当初日本では、あまり大々的に取り上げられなかった事件であるが、中国側の猛烈な抗議で状況はやや変わりつつある。海外メディアからも関心を寄せられる一件となった(警戒しながら互いを見やる日本と中国 JBpress(日本ビジネスプレス))。
この一連の事件について、背景などを含めて考えてみたい。
①米中関係配慮の思惑
双方にとって突っ慳貪な対応の夏を過ごしたが、この修復を考えたいというのが根底にあるだろう。6月にゲーツ訪中を断って以降、南シナ海を巡る発言や演習、黄海での演習など、米国の海の権益を守ろうとする動きが中国との衝突を生んできた。その修復を図りたい、という姿勢が最近の中国側からは窺える、ということである。例えば、ゲーツの年内訪中の可能性を探る、というのがその一例である。
そこで中国は、対日関係の対応というのを米国側に見せることによって、間接的に意向を示したものと言えるのではないか。米国が心配するのが、日本が中国寄りに行ってしまうんじゃないか、ということであるなら、効果があると考えるはずだ。これを対米関係の修復に役立てよう、という思惑が働いたとしても不思議ではない。
②領有権問題での中国側の姿勢を示す
簡単に言えば、「譲歩しない」「断固たる姿勢」、というようなことである。今年脚光を浴びることになった南シナ海を巡る動きであるが、中国は「中核的利益」と呼び波紋を広げた。更には、哨戒艦沈没事件に関連して、ARFを舞台にした米中バトルというのもあったわけである(敗北を重ねた米国外交 )。
今回の尖閣諸島沖の衝突事件においても、「強く主張する」という基本姿勢を示そうとしていたことがよく分かるのである(主張の中身は別にして)。
③日本における「中国警戒の動き」
菅政権になって小沢色が排除された後、以前に比べると中国への配慮が乏しくなり、再び従米路線へと回帰したということがまずある。とりわけ中国海軍の脅威を殊更強調するのが、中国にとっては面白くないわけである。また、中国の脅威を暗に非難するかのような、例えば「中国が日本国債を大量に買っている、その意図とは何だ」というような言辞も、癪に障るわけである(時期としては、衝突事件の後であるが)。
(他には、当時の鳩山総理の尖閣諸島に関する発言などが近頃徹底的に非難される、といった動きなどもある。)
そういう中国に批判的な態度をとることへの対応として、中国側としても「少しお灸をすえてやらねばいかんな」という風になるかもしれない。それが、今回の「異例の抗議」に繋がっていたかもしれない。
④当初の呼び出し
8日に胡外務次官補(外交部部長助理)の最初の呼び出しがあった。丹羽大使が漁船連行、逮捕の抗議を受けたわけである。このような呼び出しは異例ではあったものの、これまでにもなかったわけではない。例の藤崎駐米大使がクリントン国務長官に呼び出された、という一件である。中国はこの件を熟知していた。だからこそ、今回は丹羽さんを呼んだのだ。上述したような背景①~③もあったあが故、ということであろう。
>日本の外務省とマスコミは日米関係を破壊するつもりなのか
(関連:普天間基地問題を巡る報道について)
駐米大使が呼ばれると日本のマスコミや外務省は大騒ぎ(笑)。まあヤラセならば、それも当然かもしれないが。
しかし、駐中国大使が呼ばれても、殆ど反応なし、だった。
中国側はこういう様子をじっと窺っているわけですよ。米国には従米路線なので「大変だ大変だ、米国様がお怒りだ、ルース大使もオバマ大統領もクリントン長官もみんな顔を真っ赤にして激怒しておられる」ということで、大騒ぎをするわけですわ、日本のマスコミというのは。
しかし、中国が大使を呼んで文句を言っても、極めて小さな扱い(笑)。当初の反応なんて、殆どこっそりと報じられていただけ。中国側は「米国に比べて軽んじられているな」ということが判断できるし、この件について注目している人間は誰なのかということが観察できるわけなんですよ。
中国海軍のヘリの接近事件というのもあったでしょう?
