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地域振興券の効果を正しく説明できるか?

2009年02月01日 18時07分42秒 | 経済関連
いちいち煩い連中が多いのだけれども、小渕政権下での地域振興券の効果がどうであったか、というのを、実は殆どの人たちが知らないのではないか?

本当に正確に説明できるのか?

ありがちな意見では、

 「ほとんど効果がなかった、たった0.1%しか効果がなかったんだ」

というのがある。これもバカの一つ覚えみたいに、繰り返し言うわけだが、本当に効果をよく考え検討してみたのか?
きちんと理解している人なんて、滅多にいないと思うよ。
知ったかぶりどもは、どこにでもいると思うけど(笑)。


まず、地域振興券が一体いくらばら撒かれたのか、言える人はいるか?多分、殆どが知らないだろうと思う。安直に批判している人たちは、いくら使って、どの程度の効果だったのかを知らないだろうね、きっと。

「約6200億円」使って、これとは別に「新たな需要喚起」分として、約2000億円が生まれたのだ、と考えられていたらしい。
たった6200億円じゃ、対名目GDP比で0.12%しかない(笑)。これを使ったら、別に喚起された分が約2000億円で、0.1%という数字は「個人消費の0.1%」程度、という意味である。

まずはこれを読むべき。
地域振興券の消費喚起効果等について

『結果として、地域振興券は、調査世帯については、本年3月~6月の消費を直接的に、振興券既使用金額の32%程度分、新たに喚起したとみられる。これを、交付済額約6,194億円のベースに単純に換算して、年ベースのマクロの消費効果をみると、消費の押し上げ額は、2,025億円程度(GDPの個人消費の0.1%程度)と推定される。』

と、このように記載されている。
実際には、使われた6200億円分は別に計上されるし、小売店の従業員たちの賃金や売れた商品の製造側にも恩恵が多少なりとも波及するだろうから、ないよりはマシだと言えるはず。合計で8200億円が消費に回されたわけだからね。


また、ESRI の計量モデルでも名目GDPの1%減税(ざっと5兆円超)で、消費の押し上げ効果は1年目で0.48%、2年目で1%となる。別に効果がまるでない、というわけではない。減税規模が6200億円程度しかなかったならば、押し上げ効果が少なくても不思議じゃない。公共事業の場合だとGDP統計上の記載という点で有利、というだけに過ぎない。

後はこちら>
ESRI,ESRI Discussion Paper No.12 - Did the Shopping Coupon Program Stimulate Consumption? Evidence from Japanese Micro Data

短時間効果は見られ、資産保有の少ない層での消費喚起に役立っているということのようだ。これは大体予想される結果だろう。だから、持続効果がない、とか言う連中というのは、はっきり言って頭が悪いんじゃないかな、と思うけど。だって、「bolus doseだ」って初めから言ってるのに、これを持続できないから「効果がない、ダメなんだ」とか考えること自体がヘンなんだもの(参考記事)。時間稼ぎという意味もあるし、鎮痛(=急激な落ち込み緩和)という意味もあるだろう。

年率換算でマイナス10%もまっ逆さまに落ちてしまいました!
何年ぶりかの、歴史的落ち込みになってしまいました!
みたいに、落ちてしまってから大騒ぎするバカが多すぎだからこそ、そうなる前に「ちょっとは緩和する即効作用のモノ」を使え、って言ってるんだろ。どうしてそういうことが理解できんのかね。

だから、何遍も言ってるでしょ?
「ないよりマシ」なんだ、って。

腐れ学者モドキとかが、あまりに多すぎ。
ニセ言説やエセ経済学知識の援用があまりに多すぎ。

嘘つきの連中がどうしてこんなに多いのだろうかね。




異常な経済運営が続く国~ニッポン・2

2009年02月01日 16時52分00秒 | 経済関連
昨日の記事の続きです。


4)目先の落ち込みはどうするか

とりあえず今すぐにインフレ率が高まるとか賃金上昇が起こるということはないので、あらゆる手段を考えるしかないであろう。大幅な減速は更なる需要減を招き、デフレ・スパイラルの悪夢が蘇る。なので、どんな手を使ってでも、需要を作らねばならない。しかも割りと即効性が求められるので、長期的に云々なんて寝言を言ってる暇などないだろうね。前にも書いたけど、今日のメシが必要なのであって、3年後の工賃とかでは今食べられない。

企業の収益状況を見ていくと、自動車とか電気関係の大幅な需要落ち込みは営業赤字となっているので、これはしょうがないわな。でも、他の業種なんかだと、必ずしも営業赤字が悪化しているということにはなっていない。どちらかといえば、保有株式や買収企業の投資損といった、特別損失関係の損益が影響していたりする。
なので、長期的な投資効果を考えるということであるなら、政府系の持つ国債を日銀が買い受けキャッシュに置き換える。このキャッシュで上場企業のインデックスを購入する(保有期間は無期限のもの)と良いであろう。特別損益の改善効果が見込まれる。年金運用収支も改善する。


