どこかの鄙びた山間部で,川の生物調査をおこなっていた。周囲の地形・景観などから察すると,栃木県の湯西川か,あるいは福島県の摺上川あたりだったような気もする。季節は晩秋で,連日雨が降り続いていた。
山中の温泉宿の離れ,といってもほとんどアバラヤのような茅屋を定宿としていた。調査員は最初は5~6人いたのだが,その業界恒例のダブルブッキングならぬオーバーフロウバッティング,調査の途中で急遽何人かが別の現場に行かなくてはならぬ事態となってしまった。しかも現在使用している調査器材の一部を持参する必要があるとのことだ。あとに残されたのは私ともう一人のアルバイト(痩身でいかにも頼りなさげな学生バイト),それから必要最小限の調査器材,それだけの体制で残り二日間の工程をこなさねばならない。まぁ,何とかなるだろう。その日の午後は増水した川のなかに大型サイズの定置網を計3箇所仕掛ける予定になっていた。冷たい雨はシトシトと間断なく降り続いている。アルバイト君と二人で苦労して漁具を設置したのち,夕方遅くになって宿に戻った。
翌朝も相変わらず雨だった。早い朝食を済ませてから,クルマで宿を出てバイト君と二人して調査に向かった。調査地点に到着すると,な,な,何と,昨日設置した定置網が3つとも根こそぎなくなっているではないか! 増水により流失してしまったか,あるいは,夜陰に乗じて誰かが盗んでいったのか。恐らくは後者のような気がするが,前者の可能性もなきにしもあらずだ。アチャー,困ったゾ。手元に予備の網はないし,他から応援を頼もうにも現在の状況からしてそのアテは全くないし,さぁて,どうするべェか。しばし当惑しているそのあいだにも,発注元である某役所のすこぶる五月蝿い担当官の顔がチラッチラッと脳裏をよぎった。また,元請けである某大手コンサルの責任者の生真面目で人の良い顔も浮かんできた。後者に対しては何とか申し開きができるだろうが,問題はやはり前者だ。場合によってはネチネチネチネチと何を言われるか,どんなペナルティを喰らうのか。まことにもって憂欝だなぁ。。。 だが待て,そう先走らずに少し冷静になるんだ。今この状況のなかで具体的にどのような対応が最善の策であるか,落ち着いてまずは逐一検討してみよう。などと,今後なすべき事をあれこれ思案していると,アレ?バイト君が見あたらない。黙って何処へ行ったんだ。イヤになって勝手にトンズラしちゃったのか? まさか川に流されたのではあるまい。いや,その可能性もあるゾ。仮にもしそうだとすれば,漁具がなくなったどころの騒ぎではない。ドウシヨウ。。。 と改めて周囲のあちこちを探し回っていると,アリャ?乗ってきたクルマもいつのまにか消えている。バイト君は免許を持っていないし,ヲイヲイ,まさかクルマも一緒に川に流されちまったのか?! おまけに,自らの雨具のポケットを探ってみれば,どうしたことかケータイもなくなっているゾ。ったく,一体全体 何てこった! 人気のない山中で,こりゃまるで四面楚歌・孤立無援・絶体絶命・万事休ス状態デハナイカ。 ああドウシヨウ,ドウシヨウ,ドウシヨウ。。。
うなされるようにして未明に目覚めた。毎度毎度のこととは申せ,実に単純かつイヤラシイ夢だ。未だに過去の「負の遺産」を少なからず引き摺っていて,それらをキッパリ清算することができない。まことに因果な性分でございます。 そして,これが今年の初夢,ということで宜しいか。
