感性の話(PART 1)
自分の感性くらい
自分で守れ
ばかものよ
デンマンさん。。。あんさんは、なんで感性の話など持ち出してきやはったん?
あのなぁ、わては帰省中の10月1日に、たまたまNHKテレビの「おはよう日本」を見たのやがなぁ。
その番組の中で「感性」のことを取り上げとったん?
いや。。。「感性」の事やのうて4年前に亡くなった詩人の茨木のり子さんの事を取り上げておったのや。
茨木のり子さんと「感性」が関係ありはるのォ~?
あるのやぁ。。。茨木のり子さんの詩の中に次のようなものがあるねん。
自分の感性くらい
ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて
気難かしくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか
苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし
初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
自分の感性くらい
自分で守れ
ばかものよ
出典:「自分の感性くらい」(単行本)著者:茨木のり子
上の詩の最後のところで「感性」が出てきやはるのね。
そうなのや。。。わては最後のところだけ印象深く覚えていたのやぁ。
番組でも上の詩が紹介されとったん?
いや。。。茨木のり子さんの詩が隠れたブームになっておるとアナウンサーが言うてたのや。
あんさんは茨木のり子さんの詩にハマッておったん?
いや。。。上の詩だけが、わての記憶に特に強く残っておったのやァ。
どうして。。。?
わてはバンクーバー市立図書館から『漱石とグールド』を借りてきて読んだのやァ。夏目漱石とグレン・グールドの感性が似ていると言うてるのや。
マジで。。。?
この二人は生きた時代も、生まれ育った国も違うておるのやァ。だから、どういう事だろうと思うて興味をそそられて読んだのや。
感性
1) 刺激に応じて感覚をひきおこす働き
2) 何かに接して何ほどかの印象を持つ能力。感受性
出典:三省堂『新明解国語辞典』
つまり、夏目漱石とグレン・グールドの感受性が似ていると言うのやァ。
生きた時代も、生まれ育った国も違うておるのに二人の感受性が似ておると言うてるのォ~?
そうなのやァ。
同じ日本人でも時代が違うていると感受性もだいぶ違うてくるねん。
たとえば。。。?
めれちゃんは、かつて次の詩を書きおった。
朝のキモチ
2004/12/10 07:33
昔、好きな人と会える日は、
朝、目が覚めた瞬間に、
身体中にしあわせが
いっぱいになって、
踊るように仕度をして、
出かけていったなあ。
あの頃のわたしは、
多分、今の100倍
キレイだったと思う・・・
by めれんげ
『幸せと潤いのある生活』より
『朝のキモチ』に掲載
(2010年9月17日)
「朝のキモチ」を持ち出してきて、あんさんは何を言うつもりやのォ~?
あのなァ~、上の詩の中には、めれちゃんの感性が実によく表れておるねん。
わたしの感性が。。。?
そうやがなァ~。。。めれちゃんらしい感性なのやァ。実は茨木のり子さんにも似たような詩があるねん。めれちゃんの詩と比べると、その感性たるやマジで対照的なのやァ。。。めれちゃんも読んでみィ~なァ。
わたしが一番きれいだったとき
わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがら崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした
わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達がたくさん死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった
わたしが一番きれいだったとき
だれもやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差しだけを残し皆発っていった
わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った
わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり
卑屈な町をのし歩いた
わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった
わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった
だから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのようにね
茨木 のり子
出典:東京書籍版「新しい国語2」
分かるやろう?めれちゃんの感性が“陽”ならば、茨木のり子さんの感性は“陰”なのやァ。
つまり、わたしいはルンルン気分でノー天気な詩を書いていると、あんさんは言わはるの?
いや。。。めれちゃんがノー天気な詩を書いたとは思っておらへん。どちらも素晴らしい詩やと、わては思うでぇ。ただ、感性が対照的なのやァ。要するに、誰もが時代の落とし子と言うことなのやァ。。。
時代の落とし子。。。?
そうやァ。茨木のり子さんの青春は太平洋戦争の真っ只中で閉塞感に打ちひしがれていた。
(すぐ下のページへ続く)