一時「右翼映画」との批判が出て韓国での公開が危ぶまれていた(→参照) 映画「風立ちぬ」。
結局「切ない恋愛映画」として公開されることになり(→参照)、その公開初日が昨日9月5日でした。
その反響・反応に注目している人は多いと思います。
で、とりあえずその公開日の全国の観客動員数順位から。
※ネタ元は→コチラ。なお「風立ちぬ」の韓国題は「바람이 분다(パラミ プンダ)」です。
①スパイ(韓国.9/5~) 133,136人 ②エリジウム(米国.8/29~) 36,666人 ③かくれんぼ(韓国.8/14~) 31,963人 ④グランド・イリュージョン(米国.8/22~) 30,379人 ⑤風立ちぬ(日本.9/5~)12,193人
・・・ということで第5位。しかし同日公開の韓国のアクション・コメディ「スパイ」の1割以下と大差をつけられています。ちなみに上映館数は「スパイ」の694館に対し「風立ちぬ」は274館です。
韓国では、過去のジブリ作品の観客動員数ベスト3は①「ハウルの動く城」 301万人 ②崖の上のポニョ 152万人 ③借りぐらしのアリエッティ 108万人。初日の数字で見るかぎり、「風立ちぬ」はとてもそこまで届きそうもないですね。
韓国の代表的ポータルサイトの1つ<DAUM>中の<DAUM映画>でこの作品の評点を見てみると(→コチラ)、現時点で48人の平均が4.3。[追記:9月19日現在では141人の平均で5.1と少し上昇。]
これまでの宮崎監督作品の平均評点(→参照)は「千と千尋の神隠し」9.4、「もののけ姫」9.2、「となりのトトロ」9.2、「ハウルの動く城」9.1、「風の谷のナウシカ」9.0、「未来少年コナン」9.0、その他の作品もすべて8.0以上だったことを考えると、この「風立ちぬ」は極端に低い、と言えます。
「風立ちぬ」は、日本でもこれまでの作品と比べると相当に低いですが、「それに輪をかけて」極端に低いレベルですね。
しかし、ネチズンの評点分布を見てみると、平均の4~5点をつけた人は少なく、0~1点と、8点以上の両極端に大きく分かれています。
※分布:[0点]=13人、[1点]=7人、[2点]=0人、[3点]=0人、[4点]=2人、[5点]=4人、[6点]=3人、[7点]=1人、[8点]=9人、[9点]=5人、[10点]=4人
私ヌルボとしては、公開前の韓国での(マイナスの)前評判にもかかわらず、8点以上がずいぶん多いな、という感想。それに、日本でも評価が分かれているのは同じ。
以下、低評価~高評価まで、ネチズンのコメントを拾ってみます。
・「第二次世界大戦。韓国人強制徴用で最高に悪質な強制労働と死を強要した三菱重工業が生産した零戦の開発設計者の一代記です。監督の意図を離れて、素材自体が絶対に韓国人が美しく眺めることができない素材です。導入部最初からセリフを聞くと、韓国人なら気がヘンになります![1.0、推薦24]
・「イスラムのテロリストも自分たちなりの夢と理想でテロをやったから、ラブストーリーをちょっと入れてアニメを作ればいいね」[0.0、推薦12]
・「誰が宮崎を右傾化人士ではないと言っているのか? 戦争技術者としての生、幸福、美を追求しただと? 説得力がない。忘れなければならない、生きなければならない? 反省というものは全然ない。宮崎の描き出した遺作だな」[1.0]
・「帝国主義正当化! 宮崎おじさんは、日本の誤りと言いながら、見せてくれるアニメーションは帝国主義を正当化させるもの!!!! ひどい奴の映画! 日本人ではなく一人の芸術家として観た映画だが、彼も日本人だった・・・」[1.0]
・「墜落することを知りながら飛翔しようとする老将の錆びついたエンジン」[5.0]
・「歴史を知っていればあまりに具合の悪い映画。ただ内容自体は一青年の飛行機愛にフォーカス。その歪曲が具合が悪い。けれども彼の最後なので。ただ映画自体は眠たい」[6.0、推薦1]
・「何が問題だ? 結局監督は帝国主義戦争に巻き込まれる個人の生を否定しなかった。やや退屈したという評価ならともかく・・・。宮崎は日本人だ。韓国人の好みに合わなかったら、それは輸入会社の責任だ」[8.0]
