宝を棄てた日本企業
ここ数年、ブランドの崩壊という現象が頻繁に起こっています。ソニー、三菱、雪印、巨人軍、などなど。この中から、今回はソニーと三菱の共通点を上げ、シンボルを持たないという日本企業の致命的な欠陥体質を語りたいと思います。
ソニーと言えば、一昔前のトリニトロンのモニターに象徴されるように、独自の技術力で他社が追随できないブランド・イメージを展開してきた企業です。それは、芸大声楽出身の大賀氏が作り上げたもので、氏の趣味であるオーディオにも力を入れ、芸術家らしくデザインへのこだわりは他社を圧倒していました。しかし、プレイステーション(PS)を置き土産に氏が去って後、出井伸之氏によるPS2やVAIO中心のビジネス戦略に走ります。
大賀氏時代のソニーは美術系出の人にも人気があり、オーディオとビジュアルを統合したAV時代にも、その先取りしたデザインと性能によって高い評価を受けていました。ところが出井時代には、ブラウン管に替わる液晶やプラズマテレビの自社開発を行わず、外注による目先の利益だけを追求したので技術力の低下を招きます。さらに、デザインのダサイ事極まりなく、決定的にソニーのブランド力は低下したのです。事業が傾くと、最初に行うのは不採算部門の切り捨てです。その結果、ソニーが誇ったオーディオが切り捨てられたのです。これで、大賀時代の遺産は無くなってしまったのです。
次に三菱ですが、三菱自動車のリコール隠しに代表される、グループ各社の古臭い体質が問題です。三菱全体が、シーラカンスと揶揄される三菱デボネアのようになっていたのです。ちなみに、デボネアは三菱の最高級車で、大半はグループ企業に納入されています。大昔のデビュー時に、「君いっ…、これが例のデボネアかね…」と葉巻を食わえた重役らしき人が運転手に尋ねるという、超ダサイCMで日本中の笑いものになった過去があります。
まあ、ダササは三菱の代名詞ですが、実は家で使っていた車が三菱360とかコルト1000だったので、本当は大きな声では言いたくないのです。そういう意味ではデボネアは三菱の体質そのものを表していますが、決してシンボル的な存在ではありません。ところが何と、三菱にはグループに不釣り合いな素晴らしい部門がありました。それがDIATONE(ダイアトーン)として知られたスピーカーのブランドです。
ダイアトーンは、NHKがまだ健全さを持っていた頃、三菱電機と共同開発で放送局用モニターを作った事から始まっています。最初は庶民に手の出るものではなかったのです。そのモニターは、30センチ口径のウーファー(低域用のユニット)と20センチ口径のウーファーを持った二機種でした。これが、全国の放送局に納入されていたのです。
これらがどれだけ素晴らしいかというと、20年経って道端に棄てられていた、汚れた20センチ口径のユニット(2S-208U)を拾ってきて、自作のキャビネットに入れた事があります。一緒に付いていた高音用のトゥイーターは出来が悪かったのですが、トゥイーターを高級なものに変えたら一変、朝のバロック(NHK-FM)の日野直子さんのナレーションが実にリアルでした。日野さんはややハスキーボイスですが、会った事もないのに本当はこんな声なんだと実感できるのです。音は素直で品があり、長時間聴いても全く疲れず、ジャンルを問わずに音に浸る事が快感となるほどでした。もっともこれには、ソニーと日立のFETを使った自作のアンプも貢献していますが。
日本では安物のラジカセやシスコンが普及し、車の中でしか音楽を聴く事の出来ない住宅環境から、オーディオは不況に陥り、多くの企業が撤退します。三菱も、長年培ってきたブランドを残す方針を取らず、あっさりと切り捨ててしまいました。これは、ソニーやパナソニックなども同じで、いともあっさりとグループのシンボルを投げ捨てたのです。
