【写真=昨日、多摩センター・三越前にて】
☆シェラのためのブラシ
「救われないムギ」(11月19日)のエントリーで、「ムギの身になにが起ころうとも、ムギに何かをやっているのがぼくであるかぎり、シェラは知らん顔でいる」といった趣旨のことを書いた。
大きな間違いだった。
たとえ主人たるぼくのやることであっても、ムギの身に深刻な危険が迫っていればシェラはムギを助けようとし、守ろうとする意志をもっていることを、昨日、如実に見せつけられた。
このところ、シェラもムギも夏毛から冬毛への換毛期にあって抜け毛がひどい。どちらかというと長毛に属するシェラは夏毛が浮いて醜い。そのために新しいブラシを買ってきた。
土台のラバーでステンレス製のピンにクッション性があってむりやり毛をそぎ取ることがない。ピンの尖端は丸くなっているので皮膚に当たっても感触はやさしい。
使ってみると、これがシェラにはぴったりだった。シェラにしても、快適ではないまでも、さほど不快ではないらしいく、おとなしくブラッシングをさせてくれる。
しかし、大量の抜け毛が床に落ちるので、家人に怒られる前にシェラを連れて浴室に入った。あとの始末が楽だからである。
ブラシとの相性がよほどよかったのか、クシのときのようにシェラはいやがらない。おとなしく、なすがままだった。
だが、シェラにとって浴室にはいい思い出などない。シャンプーされたり、夏が近づけば電気バリカンで毛を刈られたりとさんざんなめ目にあっている。5分もすると、吐息が荒くなってきて、ついには外へ出たいと扉を前足で引っかきはじめた。
せっかくおとなしくブラッシングさせるブラシを見つけたのである。あまり長時間やって懲りさせては今後のためにもまずい。適当なところでシェラを浴室から解放した。
☆ムギをつかまえて
扉を開けると廊下のほうで不安そうにしているムギがいた。さっそく捕まえて浴室に連れ込む。次は自分と予期し、覚悟していたのか、身体をかたくして逃げようともしない。ブラッシングをはじめてもカチカチのままだ。
しかし、長くはつづかなかった。
浴室のガラス戸に黒い影が映った。シェラがやってきたのである。
ムギが声を上げたり、暴れたわけではない。それなのにシェラはやってきた。近づきたくもないはずの場所なのに……。
そして、とうとうシェラが吠えた。前足でガラス戸を引っかく。あきらかにムギを助けにきたのだ。
すくんでいたムギがドアのほうへと動く。ガラス戸で隔てられているとはいえ、シェラの登場でムギはもう逃げ出すことしか頭にない。ブラッシングどころではなかった。
ぼくは苦笑いしながらブラッシングなかばにしてムギを浴室から出してやった。
浴室のまえからシェラもムギも消えた。
片づけをしてリビングへ戻ると、ぼくは二度めの驚きに遭遇する。
ソファーの陰のそこはシェラのお気に入りの場所。シェラはたいていこのまるで巣穴のような空間で寝ている。
ムギはそこへ逃げ込んでいた。ふだんは決して近づかないのに……。
しかも、シェラが入口に座り込んでムギをかばうかのようにこちらを向いていた。
またひとつ、シェラ愛しくなった。