いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」

オール人力狙撃システム試作機

円高は結果に過ぎない

2009年02月22日 17時41分07秒 | 経済関連
これね。
はてなブックマーク - 円高論者は日本経済を潰すのか? - Economics Lovers Live

自分自身は「強い円」崇拝者ではないけれど、「通貨安が望ましい」とも思わない。国内の金融政策をはじめとする経済運営を変えることによって、通貨の為替水準は変わってゆくだろうと思うからだ。これは幾度か書いた。
現時点で日本は円の減価を選択すべきか

通貨安に陥った国々―例えばアイスランドやロシアなど―では、経済成長率が高まるといったことはないだろうと思われる。高い政策金利になってしまい、かえって悪いのではないかとしか思えない。「円高はよいことだ」と単純に言えないとしても、逆に「円安がよいことだ」とも言えないのではないか。


①交易条件の改善に関して

これも書いた話の繰り返しになってしまうが。

08年11月>日本経済は基礎的強さが残っている

この中で、次のように書いている。
『8月に引き続き10月も赤字だ、ということで、何と言いますか、ショックを受けたかのように思っているかもしれませんが、現在はまだそんなに大袈裟に不安視するようなことではありません。今年はやや特殊な年なので、調整までに若干の時間がかかるかもしれませんが、悲観するには及びませんよ(笑)。』

タイムラグがあって、輸入額純減にはまだ直結しない、という面があるのだろう。例えばベンツが2割も値下げされた、といった話題は聞いてない。値上げは直ぐに改定するが、値下げはあんまりしないよ、という「下方硬直性」ということですかね。輸入価格が下落してきても、価格改定には時間がかかるものが多いと(例えば小麦価格とか、石炭や鉄鉱石などの輸入価格とか)、直ぐに値下がりには結びつかないのかもしれない。今後にプラスの影響はあるだろう、ということは言えても、「”円高だから”トヨタやホンダといった自動車が落ち込んだのだ」とは言えないと思う。

10-12月期の落ち込みは、単に円高という要因だけではないと考えているからだ。当時の予測として、09年3月期には「円高要因によって」10兆円の輸出額落ち込みがあったとしても、輸入額も似たような割合で落ちるのなら、「悪影響は大したことはないんじゃないか」ということを述べたのである。だが、需要が極端に落ちた為に起こった大幅なマイナスなので、これは交易条件云々の問題ではない。


②ただの円高であれば傷は浅い

とりあえずドル円だけで書くとする。
これまでに自動車を300万台生産できる体制で製造していて、ドル円が115円から90円に円高が進んだ場合を考えてみよう。

輸出と現地生産とで若干の違いはあるかもしれませんが、区別なく行っているとします。
100万台の販売台数の時と、300万台の販売台数の時では、1台当たりの利益率は異なるだろう。多分、台数が多くなれば利益率が低下しているのではないかと予想する(逓減の理屈ですな)。

最も簡単に言えば、売れてる限り、円高になろうと利益は生じるので「赤字にはならない」ということ。

1台当たり600ドルの利益があるとしよう。300万台販売できていれば、18億ドルの利益が生み出される。ドル円が115円なら2070億円、90円なら1620億円ということになる。こうして利益が圧縮される、ということは現実に起こってしまう。だが、1台当たりの利益が出ている限り、赤字には陥らない。

もっと違うケースを想定してみよう。
国内で製造する時、製造コストが1台当たり230万円かかるとする。ドル円が115円ならば20000ドルである。これを輸出して売る時に22000ドルの販売価格であったとしよう。利益は2000ドルである。ところが円高で90円になってしまうと、製造コスト230万円がドル換算で約25555ドルに上昇し販売価格22000ドルを大幅に上回ってしまう、ということが起こるかもしれない。そうなれば、売れば売るほど赤字が拡大してゆく。こういう事態がどの程度発生するかといえば、あまりないのではないかと思われる。何故なら、売らない方が利益が大きいからである。なので、こうした場合には、値上げが実施され22000ドルだった価格が26000ドルに値上げされる、といった対策が取られることになるだろう。このような状況であると、価格上昇で販売数量の減少を招き、利益が圧縮されるということは起こり得るだろう。けれども、値上げ幅の価格転嫁率が販売価格のどの程度なのかという違いがある(*)ので、販売数量減少というのがどの程度起こるかは判らない。過去に日本市場でユーロ高などを理由として外車や輸入バッグの値上げなどは行われたが、その当時に大幅な需要減となったというのは聞いた記憶がない。

