江戸時代の商家は代々その「屋号」を守るため長男または男兄弟が後を継ぐとか、娘しかいない場合は婿養子を迎えるなどとして「お店(たな)」を維持してきた。
武家の世界はもっと深刻で「お家断絶」から免れるために凄惨なドラマが繰り広げられていた。
現代では1960年代後半(昭和40年代)頃から各地でスーパーマーケットをはじめとした大型商業店舗の出店が急増し、多くの個人商店が姿を消し始め、それまでは、いたるところに商店街が存在しており、生活必需品を販売する、「米屋」、「八百屋」、「魚屋」、「肉屋」「酒屋」等々、「~屋」と呼ばれるおなじみの店が多く存在していたことが懐かしく思い出される。
それらの店は親から子に代々に引き継がれ、地元の学校を卒業し、都会にでた若者が10数年ぶりに実家に帰ると当時の同級生が親の後を継いで店主になっていた、というほほえましい光景が見られたものだが、その後、時代とともに人々の生活様式も変わり親の仕事を引き継げば安泰という時代は遠い過去の話となってしまった。
一部の「老舗」と呼ばれる店を除いて後継者がいない店舗は姿を消していくという時代になってきているにもかかわらず、そのような世の中の流れとは縁遠い世界があり、「コロナ禍」にもかかわらず、仕事を失うこともなく、年収と歳末手当等が保障されている連中が「家業」を引き継ぐ「政治屋」一族である。
安倍晋三は父の晋太郎氏が率いた「安倍派」を復活させ、政界のキングメーカー、いわば“令和の闇将軍”の座を不動のものにしたかに見えるが、その意気軒昂な姿とは裏腹に、足元に大きな不安を抱えている。
岸田文雄が面従腹背で“安倍離れ”を急いでいることに加え、安倍家の後継者問題が深刻化しているからだ。
政治ジャーナリスト・野上忠興はこう言っていた。
「安倍氏と昭恵氏に子供がおらず、総理を辞めて代替わりを準備しなければならない時期なのに、地盤を継がせる後継者が決まっていない。地元にも、派内にも、危機感がある」
跡継ぎ問題を一番心配しているのが岸信介・元首相の娘で安倍家と岸家のゴッドマザーと呼ばれる母・洋子(93歳)だとされる。
安倍家は長男・寛信(三菱商事パッケージング元社長)、次男の晋三、そして生まれてすぐ洋子さんの実家・岸家の養子になった三男で現・防衛相の信夫(山口2区)の3兄弟。
後継者候補は寛信の長男(大手商社勤務)、岸信夫の長男・信千世氏(防衛大臣秘書官)と次男(大手不動産勤務)の3人と見られているが、なかなか決まらないといわれている。
「洋子さんは自分の目の黒いうちに後継者を決めたい。実家の岸家に養子に出した信夫氏の息子たちは岸家の地盤を継がなければならないから、安倍家の地盤はなんとしても寛信氏の長男に継いでほしいという思いが強い。しかし、長男は政治家の道は選ばないと断わり続けている」(地元・山口の政界関係者)
そんな中、安倍晋三に立ち塞がるのが、岸田派ナンバーツーの林芳正・外相なのだが、貴族院議員だった高祖父から続く4世議員で、安倍晋三の地元・下関に強固な地盤を持ち、地元での政治的蓄積は林家のほうが安倍家より長い。
両家は中選挙区時代から安倍氏の父・晋太郎氏(元蔵相)と林氏の父・義郎氏(元副総理)が激しく争ってきたライバル関係だった歴史がある。
林家との次の総選挙での対決を考えれば安倍家に残された時間は少ない。
安倍晋三が出馬するにしても、それまでに後継者を披露して後援会を安心させなければ林芳正に切り崩される危険があるからだ(ちなみに林は東大の後輩である裕子夫人との間に二女がある)。
そこで寛信氏の長男の代わりに有力視されている後継者が岸家の信千世氏だ。フジテレビ記者から父の防衛大臣秘書官となり、すでに「政治家修業」に入っている。
「洋子さんが寛信氏の長男にこだわっていたから晋三さんは母には何も言わないが、本音は、彼が継ぎたくないなら信千世に継がせればいいじゃないかと考えているようです。洋子さんは三男の信夫君を生まれてすぐに兄の養子にして岸家を継がせた。今度は、信夫君の長男が安倍晋三家を継ぐことになるかもしれない」(安倍側近)
ところが、ここにきてその信千世氏による安倍家継承案にも不安材料が持ち上がった。父・信夫氏の健康不安説だ。
信夫氏は9月に体調不良で防衛相の公務を一時取りやめ、「尿路感染症」と発表された。本誌・週刊ポストは杖をついて信千世氏に支えられながら苦しそうに歩く信夫氏の姿を報じた(2021年8月27日発売号)。
その後、信夫氏は「体調は十分改善した」と公務に復帰し、第2次岸田内閣でも防衛相に再任されたものの、党内では体調不安説が消えていない。「次の総選挙で引退し秘書官の信千世氏に後を継がせるのではないか」(安倍派議員)という見方もある。
