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<韓流時代劇ムックで学ぶ朝鮮王朝の歴史>(→コチラ)という記事を書いてからもう5年ちょっと経ちました。
そこで紹介した3冊のムックは、その後必ずしも毎年新版が出ているわけでもありませんが、韓国ドラマファンの固定層は相当いるし、とりあえずは同じようなムック等が出なくなることはなさそうです。
一方、韓国映画の現在はというと、2000年頃からの5、6年間の熱気が影をひそめてそのまま10年経ってしまった、という感があります。
そんな中、キネマ旬報社が「韓国映画で学ぶ韓国の社会と歴史」というムックを最近刊行(12月28日発売)したことは、韓国映画ファンとしてうれしいことです。(はたしてキネ旬は採算が取れると見込んでいるのでしょうか??)
そこでさっそく購入して目を通してみました。
構成は、大きく<歴史>と<社会>に分けられています。
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<歴史>といっても、古代からではなく、1910年からの近現代史に限っています。
[Ⅰ 1910~45年]=日本の統治期、[Ⅱ 1945~62年]=李承晩の独裁政権とその崩壊、[Ⅲ 1962~79年]=朴正煕の独裁政権、[Ⅳ 1979~93年]=全斗煥・盧泰愚政権と民主化闘争、[Ⅴ 1993~2015年]=民主主義体制 ・・・という時代区分は妥当なところでしょうが、金泳三の文民政権がスタートした1993年よりも第六共和国発足の1987年の方がいいのでは? もしかして政治的立場によって違う?
注意を要することは、各映画作品はそれが作られた年とは関係なく、そこに描かれている時代の順に配置されているという点。
したがって、一番最初に紹介されているのは「爆裂野球団」(2002年公開)です。(下左画像)
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そして済州島4・3事件を扱った「チスル」(2013年公開)は1948年となっています。(上右画像)
次に<社会>についての記事は10のテーマに分け、映画を通じて現代韓国の社会問題や社会の変貌等を論じています。
「南北問題」「家族」「恋愛」「スポーツ」そして「やくざ」も含めてほぼふつうに思いつきそうなテーマが大半ですが、中で個人的に興味をもったのは「鉄道」の項目。(下画像) そういう切り口もあるのですね。
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この本の執筆者は、韓流関係・映画関係のライターや編集者、翻訳家、映画研究者(崔盛旭さんや鄭樺さん)といった人たちです。西村嘉夫さん、下川正晴さんといった韓国映画ではおなじみの方も・・・。以前北朝鮮拉致問題関係の集会でお見かけした東京新聞・五味洋治編集委員は「南北問題」について書かれています。
こうした顔ぶれからも見当がつくように、書名通り「現代韓国の社会と歴史が学べる」ムックでした。
少し残念なのは、とくに近現代に重点を置いた分、時代劇等の名作が載っていないこと。また<歴史>の部の掲載作品は21世紀に入ってからの作品が大半で、ヌルボが好きな1970~80年代では「鯨とり」(1984年公開)の1作しか入っていません。韓国映画史上でも画期的な作品「風の丘を越えて/西便制」(1993年年公開)が載っていないのも悲しい・・・。
最後にとても興味深かったのが、巻末に載っているこの本の監修者・執筆者・編集者計34人による<極私的韓国映画ベスト3>。
いやー、ずいぶん分散しています! 2人以上があげている作品は以下の12作品でした。1位=3点、2位=2点、3位=1点と換算して人数・点数の多いものから並べてみました。
オアシス(4人・9点)・殺人の追憶(4人・9点)・八月のクリスマス(3人・8点)・サニー 永遠の仲間たち(3人・7点)・猟奇的な彼女(3人・6点)・ベテラン(3人・6点)・息もできない(3人・5点)・ほえる犬は噛まない(3人・5点)・子猫をお願い(2人・6点)・悪い男(2人・5点)・ペパーミント・キャンディー(2人・4点)・ディープ・ブルー・ナイト(2人・3点)
こうしてみると、とくに意外なものはないですね。私ヌルボが2010年に書いた<★韓国映画ベスト20★>(→コチラ)の12位までと比べると、5作品が重なっています。ま、そんなとこでしょう。
34人の中で、個人的に注目したのは次のお二方のベスト3。
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鄭琮樺(チョン・ジョンファ)さんは、昨年11~12月の<韓国映画1934-1959創造と開花>で「君と僕」「迷夢」等々についてとても詳しいトークをされた映画史研究者です。その方が「馬鹿たちの行進」を2位にしている点が「わが意を得たり」といったところです。(ヌルボのペスト20では20位。) また下川正晴さんは1980年代の佳作を観たことが韓国映画がすきになったという点、またそれらがアン・ソンギの主演作品であるという点もヌルボとまさに同じで共感を覚えました。
※現在書店で発売中の「正論」2月号に、「幻の朝鮮映画「授業料」と小学生作文にみる日本統治下のリアル」と題した下川正晴さんの記事が載っています。「嫌韓」色の濃い記事が多い「正論」ですが、これは一読に値する記事です。
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