ソニーには、古くに開発されながら、未だに世界に誇る技術があります。それは、V-FETという半導体のデバイスで、真空管によく似た音を出す事で知られ、生産中止になってから日が経つので今ではプレミア扱いです。ところが、一般の人はこの存在すら知りません。一部のマニアが自作記事を発表(自慢)したりする程度です。使い方にもよりますが、音は素直で切れが良く、高音は果てしなく伸びて超ハイスピードです。唯一の欠点はデータ上の歪みが多い事ですが、音とは関係ありません。
このように、ソニーには宝とも言える技術があったのです。それを積極的に活用しようともせず、自らの手で葬ってしまったのです。何てもったいない。棄てるくらいなら特許と生産技術を公開し、世界中のどこかの国で生産できるように配慮すべきなのです。もしかしたら、ヴェトナムで生産されて、ヴェトナムの民族楽器にこれほどマッチする音はないと評価されたかもしれません。三菱にしても、オーディオ撤退が止むを得ないなら、あっさりと潰すのではなくて、子会社化して売却するなりして、文化遺産として残すべき方策を取るべきだったのです。外国ではガレージメーカーがたくさんあります。オーディオは、むしろ小さな会社向きの事業である証拠ではないでしょうか。
ネットのオークションでは、オーディオから撤退したメーカーの製品は取引が盛んで、修理して大事にしているファンも多いのです。世界に誇るオーディオという宝を捨て去った企業は、天皇を喪う日本のようなものです。何を以て会社のシンボルとするか、それがゲーム機では悲しすぎませんか、大賀さん。
なお、今回改めて三菱モニターを検索したところ、昨年末にダイアトーンブランドを三菱電機エンジニアリングで復活させたそうです。軽自動車のi(アイ)もそうですが、新しい三菱に少し期待ですね。
それから、古代史の方でいろいろ新発見があり、忘れないうちに書かなくてはならないので、ブログの定期更新は月曜日にします。気まぐれなので別の日に書く場合もありますが。今後もよろしくお願いします。
エフライム工房 平御幸
ここ数年、ブランドの崩壊という現象が頻繁に起こっています。ソニー、三菱、雪印、巨人軍、などなど。この中から、今回はソニーと三菱の共通点を上げ、シンボルを持たないという日本企業の致命的な欠陥体質を語りたいと思います。
ソニーと言えば、一昔前のトリニトロンのモニターに象徴されるように、独自の技術力で他社が追随できないブランド・イメージを展開してきた企業です。それは、芸大声楽出身の大賀氏が作り上げたもので、氏の趣味であるオーディオにも力を入れ、芸術家らしくデザインへのこだわりは他社を圧倒していました。しかし、プレイステーション(PS)を置き土産に氏が去って後、出井伸之氏によるPS2やVAIO中心のビジネス戦略に走ります。
大賀氏時代のソニーは美術系出の人にも人気があり、オーディオとビジュアルを統合したAV時代にも、その先取りしたデザインと性能によって高い評価を受けていました。ところが出井時代には、ブラウン管に替わる液晶やプラズマテレビの自社開発を行わず、外注による目先の利益だけを追求したので技術力の低下を招きます。さらに、デザインのダサイ事極まりなく、決定的にソニーのブランド力は低下したのです。事業が傾くと、最初に行うのは不採算部門の切り捨てです。その結果、ソニーが誇ったオーディオが切り捨てられたのです。これで、大賀時代の遺産は無くなってしまったのです。
次に三菱ですが、三菱自動車のリコール隠しに代表される、グループ各社の古臭い体質が問題です。三菱全体が、シーラカンスと揶揄される三菱デボネアのようになっていたのです。ちなみに、デボネアは三菱の最高級車で、大半はグループ企業に納入されています。大昔のデビュー時に、「君いっ…、これが例のデボネアかね…」と葉巻を食わえた重役らしき人が運転手に尋ねるという、超ダサイCMで日本中の笑いものになった過去があります。
