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新銀行東京に学ぶ経済学~その4

2008年03月20日 18時20分41秒 | 経済関連
これまでの続きです。

新銀行東京に学ぶ経済学(笑)

新銀行東京に学ぶ経済学~その2

新銀行東京に学ぶ経済学~その3(色々追加)


1)木村剛氏の主張

新銀行東京の処理問題を考える前に、大変貴重なご意見(笑)を拝見したので紹介しよう。

週刊!木村剛 powered by ココログ 週刊!スモールビジネス 「つながり力」で中小企業は助かるのか?

(一部引用)

福田首相は、「私は日本人の力を信じています。日本人は、目前に困難があろうとも、必ずや未来を切り拓く、その力があると確信しています」と施政方針演説の最後の最後で訴えたが、貸金業法の改悪などという「人災」を起こし、中小企業のカネ回りを悪くさせた張本人が言うべき台詞ではない。
 現在起こっている中小企業の資金難は、誤った政策によって引き起こされたものである。中小企業による経営失敗に起因するものではない。
 まずは、貸金業法の改悪を是正し、中小企業の資金繰りが正常化してから、「日本人の力」を確信してもらいたいものだ。目先のおカネが回らない状況で、内容不明の「つながり力」が力を発揮できるわけがない。

=====

日本振興銀行元社長の木村剛氏の言い分です。いかがでしょうか?
これまで書いてきたように、新銀行東京と日本振興銀行は似たところが多いわけです。中小企業に高金利帯で貸す、というところです。

私の理解の範囲で木村氏の主張を手短に書けば、こんな感じです。

・中小企業は資金難
・誤った政策が原因
・その政策とは貸金業法改悪という人災
・貸金業法改悪是正で資金繰り正常化

キモになるのは、貸金業法改悪(笑)という人災によって、ノンバンクが貸さなくなり資金繰りが悪化した、ということです。ここで、誰しも思う疑問というのを書いてみましょうか?

◎「ノンバンクが貸さない」のであれば、他の誰かが貸せばいいのではありませんか?

通り一遍の主張では、「他の誰か」がヤミ金ってことになってしまう、というものです。池田信夫氏をはじめ、経済学信奉者たちや産経新聞の主張とかがそうでした。

ならば、日本振興銀行とか新銀行東京とかが貸せばいいのではありませんか、って話ですな(笑)。その為にこれら銀行を作ったんでしょ?ノンバンクが貸せなくなったのであれば、ノンバンクよりもコスト率の低い両銀行が貸す相手が増えており、ビジネスチャンスが「確実に広がっている」ということですよ。何故貸さないのでしょうか?って話だな。競合相手が減ったんですよ?そうでしょ?ならば、貸し手を求めている中小企業は残ったままで、貸し手だけが撤退していったのであるから、そこに日本振興銀行や新銀行東京が取って代わればいいだけではないか。何故それができないのか?
産経新聞も「新銀行東京が貸せ」と書いてあげればいいだけなのに(笑)。

これまでのシリーズ記事で書いてきたように、銀行への返済に回す為に貸金から資金調達させてきたのが実態、ということであれば、最後の貸し手となっている貸金が手を引けば新銀行東京のようにババを引かされる、ということになるだろう。そうはなりたくないから、貸せないのではないか?

貸し手減少で中小企業の資金繰りが悪化しているのであれば、銀行が貸せば済む話だろ。銀行貸出は何の為にあるんですか?(笑)貸金業法改正という天恵ではないか。ビッグチャンス到来ではないか。それなのに、何故貸さないのか?
理由は簡単だ。
「貸倒になるから」
だろ?

返済できる中小企業が貸し手不足で資金繰りに困っているんだ、返せるのに借りられないんだ、と散々主張してきたのであるから、「貸倒にはならない(だろう)」のであれば、貸せばいいだけだ。しかも金利が高いのは関係ないのであろう?貸倒になるわけじゃないのに、何故貸せないの?(笑)

貸せるのに貸さない、貸し手が減って借り手が困ってるのに貸さない、って、どう考えても変じゃないか?
何の為に銀行貸出があるのだ?その為の銀行なんじゃないの?