他には、実需を生み出せるものが必要だが、イチオシなのが「医療情報ネットワーク」の整備だ(何度も書いたけど)。現在、激しく落ち込んでいる電気業界には大きなサポート効果をもたらすだろう。社会保障番号(住基ネットの活用という意味もあるよ)に、これまでのバラバラな保険番号を統合してしまう。医療保険制度の根本的な見直しということも必要になるだろう。けど、とりあえず将来的な展望だけを描いておいて、苦しい業界に仕事を作るという意味では現時点で投資を前倒しで開始し、必要となるネットワークの枠組みの基礎を構築しておけばよいと思う。将来時点では次々と機能を統合してゆく作業ができるようになっていればよい。社保庁の金だけはやたらと高額で、無駄に役立たずらしいレガシィシステムみたいなのは論外だけど。
例えば、5年契約という特殊な形にして、将来時点で発生する費用を前払いという形にしておき、今払ってあげると企業は助かるね、みたいなこととか。


また、例で書くよ。

いま一括で5億円払ったとする。でも、現時点でかかっている経費は1億円しかないとしよう。そうすると、4億円は相手に渡っているので、相手側が得をする、ということになる。4億円分の仕事をしていないにも関わらず、既に受け取ってしまっているわけですからね。でも、困っている時期なので、これはこれでいいんです。

で、来年に8000万円、次の年に2億円、その翌年に1億円、その次に1億円かかったとしよう。

      支払額
1年目  1億円
2年目  0.8億円
3年目  2億円
4年目  1億円
5年目  1億円

年3%の割引契約みたいなものとしておくと、前払い効果が出るんじゃないかな、と。2年目の残り4億円には3%分の利息が付いてるようなものなので、4億1200万円分の残額という換算にします。これを順次やってゆくと、こうなる。

      残額
1年目  5億円
2年目  4.12億円
3年目  3.42億円
4年目  1.46億円
5年目  0.476億円

5年目の1億円を支払う清算前時点では、4760万円が残っており、本来5億円から4.8億円を払ったので2000万円しか残ってないはずでしたので、約2760万円分得した、ということです。で、あと1億円を払わねばなりませんので、足りない分5240万円追加すれば済むということになります。政府側は総額5.8億円の仕事を5.524億円で済ますことができたので、お得になったというわけです。これは代金を前払いしたという効果により、3%分の利息をもらったようなものなのです。

苦しみが大きい企業には、割引率を大きくしてもいいので一括で払う額を多くしてもいいかも。
こうすることで、企業側は苦しい期間に仕事と代金が入るので助かる、政府は総額を節約できたので得するということになり、国民としてもその分安くインフラを手に入れることができたということになりますので、みんなにメリットがあります。あるとすれば、企業が前払いを受け取っていて倒産するような場合ですが、そういう危険性の高い企業にはこうした方法はとれないでしょうね。

でも、どうせ必要なものなのであれば前払いで契約しておき、割引率をきちんと設定しておけば(不当に低い水準とならないように、せめて貸出金利以上にはするべき)双方にメリットがあると思えます。


5)日本の「automatic stabilizer」効果は小さい

これもよく言われる論点ですが、所謂「ビルトイン・スタビライザー」のことです(英語記事で見かけた表記としては、「built-in」ではなく「automatic」でしたが、どうして日本ではビルトインとなっているのかは知りません)。日本の場合には一般政府の税収額が大きいわけではないので、この効果が他の先進国と比べて大きいわけではありません。
例えばNoord(2000)によると、G7の中では米国についで日本が小さく、GDP1%の変化率に対するスタビライザーとして働く政府収支変化率がOECD平均に比して約半分程度でしかありません。景気が悪化したからといって、これを緩和するような政府支出の効果は他の先進国ほどには期待できない、ということになります。ある程度は意図的に財政支出を拡大しないと、ある程度以上の変動には対応が困難になるかと思います。

これはヨットのクルーを思い浮かべてもらえればよいのでは。
3人乗りのヨットで、ヨットの傾きに応じてクルーが浮き上がる側に移動すればヨットの転覆力を減じます。けれど、更に傾いてしまって倒れる力が大きくなると3人の重さだけでは足りなくなるかもしれません。もっと多くのクルーがいれば、すばやく浮き上がっている側に移動して転覆を防げるということになります。こうした安定化の効果が、日米の経済構造では「弱く」、他のOECD諸国では約2倍の安定化の為のクルーが常にいるということです。


