その日,お昼少し前に自転車(電チャリ)で家を出た。盆地北縁近くにある自宅から北東方面に向かって漕ぎ出し,例によって差したる目当てといったものは特になけれども,大まかな行程としては,谷戸(ヤギの雪ちゃん),東田原(東電新秦野変電所),小蓑毛(緑水庵),蓑毛(春嶽湧水),寺山(新東名高取山トンネル上),名古木(丹沢ドン会棚田),弘法山(めん羊の里),中野(斜面)などなど,そういった地味な場所場所を気ままにグルグル走り回った。暑さが老体にはかなり堪えたが,そこはノンビリ&ユルユルと,休み休みのサイクリングなのでありました。BGMは,そうさな,マルセル・ムルージMarcel Mouloudjiの呑気唄なんぞを(おお,雀百まで踊り忘れず!)
L'amour c'est pas la mer à boire
Ça court les rues comme une chanson
Un regard, un signe, et l'on s'est connu
Dans un frisson d'accordéon
Parfois traînant en bohème
Mon cœur vagabond
Je me souviens tant d'elle, de ses airs sans façon
De sa vie claire comme une chanson
Le cœur a toujours seize ans quand il cherche l'amour
Elle était belle, blonde ou brune selon la nuit, le jour
Moi, je suivais le sillage de sa robe de manège
Moi, je suivais à la nage le chant de ma sirène
L'amour c'est pas la mer à boire
Ça court les rues comme une chanson
Et le long des quais on s'en est allé
Piller des buissons de baisers
Rue Gît-le-Cœur c'est un poème
De pierres, de pavés
Et l'on s'est embrassé sur le mur couturé
De serments et de cœurs enlacés
Et nous nous sommes aimés comme dans les chansons
On se fait de chaque jour un jour à Robinson
Mais les béguins de ruelle quand ils doivent sauter le pont
Du point du jour vont dans la nuit faire le grand plongeon
L'amour c'est pas la mer à boire
Ça court les rues comme une chanson
Un regard, un signe et l'on s'est quitté
Dans un frisson d'accordéon
Parfois quand je traîne en bohème
Mon cœur vagabond
Je me souviens tant d'elle, de ses airs sans façon
De sa vie claire comme une chanson
Et je me redis tout bas son nom
何てこったい。なんの芸もなくマルマル引き写してしまったぞぃ(ま,これもまた,リハビリ・リハビリ)。なお,いささかの余計を申せば,《c'est pas la mer à boire》という文言は慣用句で,直訳すれば「海を飲み干すわけじゃない」ということで,すなわち「大した事じゃない」という意味です。ったく,愛だとか恋だとか,あるいは猫だとか犬だとか,ミミズだとかオケラだとか,みんな大した事じゃないc'est pas la mer à boire,いきとしいけるものたち,我らみな大海の一滴ゆえ,それぞれが皆ごくごく自然に振る舞えばいいのだ(イカンイカン,ジジイの繰り言が止まらない)。
そうこうしているうちに金目川流域に近づき,その先へと向かう自然の流れとして,平塚市土屋の動物愛護センターに到着したのは午後1時半を過ぎた頃だった。
初めてその施設の正門をくぐって敷地内に入ると,左側には昔からの古い建物が未だそのままの形で残っていた(廃墟とまでは申しませんが)。一方,完成したばかりの新館は敷地内の右手奥にあり,明るく洒落た感じの小綺麗な2階建ての建物だった。駐輪場は特に見当たらなかったので(誰も自転車なんかじゃ来ないのか?),新しい建物の隅っこの方に適当に置かせてもらった。玄関から入ってすぐのところにある受付で,「スミマセン,施設内ヲ見学サセテイタダキタイノデスガ...」と申し述べると,すぐに女性(ちょい若目のオバチャン)が出てきて快活に応対された。どうやらまだ本格的には施設稼働していないらしく(あるいはタマタマ暇な時間帯だったのか?),やおら当方を促して館内の主だった場所を一緒に歩きながら案内して下さった。途中途中にうかがった説明は大変親切・丁寧かつ的確・適切なもので,すこぶる好印象を受けました。一通り案内されて回った後で,「では,後はご自由にゆっくりと見学をどうぞ。もし,気に入った子がいたら遠慮なく仰って下さいネ」,などと言い残して御自分の仕事へと戻っていった。どうも有り難うございました!