(*):ある輸入財を5000円で仕入れ1万円で販売する場合には、為替変動が40%あって輸入財価格が7000円に値上がりしたとする。この場合であっても、普通は販売価格を40%増の14000円にするということにはならない。転嫁率が100%であっても2000円上乗せとなり、販売価格の20%に過ぎない。為替の変動率がどの程度効いてくるかは、価格構成の中身によるだろう。
輸入原材料が2000円、日本国内の円コストが6000円、利益2000円で合計の販売価格が10000円というものであれば、為替変動の影響を受けたとしても、販売価格の20%のうちの更に一部分に留まる。自動車が35000ドルで販売されていて、このうち30000ドル分が輸入コストであると為替で20%アップしても36000ドルとなり、販売価格を37000ドルにするといった努力は可能。6000ドルを転嫁するのが当然、とまでは言えない。

こうして見ると、販売数量が300万台体制ということで、仮に円高になったとしても、急に赤字には陥らない。販売台数が値上げによって落ちたとしても、ある程度の供給能力は必要とされるので、「円高を理由として解雇」が大量に発生するということにはならない、ということ。特に、値上げしないで海外の利益幅を圧縮して回避できる時には、供給体制として「300万台体制」は不必要ということにはならないのだ。円高になったら自動的に250万台体制に減少させなければならない、ということではない。価格の変動や利益率の変動があったとしても、300万台売る体制が必要とされるなら、円高であっても雇用は急に消滅しない。
円高によるコスト上昇に対応する為に現地生産比率を増加させて、工場を海外移転する場合には国内雇用が削られる。通常、その変化は緩徐に起こる。90年代にアジア地域に移転していった製造業が多かったのが、そうした流れの一部であろう。

これらも既に書いた話ではある。
08年12月>円高が雇用を悪化させたのか

『しかしながら、現在の輸出減速というのは、円高だから、という要因ではないでしょう。もし円高で販売価格に増価した分を転嫁していたのであれば、これまで3ドルで販売していたものを例えば3.6ドルにする、といった値上げとなります。その値上げのせいで需要減少となるので、売上高減少をもたらすということですね。そうではなくて、これまでと同じ3ドルで販売しているにも関わらず、売れない、ということに他ならないのではないでしょうか?何故売れないかというと、金融危機に端を発する世界規模の需要減少ということでしょう。輸出企業はこうした事態を打開しようとして、値下げに踏み切るわけです。売れないから。3ドルで販売していたものを、2.5ドルでもいいから売ろうとするわけです。そうすると、販売数量は落ちている、単価も落ちている、円高になっている、ということで、3重苦にもなっているようなものなのです。派遣社員や正社員を整理する、新卒採用を取りやめる、といった雇用への影響の最も大きな要因というのは、「売れないから」ということが原因であり、それは世界需要の減少ということに他ならないのではないでしょうか。最大の落ち込みとなっているのは北米であり、9月以降には欧州に広がったということはあるかと思います。』


③赤字の原因とは何か

トヨタの発表を見る限りでは、為替要因による減益幅は通期で5500億円~6000億円程度であって、小さくはないけれども致命的な原因ではない。赤字の大半は北米の不振であり、欧米での販売台数減少が一番の理由である。

日本での販売減はリーマン・ショック後の年度第3Qにマイナス7万台以上が記録され、通期累計でも約6.6万台のマイナスとなった。大きな赤字要因となったのは欧米市場で、前年同期320万台だったのが約270万台と50万台減少に落ち込んだためである。上述したように、台数がある程度維持されているなら利益幅が圧縮されるだけなので、輸出分は生産が続けられる。結果として国内雇用はある程度維持され、生産能力が急激に過剰になることはない。

国内市場の減少幅は約150万台規模のうち4.3%程度のマイナスだった。そのマイナスは、この3ヶ月に集中した。
欧米市場でのマイナスは年頭より継続しており、320万台→270万台という15.6%もの落ち込みとなった。欧米市場のマイナス拡大の大きな理由として、需要の純減というのもあるけれども、リースや残価ローンのような「債権」の損失がかなり発生したのだ、ということも影響しているであろう。これはGMが苦境に陥ったのと似たような要因である。北米が世界販売台数の約3分の1、ここでの「大幅なマイナス」というのが原因なのだ。