6)リカードの中立命題

これも、多くの場合には知識の断片だけを切り取ってきて、無闇やたらと適用しているのではないかと思えます。経済主体が不合理な行動や決定を行わないと絶対的に信じ込んでいるのであえれば、これを信奉するのを止めたりはしませんが、何でもかんでも「リカードの中立命題」という呪文で片付けようとする態度は賛成できません。

もしも本当にこの「命題」が実証されているのであれば、それを是非とも証明してもらいたいもんです(笑)。過去の実証研究では、必ずしも成立しているとは言えない、ということであるなら、そういう考え方はあるよね、でも現実にはどうかしらね、という程度でしょう。

また例で書いてみよう。
300万円の車を購入することを考えるとしよう。自分の収入は毎月一定で30万円だとし、財布には300万円の小切手が入っているものとする。
ここで、購入方法として、

①5年後に300万円+期間利息(市場金利と同じ)を一括で払う
②いま持っている300万円で払う

という2通りがあるとしよう。
もし①の方法を選ぶなら、財布の小切手を預けて市場金利で運用し、5年後に一括で払えばよい。②の方法を選ぶと期間利息はかからないが、今持ってる300万円を払うことになる。どちらも経済学的な意味は同じでしょう、という話だ。また最初から300万円を持っていなくて、代わりに借用書を書いて、5年後に一括で(期間利息も)払う、という約束であってもいいのですが、この場合には毎月の収入30万円のうち毎月5万円を積み立ててゆき、60回で300万円になります。この5年間の消費は、毎月5万円分ずつ減少することになりますので、消費減少分の合計額が300万円になる、ということになります。これは普通のローンの意味合いと同じであり、現在の300万円で買うのも将来キャッシュで300万円を払うのも(期間利息はおいといて)、消費に対しては中立ということになりますね。市場金利とか資金の現在価値とか、それらが完璧に正確である場合には、①も②も等価ですよ、というのは理解できますよね。異時点間の消費というのは、こういう単純な場合だと、他の消費を増やしもなければ減らしもしない、ということです。

<寄り道:
消費者金融の上限金利規制の話の時、借りられなくなると消費が減るとか経済が落ち込むとか、盛んに言い立てていた連中がいたが、そういうヤツラに限って、同じ口で中立命題がどうのとか言い出すんだよね。バカみたい。現実の個人の場合には、双曲割引という問題があるので、必ずしも合理的とは限らないんだけれども。>


リカードの中立命題というのを平たく書けば、政府が公共事業として「○○ダム建設事業」を行う際に(期間利息はクーポン)、

①´「○○ダム建設事業債」を発行し、5年後に一括で払う
②´たった今、建設事業費を国民から税金で徴収して払う

のいずれでも、国民の経済にとっては同じですよ、という話だ。どちらも国民の消費を増加させる効果はありません、ということを言っていたのが、リカードさんやバローさんということでしょう。どうしてかといえば、いずれ満期が来ることは判っているので、その分を増税されて徴収されちゃうと国民に予想できてしまうから、ということです。上の例で見た車を購入する時のローン返済負担を抱えた人と同じような状況、ということですね。

リカードの命題自体にまるで意味がない、ということではなく、現実を説明するには不十分ですね、ということを知った上で用いればよいことです。基本的理屈がとんでもないというわけではなくて、ある割合の人たちは異時点間の消費について合理的に対応しようとしますよ(=割引現在価値を正しく考えますよ)、ということを言っているまでです。

因みに、リカードの中立命題を支持する方々は、「たった今徴税する」という選択肢を否定できないに決まっているでしょうから、増税に文句を言うのは直ちに止めて下さい。大笑いですな。
いますぐ徴税して公共事業や減税に回しても、『国民の消費には中立』なのだ、という主張を支持することを意味しますからね。


まあ、多くの「なんとかモドキ」という連中は、自分の意見がどんなことを言っていて、何を招いたり支持する結果となるのか、具体的に考えたことがきっとないのだろうと思う。だから、あることないことの無責任な意見がいくらでも言えるんじゃないかな、と思うね。自分の中に不整合な部分が大量に混入していても、まるで意に介さず平気でいられるというのは、きっとそういうことだろう。

要するに、殆どが「知らないから」というところに行き着くわけだ。


実証を考えたいのであれば、例えば、幾度か取り上げたESRIのペーパー(増渕et al. 2007)のマクロ計量モデルでの乗数効果でも見てみたらいいのでは。
公共事業の消費押し上げ効果はあまり大きくない、ということは、同意できるだろう。公的固定資本の数字が大きくなるというGDP押し上げ効果があるからといって、人々の満足が得られる政策かどうかは慎重さが必要だろう。