・「意見があまりに紛々としていて、レビューが少ないです。多少退屈です。中間部を過ぎて眠気を感じざるをえませんでした。映画は巧妙な感じがします。エンディングで出てくる音楽は良かったです。監督は"矛盾"を語っていたようです。内容は戦争に対して反対している感じを受けます」[8.0]
・「エンジニアは部品を作り、直し、修理して、ついには新しい完成品を作りだす。しかしそのエンジニアは国家の付属品となってひとつの国家(全体主義)のための道具として使用される。宮崎監督はどうかすると戦争の付属品として働いた数多くの個人に対するオマージュとして映画を作ったのではないかと思った」[9.0]
・「人生の黄金期の仕事と愛、社会的環境の束縛に対するアニメーション的な簡潔な物語」(10.0)
上記以外に、同サイトの別のタブでアップされている力作レビューを2つ紹介します。
1つ目は「宮崎駿式警告?」と題した→コチラ(→自動翻訳)
・・・これはなかなか冷静に見ています。最後の方だけ訳出します。
「懸念?とは異なり、過去の軍国主義日本を美化したりそのような映画ではないようだ。宮崎駿式の、反戦映画と見た。
次郎が自分を監視する政府に対して「近代国家とはいえない」と怒ると、会社の同僚たちは「日本が近代国家だと思うか」と大笑いする。
アニメに表現されているように結核に感染した妻を愛した純粋な人が戦争の道具になってしまったことに対する切なさに対する、そして右傾化しつつある自分の国が二度と過去の日本のように破滅の道に立つなという警告のメッセージの映画と見た・・・」
もうひとつは、大量の情報・知識を動員して本作品を批判しているもの。長いので、自動翻訳でなんとか理解してください。→コチラ(→自動翻訳)
一方、映画専門誌「シネ21」のサイトの方は、ネチズンは今のところ6.0をつけた人1人だけ。専門家レビューは→コチラの1つ(イ・ファジョン氏)だけ。(→自動翻訳.※表題に「した道に~」とあるのは「ひとつの道に~」の誤訳。)
イ・ファジョン氏は、そのレビューの末尾で次のように記しています。
「非常な飛行機マニアであり、仕事中毒者である堀越の人生は、まるでアニメの道に生涯を捧げた73歳の巨匠自身の姿を投影したように濃い響きを抱かせる。だが堀越が作った "美しい夢の結晶"である零戦は当時の真珠湾空襲と特攻隊の戦闘機に使用されたのは、映画の外で議論の対象となる。"戦争美化"という世間の視線の前で宮崎駿の純粋な意図は多少歪曲された側面がなくはない。しかし、戦闘機の使い道に対する堀越の悩みはたしかに<紅の豚>のポルコが見せてくれた反戦精神ほど激しくはなかったようだ。」
このイ・ファジョン氏の文章を読んで私ヌルボが思ったことは・・・。
彼のみならず、歴史の中にも、現代の価値観をそのまま投影させた「物語」と「ありうべき人物像」を求める傾向の強い韓国人としては、作品中の次郎に対して「不正義の戦争」に対する批判精神・抵抗精神の不十分さに不満を抱くとともに、そこに描かれた過去の人間像がそのまま宮崎駿監督の姿勢であると理解(実は誤解)してしまう傾向があると思われます。
戦前・戦中を描いた作品で、そんな理想像を体現したような人物(←ポルコのような)を登場させたりすると「ウソになる」と思う日本人と、植民地時代の抗日の義士やその闘争を(教科書等でも)「しっかり物語る」韓国との「歴史認識」のすれ違いがここにも表れているといえるかもしれません。
以上いろいろ見てきましたが、おおよそは予測通りといったところでしょうか。しかし何といっても公開直後状況なので、今後なんらかの変化が出てくる可能性もなきにしもあらず、です。
私ヌルボとしてこのブログ記事を読んで下さった方に願うのは、即断は避けるということ、そして日本人にもいろんな人がいるように韓国人にもいろんな人がいるということ。一括りにして「だから韓国人は~」と言ったりすると、「だから日本人は~」という韓国人と同じ顔になってしまいます。