グスマンの映画 関川宗英
『真珠のボタン』(チリ 2015 パトリシオ・グスマン 82分)
2015/10/10 山形国際ドキュメンタリー映画祭 コンペティション部門作品
人類はもともと海に住んでいた
チリにこんなドキュメンタリーの監督がいたとは知らなかった。パトリシオ・グスマンの監督、脚本、編集の一本。チリ、南部の西パタゴニアの海、川、氷のショットに圧倒される。そして、詩的な言葉。18世紀には1800人以上いた先住民は、現在20人。植民地政策の支配者たちによる先住民大虐殺と、ピノチェト政権下の大虐殺、パタゴニアの殺戮の歴史を真珠のボタンが結ぶ。
フィヨルドの複雑な海岸線、極寒の、風速55メートルの地で、先住民族はカヌーを作りながら、海を1000キロにわたって移動する。カヌーが壊れれば、ナイフ一本で樹木からまたカヌーを作って移動する。海とともに一万年以上生きてきたパタゴニアの先住民族。その顔は、縄文人の血を引くというアイヌの人たちと似ていた。
砂漠、海、宇宙を、チリの歴史と民族で結ぶ、詩の世界だった。
監督のパトリシオ・グスマンは公式パンフに書いている。
西パタゴニアは世界最大級の群島だ、そして、7万4000キロもある海岸線、南アメリカ産南部まで続く広大な“海の迷宮”は、「人類がもともと海に住んでいたことを思い起こさせる」と。
「ドイツ人科学者のテオドール・シュベンクによれば、人間の内耳は渦巻き状の巻貝のようであり、心臓は2本の海流の合流点であり、我々の体の骨のいくつかは、渦巻きのような螺旋状になっているという。」(パトリシオ・グスマン)
『チリの戦い - 武器なき戦い』 (チリ 1975-78 パトリシオ・グスマン 263分)
2015年山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映
1973年、チリにアジェンデの社会主義政権が誕生する。しかし右派勢力はアメリカの援助を受け、政権を弱体化させていく。そして右派は軍部と結託してクーデターを起こす。全編263分の三部作。第2部の途中からと、第3部を観ることができた。ニュース映画フィルムをつなぎ、労組の議論などはやや冗長だが、2部のラスト、1973年9月11日、アジェンダがチリ国民に向けた最後のラジオメッセージ、そして空軍による国会(?)の銃撃シーンには、自ずと緊張が高まる。
2015年の山形で、グスマンを知る。