すこぶる落ち込んだ状態のまま,やおら寝床から起き上がり,その鬱な気分を少しでも払拭するために 分厚いジャケットを着込んで階下へと降り,それから仕事場のドアを開けて家の外に出た。時刻は午前4時を少し過ぎたくらいで,まだ表は真っ暗闇だった。気温は恐らくマイナス4~5℃だろう。深々とした冷気が痛いように皮膚を刺激し,思わず体中が身震いする。夜が明けそうな気配はまった感じられない。ガレージから外に出て空を見上げれば,夜空には雲ひとつなく満天の星。すぐ頭上には北斗七星が,大きな柄杓をドバッとひっくり返した格好でクッキリと浮かんでいる。いったいこの《ニンゲン世界》に何をぶちまけたのだろうか知らん。そしてその柄杓の先を辿ってゆけば,ちょうどヤビツ峠の上あたりに,北極星が弱い光を放ちながら弧高の姿を示している。決して世俗に紛うことのない永遠としての存在。いつもと変わらぬ山里の風景だ。さすがにこの時期この時間にローディー諸氏がヤビツ方面にヒルクライムしていることはあるまい。いや,酔狂なブルベランドヌール連中などであれば,ひょっとしてそんな遠征もアリなのかな。何しろどこまでも素っ頓狂で不可思議なニンゲン世界のことですもの。それにしても,ああ,今日もいい天気になりそうだ。。。
と,そのとき,左腰のあたりにピリッと鋭い痛みを感じた。アレッ? ちょっとマズイかな? 悪夢プラス冷気のせいで,どうやら腰にきてしまったみたいだ。久しぶりに腰痛を発症したようだ。あるいは,元旦から三日間続けて自転車で30~40km程度の山麓アップダウンライドを行ったことが影響しているのかも知れない。こりゃ少々まずいゾ。すぐに家の中に戻って,まずは身体をそっと動かしてみたが,やはり左腰あたりがだいぶ具合が悪いようだった。致し方ない。とりあえず数日間は安静にしているしかないか。ああ,年の初めから何てこったぃ!
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以上は,1月4日の未明に起きたことである。その忌まわしい出来事から今日で5日が過ぎた。とにかく安静第一,無理は禁物ということで,ほとんど家の外に出ることもせず(せいぜい近所のマーケットまでゆっくり歩いて買い物に行ったくらい),終日家に蟄居してオトナシクしていた。もっとも,家の中にいても日中は1階と2階を何度も何度も往き来するのであるからして,それなりに体は動かしていた。いわゆるギックリ腰になったわけではないので,所作に十分注意を払って動いていれば,歩くこと自体はさほど困難ではなかった。それでも,なるべくは横になって身体を休めるように努めた。寝ているときは書架にある腰痛関係の本を何冊か取り出して久し振りに再読した。具体的には『操体系@金井聖徳』,『背骨カイロ系@甲木寿人』,『スポーツトレーナー系@伊藤和磨』などで,いわゆる正統的医学書については今更ながらの感もあるのであえて手を伸ばさなかった。いろいろ読んでいると,各人それぞれに理論解釈,主義主張はさまざまで,さてどの宗派,もとい,どの腰痛学派を信じたらいいか正直迷ってしまう。また別に,YouTubeに投稿された腰痛対処法にかんするビデオなどもiPod touchを通じていくつか視聴してみたが,こちらは大体が整体屋さんや接骨院などの宣伝っぽいものが多くていささかウサンクサイ。ただ,なかにはフムフムと納得できるものもないわけではなかった。いずれにしろ,我が基本的信条としては「医者の厄介にならぬ」ことを旨としているがゆえ,それら諸々の本やビデオのいくつかを参考にして,寝ながらのストレッチを適当に行っていた次第だ。
そんな年明けであります。発症から5日ほどが経過した今でも腰の方はいまだに完治したとはいいがたく「及び腰」の日常生活を送っている。最近では首の痛み(頸椎の不調)の方は多少とも良くなってきたかな,と思っていたら,今度は腰である。うーん,骨格系にすこぶる問題多し。ま,自らの「老い」を素直に受け入れるしかあるまい。ふたたび自転車を漕ぎ出すのは,もう少し先のことになりそうだ。