まあ、ダササは三菱の代名詞ですが、実は家で使っていた車が三菱360とかコルト1000だったので、本当は大きな声では言いたくないのです。そういう意味ではデボネアは三菱の体質そのものを表していますが、決してシンボル的な存在ではありません。ところが何と、三菱にはグループに不釣り合いな素晴らしい部門がありました。それがDIATONE(ダイアトーン)として知られたスピーカーのブランドです。
ダイアトーンは、NHKがまだ健全さを持っていた頃、三菱電機と共同開発で放送局用モニターを作った事から始まっています。最初は庶民に手の出るものではなかったのです。そのモニターは、30センチ口径のウーファー(低域用のユニット)と20センチ口径のウーファーを持った二機種でした。これが、全国の放送局に納入されていたのです。
これらがどれだけ素晴らしいかというと、20年経って道端に棄てられていた、汚れた20センチ口径のユニット(2S-208U)を拾ってきて、自作のキャビネットに入れた事があります。一緒に付いていた高音用のトゥイーターは出来が悪かったのですが、トゥイーターを高級なものに変えたら一変、朝のバロック(NHK-FM)の日野直子さんのナレーションが実にリアルでした。日野さんはややハスキーボイスですが、会った事もないのに本当はこんな声なんだと実感できるのです。音は素直で品があり、長時間聴いても全く疲れず、ジャンルを問わずに音に浸る事が快感となるほどでした。もっともこれには、ソニーと日立のFETを使った自作のアンプも貢献していますが。
日本では安物のラジカセやシスコンが普及し、車の中でしか音楽を聴く事の出来ない住宅環境から、オーディオは不況に陥り、多くの企業が撤退します。三菱も、長年培ってきたブランドを残す方針を取らず、あっさりと切り捨ててしまいました。これは、ソニーやパナソニックなども同じで、いともあっさりとグループのシンボルを投げ捨てたのです。
ソニーには、古くに開発されながら、未だに世界に誇る技術があります。それは、V-FETという半導体のデバイスで、真空管によく似た音を出す事で知られ、生産中止になってから日が経つので今ではプレミア扱いです。ところが、一般の人はこの存在すら知りません。一部のマニアが自作記事を発表(自慢)したりする程度です。使い方にもよりますが、音は素直で切れが良く、高音は果てしなく伸びて超ハイスピードです。唯一の欠点はデータ上の歪みが多い事ですが、音とは関係ありません。
このように、ソニーには宝とも言える技術があったのです。それを積極的に活用しようともせず、自らの手で葬ってしまったのです。何てもったいない。棄てるくらいなら特許と生産技術を公開し、世界中のどこかの国で生産できるように配慮すべきなのです。もしかしたら、ヴェトナムで生産されて、ヴェトナムの民族楽器にこれほどマッチする音はないと評価されたかもしれません。三菱にしても、オーディオ撤退が止むを得ないなら、あっさりと潰すのではなくて、子会社化して売却するなりして、文化遺産として残すべき方策を取るべきだったのです。外国ではガレージメーカーがたくさんあります。オーディオは、むしろ小さな会社向きの事業である証拠ではないでしょうか。
ネットのオークションでは、オーディオから撤退したメーカーの製品は取引が盛んで、修理して大事にしているファンも多いのです。世界に誇るオーディオという宝を捨て去った企業は、天皇を喪う日本のようなものです。何を以て会社のシンボルとするか、それがゲーム機では悲しすぎませんか、大賀さん。
なお、今回改めて三菱モニターを検索したところ、昨年末にダイアトーンブランドを三菱電機エンジニアリングで復活させたそうです。軽自動車のi(アイ)もそうですが、新しい三菱に少し期待ですね。
それから、古代史の方でいろいろ新発見があり、忘れないうちに書かなくてはならないので、ブログの定期更新は月曜日にします。気まぐれなので別の日に書く場合もありますが。今後もよろしくお願いします。
エフライム工房 平御幸