事実、最近の岸信夫防衛相はテレビの会見でも満足に歩けない無様な姿を見せていた。
「岸信夫防衛相、北ミサイルの会見で『体調が悪そう』と心配の声相次ぐ 昨年から健康不安説が」
岸信夫・防衛大臣は5月25日、早朝に北朝鮮がミサイルを発射したことについて防衛省内で会見を開き、「日米・米韓首脳会談や、日米豪印(クアッド)首脳会合が開催された直後の発射は明らかに挑発行動であり、断じて許されない」と批判した。これを受けてSNS上では、北朝鮮への批判と並んで会見する岸防衛相の様子を心配する声が相次いだ。〈岸防衛相、声出てないけど大丈夫?〉〈北朝鮮のミサイルよりも岸防衛相の体調がどんどん悪化している方が気になるわ〉〈岸防衛相めっちゃ体調悪そうだけど大丈夫なん?〉──。 岸防衛相の体調問題をめぐっては、本誌・週刊ポスト(2021年9月10日号)が、「岸信夫・防衛相『歩行に支障』の健康問題浮上」といち早く報じている(NEWSポストセブンで同年8月30日配信)。公用車で防衛省を出た都内の鍼灸院へ向かった岸氏は、車を降りると、膝をかがめ、お腹をかばうように前屈みになってよたよた歩き出した。車のトランクに手をついて体を支える場面もあった。別の日には、長男で秘書官を務める信千世氏(元フジテレビ記者)とともに右手で杖をつき、右足を引きずるように自宅の周囲を15分ほど歩く様子も確認した。それはいかにも体調不安を窺わせるものだった。 本誌は「重症ならば防衛大臣の健康問題は国の安全保障にかかわる問題ではないか」と指摘したが、岸事務所に取材すると、「足の調子が悪く、医師と相談し、念のため杖をついています。職務に影響はございません」と回答があった。 もちろん、足の調子が悪いだけなら、大臣の職務に大きな支障はないだろう。ところがその1か月後の9月28日、岸氏は体調不良のため閣議を欠席。尿路感染症と診断された。すぐに公務に復帰したが、その後も体調がよくなっている気配はない。果たして大丈夫なのか。全国紙政治部記者は言う。 「岸氏は車椅子や杖を使って移動していますが、かなり足下がおぼつかない様子です。それ自体は公務に問題があるわけではありませんが、声の張りなどを見ても明らかに元気な状態とは言いがたく、記者の間でも心配する声が上がっています。 ロシアによるウクライナ侵攻、中国の台湾問題、そして北朝鮮のミサイルと日本をめぐる安全保障が厳しさを増している中、果たして岸防衛相にその重責が務まるのか。そうした疑問が出てきても仕方ないのではないでしょうか」 だが、岸田文雄・首相にそれを検討するそぶりは見えない。 「岸氏が安倍晋三・元首相の実弟だからでしょう。岸田首相はアベノミクスの見直しなどをめぐり安倍氏と緊張状態にある。そうした中で、岸氏の大臣交代を検討などしようものなら、さらに安倍氏を刺激することになってしまいます。そのため、この件は岸田首相にとってアンタッチャブルになっているのです。 岸氏をめぐっては、息子で秘書の信千代氏が跡を継ぐのが順当ですが、一方で信千代氏が子供のいない安倍氏の後を継ぐという見方も出ています。安倍家と岸家の後継問題にも繋がるため、ますます政権内でこの問題には触れづらくなっているのでしょう」(同前) |
「父親思いの信千世君は体調が良くない信夫氏に“これ以上、体に負担をかけてほしくない”と総選挙後に地元に入って挨拶に回るなど後継準備をしている」と訳知りの岸に近いメディア関係者が語っていた。
仮に、信千世が岸の地盤(山口2区)を継ぐことになれば、安倍家の後継者問題は振り出しに戻ることになる。
そこで浮上しているのが信千世氏の実弟である岸家の次男が安倍家の地盤を継ぐという話だ。
「洋子さんも最近では、寛信氏の長男が政治家を継がないという決意が固いから、残る岸家の次男を安倍晋三氏の養子にして継がせる考え方に傾いていると聞いている。
しかし、これには信夫がウンと言わない。自分が岸家の養子にいったことで兄2人との関係がしっくりいってなかったことから、“兄弟で姓が違うのはよくない”と反対しているそうです」と先の岸に近いメディア関係者が指摘していた。
安倍晋三は公私ともに、総理時代以上の難題を抱えつつあるようだが、「政治屋」という家業を守るまさに憐れな「やんごとなき一族」なのであろう。
まあ一般庶民には全く関係のない話でどうでもよいのだが、徳川時代のように「世継ぎ」がいない藩を「改易」させたように、安倍晋三のように跡継ぎがいない「政治屋」は本人が死んだら即おしまいという制度を設けたほうがいいのではないだろうか、とオジサンは思う。