さぁてと,それじゃあ改めて仕切り直し,保護猫(と保護犬)たちを端からジックリと見てゆこうかな,とばかり館内をひとりで徘徊,もとい見学しはじめた。建物内部の構成は,1階は事務室,会議室,作業室等の職員や関係者のスペースが主体で,お目当てとなる保護猫(や保護犬)は2階に多数設けられている各部屋に収容されていた。その2階は外側の周囲がぐるりとテラス廊下になっており,テラスを移動して建物内に作られた小さく仕切られた部屋をガラス越しに自由に眺められるようになっている。ちょうど新しい動物園の回廊ブースみたいな感じだ。ただし,恐らくは予算の関係でさほど立派で豪華な外観に設えることはできなかったのだろう,いささか地味目ではあるが,それでも簡易な作りながらも,とても気持ちの良い空間がそこには展開していた。
まずは保護猫の方を端から順にゆっくりと見て回った。なるほど,子猫から成猫,老猫に近いものまで,種々雑多な猫たちが沢山いる。それぞれの行動や仕草を逐一観察していると,元気な猫,快活な猫,乱暴そうな猫,呑気そうな猫,静かで大人しい猫,寂しそうな猫,物憂げな猫などなどと,それはもう十人十色,こちらも多種多彩でなかなか興味深い。なかにはFIV(猫エイズ)陽性の子も交じっているようだが,見た目には元気そうだ。ただ,彼ら彼女らに共通しているのは,それぞれに辛い過去を抱えているということだろう。それでもなお,須らく生きねばならないのだ,Faut vivre! ネコだってニンゲンだぃ! 故あってここに連れてこられたヒトリヒトリの幸せを心から願わずにはいられない。
なお,保護犬については,まぁそのう,ざっと通り一遍の見学をしただけでした(性分ながら,どうも犬というものには感情移入すること覚束ないがゆえに。。。)
テラスから見学するところとは別に,2階の中ほどにもガラス張りの少し大きめの部屋があった。猫用はニャンルーム,犬用はワンルームと名付けられ,いずれも「特別室」ないし「応接室」といった趣であった。その日,ニャンルームには4匹の子ネコがいた。キジトラ柄が2匹と白黒柄が2匹だった。壁面に掲載されている説明書きを読むと、いずれも生まれて半年ほどの子らしく,先月,保護猫としてこちらに収容されたとのことだ。4匹にはそれぞれ「ラガー」,「エビス」,「モルツ」,「クリア」という仮の名が付けられていた。要するに,ビールに因んだ名前というわけ(何だかなぁ)。ガラスに顔を近づけて軽くチョンチョンすると,中の1匹がダッシュでこちらに近寄ってきた。ガラス越しに盛んにスリスリしようとする,その仕草が何とも可愛い! 説明板と対照すると「クリア」ちゃんで,この子だけがメス,後の3匹はいずれもオスだった。他の3匹の子らは,いずれも当方のことなどは軽く無視して,それぞれに勝手気ままに振る舞っていた。チョコチョコ動き回ったり,トンネルの中に潜り込んでいたり。なかに,壁際に設えられたステップの最上段で蹲ったままでいる子がいた。恥ずかしがり屋なのか,疲れているのか,ブルーな気分なのか,それとも単に眠いだけなのか,それはわからない。しばらく眺めていると,ふいに私と目が合った。しばしお互いに見つめ合った。そして,そのパッチリした瞳の奥に,瞬時,えも言われぬ深い悲しみを感じたのである(おお,何というComplainte,何という新派悲劇!)
そしてその仔猫こそが,当時の名を「モルツ」,後でわたしが《レオンLéon》と名付けた保護猫なのでありました。
L'amour c'est pas la mer à boire
Ça court les rues comme une chanson
Un regard, un signe, et l'on s'est connu
Dans un frisson d'accordéon
Parfois traînant en bohème
Mon cœur vagabond
Je me souviens tant d'elle, de ses airs sans façon
De sa vie claire comme une chanson
Le cœur a toujours seize ans quand il cherche l'amour
Elle était belle, blonde ou brune selon la nuit, le jour
Moi, je suivais le sillage de sa robe de manège
Moi, je suivais à la nage le chant de ma sirène
L'amour c'est pas la mer à boire
Ça court les rues comme une chanson
Et le long des quais on s'en est allé
Piller des buissons de baisers
Rue Gît-le-Cœur c'est un poème
De pierres, de pavés
Et l'on s'est embrassé sur le mur couturé
De serments et de cœurs enlacés
Et nous nous sommes aimés comme dans les chansons
On se fait de chaque jour un jour à Robinson
Mais les béguins de ruelle quand ils doivent sauter le pont
Du point du jour vont dans la nuit faire le grand plongeon
L'amour c'est pas la mer à boire
Ça court les rues comme une chanson
Un regard, un signe et l'on s'est quitté
Dans un frisson d'accordéon
Parfois quand je traîne en bohème
Mon cœur vagabond
Je me souviens tant d'elle, de ses airs sans façon
De sa vie claire comme une chanson
Et je me redis tout bas son nom
何てこったい。なんの芸もなくマルマル引き写してしまったぞぃ(ま,これもまた,リハビリ・リハビリ)。なお,いささかの余計を申せば,《c'est pas la mer à boire》という文言は慣用句で,直訳すれば「海を飲み干すわけじゃない」ということで,すなわち「大した事じゃない」という意味です。ったく,愛だとか恋だとか,あるいは猫だとか犬だとか,ミミズだとかオケラだとか,みんな大した事じゃないc'est pas la mer à boire,いきとしいけるものたち,我らみな大海の一滴ゆえ,それぞれが皆ごくごく自然に振る舞えばいいのだ(イカンイカン,ジジイの繰り言が止まらない)。
そうこうしているうちに金目川流域に近づき,その先へと向かう自然の流れとして,平塚市土屋の動物愛護センターに到着したのは午後1時半を過ぎた頃だった。
初めてその施設の正門をくぐって敷地内に入ると,左側には昔からの古い建物が未だそのままの形で残っていた(廃墟とまでは申しませんが)。一方,完成したばかりの新館は敷地内の右手奥にあり,明るく洒落た感じの小綺麗な2階建ての建物だった。駐輪場は特に見当たらなかったので(誰も自転車なんかじゃ来ないのか?),新しい建物の隅っこの方に適当に置かせてもらった。玄関から入ってすぐのところにある受付で,「スミマセン,施設内ヲ見学サセテイタダキタイノデスガ...」と申し述べると,すぐに女性(ちょい若目のオバチャン)が出てきて快活に応対された。どうやらまだ本格的には施設稼働していないらしく(あるいはタマタマ暇な時間帯だったのか?),やおら当方を促して館内の主だった場所を一緒に歩きながら案内して下さった。途中途中にうかがった説明は大変親切・丁寧かつ的確・適切なもので,すこぶる好印象を受けました。一通り案内されて回った後で,「では,後はご自由にゆっくりと見学をどうぞ。もし,気に入った子がいたら遠慮なく仰って下さいネ」,などと言い残して御自分の仕事へと戻っていった。どうも有り難うございました!
