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貯蓄率の改善はキャッシュ増を意味するわけではない

2009年02月02日 19時14分09秒 | 経済関連
えーと、定義を知っているかどうかということが基本だろうと思うのですが、うっかりするんじゃないかと思ったりするので。ちょっと触れておこうかな、と。

GDP統計の時に考えられている「貯蓄」というのが増えたとしても、それは手持ちのお金が増えているということを必ずしも意味しないだろうな、ということです。場合によりけりなのでは、ということです。

例えば米国では、いよいよ消費が急ブレーキとなってきたようですが、これは想像していた通りでしたね。

参考記事:世界経済を支えてきた米国の借金

この記事中で書いたように、輸入額が減少して貿易赤字が改善し、財政赤字が拡大しているということで、貯蓄投資差額はプラスになっていくであろう、ということは誰でも予想がつきます。この時の投資を上回る「貯蓄」というのが、人々の手元資金となっていたりするのかという問題があるかと思います。日本みたいに「タンス預金が好きだ」(本当に好きかどうかは知らないんだけど。床下の甕の中に現金を溜め込むとか、そういうのもあるかもね)ということなら、確かにキャッシュの形で貯蓄となっているのかもしれません。しかし、米国の場合には、多分そういうことではないのではないかと思いますね。

どういうことになっているかと申しますと、恐らくは「借金返済」という形をとっていることが多いのではないかと推測しています。借金返済がどうして「貯蓄」なのさ、というご指摘はあるかと思いますが、支払利息とかは別な分類になっているのですけれども、元金返済は貯蓄に分類されてしまうことになっていたはずです。なので、消費を減らして余ったお金が「貯蓄」ということになるわけですが、現実に多いのは過去の返済負担に回されるということだろうと思います。特に、これまでの返済負担が重いと、その費用を捻出する為に消費を切り詰めて「貯蓄に回す」ということになるでしょう。バローさんやリカードさんが賢いのは、まさにこうした事態が起こってしまう、ということを見越していたことでしょう。
借金で先に消費を拡大したとて、後に返済負担が待っているという場合には、消費が先食いされるだけで後からの消費が減少するということになり、結局は「いま金を払って消費する」のも、「後からまとめて払う約束で消費する」のも、まさに「中立」ということなんだわね(笑)。トータルの消費が増えるというわけではない、ということなんだわ。赤字債券でファイナンス(=各種ローン)して消費するのも、現時点で金を払って消費するのも、この経済主体の(長期的な意味で)消費を増やしはしない、ということですよ。

だから、貯蓄が増大する過程というのは、言葉が貯蓄になっているというだけで、実態としては多くが借金返済なんだろうな、ということですね。フローの問題からだけでは、借金の返済負担というものが見え難い部分があるので、注意が必要かもしれませんね。

消費が戻ってくるとすれば、返済負担が一段落したら、ということになるかと思います。



バロー(リカード)の中立命題に関する補足

2009年02月02日 17時54分51秒 | 経済関連
リカードの中立命題に関連して、補足です。


資料が見つかったので、追加しておきます。

ESRI経済分析163号-財政赤字と経済活動:中長期的視点からの分析(序文)

井堀らの考察によれば、やっぱ「中立命題の成立はちょっと無理じゃね?」ということのようですよ(笑)。

いや、専門用語みたいなものを是非使いたい、というのは、否定はしませんが、だからといって、何にでも用いればよいというわけではありませんぜ。現実に成立している可能性の少ないものを、敢えて「中立命題によれば中立だ」みたいな話に落とし込むのはどうかと思うということですわ。

かなりの確信を持って用いているならまだしも、曖昧な「○○という用語がある」「○○という説がある」という程度にしか理解せず、これをもって政策の妥当性や有効性の評価に用いるというのは、より一層慎重であるべきでは。

更に、これをあたかも「学術的に正しい」かのように装いながら、大勢の人々に向かって誘導や煽動をする言説を「広く公表」するというのは、所謂「風説の流布」の類と何が違うのでしょう?
マスメディアの人たちがそうやって断片情報だけに踊らされることが多いからこそ、間違った意見や考えがいくらでも拡散していってしまうのですよ。これは、経済学の用語としてあるものを一切使うな、ということではなくて、正しく用いなさい、誤解のないように使いなさい、ということです。特にマスメディアの人々には、そうした義務を果たすべきでしょう、ということです。



これはトリックです>弾氏

2009年02月02日 10時46分39秒 | 俺のそれ
パイを大きくしたのに、減ってるじゃないか!

