考えてみると、夫婦の問題は今始まったわけではなく、長い伏線がある。年に何回か赴任先に妻が訪ねてきた。来る前には、「いついつ行くからね。部屋掃除していて!」とメールしてくる。一応は、掃除しておくし、整理もしておくようにしていたつもりだが、来ると、部屋を見て、嫌な顔をするのが常だった。まあ、入居するときにはかなり念入りに掃除もするし、床も磨く、しかし、慣れてくると、常に掃除しているというわけではない、気が付いたときにちょっとやる程度で済ましていた。それが、普通だと私は思っていたし、それほど汚れているとも思っていなかった。
ただ、2人の感覚のずれはかなり大きく、家に帰ったときには相当激しい戦いが待ち受けていると予想していたし、そのときは徹底的に戦うつもりでいた。何しろ、私が一度も住んだことがないところに住んでいるわけで、全てが妻の思いどおりになっているところに、異物(私)が入るわけだから、相当激しい抵抗に合うことは想像できたからね。戦いの中で、自分なりの居場所を確保しないことには何も始まらないとも思っていた。
ところが、妻の病気というアクシデントで、急遽家に戻ることになり、しかも、もはや妻に戦いを挑むこともできない状況に陥ってしまったのだ。さらに、妻は、「私の世話をするのは無理だから、どこか有料の施設を探して!」と言ってきた。まさに、専制攻撃だ。返す言葉が全く思いつかない。本心からそう思っているならば、さっさと有料の施設を探して入所の手続きをするだろう。何しろ、長年、そういう仕事に携わっていて、全て承知しているわけだからね。それをしないということは、暗に、「私に従い、私の面倒を見よ!」と言っているように思え、非常に腹が立ったが、それを口にはできない。それだけは私の心(良心)が許さない。私は、戦う意欲を失い、戦わずして負けたということだ。
それにしても、2人の感じ方の違いは大きい。例えば、トイレ掃除、便器も床も手洗いも拭いてきれいにしたつもりでいたら、妻が「トイレ汚いよ、掃除したの?」と言って来る。「えっ、掃除したよ。どこが汚い?」と問うと、「便座とタンクの隙間に埃がたまっている。」と返事してくる。「え・・・・。そこまで言うかな!」私は言葉を失った。ここずっと言葉を失うことが続いている。ただし、私は、しぶといことには自信がある。そう簡単に音を上げるわけにはいかない。地道に抵抗を続けていこうと思う。