今から30年ほど前、宮本氏(下記(注)参照)は役所内で後輩から「今週はすしを食べに行かないほうがいいですよ」とささやかれた。
なぜかと聞けば、「生エビにコレラ菌が発見され、もう市場に出回った」と後輩は答えた。「なぜ公表して、警戒を呼びかけないのか」と重ねて尋ねると、「上層部」が発表しないと決めたからだという。幸いにして患者は出なかったが、上司に「対応がおかしいではないか」と抗議したところ、逆にたしなめられた。
「考えてもみろ、1ヵ月ほどすし業界や料亭にお客が来なくなれば、経済的なロスは計り知れない。40~50人のコレラ患者なら、入院させて治療しても経済的な負担はたかが知れている。もうちょっと大人の発想をしなければ役人として生きていけないよ」
(注) 宮本氏は、米ニューヨーク医科大の准教授などを歴任し、1986年に厚生省(現・厚生労働省)に入省。約10年勤めて退官し、著書「お役所の掟」などを書いて、官僚や役所の実態を暴露した。
佐高信 毎日新聞