という文句を言うことで、パイを大きくしてもしょうがない、とか言うのはマズいですよ>断固guy氏


こちらね>はてなブックマーク - 404 Blog Not Foundパイを大きくしたら自分のスライスが減ったでござるの巻


これはよくありがちな手口。

もっと単純に、判りやすい例で書いてみるよ。

ある時点のパイの大きさを100とする。甲、乙、丙の3人で分ける。
甲:50%、乙:35%、丙:15%とする。
すると、取り分は甲が50、乙が35、丙が15となる。

ある時間経過後のパイを観察すると、甲は105、乙は75、丙は20となっていた。
この時、3人の取り分を比率で表せば、
甲:52.5%、乙:37.5%、丙:10%
で、パイの大きさは200だった。

さて、こういう時「パイが大きくなったのに、丙は15%→10%に''減少した''、だからパイを大きくしても無駄なんだ」と果たして言うだろうか?(笑)

割合で見れば、取り分の比率が低下していることは確かであるが、丙の絶対的取り分量が大幅に目減りしたわけではないからだ。少なくとも、15から20に5だけ増加したことは言えるのだから。もしもこうした取り分比率が公平ではないから、もっと比率を均等化するようにしましょう、ということなら、甲と乙の取り分の多くなった2.5%分を是正する為の措置(所謂再分配)を政策として考えればよいので、甲や乙の課税負担を多くして是正するといった方法は取り得るわけだ。このことは、「パイの大きさ」には関係のない政策であり、パイの大きさがどんなものであったとしても、切り分け方の問題でしかない。

カットの比率がバラバラじゃないか、不公平じゃないか、という意見は、「パイを大きくするのは無効」という意見を強化しない。
極端な言い方をすれば、直径20cmのピザやケーキでは8分の1カット(45度だね)だけだと「腹が一杯にはならない、空腹のままだ」という文句があるとして、たとえ同じ45度であっても直径1mにすりゃ腹が膨れるようになるよ、という話だ。そんだけ大きいなら、15度でもいいですよ、という人が大勢いるだろう。


もう一つの論点として、小飼氏の取り上げたパイというのは、フローの金ではなくてストックの方。資産を持ってる割合を見ているので、話がちょっと違うよ。

経済成長というのは、そもそも毎期のフローの大きさを見ているのであって、資産を見ているわけではない。

(経済の)パイが大きくなる=経済成長というのは、平たく言えば、
「毎月収入として渡される米の量」が増える、ということを意味する。
甲、乙、丙で分けている時、ある時点では甲が50、乙が35、丙が15の米を受け取っていたとする。ちょっとあとの期には、甲が70、乙が45、丙が25受け取っていれば、パイの大きさは100から140に増加しており、丙が食べられる米の量も増やせているよね、という話である。これが経済成長。
で、ストックという話になれば、食べないで貯蔵しておいた米の量が、最初の期には甲が100、乙が60、丙が5、ちょっとあとの期に見てみたら甲が150、乙が100、丙が15という風になっていたとする。この比率の変化を見ているのが、小飼氏の言い分なのだが、これはパイの拡大(100→140)という話と、自分ちの米びつに溜まっている米の量とを、混同して比較してしまっている。ストックで言えば、日本経済の富はどの程度か正確には知らないけれども、3000兆円とかナントカの規模になってしまうと思うよ。これはGDPの大きさが500兆円云々という話ではない。

ストックを比較するなら、「同じ系列」になっていなけりゃ、話にならないと思う。甲は「オレの給料は月給100万円だ」と言い、乙が「オレは貯金を1千万円持ってるぜ」と言っても、両者の出した数値の「100万円」と「1千万円」を比較すること自体に意味がないのと同じだよ。


そういうわけで、グラフや説明の時には、トリックや落とし穴に十分注意しないと、嘘が数字をつくる(by 新庄主計大佐)ということになってしまうだろう。