笑える。
いかに都合よく経済学だか銀行経営だかの理屈を用いているか、ということだな。そういう御託を並べる前に、実際貸せばいいだけなんだから。しかも、日本振興銀行や新銀行東京にとっては、思いもよらなかった大チャンスなのに、だ。

ある中小企業Xに貸すとしよう。ノンバンクがこれまで15%の貸出金利で貸していたのであれば、貸倒リスクは変わらないから、銀行も同じ金利で貸せる。違いはコスト率だけ。通常はノンバンクの方がコスト率が高く仮に10%だったとすると、銀行はこれよりも7~8%程度低いコスト率なので同じ15%の貸出金利を適用しても(借り手にとって返済負担は同じ)、銀行の方がべら棒に儲けが大きくなる。貸し手競争の優位を保つ為に、貸出金利を引下げ12%を適用したとしても、コスト率3%を引いた残り9%分は儲けになる。貸倒が3%発生したとしても、貸出残高の6%分を儲けることが可能になる、ということだ。こんなウマイ話が転がっているのに、何故貸さないのか(笑)。不思議でしょうがないよ。
こういうのを実行してから、屁理屈を言って欲しいものだね。それなのに、貸し手が減ってる、減ってるって騒いでいるんだな。日本振興銀行や新銀行東京には、貸出に回していない金が預金残高の半分以上もあるのにね(笑)。利回り6%の儲け話よりも、1%台の国債の方が儲かるんだ、ってことですか?自らの主張や理屈の正しさを実証する良い機会なのにね。国債を大量に買って抱え込んでないで、貸出に回せばいいだけだ。それをやれば、貸し手不足の一部を補えるでしょう?なんでやらんの?(笑)

これが日本振興銀行と木村剛氏のいう「中小企業融資」の実態ということだ。


2)無担保融資撤退と存在意義

新銀行東京は無担保融資を止めるつもりなのだそうだ。

NIKKEI NET(日経ネット):新銀行東京、無担保・無保証融資を廃止

これも甚だ疑問なんですよね。だったら、新銀行東京という銀行そのものが不要ということでしょう。差別化が図れなければ、存在価値は殆どないだろう。多分、「規模の不経済」が着実に効いてくるだけだろう。特徴を失った銀行が、融資で比較優位に立てるようになれるとは思われない。存続させたいのであれば、他の銀行にはない特徴を残すのは当然ということ。

そもそも融資の面において、銀行というのは貸金やノンバンク等に比べて何が違うか、ということがある。銀行には参入障壁があり、銀行という「看板」で信頼(社会的信用)を得ることができる、ということになるかな。この障壁のあるお陰で、資金調達コストは下がるだろう。看板をもらうコストが大きいが、一度もらってしまえばノンバンクや貸金などよりも資金調達コストが低くできる、というメリットがある。通常の大手銀行では、預金とか定期預金などで集めることになるが、資金規模が大きく調達コストは低く抑えることができるだろう。その為にノンバンクなどに比べると貸出金利を低く抑えることが可能になる、ということだ。コスト率が低いからだ。貸倒リスクの高さ故の違いということが全てではないだろう(参考記事1)。

新銀行東京(や日本振興銀行)は、銀行という免許をもらうことで、この看板で人々から金を安く調達できる権利を手に入れたということになる。普通の貸金なんかでは同じ資金コストで借入することは難しいのだ。そのメリットを活かして、他の銀行があまり手を出したがらない無担保融資や小規模融資を手がけ、貸出金利を高目に設定しておいたとしても、そのこと自体に何か問題があるわけではない。しかし、こうした他と違う貸出を止めるとなれば、新銀行東京の存在する意味をどのように説明できるのか、という問題が持ち上がるだろう。

それと、何度も言うようだが、新銀行東京の撤退によって、これまで新銀行東京が扱ってきた貸出市場の消滅危機に直面する、ということではないか。日本振興銀行が代替となれば、それで問題はないかもしれないが(笑)。


3)貸出モデルと貸し手競争

貸金業法改正前に、金融庁の懇談会メンバー(特に学者や弁護士)が貸金のスコアリングモデルを知らないことを厳しく非難していた人たちを見かけましたが、どうやらスコアリングモデルにも落とし穴があるようで。これは米国のサブプライムローン問題でも同じようなものだ。

新銀行東京:金融庁の指摘を無視 融資自動審査に依存 - 毎日jp毎日新聞

(一部引用)

