ふっと気づくと主題歌とともに、映画のいろんなシーンが頭の中に浮かんでくるんですよね、『東京難民』
原作は当然本編より長いのですが、最初から最後まで全くと言って主人公の時枝修に感情移入できなかったというか、嫌悪感だけで終わってしまったんですよね。(友達に借りたお金を全然返そうとしていないし)
映画も最初は同じ感覚で・・ でもそれがラストシーンの彼からはそんな嫌悪感が消えてしまって、それどころかエールを送りたくなってしまって。
【以下ネタバレ満載です】
ただただ軽薄でチャラチャラした大学生(蒸発した父親と実は似ているのかもしれない)の時枝修(中村蒼さん)。
授業料や家賃が滞納されている事にも気づかず(どうして教えてくれないんですか?と怒っていたけど、家賃についてはちゃんと配達証明郵便が来ているし、授業料だって本人あての通知が当然来ているはず)。
大学除籍と言われても問題の大きさに全く気づいていないし、、マンションを追い出されてもまだ自分が悪いことに気づいていない。(全てヒトのせい)
親からの仕送りを何だと思っているのか、訳のわからないビンテージ物のデニムが12万円!?そんなもの買ってたなんて!
現実問題を全く把握せずにパチンコですっからかんになったり、高いたばこは吸うわ、アルバイト料から所得税が源泉徴収される日本の税法の当たり前のことにも文句を言い。
とにかく大学で何を勉強していたのか?もうイライライライラ。原作を読んだときと同じく、全く共感できません。
その後、薬の治験のアルバイトでやっとまとまったお金を手にするのに、簡単に騙されて全部失い、そればかりか給料前借で結局はがんじがらめになってしまうし。
で、このホストクラブからが、R15展開なんですが・・(ほんわか佐々部映画を忘れてください)
ここで登場するのが看護師の茜さん(大塚千弘さん)。
夜勤明け、真面目な様子。でもなんだかため息が出そうな、疲れていて、何も楽しいことがないような・・
(そんな彼女は、ショウインドウの向こうの華やかな世界へのあこがれも実はあったのでしょうか)
彼女にも「隙」があったのか、修が騙された相手のルイに同様に声をかけられ・・
ホストクラブへと足を踏み入れてしまいます。修のいるホストクラブに。
そしてその後の彼女の展開が・・!(大塚さん素晴らしいです。最終シーンまで通して、最優秀主演女優賞間違いなしって感じです。スピンオフで彼女目線での映画を観てみたいくらいです)
さてさて修なんですが、厳しい仕事の中でも、友達のように思えるひと(順也)との出会いや、また自分を指名してくれる茜との交流など、ほんの少しですがやっとここで「考える」ようになります。
ですが、ここでもまた茜を裏切って結局は順也と一緒に逃亡します。(一応、順也の彼女のルイを助けるためにとった行動のようなんですが、それで自分のことを思ってくれている茜を裏切ってもいいのか?とまたまた腹が立ってきます)
修と順也は千葉の建築現場で住み込みで働くことに。
ここでもまた別の難民(貧困ビジネス)について描かれていますが、小早川さん(小市漫太郎さん)の存在感がものすごいいいです。
修が出会って影響を受けるひとがまた一人といった感じです。
でもそのおかげで、茜さんに会いに行ってしまい、結局ホストクラブの店長(金子ノブアキさん)に所在がばれて連れ戻されます。
順也は修をかばってくれるのですが、そんなことで許されるわけはありません。殴る蹴るの暴行を受け豪雨の中、河原に投げ捨てられます。
(こんな恐ろしい暴力シーン、見てられません)
修はやっと自分の置かれた立場がわかったのかもしれません。
ホームレスの方々に助けらた修。記憶喪失の様子。(実は「自分」を捨てようとしていただけのようですが)
自分の好きな長嶋監督から一文字もらって「茂って名前で呼ぼう」と優しく言ってくれる鈴本さん(井上順さん)。
*先日の「はなまる」で、井上順さんがやたら長嶋さんのことを話していたのは、実はこんな伏線があったんですね。
そして修は茂としてホームレス仲間と一緒に雑誌回収販売の仕事をしていくことになります。
そんな中、雑誌の中に茜さんが掲載されている広告を見つけます。
「元ナースの光ちゃん」そんな名前でナース服を着たソープ嬢の写真です。
そのページを切り取り、夜中にそっと見つめていたところ、鈴本さんが「こんな雨じゃ眠れないね」と声をかけてきます。
「僕はもう終わっちゃってるんで」
「生きてるんだから、修君はえらい」
(鈴本さん、全部わかってたんだ・・)
茂という名前は、本当は鈴本さんの息子さんの名前。
小屋の壁に貼ってある新聞記事「東日本大震災で亡くなられた方々」の中にそのお名前を見つける修。
修は茜さんにも会いに行きます。
「お金持ってるの?」「じゃお客さんだ」茜はつっけんどんに言いのけます。
「ごめんさい」と謝る修を最初は完全に拒否します。
でもその後「お金はもういい、あのときの私があのときの修くんにあげたものだから」
「私も修くんも、終わってなんかいない」茜さんの言葉が本当に力強く感じます。
「シャンパンコールもう一度お願い」
(よい思い出なのか、悪い思い出なのか、わからないけど、二人の出会いがよみがえります)
鈴本さんのところに戻った修は、アルミ缶つぶしを手伝いながら「父を探そうと思います」と言います。
その言葉を聞いていた鈴本さんの手元の空き缶からコロンと出てきた100円硬貨。
「餞別だ」と言って修に渡します。
鈴本さんには修がこの100円玉と同じように、暗い中から飛び出していくと感じたのでしょう。
修が手にしたその100円玉は、修と同い年。平成3年生まれでした。
最初どうしても共感が持てなかった主人公。
最後にはすっきりしたいい表情だったと思います。いろいろな人との出会いで、なんだかすごく成長したような気がします。
主題歌の「旅人」が本当にぴったり。
今の日本は一度でも失敗したら立ち上がれない仕組み。本当でしょうか?
修も茜さんも、決して終わってはいないと思います。
全ての世代の方にぜひ観てもらいたい作品だと思いました。
R15だけど中学生にも。
【長文になりすみません】