あの時にも初回は目立った報道がなかったもんで、仕方なしに危険を冒してでも2度目にはもっと接近して、日本のマスコミがきちんと報道するようにやったんじゃないかと思うわけですよ(軍事機密をバラされたので「猛抗議の米国」の謎 )。
今回も、初回の胡次官補の呼び出しには殆ど報じられず、2回目も呼んだけれど、それでも大した騒ぎということにもならなかったわけです。中国側としては、ははーん、こちらの扱いはそんなクラスですか、ということで、日本側の姿勢や考え方はよく分かったよ、と。
ところが、状況は急変した、というのが、当方の推測である。
⑤焦り出した中国
胡外務次官補が2度も呼び出した後で、更に大物を投入することとなったのが、3度目以降の呼び出しということになる。10日には楊外相が丹羽大使に申し入れをしている。これこそ異例、ということに他ならず、当初の呼び出し時点ではここまで大事に至るとは考えていなかったであろう。
中国国内向けのポーズとしても、日本に「漁船と船長以下船員を速やかに返還せよ」と要求するのは、「必要な措置」であった。9日時点では、中国国内の対日強硬論はそれほど目立ってはいなかった。
しかし、楊外相が登場してきて以降は、中国としては”真剣に”今すぐ船員を戻してくれ、と要求するようになったわけである。これは何故なのか?
日本国内メディアや外務省などの反応を見ていても、「どうせ…」と若干高を括ったような感じであったろう。確かに事件としては、そんな大事件と呼べるようなものではないからだ。中国側としても、極端に強硬論に傾くということに踏み切りづらいということがあったであろう。けれども、中国国内には「不穏な空気」というものが漂い始めた、ということではないだろうか。
それは偶然にも、逮捕された船長の祖母が亡くなった、ということがあったようなのだ。帰ってこない孫である船長の身を案じていた祖母が、9日頃に亡くなったらしいのである(中国語が全く分からないのだが、グーグル検索で並ぶ漢字なんかを見ると、何となくそういうことのようだ、と当方が判断した)。
恐らく、これに中国当局は慌てただろう。
悲劇は、最上の煽動材料となるから、である。05年のような、反日運動の嵐が吹き荒れてしまうことを恐れたのだと思う。尖閣諸島領有問題に再び火がついて、日中関係に難題が増えるのを嫌ったものと思う。
さて、船長の祖母の死によって、孫が祖母の亡骸にも会えないということになれば、中国国内の反日ムードはいやが上にも高まることは必定である。だからこそ、「直ぐにでも船長を戻してくれ」と日本側に要求をする、ということなのだが、日本の外務省はこうした機微が理解できないし、鈍感故の対応の遅さがあるわけである。そこで、「大使呼び出し」効果を、最初の頃の「弱い効力」から段階的に引き上げて段々「強い効力」を持つものにしていった(次官補→外相→国務委員)、ということだ。
なのに、日本の外務省はそれでも気付かなかったのだろう。楊外相が2度も呼び出して言っているのに、なおピンと来ないのである(笑)。中国にいる大使館員は一体全体何をやっているのか、どんな情報集めをやっているのか、ということだ。無能の極みではないか。中国国内で情報集めをやるのが仕事なのに、役立たずということであろう。そういうのが大使館の上の方まで伝わっていない、ということだろう。丹羽さんとか、その周辺の幹部クラスが気付かなければ、いくら中国側が「早く戻してくれ」ってお願いしても、「日本としては聞き入れられない」という定型的な返答を繰り返すことになってしまうからだ。
そこで、「異例中の異例」をより一層強調せざるを得なくなった中国側は、楊外相よりも格上クラスの戴国務委員を使い、更に「真夜中に呼び出す」という、本当に「異例なんだからな!!」と書いたお面でも付けているんじゃないかというくらいの演出をした、ということでしょう。そうでもしなけりゃ、鈍感揃いの間抜けどもには、「判ってもらえなかった」ということでしょうな。
さすがに5回も呼び出し、しかも真夜中に、外交担当のトップ級である戴国務委員が相手ともなれば、ようやく日本側としても「これは、何かあるのかな?」と感じ始めた、ということでしょう。マスコミも8日頃の小さい扱いではなくなり、「本気で異例みたいだよ」という報道姿勢に変わっていった、と。
