ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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★2023年 ヌルボの個人的映画ベスト10

2024-01-21 17:40:20 | 韓国映画(&その他の映画)
 2023年は、元日の記事・131日のブランクでも書いたように年間通して多忙な上、コロナの後遺症(?)等々で体調も思わしくなく、過去にないほと呪われた1年でした。(もう災厄は去ったのか、不安が心配・・・。)
 そんな中でもちょうど100本というほぼ例年と変わらない数の映画を観たのは映画に癒しを求めたということかも。(逃避とも言えますが・・・。)

 前置きはここまで。さっそくその100本から選んだベスト10を発表します。

[2023年](全100作品)
①小さき麦の花
②市子
③窓ぎわのトットちゃん
④オマージュ
⑤飯舘村 べこやの母ちゃん それぞれの選択
⑥プレジデント
⑦モリコーネ 映画が恋した音楽家
⑧ゴジラ-1.0
⑨キリング・オブ・ケネス・チェンバレン
⑩Winny
 [次点] 〇福田村事件 〇658㎞、陽子の旅 〇月 〇せかいのおきく 〇SHE SAID/シー・セッド その名を暴け 〇ミャンマー・ダイアリーズ
 [別格] 
セルゲイ・ロズニツァ《戦争と正義》ドキュメンタリー2選<破壊の自然史・キエフ裁判>
赤色は韓国映画または韓国・北朝鮮に関係する映画です