関係者などによると、新銀行東京は05年4月に開業し、06年9月中間決算で約154億円の赤字を計上した。貸出先の業績悪化で焦げ付きが多発し、当初計画を54億円も上回った。この状況を見た金融庁は同12月、銀行法に基づいて、同行に対し業務報告を求めた。

同行は、主力に位置づける中小企業向けの無担保・無保証融資で自動審査を採用。決算書の数字を基にコンピューターが判断するシステムで「スコアリングモデル」と呼ばれる。しかし、顧客との人間関係が希薄になるため、金融庁は再三「決算書だけでは信用できないので見直した方がいい」と指摘した。これに対し、当時の経営陣は「精度を上げていくから大丈夫」と、事実上、無視した。

=====


別にスコアリングモデルが悪いとか、間違ってるとか、そういうことを言ってるのではないですよ。ただ、上限金利規制反対派たちの中には、「貸金ではスコアリングモデルで貸しているのだから、貸出金利は適正だ」というような主張をしていた人がいたんですよ。金利水準の適・不適の判断については、スコアリングモデルがその裏付けとならないかもしれない、ということは憶えておくべきかもね。スコアリングモデルの信頼性が高く、貸出審査や金利設定がより正確であれば、新銀行東京のような事態に陥ることはなかったであろう(笑)。理論で正しければ、それが現実に通用するのか、というと、必ずしもそうとも言えない、ということかもしれない。「その程度のもの」なのだ、という発想をするのではなく、「~モデルを用いているのだ、だから正しい」という意見に結び付けようとする姿勢に問題があるように思われる。新銀行東京の旧経営陣が嵌った罠と似ているかもしれない。

また、サブプライムローン問題では、貸し手側がスコアリングを改竄したり、貸出増の為に利用してしまうこともある、ということがあったようなので、借り手側が正しい数字を出さない(情報を隠す)という点と、貸し手側が営業成績向上の為に悪用することが起こり得るという点があることに留意しなければならないだろう。情報の非対称ばかりではなく、貸し手側要因にもなっている、ということだ。


サブプライムローン問題でも、新銀行東京の問題でも、貸金業界の問題でも共通しているのは、貸し手側競争である。途上国のマイクロファイナンスでも一部当てはまるだろう。
参考>信用のこと~何故途上国では貸出金利が高いのか

貸し手側は他の人よりも先んじてどんどん貸していきたい、という欲望がある。貸金の貸し込みが成立していたのも同じく、貸せば儲かるという見通しがあるからである。これはヤミ金でも同様。貸し手側の競争が行き過ぎると、「ずさん融資」(by 産経新聞)を生じてくることになりやすいのだろう。スコアリングモデルを用いていたから審査が甘くなる、ということではないのである。単純に言えば、「融資を拡大すると儲かる」ということであり、そうした主観的評価が優位であると貸出規律は崩れる可能性があるのではないか。

新銀行東京が苦境に立たされたのは、
・他の銀行が既に貸してるので、健全な借り手を捜すのが困難
・融資残高を増やさないと収益にならないので融資拡大は必須
・融資拡大を達成した行員には成果報酬
・経営陣はマスタープランを何としても達成したいという動機がある
という複合的要因があって、勢い審査が甘くなり(借り手側情報を鵜呑みにする等)「ずさん融資」を招いたものと考えられる。

そして決定的となったのは貸倒増加であり、シリーズ記事で書いてきたように、貸金業者の撤退(=貸金業法改正による)ということが影響しているであろうと思われる。
予想通りの結果だな>貸金業の上限金利問題~その12

新銀行東京や日本振興銀行はこれまで「最後の貸出業者」にならずに済んできたのだろうが、貸金の審査厳格化や弱小の貸し込み業者撤退などによって、「最後の貸出業者」となってしまったのだ。だからこそ、大前氏が書いていたように「カモられる」結果を招いたのだ。貸出モデルの不備だけではないのだ。

新銀行東京の責任は何処に、効率経営とスコアリング・モデル - ビジネススタイル - nikkei BPnet

この中でCRDデータの話も出ていたが、これも既に取り上げた話だ。
今度はGRIPSかよ~貸金業の話

データ蓄積には意味があるし、モデルの向上には必要であろう。ただ、新銀行東京が過大な先行投資を行ってやるべきことか、ということになると話は別だろう。様々な利権関係などがありそうで、ここら辺は今後の検討で明らかにするべきであろう。