まあ、はっきり言えば、日本の外務省の大失態、ということでしょうな。しかも、無能ぶりを中国側に改めて示してしまった、と。
今日になってようやく「任意聴取が終了したので、帰国させます」ということになったみたいです。無能な日本の外務省には、一から十まで事細かに説明でも付けないと、ピンと感づいて、素早く対応を考えてくれたりというのを期待できない、ということでしょう。中国側は国内の「炎上」が起こるのを未然に防ぐべく対応を急いだのに、恐らく日本側ではそうしたことに目を向ける人は殆どいないだろう、というのが当方の推測である。
日本の外務省ってのは、本物の無能集団なのかもしれない。
この一連の事件について、背景などを含めて考えてみたい。
①米中関係配慮の思惑
双方にとって突っ慳貪な対応の夏を過ごしたが、この修復を考えたいというのが根底にあるだろう。6月にゲーツ訪中を断って以降、南シナ海を巡る発言や演習、黄海での演習など、米国の海の権益を守ろうとする動きが中国との衝突を生んできた。その修復を図りたい、という姿勢が最近の中国側からは窺える、ということである。例えば、ゲーツの年内訪中の可能性を探る、というのがその一例である。
そこで中国は、対日関係の対応というのを米国側に見せることによって、間接的に意向を示したものと言えるのではないか。米国が心配するのが、日本が中国寄りに行ってしまうんじゃないか、ということであるなら、効果があると考えるはずだ。これを対米関係の修復に役立てよう、という思惑が働いたとしても不思議ではない。
②領有権問題での中国側の姿勢を示す
簡単に言えば、「譲歩しない」「断固たる姿勢」、というようなことである。今年脚光を浴びることになった南シナ海を巡る動きであるが、中国は「中核的利益」と呼び波紋を広げた。更には、哨戒艦沈没事件に関連して、ARFを舞台にした米中バトルというのもあったわけである(敗北を重ねた米国外交 )。
今回の尖閣諸島沖の衝突事件においても、「強く主張する」という基本姿勢を示そうとしていたことがよく分かるのである(主張の中身は別にして)。
③日本における「中国警戒の動き」
菅政権になって小沢色が排除された後、以前に比べると中国への配慮が乏しくなり、再び従米路線へと回帰したということがまずある。とりわけ中国海軍の脅威を殊更強調するのが、中国にとっては面白くないわけである。また、中国の脅威を暗に非難するかのような、例えば「中国が日本国債を大量に買っている、その意図とは何だ」というような言辞も、癪に障るわけである(時期としては、衝突事件の後であるが)。
(他には、当時の鳩山総理の尖閣諸島に関する発言などが近頃徹底的に非難される、といった動きなどもある。)
そういう中国に批判的な態度をとることへの対応として、中国側としても「少しお灸をすえてやらねばいかんな」という風になるかもしれない。それが、今回の「異例の抗議」に繋がっていたかもしれない。
④当初の呼び出し
8日に胡外務次官補(外交部部長助理)の最初の呼び出しがあった。丹羽大使が漁船連行、逮捕の抗議を受けたわけである。このような呼び出しは異例ではあったものの、これまでにもなかったわけではない。例の藤崎駐米大使がクリントン国務長官に呼び出された、という一件である。中国はこの件を熟知していた。だからこそ、今回は丹羽さんを呼んだのだ。上述したような背景①~③もあったあが故、ということであろう。
>日本の外務省とマスコミは日米関係を破壊するつもりなのか
(関連:普天間基地問題を巡る報道について)
駐米大使が呼ばれると日本のマスコミや外務省は大騒ぎ(笑)。まあヤラセならば、それも当然かもしれないが。
しかし、駐中国大使が呼ばれても、殆ど反応なし、だった。
中国側はこういう様子をじっと窺っているわけですよ。米国には従米路線なので「大変だ大変だ、米国様がお怒りだ、ルース大使もオバマ大統領もクリントン長官もみんな顔を真っ赤にして激怒しておられる」ということで、大騒ぎをするわけですわ、日本のマスコミというのは。
しかし、中国が大使を呼んで文句を言っても、極めて小さな扱い(笑)。当初の反応なんて、殆どこっそりと報じられていただけ。中国側は「米国に比べて軽んじられているな」ということが判断できるし、この件について注目している人間は誰なのかということが観察できるわけなんですよ。
中国海軍のヘリの接近事件というのもあったでしょう?