 今回はまず最上位の2作品は確定。そして年末最後に観た「窓ぎわのトットちゃん」を3位にしました。
 ①「小さき麦の花」は中国西北の寒村が舞台のドラマ。
 2011年中国西北地方の農村。主人公ヨウティエはマー[馬]家の四男。貧しい農民で、もう若くはないが独身のまま。両親と長男・次男は他界して三男のヨウトンの家で暮らしていますがはっきり言って厄介者です。一方、内気で体に障碍があるクイインもまた厄介者扱いされている女性。そんな2人が見合い結婚で夫婦になります。それでも、2人(+ロバ)は日々農作業に精出し、互いを思いやりながら作物を育て、日々を重ねていきます。またヨウティエは自分たちの家を建てるために泥を固めてたくさんの日干しレンガを造っていきます。ところがある夜突然の大雨に襲われ、2人は外に出て泥を相手に悪戦苦闘します。しかしそんな不運の極致の中で何と2人は相手に泥をかけながら無邪気に笑い合うのです! 名場面という言葉さえ陳腐なシーンに私ヌルボ、ヤン・イクチュン監督の「息もできない」の漢江の土手の名場面を想起しました。
 それ以外にも感動的な場面がありますが、2人の間の深い夫婦愛を描いた作品であるにも関わらず「愛してる」「好きだ」等の言葉もスキンシップもありません。それでも2人の間の愛がジワーッと感じられるのです。
 しかし本作はそのままハッピーエンドには繋がっていきません・・・。
 なお、クイイン役は国民的人気女優ハイ・チンですが、ノーメイクで農村女性になりきっています。それ以外はリー・ルイジュン監督の家族たちが夫役も含め多数出演。また時折映される日めくりカレンダーもそのままで1年間撮影されたそうです。
 本作はベルリン国際映画祭の星取りでは驚異の4.7/5点をマークし、金熊賞最有力と絶賛されたものの(なぜか?)無冠に終わりました。
中国で公開されると都市の若者の間で口コミで評判となり、ヒットを巻き起こして<奇跡の映画>と呼ばれたそうです。ところが「中国の若者たちが羨んだ、貧しい農民夫婦の物語『小さき麦の花』」と題したcinemacafe.netの記事にもあるように、本作は突然上映が打ち切られ、配信サイトからも削除されます。本作についての論評等も消されたとか。その理由も明らかにされませんでした。貧困撲滅という政府の方針と相容れないため等々の憶測もあるようで、ラストの辺りでは元のプロットが変更されたとの記事も読んだ記憶がありますが今探しても見当たりません。
 本作について<読んで♪観て♪>というAmebaブログに「小さき麦の花」と作品のタイトルそのままの表題の詳しい記事があります。ネタバレがどっさりあるので要注意ですが、映画の最後に私ヌルボが聞き逃した政治がらみの重要なセリフが記されています。
②「市子」は、監督の戸田彬弘が書き上げた演劇が原作のミステリードラマ。
 川辺市子は3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川義則からプロポーズを受け涙を流して喜びますが、その翌日に突然失踪します。途⽅に暮れる⻑⾕川は今まで市子の家族や生い立ちのこと等を聞いたことがなかったことに気付き、市子の行方を追ってこれまで彼女と関わりがあった人々から証言を得ていきます・・・。
 実は市子は自分のせいではない理不尽な事情で困難な人生を歩んで来たのです。そして相当にヤバいことさえも・・・。
 いやあ、最後まで目が離せない作品でした。
 何と言っても市子を演じた杉咲花が凄い! 主演女優賞をいくつも取って当然と思いました。
③「窓ぎわのトットちゃん」については1月6日の記事「暮れと正月に観たオススメ映画 <その1>」参照。
 4位以下は思案投げ首。何を重視するかで順位が入れ替わります。
 とりあえずは上記の順位にしたがって見ていきます。
④「オマージュ」は1960年代に活動した韓国第1世代の女性映画監督の作品フィルムを復元することになった49歳の女性監督ジワン(イ・ジョンウン)が現在と過去を行き来する時間旅行を描いたファンタスティックな雰囲気の作品です。
 いつも閑古鳥状態のジワンの監督作品について家族の理解は乏しく、息子は「面白くない」と言い夫は飯のことしか言いません。スランプに陥ったジワンはアルバイトとして60年代に活動した韓国で2人目の女性映画監督ホン・ウヌォン[洪恩遠]の作品「女判事」(1962)のフィルムを復元することになります。(※最初の女性監督は「未亡人」のパク・ナモク監督。) 消えたフィルムを探してホン監督の最後の行跡を追っていたジワンは帽子をかぶった正体不明の女性の影と共にその時間の中を旅行することになりますが・・・。※この「女判事」という作品は韓国映像資料院のYouTubeチャンネル<한국고전영화 Korean Classic Film>の公開動画(YouTube)で観ることができます。
 本作の制作に着手した時はまだ「女判事」のフィルムは発見されていなかったのが、シナリオを作成中に見つかったものの「まだ30分くらいの部分が発見されていないようだ」等、シン・スウォン監督への興味深いインタビュー記事は「オマージュ 監督 インタビュー」で検索すると2つ見つかります。
 この作品については、「まずは主役が小太りのフツーのおばさんって事に感動しました(笑)」で始まるFilmarksの猫さんのレビューを「そうそう!」と何度もうなづきながら読みました。その主演のイ・ジョンウンは「パラサイト 半地下の家族」の家政婦さんだそうです。猫さん同様私ヌルボも全然気づきませんでした。
 で、念押しですが、本作のキモは約60年前のホン・ウヌォン監督と、本作の主人公ジワンと、本作のシン・スウォン監督が逆境にもめげず信念を貫くその意志!といったとこでしょうね。
⑤「飯舘村 べこやの母ちゃん それぞれの選択」の飯舘村とは、かつてはブランド牛の生産地として知られ、酪農も盛んだった福島県相馬郡飯舘村です。ところがあの原発事故ですべてが一変してしまいました。その村で牛とともに生きてきた酪農家の3人の母ちゃんたちを以後10年の歳月をかけて追ったドキュメンタリーです。線量計の数値が規定を超えると牛たちはそのまま処分場に送られて行きます。かわいがって育ててきた牛たちとのそんな別れは観ている立場でもつらいものがあります・・・。その後3人の母ちゃんたちやご家族の中で甲状腺がんに罹患して亡くなった方が相次ぎます・・・。このような事実は行政側、東電、各メディア等はちゃんと伝えていないように思います。※本作は公式サイトも充実しています。
