☆7歳にして痛めた脚
「どうしたの? シェラ。また足が痛いの?」
今朝、散歩から帰り、朝食をすませて、ぼくが出勤のしたくをしていると、家人がシェラに声をかけた。テーブルの下から出てきたシェラが右の前脚を引きずっていた。散歩のときはなんでもなかったのに……。
だが、それもまもなく普通の歩き方に戻っていた。
シェラの老化の前触れは、7歳を迎えたころに右の後脚を痛めたのがそのはじまりだったろう。市内の公園の傾斜地を登り降りしているうちに、まともに歩けなくなった。
休日の午後、いきつけの病院はやっておらず、当時、つきあいのあった名古屋在住のわんこBBS仲間のひとりから、「イヌにはよくあることだから様子を見たほうがいい」といわれ、それに従った。
だが、2、3日経っても一向に癒える様子がなく、近所にある動物病院へ連れていった。引っ越して間もないころで、その病院の評判の悪さを知らずにいた。
若い獣医師は診断の結果についてなんの説明もできず、ぼくたちが納得できる治療を施せなかった。仕方なく、歩いてはいかれないものの、クルマなら5分ほどの距離にある別の病院へ連れていった。
ここは前の獣医師の親たちの病院である。彼の母親の獣医師が診てくれたが、息子と似たり寄ったりの結果だった。
☆もう二度と治らないはずのシェラの脚
次に頼ったのは、家からクルマでゆうに30分はかかる、横浜市の外れにある、まだ開業したばかりの動物医療センターだった。
レントゲン撮影などののち、いかにも自信に溢れた女性の獣医師の診たては鮮やかだった。
脚の腱が切れており、元どおりに治ることはない。痛みなく歩けるようになってからも以前のように走ったりはできないし、歩行にかなりの不自由を強いられるのも覚悟しておいたほうがいい。元々、身体の大きさに対して脚が細過ぎるのだ……と。
ぼくは絶望で目の前が真っ暗になった。走ることが大好きで、他にわんこがいないような広い場所だとむぎを相手に複雑なステップを刻んで遊ぶ姿(写真)を見せてくれた。あのなんともカッコいいシェラの姿をもう見ることができないのか。山登りももう一緒にはできないだろうし、大好きな川遊びや、湖水での泳ぎも無理かもしれない。
ぼくは自分の迂闊さを呪った。そして、あの公園の傾斜地を恨んだ。
シェラが脚を痛めて二週間ほど経っていた。
もう以前おのような正常な脚には戻れないとの非情なご託宣があったにもかかわらず、その日を境にシェラの脚は目に見えて回復していった。治療の効果というより、回復の時期を迎えていたのだろう。
☆どんな苦労にも立ち向かおう
そのあとも、毎年のように、足を痛めては回復を繰り返してきた。
キャンプ地で近所の様子を偵察にいって帰ってきたぼくを迎えに走り寄り、草に隠れた穴に足を取られてやっぱり痛めてしまったり(これは地元のペット病院のお世話になってすぐに回復した)、暴れて痛めるのではなく、何かの拍子に痛めてしまうケースが大半だった。いわば、時限爆弾と化したシェラの脚だった。
最近も、動物病院での検査で戻ってきたら足を引きずっていた。翌日には治っていたが、このところやっぱり頻度が増えている。年齢のせいだと思わざるをえない。だが、こんな程度のことは老化のほんの入口に過ぎないはずだ。
近所にいる高齢のわんこたちの多くがなんらかの障害を抱えており、飼主たちはその世話に追われる日々である。
散歩に出てもほとんど歩けず、飼主とともに家の前でじっとたたずんでいる子もいたし、まっすぐに歩けず、歩くとくるくると円を描いてしまう子、家の中を徘徊してあちこりにぶつかってしまい、怪我の絶えない子もいた。
悲惨だったのは、徘徊しながら家じゅうで垂れ流しをして、飼主はその始末に一日追われているという子もいた。
これからまだまだ老いの障害がシェラを襲うだろう。いかなる苦労であれ、ぼくたちは弱音を吐かずにつきあっていきたい。老犬ゆえの世話に忙殺されようと、それでもシェラに長生きしてほしいと切に思う。
ほかの飼主の方々同様、ぼくたちにとってこの子は至宝なのである。
たとえ、わんこでも縁あって家族になることができました。大切にしたいと思っております。
残り少ない時間を大事にしていきます。