あの時にも初回は目立った報道がなかったもんで、仕方なしに危険を冒してでも2度目にはもっと接近して、日本のマスコミがきちんと報道するようにやったんじゃないかと思うわけですよ(軍事機密をバラされたので「猛抗議の米国」の謎 )。
今回も、初回の胡次官補の呼び出しには殆ど報じられず、2回目も呼んだけれど、それでも大した騒ぎということにもならなかったわけです。中国側としては、ははーん、こちらの扱いはそんなクラスですか、ということで、日本側の姿勢や考え方はよく分かったよ、と。
ところが、状況は急変した、というのが、当方の推測である。
⑤焦り出した中国
胡外務次官補が2度も呼び出した後で、更に大物を投入することとなったのが、3度目以降の呼び出しということになる。10日には楊外相が丹羽大使に申し入れをしている。これこそ異例、ということに他ならず、当初の呼び出し時点ではここまで大事に至るとは考えていなかったであろう。
中国国内向けのポーズとしても、日本に「漁船と船長以下船員を速やかに返還せよ」と要求するのは、「必要な措置」であった。9日時点では、中国国内の対日強硬論はそれほど目立ってはいなかった。
しかし、楊外相が登場してきて以降は、中国としては”真剣に”今すぐ船員を戻してくれ、と要求するようになったわけである。これは何故なのか?
日本国内メディアや外務省などの反応を見ていても、「どうせ…」と若干高を括ったような感じであったろう。確かに事件としては、そんな大事件と呼べるようなものではないからだ。中国側としても、極端に強硬論に傾くということに踏み切りづらいということがあったであろう。けれども、中国国内には「不穏な空気」というものが漂い始めた、ということではないだろうか。
それは偶然にも、逮捕された船長の祖母が亡くなった、ということがあったようなのだ。帰ってこない孫である船長の身を案じていた祖母が、9日頃に亡くなったらしいのである(中国語が全く分からないのだが、グーグル検索で並ぶ漢字なんかを見ると、何となくそういうことのようだ、と当方が判断した)。
恐らく、これに中国当局は慌てただろう。
悲劇は、最上の煽動材料となるから、である。05年のような、反日運動の嵐が吹き荒れてしまうことを恐れたのだと思う。尖閣諸島領有問題に再び火がついて、日中関係に難題が増えるのを嫌ったものと思う。
さて、船長の祖母の死によって、孫が祖母の亡骸にも会えないということになれば、中国国内の反日ムードはいやが上にも高まることは必定である。だからこそ、「直ぐにでも船長を戻してくれ」と日本側に要求をする、ということなのだが、日本の外務省はこうした機微が理解できないし、鈍感故の対応の遅さがあるわけである。そこで、「大使呼び出し」効果を、最初の頃の「弱い効力」から段階的に引き上げて段々「強い効力」を持つものにしていった(次官補→外相→国務委員)、ということだ。
なのに、日本の外務省はそれでも気付かなかったのだろう。楊外相が2度も呼び出して言っているのに、なおピンと来ないのである(笑)。中国にいる大使館員は一体全体何をやっているのか、どんな情報集めをやっているのか、ということだ。無能の極みではないか。中国国内で情報集めをやるのが仕事なのに、役立たずということであろう。そういうのが大使館の上の方まで伝わっていない、ということだろう。丹羽さんとか、その周辺の幹部クラスが気付かなければ、いくら中国側が「早く戻してくれ」ってお願いしても、「日本としては聞き入れられない」という定型的な返答を繰り返すことになってしまうからだ。
そこで、「異例中の異例」をより一層強調せざるを得なくなった中国側は、楊外相よりも格上クラスの戴国務委員を使い、更に「真夜中に呼び出す」という、本当に「異例なんだからな!!」と書いたお面でも付けているんじゃないかというくらいの演出をした、ということでしょう。そうでもしなけりゃ、鈍感揃いの間抜けどもには、「判ってもらえなかった」ということでしょうな。
さすがに5回も呼び出し、しかも真夜中に、外交担当のトップ級である戴国務委員が相手ともなれば、ようやく日本側としても「これは、何かあるのかな?」と感じ始めた、ということでしょう。マスコミも8日頃の小さい扱いではなくなり、「本気で異例みたいだよ」という報道姿勢に変わっていった、と。
まあ、はっきり言えば、日本の外務省の大失態、ということでしょうな。しかも、無能ぶりを中国側に改めて示してしまった、と。
今日になってようやく「任意聴取が終了したので、帰国させます」ということになったみたいです。無能な日本の外務省には、一から十まで事細かに説明でも付けないと、ピンと感づいて、素早く対応を考えてくれたりというのを期待できない、ということでしょう。中国側は国内の「炎上」が起こるのを未然に防ぐべく対応を急いだのに、恐らく日本側ではそうしたことに目を向ける人は殆どいないだろう、というのが当方の推測である。
日本の外務省ってのは、本物の無能集団なのかもしれない。