⑥プレジデントは、タイトルだけでは何もわかりませんが、ジンバブエのとんでもない大統領選挙を撮ったドキュメンタリーです。ジンバブエはマダガスカルからほぼ西のアフリカ内陸に位置する国で、かつてはローデシアと呼ばれたイギリスの植民地でした。そこで1980年の独立後首相、87年から大統領となったムガベはその後93歳となるまでその座に留まり独裁を続けましたが2017年のクーデターで退陣し、副大統領だったムナンガグワが暫定大統領に就任します。
 そして迎えた2018年の大統領選挙のようすをそのまま撮ったのがこのドキュメンタリー。野党・MDC連合(民主変革運動)の候補チャミサは民衆の圧倒的な支持を受けています。たしかに真っ当な演説をしています。ふつうに考えればチャミサが当選でしょうが、そうはいかないのです。選管がなぜかモタモタして開票が遅れたり・・・。つまりムナンガグワ側が大々的に買収しているようなんですね。さらには軍や警察まで投入されるとは!
 そんなわけで結果は明らか。
 この2018年の次の大統領選挙が昨23年8月行われましたが結果は同じでムナンガグワの勝利。野党候補のチャミサ陣営は結果受け入れを拒否しているとのことです。
⑦「モリコーネ 映画が恋した音楽家」は「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ監督が師であり友でもある映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネに迫ったドキュメンタリーです。
 エンニオ・モリコーネといえば思い出すのが1960~70年代頃流行ったマカロニ・ウエスタンの口笛を使ったテーマ曲です。ただ私ヌルボはアメリカ西部以外が舞台のウエスタンは邪道だと思い込んでいたので全然観ませんでした。ところがこのドキュメンタリーを観て、彼が若い頃から取り組んできた音楽の幅も多様だし、彼が生み出した作品も実に多彩だったことを知りました。トルナトーレ監督の「‎‎ニュー・シネマ・パラダイス」や「海の上のピアニスト」の音楽もモリコーネだし、一番驚いたのはサッコ=ヴァンゼッティ事件を扱った「死刑台のメロディ」(1970)の主題歌「勝利への讃歌」ジョーン・バエズの自作ではなくモリコーネの曲だったとは!(ご存知なかった方はぜひ聴いてみて下さい。
⑧「ゴジラ-1.0」はずいぶんヒットしているし、ゴジラ映画と言えば幼い頃1954年の最初の「ゴジラ」と続くアンギラスとかスラ等が登場するシリーズを数本観ただけの私ヌルボよりも詳しい人は山ほどいるでしょう。
 とりあえず探ってみたのは本作のタイトル中の<-1.0>の意味です。するとおよそ以下のようなことです。<-1.0><マイナスワン>と読み、戦争によって焦土と化して文字通り<無(ゼロ)>になった日本に追い打ちをかけるように突如ゴジラが出現し、圧倒的な力で日本を<負(マイナス)>へと叩き落とすということ。
 私ヌルボ、初代ゴジラ以前の時代設定だからかな?となんとなく思っていましたがそうじゃなかったんですね。
 で本作の見どころはそのような時代設定と、また何よりもゴジラ(と、その出現)がすごく怖かったこと。いろんな意味で<原点>のように思える作品でした。
⑨「キリング・オブ・ケネス・チェンバレン」は事実に基づくアメリカのドラマ。
 2011年のある日のニューヨーク。早朝、双極性障害を患う黒人の元海兵隊員ケネス・チェンバレンは就寝中に医療用通報装置を誤作動させてしまいます。安否確認にやって来た3人の警官に、ケネスはドア越しに通報は間違いだと伝えますが信じてもらえません。最初は穏便に対応していた警官たちはドアを開けるのを拒むケネスに不信感を募らせます。次第に高圧的な態度をとるようになっていきます・・・。
 結末は、まさにネタバレになっているタイトルそのまま。
 なぜそんなことになったのか? ケネスが住んでいる辺りは警官にとっては<危険な街区>だったこと。だからケネスが「令状も持ってないのに入れるわけにはいかない!」と拒否しても立入りを強行できる(??)。そして黒人に対する差別に根差した不信と怖れがある。部屋の中でケネスが電話で話している声を聞いて「誰かもう1人いるぞ!」「薬物の売買をやってる?」等々誤解はどんどん良くない方に突き進む・・・。
 上映時間は83分。この短い時間にこの惨劇が始まり、終わるのです。
 本作についてのレビューを読んだ中で「福田村事件を想起しました」と書かれたものがいくつかありました。私ヌルボもその1人です。差別・偏見・怖れ・狂気のような使命感にかられた凶行へ、といったところが共通項です。
⑩「Winny」、このタイトルは20年ほど前に金子勇さんが公開したファイル交換ソフトの名称てす。ところがこのソフトが音楽や映像等の著作物の違法コピーに用いられ「著作権侵害に利用される」との理由で裁判では違法とされてしまい、Winnyを利用して著作物を送信した人たちが逮捕されます。金子さんは<違法コピー>はしていなかったのですが<著作権法違反幇助>の容疑で逮捕されてしまいます。
 私ヌルボ、本作を観て20年ほど前のファイル交換ソフトWinnyの報道に対する自らの鈍感さを反省しました。新聞等の見出しだけ見て「違法アップロードのモトとなると当然ダメだろ」程度の認識しかなかったようだしなー。
 本作では最初から「ナイフで人を刺す犯罪があった場合、ナイフを作った」人間を罪に問えますか?」といったわかりやすい説明があってナルホド!でしたが・・・。
 その金子勇さんを東出昌大が好演しています。

[別格] セルゲイ・ロズニツァ《戦争と正義》ドキュメンタリー2選等については近いうちにあらためて書くことにします。

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