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米国10年債の金利動向に関する雑考

2010年09月01日 08時52分15秒 | 経済関連
08年のリーマン・ショック後の変動について、いくつか個人的見解があるので、一度整理してみようと思う。

①リーマン・ショック~08年末までの金利低下局面

4%程度あった10年債指標金利が、2%程度まで急低下した。10月30日3.939%→12月26日2.137%とほぼ一本調子で下げた局面である。
理由としては、普通に考えるとそう難しいというものでもなく、米国債の需要が高まったこと、金利引き下げによる効果、ということではないか。他資産からの資金逃避先(とりあえず安全資産を求める)としての米国債というのが、よく言われていたように思う。

一方、中国の貿易収支は08年後半ではまだ勢いが衰えておらず、貿易黒字の積み上がりから、米国債に買い資金への振り向けというのは、それなりにあったのではないか、ということである。


②09年初頭~09年6月の金利上昇局面

ここではいくつかの見解が分かれる可能性があるかもしれない。
主な理由としては、極端なリスク回避策というのが、衰えていったからではないか、ということである。
08年後半ではまるでパニックのように続いていたものが、年を越えて世界中の対策が打ち出されていったので、心理的にも随分と改善が進んだものと思われる。そうすると、資金を移していた米国債から、再びリスク資産へと資金移動が行われるということになるので、米国債が売られるということなのではないか。
この米国債離れというのは、多分世界経済の自信の回復過程だった、ということではないかな。

一方で、国債需給のうち供給という部分がある。それは、巨額の財政赤字計上、ということで財政出動に伴う国債発行額増加、ということがあったはずである。例えば単年度収支で1兆ドルとかの赤字となれば、巨額の国債発行を必要とするので供給は多くなったのであろうな、ということである。それは、国債価格下落=金利上昇をもたらす、ということではないか。

FRBの国債買入という話は、この巨額財政赤字(新規国債発行額の増加額)の規模と比べてどうなのか、ということである。もしも、買入額が財政赤字に比べて割と小さい場合には、いくらFRBが買入すると宣言しても効果は限定的となるはずである。それ以上に、財政赤字の金利上昇圧力の方が大きければ、指標金利は上昇していってしまうだろう。それがこの局面で観察されたのではないだろうか、というのが、私個人の見解である。


③09年7月~10年3月末までの局面

この期間は端的に言えば、「往ったり来たり」という循環というか、ボックス圏的な期間だったのではないか、と。上は大体4%、下が3.25%、ということで、国債需給は概ね拮抗を保ちつつ、経済指標の回復などを受けてのマーケット的にいうと「出口戦略」に関心が向かい出していた時期ではなかろうか、と。

平たく言えば、あまりに酷かった大災害の残骸処理なんかが粗方終わって、通常状態に戻ろうとするような頃、ということかな。楽観できない状況だ、とは言いつつも、例えば白川総裁のような「強気の見方」もあったわけで、今後の回復過程で将来見通しを上方修正しますよ、というようなものである。ところが、世界経済には暗雲が立ち込めていた、ということではないかな。


④10年4月~今の金利低下局面

4月5日3.994%→8月26日2.499%と、着実に金利が低下してきた。
まず発端となったのは、欧州の危機である。ギリシャ問題に代表される、ソブリン・リスクの顕在化ということから、ユーロは大幅下落となった。そうした国債に入っていた資金は、恐らくより安全度の高いと目される米国債へと向かっていったのではないか。これが春先以降の変化をもたらしたものと思う。

他には、中国の動向というのがある。外貨準備の米国債保有残高が頭打ちになっている、というのが専らの観測であろうけれども、それは必ずしも10年債需要を低下させているとは限らないかもしれない。
それは、短期国債からの資金移動、ということがある。外貨準備のドル資産があまり増えていなくても、10年債の持ち高を増やすことは可能。
別な見解として、今年初めことによく言われたのが、香港や英国のダミーに持たせているのではないか、というものである。地域別の保有高では、この2つが増加しているから、ということのようだ。確かにその可能性はあるだろう。


米国10年債がここまで金利低下となるのだから、それには理由というものがあるわけである。「誰かは買っている」ということだ。買いのプレイヤーはいくつもいるので、誰が大きな影響力を有しているのかは不明である。米国の家計は、痛んだバランスシートが回復するまで消費を抑制して、貯蓄に回している(借金返済に勤しんでいる)ということだってあるかもしれない。或いは、株式市場や商品市場などに流入していた資金を引き揚げて安全資産買いに向かっているのかもしれない。他の社債や小国の国債なんかをやめた資金が向かっているのかもしれない。

ただ言えそうなことは、米国においてでさえ「インフレ期待は低下している」ということと、米国債の買いが優勢であった、ということである。