「群像」昭和45年11月号に掲載されて、この作品を表題作とする中短編集に収められた中編です。
また、昭和52年にこの作品を表題作とする文庫本の中短編集に再構成されました。
この作品においては、両親と長姉と二人の弟で構成されていた作者の家族が、姉の和子の結婚を間近に控えて、大きな変化を予兆させるいろいろな事件が描かれています。
長女の結婚の準備、長男の受験失敗、次男のお手柄(長女が結婚してから住む貸家を見つけてきた)、この家に引っ越してからずっと一緒だったセキセイインコの老衰などが描かれていますが、作者はそれをシリアスには描きません。
いつのまにか家族全員でやることが夜の日課になった「絵合わせ」というカードゲームのやり取りを接着剤として、静かにやがて訪れる家族の変化(五人家族が四人家族になる)への、心の準備のようなものを紡いでいきます。
その暖かく精緻な描写は、さすがに野間文芸賞を受賞した名作と思わせるものがあります。
そして、この作品集では、「丘の明り」、「小えびの群れ」、「絵合わせ」の三つの作品集から、家族の成長がわかる短編が選ばれているので、読者はいつのまにか、この家族が親戚よりも身近で、かぎりなく自分自身の家族であるかのように感じられます。
そのため、長女の結婚を喜ぶとともに、家族の黄金時代が過ぎ去ってしまったことの寂しさも感じます。
どの家族にも、黄金時代というものはあります。
私事になりますが、私の家族の黄金時代は、次男が誕生してから、長男が大学一年で次男が高校二年の時に、二人で都内のアパートへ移った時まででしょう。
こうしたどの家にもある家族の黄金時代を、ここまで緻密に描き出した作品集を、私は他に知りません。