さぁてと,それじゃあ改めて仕切り直し,保護猫(と保護犬)たちを端からジックリと見てゆこうかな,とばかり館内をひとりで徘徊,もとい見学しはじめた。建物内部の構成は,1階は事務室,会議室,作業室等の職員や関係者のスペースが主体で,お目当てとなる保護猫(や保護犬)は2階に多数設けられている各部屋に収容されていた。その2階は外側の周囲がぐるりとテラス廊下になっており,テラスを移動して建物内に作られた小さく仕切られた部屋をガラス越しに自由に眺められるようになっている。ちょうど新しい動物園の回廊ブースみたいな感じだ。ただし,恐らくは予算の関係でさほど立派で豪華な外観に設えることはできなかったのだろう,いささか地味目ではあるが,それでも簡易な作りながらも,とても気持ちの良い空間がそこには展開していた。
まずは保護猫の方を端から順にゆっくりと見て回った。なるほど,子猫から成猫,老猫に近いものまで,種々雑多な猫たちが沢山いる。それぞれの行動や仕草を逐一観察していると,元気な猫,快活な猫,乱暴そうな猫,呑気そうな猫,静かで大人しい猫,寂しそうな猫,物憂げな猫などなどと,それはもう十人十色,こちらも多種多彩でなかなか興味深い。なかにはFIV(猫エイズ)陽性の子も交じっているようだが,見た目には元気そうだ。ただ,彼ら彼女らに共通しているのは,それぞれに辛い過去を抱えているということだろう。それでもなお,須らく生きねばならないのだ,Faut vivre! ネコだってニンゲンだぃ! 故あってここに連れてこられたヒトリヒトリの幸せを心から願わずにはいられない。
なお,保護犬については,まぁそのう,ざっと通り一遍の見学をしただけでした(性分ながら,どうも犬というものには感情移入すること覚束ないがゆえに。。。)
テラスから見学するところとは別に,2階の中ほどにもガラス張りの少し大きめの部屋があった。猫用はニャンルーム,犬用はワンルームと名付けられ,いずれも「特別室」ないし「応接室」といった趣であった。その日,ニャンルームには4匹の子ネコがいた。キジトラ柄が2匹と白黒柄が2匹だった。壁面に掲載されている説明書きを読むと、いずれも生まれて半年ほどの子らしく,先月,保護猫としてこちらに収容されたとのことだ。4匹にはそれぞれ「ラガー」,「エビス」,「モルツ」,「クリア」という仮の名が付けられていた。要するに,ビールに因んだ名前というわけ(何だかなぁ)。ガラスに顔を近づけて軽くチョンチョンすると,中の1匹がダッシュでこちらに近寄ってきた。ガラス越しに盛んにスリスリしようとする,その仕草が何とも可愛い! 説明板と対照すると「クリア」ちゃんで,この子だけがメス,後の3匹はいずれもオスだった。他の3匹の子らは,いずれも当方のことなどは軽く無視して,それぞれに勝手気ままに振る舞っていた。チョコチョコ動き回ったり,トンネルの中に潜り込んでいたり。なかに,壁際に設えられたステップの最上段で蹲ったままでいる子がいた。恥ずかしがり屋なのか,疲れているのか,ブルーな気分なのか,それとも単に眠いだけなのか,それはわからない。しばらく眺めていると,ふいに私と目が合った。しばしお互いに見つめ合った。そして,そのパッチリした瞳の奥に,瞬時,えも言われぬ深い悲しみを感じたのである(おお,何というComplainte,何という新派悲劇!)
そしてその仔猫こそが,当時の名を「モルツ」,後でわたしが《レオンLéon》と名付けた保護猫なのでありました。