5月12日の記事(→コチラ)でも少し書きましたが、以前文京区白山のコリアブックセンターで購入した北朝鮮本「홍의장군 곽재우 (紅衣将軍郭再祐)」を読了しました。
壬辰倭乱・丁酉再乱(文禄・慶長の役)の時、慶尚道方面で義兵たちを率いて日本軍と戦い、戦功を挙げた郭再祐(クァク・ジェウ)の物語です。
<絵で見る朝鮮歴史>というシリーズ(全100冊)中の1冊で、2004年発行。表紙の下部に<주체93(2004)>とありますが、これは金日成の生年(1912年)に基づく年号<주체(主体)93年>のこと。
中は、下の画像のように各ページの3分の2は劇画タッチの(?)絵で、本文は9行だけ。ということで、北朝鮮風の表記や歴史用語に慣れながら(飛ばしながら?)読み進むと、かなり早く読み終えます。
ところで、この本の紙の色は白くないのです。写真の撮り方によるものではなく、実際こんな色。10年前発行なのに、半世紀以上前の古本のようです。20年前の北朝鮮本はもっと粗悪で、消しゴムで数回擦ると穴が開きそうでしたが、これはまだ表面がツルッとしているから多少は進化したかも・・・。
※この後の画像は見やすくするため色補正をした結果白っぽくなっています。
さて、この郭再祐(クァク・ジェウ)という人物、私ヌルボは今まで知りませんでした。
こうした本の主人公になるくらいだから、きっと載っているだろうと開いた「人物 朝鮮の歴史」(明石書店)や「朝鮮を知る事典」(平凡社)には見出し語にないばかりか壬辰倭乱等の説明文中にチラと出てくるだけ。旧参謀本部(編)「朝鮮の役」(徳間文庫)も同様。
実は、日本語で手軽に読めて一番詳しいのは日本ウィキペディアの<郭再祐>の項目(→コチラ)だったのですが・・・。
韓国の高校生向けの「韓国史」の参考書には20行ほど簡潔な説明文がありました。つまり、小学生も知っている李舜臣ほどではないにしてもフツーに名前は知られているレベルかな?
彼は慶尚南道・宜寧(イリョン)の地主の家の生まれで、1592年日本軍の侵入に際して本来は防衛の任に当たるべき官人がわれがちに逃げたりした中、義兵を募り、彼らを率いて日本軍と戦い、撃退したという武将です。彼の働きで、その一帯は農民たちも依然と変わりなく農事を続けることができたといいます。
<紅衣将軍>というのは、彼がいつも赤い緋緞で作った軍服を着て戦いに臨んだからです。
下の絵のように自身<天降紅衣将軍 郭再祐>という旗を掲げていました。(この本では、です。以下同様。)
【下から見上げるアングルの絵が多いのは、偉い人に見えるから?】
で、この読み物なんですが、意外に、と言っていいくらいおもしろかったです。
というのも、郭再祐の戦い方が豪勇無双とか勇猛果敢といったものではなくて、知略を働かせ奇計を用いて、数において圧倒的な日本軍を打ち破ったというものだったから。
たとえば下の絵。日本軍の先鋒が川の浅い所に後続部隊のため目印として打ち込んでおいた棒杭を、郭再祐は抜いた上で深い所に打ち直します。するとしばらくしてやってきた日本の兵士たちは深みにはまり大混乱。そこに矢を射かけます。
【川の深みに義兵たちが棒杭を打ち直すと(左)、その後やって来た日本軍が溺れてあたふた。(右)】
別の場面では、川面からは見えないように川底に棒杭をたくさん打ち込んで、日本軍の船を座礁させ、そこを攻撃するというのもありました。
また数人の部下にも紅衣を着せて敵を混乱させたり、敵軍の籠る城の周りで夜もずっと太鼓や鉦(ケンガリ)等をやかましく打ち鳴らして睡眠不足にさせたり・・・。
自分たちが立て籠もる火旺山城(ファワンサンソン)では城壁の上に旗をたくさん立て、ここでも農民たちも動員してやはり楽器をにぎやかに打ち鳴らしたりして人数が多いように見せかけたり・・・。(下の左の絵。)
【慶尚南道昌寧郡にある火旺山城(右)は史跡に指定されています。】
日本の歴史関係書にはほんの少ししか書かれていない郭再祐について、なんでこんなにいろんなエピソードが書けるのだろう?とちょっとネット上を探してみたところ、作者も成立年も不明の「郭再祐伝」という書物があるようで、内容は確認していませんがどうもそこらあたりがネタ元ではなかろうかと思うのですが・・・。
ただ、このような知略にたけた武将の物語というのはどこまでが史実なのか、疑問も感じないではありません。
この人物、政争に明け暮れている官人の世界を嫌って、倭乱の後も与えられた官職も忌避して山に入って暮らし、最後は神仙となって天に昇ったというのもいかにも人々にウケのいいキャラクターで、その点も疑り深いヌルボとしては「そんな人いるわけないよ」と思ってしまいます。
さて、この郭再祐さん。生地の慶尚南道宜寧郡ではさぞかし郷土の英雄なんだろうな、と思ったら案の定。郡の公式サイト(→コチラ)を見ると郭再祐の生家や記念館等々はあるし、2010年に国家記念日に制定された6月1日の義兵の日にはいろんな催しをやっています。(→コチラ参照。)
そして、<DAUM地図>のスカイビュー機能を利用して宜寧郡方面に仮想ドライブしてみたら、アラ前方左に見えるのはまさしく紅衣将軍の絵ではないですか!
【拡大して見ると「호국・의병의 터 의령(護国・義兵の地 宜寧)」と書かれています。】
【記念館近くにある(?)紅衣将軍像】
最後に、この本で気になったことをちょっと。
日本軍のことをこの本では一貫して「倭敵」と表記しています。まあそれはいいとしても、郭再祐のセリフ中に「잰내비같은 섬노란캐(サルにも等しい島夷)」という言葉が出てくるのはなんだかなー。おなじみの「チョッパリ」もあったなー。
また文中で2ヵ所、日本の武将が日本語を発する場面がありました。その言葉は「칙쇼!(チクショー!)」。これは朝鮮語にしなくても意味が通じるということなんですね。(あーあ。)
この北朝鮮の<絵で見る朝鮮歴史>シリーズ、あと2冊未読の本があるので、近いうちに読んでみようという気になりました。
しかし、こういう本を一体どんな人が買って読むんだろうな?