報道されてから随分経ってしまいましたが、興味深い内容ですので、少し見ていきたいと思います。
社会意識に関する世論調査
まず、「日本の誇り」というのは調査項目としてあるようで、日本を誇りに思ってもいいのだろうと思われます(笑)。それと、「ネットウヨ」みたいな非難を浴びやすいネット界隈の若年層の存在がありますが、社会の少数派ということなのではなかろうか、と思われます。結果の概要から一部引用してみたいと思います。
(3) 国を愛する気持ちの程度
他の人と比べて,「国を愛する」という気持ちは強い方だと思うか,それとも弱い方だと思うか聞いたところ,「強い」とする者の割合が52.1%(「非常に強い」13.5%+「どちらかといえば強い」38.6%,「弱い」とする者の割合が9.7%(「どちらかといえば弱い」8.6%+「非常に弱い(全くない)」1.2%),「どちらともいえない(わからない)」と答えた者の割合が38.2%となっている。
性別に見ると,「強い」,「弱い」とする者の割合は男性で,「どちらともいえない(わからない)」とする者の割合は女性で,それぞれ高くなっている。
性・年齢別に見ると,「強い」とする者の割合は男性の50歳代から70歳以上,女性の60歳代,70歳以上で,「弱い」とする者の割合は男性の20歳代,30歳代,女性の20歳代で,「どちらともいえない(わからない)」とする者の割合は男性の30歳代,女性の20歳代から50歳代で,それぞれ高くなっている。
大体の傾向で言いますと、歳を取ると愛国心が強まる傾向にあり、逆に愛する気持ちが「弱い」のは若年層、ということのようです。ネット上で一部観察されるナショナリズムに突っ走っているかのような、「ネットウヨ」的存在は少数派ということのようです。このアンケートが必ずしも全部の傾向を示しているとは証明できないものの、N数もそれなりに大きく信頼性はあると考えます。ですので、「若年層では高齢層に比べて国を愛する気持ちが弱い傾向」ということですね。「国を愛する気持ちを育てる」という項目では8割が必要性を肯定していますが、若年層ではあまり必要とは考えていないようです。
で、ここからが本題です。
初めに、「良い方向に向かっている分野」についてです。
良い方向に向かっている分野
このグラフで注目する点は、「良くなっているところ」ではなく、大幅に悪化している項目です。それは、「医療・福祉」の23.1→16.5と、「景気」の16.9→12.1で、それぞれ約3割近く悪化しています。憂慮される分野、ということなんだろうと思います。
次に「悪い方向に向かっている分野」を見てみます。
悪い方向に向かっている分野
ただの印象ですが、「良くなっている」と評価するのはどちらかというと少なく、「悪化している」という意見の方が多いのであろうな、と思います。これは別にいいのですが、注目したのは、項目中で悪化が改善方向に向かっている(数字が減少している)のが「外交」で、31.3→22.4と3分の2くらいに減っていますね。昨年の安倍総理訪中とその後の外交政策については、評価されているのだろうと思われます。これとは逆に、悪化しているのが目立つのは、「教育」の23.8→36.1、「医療・福祉」の19.0→31.9、「地域格差」の15.0→26.5、「雇用・労働条件」の28.9→33.5、あたりです。変化率は順に、52%、68%、77%、16%となっており、特に上位3つの悪化が際立っています。
「教育」についてですけれども、官邸主導で取り組まれているのですが、報道頻度などにも影響を受けている可能性はあるかもしれません。教育システムが1年くらいの間に大きく変わったとは思えず、印象に過ぎない部分は多いと思いますけれども、多くの国民が心配している(約36%が挙げている)ことには変わりなく、政治的には「何かの成果」を出さざるを得ないということでしょうか。実際、補佐官を置いているし、教育再生会議も設置されており、政治過程に上がってきているテーマですので、これはこれでいいでしょう。
「雇用・労働条件」については、景気回復に伴って失業は最悪期に比べれば改善されたものの、個々の労働者レベルで見てみると、決して良い方向には行っていない(賃金が上がらない、拘束時間が短縮されているというわけでもない、派遣・契約・パートなどの非正規待遇のまま、等)ということがあるのではないかと思われます。もう少し時間が経ってくると、賃金や雇用条件面での改善傾向が出てくるかもしれませんので、今後のトレンドがどうなっていくかということを注意して見ていくべきかと思います。
「地域格差」ですけれども、これは居住地域が関わるものですので、アンケート対象者が首都圏に多ければ悪化を選択する人の割合がそれほど多くはないかもしれません。増加率は最大であるので(報道の影響もあるかもしれませんけれど)、何らかの対応を求める国民は少なくないと思われます。それでも、先日の地方選の結果で見ると、「格差問題」というのは選挙の争点として特別な意味を持つものではなかったことが窺え、参院選のテーマとして「格差問題」を殊更取り上げるメリットは薄れるのではないかと思います。青木さんあたりは「格差問題を取り上げないと参院選は戦えない」とか言っていたが、与党側にとってはこの問題をクローズアップして野党との差別化を図ることは難しいでしょう。有権者の支持を集めようと思って格差是正を強く訴えれば訴えるほど、与党側の責任の方が問題となってくるのではないかと思います。
最後に「医療・福祉」ですけれども、増加率では地域格差の次に多く、悪化している分野に挙げた割合で見ても3割以上となっており、「見えない不安」ということがあるのではないかと思われます。それは「医療崩壊」に端的に表されることなんだろうな、ということです。産科・小児科の問題を代表として、多くの国民が「身近に感じられる変化、恐怖」がじわじわと浸透しているのではないかと思われます。勿論この問題についても、報道の影響というのはあると思いますが、住民たちの実感が結構あるのではないかと思われるのです。例えば、地域の中核的病院からいくつもの診療科が消えていく、遠い町に行かないと診療を受けられなくなってきている、といった、割とハッキリした変化を感じ取っているのだろうと思うのです。この問題に対しては政治的に何ら方向性や政策といったものが出されてきておらず、唯一あるのは「効率化を図れ」という掛け声ばかりではないかと思えます。この問題について「公約」なり何なりを出して、地域医療を確保することとか医療資源を適正配分できるようにするとか、そういう論点を参院選のテーマに取り上げるのは有効だと思いますが如何でしょうか。