下方修正の発表が繰り返されたのは、為替の見通しが何度も変わったから、というようなことではない。不確定な要因によって損失が拡大してゆくという、「不良債権の増加」ということが最も影響したのではないか。不良債権の増加とは、これまでの「買い手」たちが払えなくなってデフォルト、ということだ。ローン等の返済ができなくなる債務者が増加している、ということであろう。
だから、販売台数が減るのに加えて、欧米での過剰な生産能力、更には債務者たちのデフォルト増加、ということだろう。
円高によるダメージは、多分全体の3割程度であろう。他は違う要因だ、ということ。

日産あたりは、元々の手持ちキャッシュが少ない、ということがあるので、トヨタよりも更に厳しい、ということかもしれない。資金調達コストが急激に上がったということではないか。それ故、低利融資をしてくれ、と政府に再三要求していたものと思われる。また、米国市場依存割合が高いのなら、それもまた状況を悪化させることになるだろう。


④販売数量と利益率

需要が急減した為に、相対的に供給能力が大きくなりすぎて雇用面での調節を余儀なくされる、ということが起こったのであろう。もしも付加価値を高め、1台当たりの利益率を上げていたのであれば、販売台数はここまで増大しなかったかもしれない。売れる数を増やそうと努力した結果、900万台規模の供給能力を整えてきた。ところが世界経済のダメージが広がり、需要が数百万台規模で消失したので、その生産能力が過剰となってしまったのだ、ということになるだろう。もしも台数を増加させずに、600万台なら600万台という数は大きく変えず、一台当たりの利益を例えば500ドルから1500ドルに増やせば、供給能力の大幅な削減(=人員削減)をせずとも利益率を落とすことで調節は働く可能性はあるかもしれない。

世界戦略として、1千万台クラブへの一番乗りを必死に目指したが故の陥穽、ということなのかもしれない。結果的には、欧米を中心に過剰な生産能力を抱え、赤字を大きくする原動力となったのだ、ということ。このことは、地域別の営業損益率を見れば、おおよその傾向はつかめるだろう。アジアや他の地域では、依然として黒字ですから。円高になったからといって、直ぐに赤字に転落するというものでもないのだ。


⑤円高は結果にすぎない

円高をもたらした理由には色々とあるだろうが、すぐに思いつく要因としては、「インフレ率が低い」ということがある。インフレ率が高い国の通貨は、多くの場合に通貨安を招く。相対的な関係に過ぎないけれども、せめて欧米なみの物価上昇率とか期待インフレ率があれば、他の要因が同じなら為替はほぼ固定的になるだろう。現実には、成長率の違いや金利差などによって変化するということになってくるだろう。
国内の金融政策等の経済運営を変更して、高いインフレ率の水準を達成できれば、

・政策金利はインフレ抑制の為に引き上げられてゆく
・為替は相対的に円安傾向になる

ということになるだろう。

でも、みんなが懸命に働いて、頑張れば頑張るほど円は評価が高くなり、結果的に通貨高になってしまうだろう。


もしも民主党政権が誕生した場合には、経済恐慌の虞を一層強めることになるだろう。
日銀総裁選びの時にも、そうした思想傾向は明らかになったはずだ。
緊縮財政で財政支出削減が断行されるだろうから、形を変えた財政健全化推進派になるだけだ。大体、20兆円規模で歳出削減を実施しよう、という政権公約を作っていたからね。今まで以上に「歳出削減」圧力が強められるであろう。しかも「金利正常化」部隊がごまんとおり、金融緩和は円キャリーをもたらしたとか、国債買入は財政赤字の肩代わりだ、みたいなことを言っていたしね。

民主党には日銀総裁を選ぶ資格などない

こういう体質が、直ぐに変わるかと言えば、それは無理だ。
今の状況下でも、小沢さんは「財政タカ派」(よさリンだな、笑)に秋波を送っているくらいですし。

なので、民主党と社民党の連立政権が誕生したりしようものなら、名前を変えた「小さな政府派&歳出削減&金利正常化」部隊が大挙して襲ってくることになるだろう。その先に待っているのは、「バラマキ阻止、歳出削減、利上げ、強い通貨」を目指す、大恐慌内閣だ。