4)新銀行東京は不要だった

私の結論としては、はっきり不要と言える。
発想として悪いわけではないが、都が銀行を持つ必要性はなかったであろう。ATM網にしても、負担が重くなるだけ。ネット専業銀行のように、スタート時点では軽くする(=店舗等の過大な不動産投資をしない)のが望ましく、それであれば初期投資の負担は少なかっただろう。中小企業を救うつもりであれば、直接融資を手がけるばかりではなく、保証業務を行っても可能であったろう。そういう制度があれば事足りていた。審査業務には専門の人員とシステムを1箇所に置くことができれば、それで可能であっただろう。土地建物やシステム投資に回した金を、中小企業への融資や保証枠に回していた方が、設立理念に合致していたのではないか?

例えば、工場の土地建物の不動産担保で銀行借入をしていて、評価額が大幅に下がったので銀行から担保積み増しを求められている企業があるとしよう。そのキャッシュが出せない、なので借りたい、と。工場の経営は成立しているが、担保供出可能な程の金はない、と。担保が出せないとなれば、銀行は返済してくれと求めるけれど、一括で返済は無理なので工場を処分しない限り不可能だ、ということになってしまう、と。それで潰れる、と。こういう時、不足担保分を補えればいいのだから、経営が成り立っていて長期的には銀行返済可能であるなら、担保不足分を東京都が債務保証すればいいだけの話ではないかな。借り手からは、その保証料を取ればいい。バランスシート上で不動産の資産評価額が大幅に低下してはいるが、担保不足分を賄えるなら工場は営業が継続でき、返済も可能なのだから。

運転資金が必要だという場合でも、金融機関から追加融資を断られた案件を回してもらい、持続性の見込まれる企業に対して金融機関に金利保証を付けて共同融資みたいにすれば良かったのでは。銀行の普通の貸出金利が2%ならば、都が銀行に対して1%分を多く払うことで銀行はその分のリスクを許容できるようになるだろう。都は借り手からその分多く取ることになるが、借り手は2%の銀行貸出を断られる代わりに、3%分の金利を払うことで借入可能になる、ということになるわけですから。金融機関と都がリスクを分担すれば、少ない支出で多くの借入枠を増やすことができたのではなかろうか、ということだ。持続可能性は審査が難しいのは確かなのだが、過去の都税?とか都法人税、国民健康保険の納入状況などから判断できる部分もあったのでは。大抵の真面目な事業者は、こうした「お上に払うお金」をキッチリ払おうとするからだ。逆に資金繰りに行き詰ることが多ければ、まず真っ先に払うのを止めるだろうからだ(取立てはないだろうから)。中には都税の滞納で差押えられている人もいるが、ほんのごく一部に過ぎないし。


5)今後の処理について

処理するとして、顧客に支払を約束している費用は、定期預金残高5000億円の1.2%として、60億円だ。
口座はネット銀行でも欲しがる業者はいるのではないかと思えるが。一括でもいいし、分割でもいいので引き取ってもらえばいい。

債権は売るしかない。日本振興銀行なら大喜びで買ってくれるのでは(笑)。融資残高比率は4割くらいなので、3000億円くらいは有価証券の処分で賄える。
貸出2200億円として、約2000億円は正常債権だそうだから、買取価格を8割として1600億円、残り200億円はほぼ諦め?だけど買取価格10%として20億円、合計1620億円は回収される。この損失580億円+支払利息60億円として640億円くらいの処理費用がかかる。

継続した場合には、追加投入する400億円の他に運営経費、新たに発生する貸倒など、別な費用が結局かかることになるので、将来時点で清算する方が損失額は大きくなることが予想されるだろう。赤字が垂れ流されていく時間の支出が大きいだけだろう。都が出した1000億円とか清算費用とかはパアになる、ということ。都債の利払い費もね(笑)。資金総額規模を大幅に縮小しよう、という計画の時点で、挽回の可能性はほぼ絶望的だろう。

日本振興銀行に売れば?定期預金が1000億円を超えたからと、張り切って日経記事に流すくらいなのに、新銀行東京は資金規模5000億円を数百億円に削ろう、って話ですからね。羨ましくて泣いてるよ、きっと(笑)。

買い手が付くなら、売った方がマシだと思うけど。