえてきたか―長谷川潮・評論集 (教科書に書かれなかった戦争) | |
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